特集 2012年12月11日

スペイン北部のマイナー世界遺産巡り

旅行ガイドブックに詳細が無い、渋めの世界遺産を紹介します
旅行ガイドブックに詳細が無い、渋めの世界遺産を紹介します
世界的に見て価値の高い文化財や自然を総合的に保護し、後世に受け継ぐ目的で1972年に採択されたユネスコの世界遺産条約。

2012年12月現在、世界遺産リストに記載されている物件は962件に及ぶものの、そのうちの半分近くがヨーロッパに存在するという偏りがある。これだけの数があるのだから、誰もが知っているようなメジャーな物件もあれば、マイナーな物件もあるだろう。

その世界遺産密集地帯であるヨーロッパのうち、今回はスペイン北部のあまり知られていない(と私が思う)世界遺産にスポットを当てて紹介したい。
1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

前の記事:日高で見かけた全長1kmの建造物

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サンティアゴ巡礼路沿いにある世界遺産

今年の春から夏にかけて、フランスからスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラへ続く、サンティアゴ巡礼路を歩いてきた。

その道はスペイン北部を横断してスペインの西端にあたるサンティアゴまで続いており、途中にはいくつかの世界遺産が存在する。

……というか、そもそもまず、サンティアゴ巡礼路自体が世界遺産である。
中世から巡礼者が歩いてきたサンティアゴへの巡礼路
中世から巡礼者が歩いてきたサンティアゴへの巡礼路
1993年に世界遺産となった道である
1993年に世界遺産となった道である
途上にある古い橋や修道院なども一括して世界遺産
途上にある古い橋や修道院なども一括して世界遺産
また、巡礼の目的地であるサンティアゴのカテドラルとその周辺の歴史的建造物も、「サンティアゴ・デ・コンポステーラ(旧市街)」として1985年に世界遺産となっている。
まぁ、世界的な聖地ですし、歴史ある建物ですし
まぁ、世界的な聖地ですし、歴史ある建物ですし
そのカテドラルは眺める方向によって表情が変わる
そのカテドラルは眺める方向によって表情が変わる
カテドラルの周辺をうろつくだけで一日潰れた
カテドラルの周辺をうろつくだけで一日潰れた
しかし、これらは世界遺産としてはメジャーにも程があるというレベルである。キリスト教三大聖地の一つであるサンティアゴはスペイン有数の観光地でもあるし、その巡礼路は毎年10万人の巡礼者が歩いている。

また巡礼路沿いにあるブルゴスという都市の「ブルゴス大聖堂」も世界遺産であるが、そこもまた観光地として良く知られており、マイナーとは言えないだろう。
1983年に世界遺産となった「ブルゴス大聖堂」
1983年に世界遺産となった「ブルゴス大聖堂」
スペインで3番目に巨大なカテドラルだ
スペインで3番目に巨大なカテドラルだ
一面のレリーフに目を見張る
一面のレリーフに目を見張る
では、ここでいうマイナーな世界遺産とは何か。それはガイドブックに詳細な記述があるか無いかで判断したい。

私の持っているスペインのガイドブック(某歩き方)には世界遺産のインデックスページがあり、各世界遺産の詳細が書かれたページを参照できるようになっている。しかし中には一行の概要だけで、本文では全く触れられていない悲しい物件もいくつかある。

ガイドブックに記述が無いのだから、行きたくても二の足を踏んでしまうだろう。訪れる人も少ないはずだ。というワケで、いよいよ次ページから、ガイドブックに書かれていないマイナー世界遺産の紹介です。
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サン・ミジャンのユソ修道院とスソ修道院

トップバッターは、ナヘラという町の近くにあるサン・ミジャンの修道院である。

サン・ミジャンには6世紀に起源を持つ古い修道院があり、人里離れた場所にありながら壮大な建物がたたずんでいる。またその書庫には、膨大な数の古書が保管されているという。
巡礼路沿いにあるナヘラという町が拠点
巡礼路沿いにあるナヘラという町が拠点
バスは一日二本程度しかないので、タクシーを利用
バスは一日二本程度しかないので、タクシーを利用
車はひたすら山へと向かう
車はひたすら山へと向かう
やや開けた谷間にその修道院はある
やや開けた谷間にその修道院はある
周囲には修道院の畑が広がっていた
周囲には修道院の畑が広がっていた
サン・ミジャンに存在する修道院は二つ。山の麓にあるユソ修道院と、山の中腹にあるスソ修道院だ。

そのうちユソ修道院の建物は、16世紀から18世紀にかけて建てられた非常に巨大なものである。

修道院は俗世から離れた場所に建てられるのが常とはいえ、小さな集落にこのような巨大な修道院がある事にびっくりする。
繁栄っぷりが偲ばれる建物である
繁栄っぷりが偲ばれる建物である
なお、内部は自由に歩き回れるのではなく、ガイドツアーに参加する形での拝観となる。

スペイン語なので何を言っているか分からないが、要所要所に英語の案内板が置かれているので、それで何となく理解する感じだ。
回廊を歩いて修道院付属教会に入る
回廊を歩いて修道院付属教会に入る
荘厳な雰囲気がありますな
荘厳な雰囲気がありますな
スペインの教会はどこも祭壇が金ピカ
スペインの教会はどこも祭壇が金ピカ
お城みたいに華やかなデザインの部屋もある
お城みたいに華やかなデザインの部屋もある
ガイドさんは結構ちゃっちゃと回るので、写真を撮りつつだと遅れ気味でついて行くのが大変だ。しかしまぁ、内部は外観から想像するよりずっと凄いものであった。

