ロマンの木曜日 2012年10月25日
 

成田空港にある日本一短い私鉄と駅の廃墟を見に行く

長いトンネルを抜けると、そこは……
長いトンネルを抜けると、そこは……
ある鉄道会社が営業する鉄道路線全てに乗車することを鉄道マニアの間では「完乗」という。「完全乗車」の略だ。
千葉県にわずか3分ほどで完乗できるほど短い私鉄路線がある。成田空港の敷地内にある「芝山鉄道」がそれだ。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。

前の記事:「図書館の児童書コーナーに「うんこの本」がやたらある」
人気記事:「高齢者のケータイ待ち受け画面を巣鴨で調べた」

> 個人サイト 新ニホンケミカル TwitterID:tokyo26

営業キロ数、わずか2.2キロの私鉄

まずはその短さを地図でご確認いただきたい。
東成田、芝山千代田間を、滑走路の地下を横切るように走って、それで終わりの鉄道路線だ。

鉄道路線の「完乗」といえば、あらゆる鉄道趣味の中でも、長い年月と不断の努力をかけてやっと達成できる難事業だ。いくら鉄道が好きと言ってもなかなか手が出せない分野でもある。
しかし、この芝山鉄道に限って言えばわずか3分程度の乗車で「完乗」できてしまう。ぼくのようなズボラな鉄道好きにとってはうってつけの鉄道路線といえる。
これは、短い交通機関には目がないぼくが行かずして誰が行くのか。

はたして芝山鉄道は日本一短いのか?

ところで、タイトルで「日本一」と書いてしまったけれど、実はこの日本一には様々な異論があるにはある。
果たして日本一?
果たして日本一?
中には和歌山県が所有する「和歌山港線」(列車の運行は南海)の2.0キロや、北九州市にある「門司港レトロ観光線」の2.1キロの方が短いという見解もあるが、自社で線路と鉄道車両を保有し、観光目的ではない営業をしている鉄道としてはやはり日本一短いと言っても過言ではないと思う。

空港第2ビル駅から徒歩で向かう

まずは芝山鉄道と京成電鉄の接続駅である東成田駅へ、空港第2ビル駅から徒歩で向かう。空港第2ビル駅と東成田駅の間には長い連絡通路があるのだ。
日本一への入り口
日本一への入り口
赤文字の警告がその長さを物語る
赤文字の警告がその長さを物語る
入り口の「京成東成田駅まで500m」という注意書きの500mの部分が赤い。赤文字とはただならぬ雰囲気である。でも、500mでしょう。ちょっとあるけば……と中に入るとこの光景。
永遠
永遠
消失点マニアにはたまらないかもしれないが、なにも知らずに来た利用客はこの通路に尻込みしてしまうかもしれない。
しかも、ぼく以外誰も居ないのだ。

延々と「はにわ祭り」のポスターが続く

この地下通路、側面に延々と「はにわ祭り」のポスターが掲示してある。
「はにわ祭り」とは当サイトでもすでに取り上げたことがあるので詳しくはそちらごらん頂きたいが、芝山町が毎年11月に行なっているイベントだ。
はにわ祭りは2012年で30回目の節目を迎えるらしく、過去30回分のはにわ祭りのポスターが展示してあった。
記念すべき第1回のポスター。日付が82年だ。顔が真っ赤な古代人がこちらを睨む
記念すべき第1回のポスター。日付が82年だ。顔が真っ赤な古代人がこちらを睨む
2回目のポスター、なんかポエムを述べ始めた
2回目のポスター、なんかポエムを述べ始めた
3人になった!
3人になった!
色味が変わった!
色味が変わった!
女になった!
女になった!
と、ポスターの変りようが面白かったので、思わずぜんぶ写真に撮ってしまったけど、今こうやって見返してみると、それほどでもないな。ということに気づき困惑している。若気の至りとはこのことか。もうそんなに若くないけど。
なお、去年のポスターはこれだ。
色々と情報が多い
色々と情報が多い
第1回目の美術品のようなポスターと比べると、なんとも情報が多すぎてごちゃごちゃしている。現代とは情報過多の時代なのだ。
などと、考えているうちに10分ほどで東成田駅へ到着。

