特集 2012年11月6日

シオマネキのハサミ。大きいのは右?左?

間近で見ると意外にかわいい。
間近で見ると意外にかわいい。
シオマネキというカニをご存じだろうか?
名前くらいは聞いたことがあるという人も少なくないだろう。
片手(ハサミ)が異様に大きいことで有名なあのカニである。
だが左右どちらのハサミが大きいのだろうか?調べてみた。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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捕まえるのが超難しい

シオマネキを求めて干潟へ
シオマネキを求めて干潟へ
調査の場は沖縄本島の泡瀬干潟である。
この干潟は遠浅で流れ込む川の河口にはマングローブが広がり、シオマネキ類が暮らしやすい環境なのだ。
おっ、いるいる。
おっ、いるいる。
現場に到着してすぐ、簡単にシオマネキの姿を見つけることができた。さっそく捕まえてどちらのハサミが大きいか調べよう。
慎重ににじりよって…
慎重ににじりよって…
跳びかかる!
跳びかかる!
が、ダメ。
が、ダメ。
いざ挑んでみるとなかなか捕まえられない。というか思った以上に警戒心が強く、近づくことすら難しい。
こちらの気配を察するとすぐに巣穴に逃げ込んでしまうのだ。

文明の利器に頼ろう

汗だくになりながらかろうじて数匹は捕まえることができたが、この調査を行うにはある程度まとまった数のサンプルが必要だ。
この方法ではらちが明かない。
海で一眼は怖い。
海で一眼は怖い。
そこで取り出したるはデジタル一眼レフ。
シオマネキたちが警戒しない距離から望遠でその姿を撮影し、後ほどパソコンのディスプレイ上で拡大して利き腕を判別しようというわけである。
正直、あまり海辺では使いたくないのだが仕方が無い。
こんな感じで撮影して
こんな感じで撮影して
自宅で写真を拡大すると…
拡大!
拡大!
おっ!多少ボケてるけどちゃんと確認できるぞ!
さっきの追いかけっこは何だったのか。

ハサミが大きいのはオスだけ

ところで、ここ泡瀬干潟には色んな種類のシオマネキが生息している。
この日撮影できたシオマネキ類をざっと紹介していこう。
白と橙で塗り分けられたハサミが特徴のヒメシオマネキ。この干潟で一番多く見かける種類。
白と橙で塗り分けられたハサミが特徴のヒメシオマネキ。この干潟で一番多く見かける種類。
ヒメシオマネキの背面。飛び出た目玉がカワイイ。
ヒメシオマネキの背面。飛び出た目玉がカワイイ。
こちらはメス。オスと違ってどちらのハサミも小さい。
こちらはメス。オスと違ってどちらのハサミも小さい。
実はシオマネキならみんな片方のハサミが大きいわけではない。これはオスにだけ見られる特徴である。メスのハサミは上の写真のように両方とも小さい。
そもそもオスの大きなハサミは、振り回してメスの気を引くために使うものなのだ。クジャクの飾り羽などに近い存在と言えるかもしれない。
白いハサミを持つこちらはオキナワハクセンシオマネキという種類。「ハクセン」とは「白扇」のこと。オスがハサミを振り回して求愛する様子が、白い扇子を片手に舞を踊っているように見えることから名付けられたらしい。
白いハサミを持つこちらはオキナワハクセンシオマネキという種類。「ハクセン」とは「白扇」のこと。オスがハサミを振り回して求愛する様子が、白い扇子を片手に舞を踊っているように見えることから名付けられたらしい。
オキナワハクセンシオマネキ背面。個体によって全然模様が違う。
オキナワハクセンシオマネキ背面。個体によって全然模様が違う。
名前のわからないシオマネキも混じる。
これは何という種類だったか。
これは何という種類だったか。
上の写真のシオマネキの背面。実はシオマネキ類は模様の変異が大きく、意外に種の識別が難しいのだ。
上の写真のシオマネキの背面。実はシオマネキ類は模様の変異が大きく、意外に種の識別が難しいのだ。
ボケボケで申し訳ないがこちらは真っ赤な体が綺麗なベニシオマネキ。マングローブ林にいて、シオマネキ類の中でも特に警戒心が強い。そのためこんな写真しか撮れなかったのだ。
ボケボケで申し訳ないがこちらは真っ赤な体が綺麗なベニシオマネキ。マングローブ林にいて、シオマネキ類の中でも特に警戒心が強い。そのためこんな写真しか撮れなかったのだ。

