特集 2012年11月25日

東京の酒造の日本酒はあなどれない

都内3か所の蔵を訪問しました。
都内3か所の蔵を訪問しました。
酒蔵と言えば、水も空気も景色も綺麗な山間などにあるイメージがありますが、過密都市東京にも日本酒を作る酒蔵があります。それも、奥多摩の山の中だけではなく、割と都市部にもあるのです。

そして、そんな場所で作られる日本酒が予想以上にうまいのです。今回は、東京都内にある酒蔵をいくつか訪問してきました。
1972年生まれ。元機械設計屋の工業製造業系ライター。普段は工業、製造業関係、テクノロジー全般の記事を多く書いています。元プロボクサーでウルトラマラソンを走ります。日本酒利き酒師の資格があり、ライター以外に日本酒と発酵食品をメインにした飲み屋も経営しているので、体力実践系、各種料理、日本酒関係の記事も多く書いています。(動画インタビュー

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明治頃までは23区内にも多数の蔵があった

今からおよそ100年前。明治時代までは、東京23区内でも60以上の日本酒の酒蔵があったそうです。
こんな感じで酒造がありました。FBO(料飲専門家団体連合会)の資料より。
こんな感じで酒造がありました。FBO(料飲専門家団体連合会)の資料より。
災害や戦火、都市化などによりその数は減り、東京都内全てを合わせても今は10蔵(休蔵中、委託醸造の蔵も含む)しか残っていません。しかも、大半の蔵は生産量が少なく、蔵の近くに住んでいてもその蔵の酒を見かけることが少ないです。

今回訪問した蔵は東京23区内から比較的近く、現地で購入可能な蔵を選んでいます。

23区内にも酒造がある

最初に訪れたのは東京都北区。JR赤羽駅北口より歩いて20分。東京メトロ南北線赤羽岩淵駅からなら歩いて3分の所にある小山酒造です。
シャッターの上に酒林(酒蔵などに吊るされている杉の葉を丸く束ねたもの)が無ければ酒造とは思えない見た目。
シャッターの上に酒林(酒蔵などに吊るされている杉の葉を丸く束ねたもの)が無ければ酒造とは思えない見た目。
こちらの蔵は23区内に唯一残る酒蔵で、この地でおよそ130年酒を造り続けています。
五代目にあたる副社長の小山周さんと、常務取締役できき酒師でもある小山久理さん。
五代目にあたる副社長の小山周さんと、常務取締役できき酒師でもある小山久理さん。
生産量は年間350石(1石は180リットル)ほどで、1升瓶なら35000本。通常400~500石で小規模酒造と言われるので、かなり生産量は少ないと言えます。
十数年前までこんな感じの設備だったそうです。
十数年前までこんな感じの設備だったそうです。
昔の蔵を上から撮影した写真。上に写るのは荒川の土手。
昔の蔵を上から撮影した写真。上に写るのは荒川の土手。
現在の蔵は周りの環境の変化により温度管理が難しくなったので、空調が効いた近代的な蔵となっています。しかし、水は今も地下130mの井戸から秩父を源流とする良質な水が湧き、それを使用しています。
今の蔵の中。見た目は酒蔵というより食品工場ですね。
今の蔵の中。見た目は酒蔵というより食品工場ですね。
さて、この蔵で作られている日本酒がこちら。
丸眞正宗純米吟醸。この季節限定のしぼりたて生酒。
丸眞正宗純米吟醸。この季節限定のしぼりたて生酒。
丸眞正宗です。「丸眞」とは「まるまる本物」という意味で、初代がつけた名前だそうです。飲み口が軽く、キレの良い後味で、うま味が残るしっかりとした味わいです。よく言われるところの淡麗辛口。初めて飲んだ時はその旨さに驚きました。
昔は風呂に入れる専用の日本酒も作っていたそうです。売れたのか?
昔は風呂に入れる専用の日本酒も作っていたそうです。売れたのか?
正直なところ「赤羽あたりで作った酒か。観光地の土産物屋に置いてある適当な日本酒ぐらいの味じゃないの」なんて最初は考えていたのです。しかし、飲んでみるとこれが実にいい。

吟醸酒の甘いほのかな香りと、後からくる酸味のバランスがよく、そのままで良し。何かサッパリとした味わいの料理に合わせるのもいいでしょう。うまいです。
蔵の前の酒屋。小山酒造の酒は全種類ありました。蔵直営ではないが、親戚の方が経営しているそうです。
蔵の前の酒屋。小山酒造の酒は全種類ありました。蔵直営ではないが、親戚の方が経営しているそうです。
蔵では5名から酒造見学を受け付けています。製造現場に入ることはできませんが、試飲も出来るので興味のあるかたは仲間を集めて行ってみてはどうでしょうか。見学をしなくても、酒造の前の酒屋では小山酒造の酒を扱っているので、そこで購入することも可能です。