かつてはここが「成田空港駅」だった。

一見普通の鉄道駅にみえるが……
一見普通の鉄道駅にみえるが……
この東成田駅、実は1991年まで「成田空港駅」として利用されていた駅なのだ。
そのため、「成田空港駅」だった時代の名残があらゆるところに残っている。

コンコースには立派な陶板レリーフがある。「曲水の宴」と題されたこの作品の解説には「現代の空の表玄関、成田空港駅に……」と書かれている。
立派な陶板レリーフ
立派な陶板レリーフ
お菓子のパッケージに書いてある文章みたい
お菓子のパッケージに書いてある文章みたい
かつては海外からの旅人を迎えたこの陶板もその役目を終え、ひと気のないコンコースのなかでひっそり佇んでいる。

廃止されたコンコースは古いポスターがそのまま残っていた

東成田駅のコンコースには不自然な仕切り板がある。ちょっと背伸びをしてカメラを中に向けて撮影すると、その中には使われなくなった駅のコンコースが、廃止された21年前のまま残っている。
金網越しにカメラを向けると……
金網越しにカメラを向けると……
使われなくなったコンコースは資材置き場になっていた
使われなくなったコンコースは資材置き場になっていた
薄暗いコンコースの床には埃がたまっている
薄暗いコンコースの床には埃がたまっている
よく見てみると、柱のポスターも昔のまま残ってる。
ダイナーズクラブカードの古いポスター
ダイナーズクラブカードの古いポスター
こちらは古い武富士のポスター。武富士ダンスの前のやつだ
こちらは古い武富士のポスター。武富士ダンスの前のやつだ
見づらいけれど、「おーい、トム・ソーヤー」のでかいポスター
見づらいけれど、「おーい、トム・ソーヤー」のでかいポスター
「おーい、トム・ソーヤー」のポスターはカップヌードルのポスターだろうか? 20年ほど前、そういうテレビCMシリーズをやっていたのだ。
なぜかやたら古いポスターを鑑賞する流れになってしまっているが、たまたまである。

かつての賑わいを彷彿とさせる痕跡

うっすらと看板らしきものが見える
うっすらと看板らしきものが見える
改札を入った中には、金網越しになにか看板らしきものが見える。中を覗いてみると、かつてあったカフェの跡だった。
夜逃げした店のような物悲しさがある
夜逃げした店のような物悲しさがある
国際空港のターミナル駅にあるには、少しささやかなような感じもするが、この駅がかつて旅人たちで賑わっていたことを伝えてくれる。
と、書けば少し「いいお話風」に聞こえるけれど、もぬけの殻の店舗って基本的になんだか不気味ではある。

使われなくなったホームも当時のまま

東成田駅の閉鎖された方のホームは、現在、芝山鉄道のホームとして使っているホームから眺めることができる。
薄暗いホームをよく見てみると……
薄暗いホームをよく見てみると……
駅名標が古いままだ
駅名標が古いままだ
広告入りの長椅子って最近あんまり見ない
広告入りの長椅子って最近あんまり見ない
現在は留置線としてしか使用されてないらしく、ここにも床に埃がたまっていた。
そういえば家の床も埃がたまってる。書籍や撮影で使った道具をさっさと片付けないから掃除機がかけられず、埃だらけになっているのだ。
まさか、成田まできて家事の手抜きを思い出すとは思わなかった。東成田駅は姑のようでもある。床をピーッと指でなぞる例のアレである。

それにしても人がいない

ここは満を持してあのオノマトペを使いたい……「ガラーン」
ここは満を持してあのオノマトペを使いたい……「ガラーン」
そして、現役の東成田駅ホームには人が居ない。唯一聞こえる音は、エスカレーター付近の鳥の鳴き声がピヨピヨ鳴っている誘導音だけだ。
人が居ないとこのありさま
人が居ないとこのありさま
長椅子の看板を見てみると、高校生の有り余るエネルギーが溢れ出たような、しょうもない落書きで一杯だ。ホームに人が居なくて人の目が届かないと思うと、若者はすぐタガが外れてしまう。

中には日付と名前を書き込んだものもあったけれど、わざわざ落書きして名前を残すほどの観光地でもないのに、となぜか高校生たちを不憫に思ってしまった。
しょうもないと思ったけど……アップで撮影
しょうもないと思ったけど……アップで撮影

