特集 2012年11月21日

麻雀漫画の宙に浮く牌を作る

悪いな、それロンだ(チョンボ)
悪いな、それロンだ(チョンボ)
麻雀漫画には独特の演出があると思う。

戦略を考える登場人物の表情を見せつつ、手元にある牌の内容も読者に見せるために、牌を宙に浮かせて表現するのだ。

あの浮いている牌を作れば、どんな場面でも麻雀漫画のいちシーンになるのではないか。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

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業界独特の演出法

麻雀漫画の宙に浮いた牌を見たことがあるだろうか。

僕は麻雀漫画をほとんど読んだことがなかったけど、たまたま入ったラーメン屋に置いてあったのを何気なく見たときに、この演出がすごく気になったのだ。
参考までに麻雀漫画専門誌を買ってきた
参考までに麻雀漫画専門誌を買ってきた
これぞまさしく僕の求めていた宙に浮く牌 片山まさゆき「雀術師シルルと微差ゴースト」(竹書房「近代麻雀」2012年12月15日号掲載)より引用
これぞまさしく僕の求めていた宙に浮く牌 片山まさゆき「雀術師シルルと微差ゴースト」(竹書房「近代麻雀」2012年12月15日号掲載)より引用
顔の上にかぶせる、なんて表現もあるのか! 天獅子悦也「むこうぶち」(竹書房「近代麻雀」2012年12月15日号掲載)より引用
顔の上にかぶせる、なんて表現もあるのか! 天獅子悦也「むこうぶち」(竹書房「近代麻雀」2012年12月15日号掲載)より引用
宙に浮いた牌は、その登場人物の心象風景なのだと思う。顔の表情で緊張感を生み出し、でも牌はその人の方を向いていて見えないから、頭に映し出された光景、として表現しているのだろう。

夕日の空に浮かぶ死んだおっ母さんの笑顔、と同じ手法である。
オーソドックスな方法としてはコマの下に一直線に並べるというのもある。この向きのままゲームしてたらそれはそれですごい 伊藤誠「兎 ―野生の闘牌―」(竹書房「近代麻雀」2012年12月15日号掲載)より引用
オーソドックスな方法としてはコマの下に一直線に並べるというのもある。この向きのままゲームしてたらそれはそれですごい 伊藤誠「兎 ―野生の闘牌―」(竹書房「近代麻雀」2012年12月15日号掲載)より引用
ついに後ろ向きのまま牌を透かすという手法まで編み出されていた 伊藤誠「兎 ―野生の闘牌―」(竹書房「近代麻雀」2012年12月15日号掲載)より引用
ついに後ろ向きのまま牌を透かすという手法まで編み出されていた 伊藤誠「兎 ―野生の闘牌―」(竹書房「近代麻雀」2012年12月15日号掲載)より引用
そこで、麻雀牌を繋げて宙に浮くように作り、人が考え込んだりしている場面を背景に写真を撮れば、あたかも麻雀漫画の一場面のような光景ができるのではないだろうか。つまりARだ(違う)。

というわけで、材料を買いに出かけた。はじめは本物の麻雀牌を使うことも考えたけど、重いのと、小さいので写真に写りづらいと思い、ちょっと大きめの牌を作ることにした。
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100円ショップに神光臨

近所の100円ショップを数店まわり、ようやく見つけたのがこの長い食器洗い用スポンジ。どうやら好みの長さに切って使うタイプのようだ。
色がまたちょうど麻雀牌ぽくていい(向きが逆で2本入ってる)
色がまたちょうど麻雀牌ぽくていい(向きが逆で2本入ってる)
ややベージュがかった柔らかいスポンジの裏に、茶色の硬いスポンジが接着されていて、まさに麻雀牌っぽいルックスである。

これを本物の麻雀牌と同じ縦横比で切ってみると、ちょっと大きい麻雀牌そのものの形になった。遠くからだったら確実に見間違える。
縦横比は1:1.368くらいらしいので、高さ63mmのスポンジを46mm幅で切っていく
縦横比は1:1.368くらいらしいので、高さ63mmのスポンジを46mm幅で切っていく
うおお切っただけで麻雀牌っぽい!
うおお切っただけで麻雀牌っぽい!
麻雀牌になるために造られたスポンジではないか
麻雀牌になるために造られたスポンジではないか
切っただけなのにこの完成度!
切っただけなのにこの完成度!
スポンジを見つけるまでは、プラスチックの箱とかいろんなものを候補にしていて、白い紙を貼らなきゃとか裏を違う色に塗らなきゃとか、たくさん買わなきゃいけなくてお金かかるとか、いろいろ考えて気が重くなっていた(この時点で工作記事書く資格なしですね)のに、単に切っただけでほぼ完成してしまうとは。神が降りてきたとしか言いようがない。

表面の文字はフリー素材サイトからダウンロード(来夢来人さんの麻雀素材を使わせていただきました)したデータをやや拡大し、色味を合わせたものを切り抜いて貼りつけた。
スポンジがややベージュなので下地に色をつけた
スポンジがややベージュなので下地に色をつけた
苦労した点、と言えば色味を合わせるのと、牌の大きさに対する文字の大きさを決めるところ。ややベージュがかった牌表面の色に合わせるのは難しく、切り抜いた文字が浮かんで見えてしまうので何度もやり直した。

文字はイメージで「こんなもんかな」と拡大してみたら、この牌に対しては微妙に小さく、なんだか寂しい感じになってしまった。
文字を切り抜いて貼っていく
文字を切り抜いて貼っていく
この時点では「それっぽい!」と思っていたけど
この時点では「それっぽい!」と思っていたけど
このへんでなんだか違和感が出てきた
このへんでなんだか違和感が出てきた
何とも言えない哀愁を感じさせる東
何とも言えない哀愁を感じさせる東
どうでもいいけど今うちのプリンターが壊れているので、印刷し直すごとに近くのコンビニまで走った。その都度「もう出かけたくない」という強い想いでデータ作りに取り組んだ集中力はこれからの人生にも生かしたいと思う。