一種類に狙いを絞る

さて、先ほどシオマネキには複数の種類がいることを確認した。
今回の調査を行うにあたって、それらをごちゃ混ぜに撮影、カウントしてしまって良いものだろうか。
もしかすると種類によって利き手(?)の比率が異なっているかもしれない。
その場合、観察した各種の個体数によって全く結果が違ってくる。実験が非常にややこしくなってしまうのだ。僕は生き物の観察や研究は好きだが、面倒くさいのは大嫌いだ。

そういうわけで、今回は比較的数が多く、体も大きくて観察しやすい「ヒメシオマネキ」のみを対象とした。
あらためまして、今回の主役ヒメシオマネキです。
あらためまして、今回の主役ヒメシオマネキです。

意外なほど偏る

さあ、さっそく拡大した画像を見ていこう。
ちなみにこの時点での僕の予想は「右手が大きいカニと左手が大きいカニの比率は五分五分。偏ったとしてもせいぜい7:3くらいだろう。」というものであった。さて、結果はどうなるか。
右手がデカい。
右手がデカい。
やっぱりみんな右手がデカい。
やっぱりみんな右手がデカい。
ん?ぱっと見た感じ、みんな右のハサミが大きいような気がするぞ…。
写真を並べて見てみよう。
右手派、右手派、右手派、右手派、右手派、右手派…!
右手派、右手派、右手派、右手派、右手派、右手派…!
なんと、やはりほとんどの個体は右手が大きい!
左手が大きいのもいないことはないのだが圧倒的に少ない。
やっとこさ見つけた左手が大きいヒメシオマネキ。またしてもボケボケ写真で申し訳ないが。
やっとこさ見つけた左手が大きいヒメシオマネキ。またしてもボケボケ写真で申し訳ないが。
今回撮影した中でハサミのつき方を確認できたヒメシオマネキは全部で62匹であった。そのうち左のハサミが大きなヒメシオマネキはわずか4匹のみにとどまった。
ということは、右手派が約94%、左手派が約6% という結果になる。
サンプルの母数がちょっと少ない気もするが、これだけ歴然と差が出たということは偏りがあるのは確かなのだろう。

種類によって比率は異なる!?

ところが、別種であるオキナワハクセンシオマネキの場合は左手派が珍しくなかった。これは後日写真を見返していて気付いたのだが、ヒメシオマネキと比べると明らかに左右の手でバラつきがあったようなのだ。
オキナワハクセンシオマネキでは左ハサミが大きな個体も比較的簡単に見つかる。
オキナワハクセンシオマネキでは左ハサミが大きな個体も比較的簡単に見つかる。
一枚の写真に左手派が3匹も。ヒメシオマネキでは考えられない割合だ。
一枚の写真に左手派が3匹も。ヒメシオマネキでは考えられない割合だ。
こちらは撮影したサンプル数ヒメシオマネキよりも少なかったので、あまりはっきりしたことは言えないが、だいたい左利き(右のハサミが大きい)がおよそ6割、右利き(左のハサミが大きい)が4割くらいの比率で存在していたようだ。

ちくしょー。こんな面白い結果になるならこっちもたくさん撮影しとくべきだったな―。

種別に徹底調査すべき

というわけで、今回観察したヒメシオマネキの例を見る限りだと、どうやら右のハサミが大きな個体が多いようだった。
ただし、シオマネキの種類によってその比率が大きく違う可能性も示唆されたので一概に断言してしまうことはできないだろう。
日本には約10種ものシオマネキが分布しているらしいので、各種の右手派左手派の割合を徹底的に調べてみるのも面白そうだ。
ちなみにシオマネキ類のオスは子どもの頃に片方のハサミを自分で切り落とすことで左右のハサミのサイズバランスを変えるのだと聞いたことがある。臆病なくせに根性はあるんだなと思った。
シオマネキじゃないけどゆいレールのドアにいるカニ。こいつを見る度に、おまえは挟む方だろうがと思う。
シオマネキじゃないけどゆいレールのドアにいるカニ。こいつを見る度に、おまえは挟む方だろうがと思う。
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