やっと電車に乗る

ところで、この記事、鉄道の記事であるにもかかわらず、まだ電車が登場しない。
なぜなら芝山鉄道の運行本数は1時間に2本程度なのだ。タイミングが悪いと1時間に1本の時すらある。電車がなかなか来ないのだ。

待つこと数十分。ゴーッという轟音とともに芝山千代田行きの電車がホームに滑りこんできた。
ほとんどが京成成田と芝山千代田の往復便
ほとんどが京成成田と芝山千代田の往復便
この駅から乗り込むのはぼくとおまわりさんの二人のみ
この駅から乗り込むのはぼくとおまわりさんの二人のみ
この時、この駅から電車に乗車したのは、ぼくとおまわりさんの二人だけだった。
実は芝山鉄道は、全線が空港内を走行するため、テロや過激派の警戒として東成田駅から芝山千代田駅まで必ずおまわりさんが乗車するのだ。

石油王プレイが楽しめる

しかし、芝山鉄道の電車には本当に人が乗っていない。
完全にゼロというわけではないのだけど、警官二人に対し乗客二人。ぐらいのレベルで人が居ない。
また消失点写真だ
また消失点写真だ
これだけ人が居ないと「この電車は俺様のプライベード電車で、俺様のために運転させてるんだ」という妄想も現実味を帯びてくる。
しかも、千葉県警から派遣された本物の警官が手厚い警備をしてくれるというおまけ付き。
ん、お仕事ご苦労、がんばりたまえ
ん、お仕事ご苦労、がんばりたまえ
アラブの石油王みたいな気分で、贅沢に二人分の席をとるぐらいの勢いでシートの上にふんぞり返ってるとなかなか気分がよろしい。よろしいけれど、それは3分半ほどの話でしかない。胡蝶の夢である。
わずか3分ほどの夢……
わずか3分ほどの夢……
そんなことを考えているうちにあっという間に終点、芝山千代田駅に到着。

はにわ推しの芝山千代田駅

芝山千代田駅は、はにわの町にある駅だけあってはにわ推しである。
レプリカはにわの販売も手がける芝山鉄道
レプリカはにわの販売も手がける芝山鉄道
駅では、はにわのレプリカを販売している。値段も数千円程度で買えない金額でもない。ちょっと欲しいと思ったのは事実だ。
サタデーナイトフィーバー、3500円
サタデーナイトフィーバー、3500円
しかし、持ち帰りの手間だとか本当に必要か? という自問自答の末、購入には至らなかった。
今後「はにわ女子」みたいなはにわを「可愛い」と言い出すような女子がワラワラ出てきて、はにわブームが起きるかもしれない。買うのはその時でもおそくあるまい。
あの利用客の数からいうとかなり立派な駅だ
あの利用客の数からいうとかなり立派な駅だ

はにわと延伸のジレンマ

駅のロータリーの中にもはにわ像があった。
ドリームズ・カム・トゥルー
ドリームズ・カム・トゥルー
馬に車輪がついて「離陸」のタイトル。意味はよくわからないけれど、芝山町のはにわにかける並々ならぬ意気込みは鼻息が聞こえてきそうなぐらいわかった。
太平洋までとどけー
太平洋までとどけー
駅前には芝山鉄道延伸の看板が出ていた。九十九里の方まで線路を延ばす計画があるらしい。
しかし、実際に延伸すると短さ日本一の名誉を失ってしまうのだ。名誉と実利。悩ましい問題である。

芝山千代田駅周辺は特に何もない

デイリーポータルZと芝山鉄道は同い年!
デイリーポータルZと芝山鉄道は同い年!

日本一短い私鉄、芝山鉄道。
ふたつある駅のうちひとつは半分廃駅で、もうひとつは、はにわ駅。ということがわかった。
しかも、芝山鉄道は2002年10月開業なので、当サイトと同い年ということもわかった。
みょうな親近感がわく鉄道路線であった。
 ▽デイリーポータルZトップへ  
デイリーポータルZをサポートする じゃあせめてこれだけでも メルマガ SNS!

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ
↓↓↓ここからまたトップページです↓↓↓