次に繋がる負け、ってこういうことかな。
文字を拡大して色味を変えて印刷、を何度か繰り返した
文字を拡大して色味を変えて印刷、を何度か繰り返した
いい感じにできた!かわいい!
いい感じにできた!かわいい!
牌を宙に浮かす方法は、並べた牌を長い棒の上に載せて横から差し出すことにした。そこで、伸び縮みさせることのできる園芸用のポールを買ってきた。今回、牌の大きさは横が4.6cmなので、完成形の14牌で全長64.4cm。70cm~120cmというこのポールがまさにピッタリ。
園芸用ポールがちょうどいい長さ
園芸用ポールがちょうどいい長さ
1本だけでは上に載せた牌がグラついてしまうと思い、2本並べてテープで止め、その上に細く切ったマジックテープを貼りつけた。牌の下面にもマジックテープを貼ったのでガッチリ固定できるはずである。
2本を並べてテープでぐるぐる巻きにし...
2本を並べてテープでぐるぐる巻きにし...
上にマジックテープを貼った
上にマジックテープを貼った
牌の下面にもマジックテープを貼ってある
牌の下面にもマジックテープを貼ってある
というわけで宙に浮く麻雀牌セットが完成した。さっそく、それっぽく撮れるか試してみよう。
果たして麻雀漫画っぽくなるのか、そしてなったとしてそれは嬉しいのか
果たして麻雀漫画っぽくなるのか、そしてなったとしてそれは嬉しいのか
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出るか、麻雀漫画のワンシーン

まずはいかにもゲーム中という表情で試してみよう。
「あんた、背中が煤けてるぜ」
「あんた、背中が煤けてるぜ」
自信満々に北を切る(持ってるのに)
自信満々に北を切る(持ってるのに)
頭の上にも浮かすことができる
頭の上にも浮かすことができる
考える横顔の前に浮かすとちょっとそれっぽいかも
考える横顔の前に浮かすとちょっとそれっぽいかも
むずかしい。

何十枚と写真を撮って、たまに漫画っぽく見えている瞬間がある気がする。でも、角度とか距離感をどうしたらいいのかよく分からない。

そこでわからないついでに、まったく麻雀とかけ離れたシチュエーションで撮影してみた。
たとえばトイレでがんばっているように見えて
たとえばトイレでがんばっているように見えて
実は何切ろうか考えている
実は何切ろうか考えている
コーラかなー
コーラかなー
中かなー
中かなー
信号が変わるのを待っている
信号が変わるのを待っている
いい牌が入ってくるのを待っている
いい牌が入ってくるのを待っている
楽しそうに遊ぶ石像の表情が
楽しそうに遊ぶ石像の表情が
勝負師のそれに変わる
勝負師のそれに変わる
関東を駆け回った勇猛果敢な武将も
関東を駆け回った勇猛果敢な武将も
テーブルの前に降りてくる
テーブルの前に降りてくる
ちなみに撮影風景
ちなみに撮影風景
何となく分かっていたけど、漫画のようにそのコマの前後があって、そこで麻雀をしている描写があることではじめてそのコマも麻雀中、という設定になるのだ。とつぜん牌が宙に浮いてるだけでは何が起きてるのか理解できない。僕たちの脳はまだそこまで麻雀に気を許していないのだろう。

ただ、石像や銅像のようないわゆる美術作品が、麻雀牌と一緒に撮られることで俗世間に引きずり出されてくることは分かった。

でももう一度まじめにトライしたい。真剣の表情の人ならば麻雀中のような雰囲気が出るんじゃないか。

そこでデイリーポータルZ編集部の会議にお邪魔した。
国士無双の記念写真
国士無双の記念写真
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会議室が雀荘に

ニフティ本社で行われている編集部の会議にお邪魔した。

皆さんあれこれアイデアを出し合っている。
侃々諤々
侃々諤々
この緊迫した雰囲気の中、鞄から宙を浮く牌を取り出し、会議している人の前に差し出してみた。これならいけるんじゃないか。
ものすごい役満が完成寸前で思わず口元が緩む
ものすごい役満が完成寸前で思わず口元が緩む
兄ちゃん考え込む必要ない!それ13面待ちや!
兄ちゃん考え込む必要ない!それ13面待ちや!
一度でいいからこんなのテンパってみたいねー
一度でいいからこんなのテンパってみたいねー
それにひきかえあーもうホントどうしよう
それにひきかえあーもうホントどうしよう
おお、このシチュエーション(というか芝居)は意外とそれなりに見えるんじゃないか。やっぱり真剣な表情とテーブルが必須なのかも知れない。

とは言えあくまでもそれなりで、やっぱり前後にストーリーがないと思い込みに頼ることになる。

でもフィクションのネタだからこそ、こんなこともできてしまうのだった。
史上最強の役満、北一色(勝手に作った)
史上最強の役満、北一色(勝手に作った)

何でこれ作ろうと思ったんだっけ

というわけで、漫画の演出の現実化にトライしてみた。

しかしやっぱり漫画は漫画、まるであのコマを見ているかのような再現は難しいことが分かった。つまり現実と架空の橋渡しはアナログ(スポンジ)では無理、ということだ。なので、写真を撮ると宙に浮く牌が組み込まれるスマートフォンアプリを誰かが作ってくれるのを待とうと思う。
牌を収納できる箱も作ったんだけど
牌を収納できる箱も作ったんだけど
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