酒造のホームページでネット販売もしているので、遠方の方はそちらで。
JR赤羽駅内のエキュート赤羽ではオリジナルラベルの丸眞正宗も販売している。
JR赤羽駅内のエキュート赤羽ではオリジナルラベルの丸眞正宗も販売している。
では、次の蔵。東村山市に行きます。
小山酒造株式会社

東京都 北区岩淵町26-10
03-3902-3451

http://www.koyamashuzo.co.jp/
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歴史は400年以上

続いて来たのが東京都東村山市の豊島屋酒造。
西武線東村山駅から歩いて15分。住宅街の中にあります。
西武線東村山駅から歩いて15分。住宅街の中にあります。
こちらの蔵では年に2回、蔵を一般公開していて試飲、蔵出しの酒の販売の他、屋台も出て大変にぎわいます。
蔵の中はタンクが並び、住宅街の中にありながらいかにも酒造といった雰囲気。
蔵の中はタンクが並び、住宅街の中にありながらいかにも酒造といった雰囲気。
蔵は今から400年以上前。江戸の神田で初代豊島屋十右衛門が酒屋兼、一杯飲み屋を始めたのが始まり。その後、その地で白酒(もち米やみりんで作る酒。雛祭りで飲まれる。甘酒とは違う物)の醸造を始め、昭和初期に東村山に酒造を開いたそうです。
機械化されている部分も多いが、全体的に古めかしい設備。
機械化されている部分も多いが、全体的に古めかしい設備。
資料によると、生産量は比較的少なく1000石ほど(みりんが500石、清酒が500石)。日本酒に関しては主に地元周辺で飲まれているようです。
蔵開きで数か所ある試飲コーナーには行列が出来る。
蔵開きで数か所ある試飲コーナーには行列が出来る。
空いた場所にシートを敷いて購入した酒で宴会している人も多数います。
空いた場所にシートを敷いて購入した酒で宴会している人も多数います。
そして、こちらの酒造で作られている酒がこちら。
金婚。豊島屋酒造の主要銘柄。
金婚。豊島屋酒造の主要銘柄。
十右衛門。初代の名前をつけたこちらも蔵を代表する酒。
十右衛門。初代の名前をつけたこちらも蔵を代表する酒。
金婚と十右衛門です。この蔵の酒は、果物を感じる華やかな香りにサラリとキレのある物から、香りを抑え味わい深い飲み口の物まで各種あります。全体的にスッキリと飲みやすい。日本酒にあまり馴染みの無い方にも美味しい酒だと思います。
水ではなく日本酒を使って日本酒を作った貴醸酒。かなり甘い。デザート酒です。バニラアイスにかけても美味しい。
水ではなく日本酒を使って日本酒を作った貴醸酒。かなり甘い。デザート酒です。バニラアイスにかけても美味しい。
屋守(おくのかみ)という少量生産の酒も出している。ワインにも似た香りと酸味があり、米の旨味もしっかりしていて実にうまい酒です。
屋守(おくのかみ)という少量生産の酒も出している。ワインにも似た香りと酸味があり、米の旨味もしっかりしていて実にうまい酒です。
そしてこの蔵ではちょっと変わった酒も出しています。江戸時代には「山なれば富士、白酒なれば豊島屋」とうたわれ、雛祭に白酒を飲む風習を広めたのは豊島屋と言われ、今も同じ製法で作ったものが販売されています。

他にも、日本酒で日本酒を仕込んだ貴醸酒や、少量生産の高品質の日本酒も出している面白い酒造です。
蔵開きでは限定酒も販売。即完売だったようです。
蔵開きでは限定酒も販売。即完売だったようです。
蔵では直接販売もおこなっているので、普段でも各種の酒が購入可能です。また、予約をすれば普段でも見学はできるようなので、詳しくは蔵に問い合わせてみてください。こちらの蔵でもネット販売をしているので、遠方の方はそちらでどうぞ。
蔵で使われる麹の試食コーナーや蔵人に直接質問出来るコーナーもありました。
蔵で使われる麹の試食コーナーや蔵人に直接質問出来るコーナーもありました。
瓶入りの燗酒もあり。あったまる。
瓶入りの燗酒もあり。あったまる。
次は、福生市へ行きます。
豊島屋酒造

東京都東村山市久米川町3-14-10
042-391-0601

http://www.toshimayasyuzou.co.jp/
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ビールも作っています

次の蔵は東京都福生市の石川酒造。
広い通りから少し入った住宅街に突然あらわれる酒樽。
広い通りから少し入った住宅街に突然あらわれる酒樽。
石川酒造は新宿から電車に乗って40分ほどの西武線、JRの拝島駅。そこから歩いて15分の所にあります。遠くに奥多摩の山が見える郊外の酒蔵で、周囲は沢山の住宅が建っています。
長屋門をくぐり酒蔵内へ。
長屋門をくぐり酒蔵内へ。
蔵は140年以上この地で酒造りを行っていて、日本酒以外に古くからビール作りも行っています。製造量は多く、資料によると日本酒が2500石(1升瓶で25万本)。ビールは100キロリットルほど製造しているそうです。
歴史ある建物が並ぶ敷地内。
歴史ある建物が並ぶ敷地内。
蔵の中には日本酒の蔵、ビールの蔵の他、イタリアンレストランの「福生のビール小屋」と、蕎麦居酒屋「雑蔵」も併設されています。
ビール小屋。夏場は外にも席が置かれます。向かいのビール蔵の2階ではJAZZコンサートも開かれるそうです。
ビール小屋。夏場は外にも席が置かれます。向かいのビール蔵の2階ではJAZZコンサートも開かれるそうです。
蕎麦居酒屋店内。蔵出しの日本酒が蕎麦とともに味わえます。
蕎麦居酒屋店内。蔵出しの日本酒が蕎麦とともに味わえます。
蕎麦居酒屋の上には酒造の歴史や酒作りについて紹介した資料館もあり、無料で見学できます。
資料館内。酒作りの道具や歴史資料が展示されています。
資料館内。酒作りの道具や歴史資料が展示されています。
酒造で作っていた古いビールのラベルも展示されていて興味深い。
酒造で作っていた古いビールのラベルも展示されていて興味深い。
そしてこちらの蔵で作られている酒がこちら。
ビール「多摩の恵」のピルスナーと多満自慢の「純米吟醸あらばしり生酒」
ビール「多摩の恵」のピルスナーと多満自慢の「純米吟醸あらばしり生酒」
日本酒の「多満自慢」とビールの「多摩の恵」。日本酒は香り高くスッキリと綺麗な味わいの物から、酸の効いた力強いものまで幅広くあり、色々な楽しみ方が出来るうまい酒が揃っています。

ビールはピルスナー、ペールエール、ミュンヒナーダークと数種類あり、苦み、甘み、旨味などのバランスが良く、飲み飽きしない味わいがあります。
売店では酒以外に日本酒を使ったお菓子なども販売されています。
売店では酒以外に日本酒を使ったお菓子なども販売されています。
動物が宴会している絵がかかれたラベルの「酒は楽しく」シリーズもこちらで買える。ビールは東京駅とかでも売っているそうです。
動物が宴会している絵がかかれたラベルの「酒は楽しく」シリーズもこちらで買える。ビールは東京駅とかでも売っているそうです。
蔵の中には売店もあるので、試飲や購入が可能です。もちろんネット販売も行っているので、遠方の方はそちらで買えます。
蕎麦と日本酒。近くの多摩川の緑地で遊んだ後に立ち寄って食事して帰るのもいい。
蕎麦と日本酒。近くの多摩川の緑地で遊んだ後に立ち寄って食事して帰るのもいい。
石川酒造株式会社

東京都福生市熊川一番地
042-553-0100

http://www.tamajiman.com/

東京の酒造はあなどれない!

東京の酒蔵は小さいながらもしっかりと酒造りをしていて、どの蔵の酒も大変うまいです。日本酒の消費量減少や、都市化により酒作りが難しくなるなど困難な状況が多いですが、色々な工夫や努力で乗り切っています。

東京に限らず、探すと意外に身近なところに酒造がみつけられるかもしれません。有名な酒を探して飲むのもいいですが、地元の酒。正に地酒を蔵に訪れて飲むのも楽しいのです。一度やってみてください。意外な発見があります.

ちなみに、東京都の酒は以前取材した立川駅の近くにある東京都酒造組合の事務所で大体の物が買えます。平日昼間しか開いてないですが、ネットショップもあるのでそちらでも買えます。興味ある方は東京の日本酒を購入して味わってみてください。
東京の酒はあなどれません。店でも色々出していく予定。
東京の酒はあなどれません。店でも色々出していく予定。
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