さて、お次はサン・ミジャンのもう一つの修道院、スソ修道院の見学である。こちらもまた、内部の拝観は見学ツアーへの参加が必須である。
裾野にあるのがユソで中腹にあるのがスソとはこれいかに
裾野にあるのがユソで中腹にあるのがスソとはこれいかに
スソへは小型のバスで行く
スソへは小型のバスで行く
そうしてたどり着いたスソ、小さいながらも独特の風情がある
そうしてたどり着いたスソ、小さいながらも独特の風情がある
山に穿たれた岩窟を覆う形で建てられた建築だ
山に穿たれた岩窟を覆う形で建てられた建築だ
スソ修道院はユソよりかなり小さいものの、元はこちらがサン・ミジャンの聖地であり、歴史としてはスソの方が古い。ユソは11世紀になってから開かれたものだ。

建物としてもスソの方が古く、これは10世紀から11世紀にかけて建てられたものである。イベリア半島をイスラーム勢力が支配していた時の建築様式が見られ、なかなかに興味深い。
ガチな聖地なので、内部の写真撮影は禁止
ガチな聖地なので、内部の写真撮影は禁止
建物の内部には6世紀に掘られた岩窟がいくつかあり、中心のものには棺が安置され、脇のものには白骨がゴロゴロしていた。なんでも歴代修道士の墓なのだそうだ。
帰りはちょうどバスの時間だったので、安く戻る事ができた
帰りはちょうどバスの時間だったので、安く戻る事ができた
うん、派手さこそ少ないものの、味のある良い修道院だった。歴史的にも建築的にも他の世界遺産に引けを取ってはいない。

サン・ミジャンへの拠点となるナヘラへは、ログローニョという都市からバスが出ているので、アクセスもそれほど難しくはないだろう。

ナヘラ自体にも見どころがあるので、ナヘラに泊まってセットで回るのが良いと思う。
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アタプエルカの考古遺跡

続いては、最初のページで少し紹介したブルゴスから約15キロメートル程のところにある、アタプエルカという村の遺跡だ。
巡礼路沿い、アタプエルカ村の入口に看板が出ている
巡礼路沿い、アタプエルカ村の入口に看板が出ている
ここはヨーロッパ最古と考えられている人類の骨が多数発見された初期人類遺跡で、その手の分野を専門にされている方には有名だろう。

アタプエルカが「マイナーとは何事だ!」と怒られるかもしれないが、一般的な知名度としてはそれ程高くは無い……と思う。ガイドブックにも案内が無いし。
小さな村の外れに巨大なビジターセンターがどどん
小さな村の外れに巨大なビジターセンターがどどん
ここで遺跡の見学ツアーを受付をしていた
ここで遺跡の見学ツアーを受付をしていた
アタプエルカの考古遺跡は、村より少し離れた丘陵上にある。

その為、ここも拠点となるアタプエルカや、丘陵の南に位置するイベアス・デ・ファロスにあるビジターセンターから、ガイドツアーに参加する形での見学である。

ただ、それぞれの拠点から一日に2、3本しかツアーが出ていないようなので注意が必要だ。私はアタプエルカからの便では一番早い、11時発のツアーに参加した。
左下の部分が遺跡のある丘陵地帯(ピンクの線は巡礼路)
左下の部分が遺跡のある丘陵地帯(ピンクの線は巡礼路)
大きなバスに乗って遺跡に行く
大きなバスに乗って遺跡に行く
10分程で遺跡の入口に到着した
10分程で遺跡の入口に到着した
遺跡に入る際にはヘルメットをかぶる必要がある
遺跡に入る際にはヘルメットをかぶる必要がある
この丘陵一帯は石灰質のカルスト台地である。その為、洞窟がボコボコ開いており、洞窟暮らしの人類にとって最適の住居だったのだろう。

ちなみに歩道となっている部分は、遺跡発掘の際に作られた鉄道の軌道跡だそうだ。
ガイドさんの案内に従って奥へ進む
ガイドさんの案内に従って奥へ進む
この洞窟に初期人類が住んでいたのだ
この洞窟に初期人類が住んでいたのだ
今でこそ発掘によってスパンと切られた断面となっているものの、これらのくぼみは元は閉じた洞窟だった。

人類はこのような洞窟に暮らし、また狩場としていた。洞窟の上部に開いた穴に動物を追いこんで落とし、それを捕って食べていたらしい。いわば天然の落とし穴だ。
縦穴を使った狩りはこんな感じ(現地の案内板より)
縦穴を使った狩りはこんな感じ(現地の案内板より)
また現地ではガイドさんが丁寧に説明をしてくれた。やはりスペイン語なので何を言っているのか分からないが。

しかしここのガイドさんは非常に親切で、後でスペイン語を理解できない私に対し、英語で簡単な説明をしてくれた。
質問にも一つ一つ答えてくれるガイドさん
質問にも一つ一つ答えてくれるガイドさん
発掘されたものを見せてくれた(これは魚の骨かな)
発掘されたものを見せてくれた(これは魚の骨かな)
なお、遺跡は現在も絶賛発掘中
なお、遺跡は現在も絶賛発掘中
洞窟によって居住形態が異なっていたようだ
洞窟によって居住形態が異なっていたようだ
このガイドツアーでは主に三ヶ所の洞窟を回る事ができた。それらにはいずれも初期人類が住んでいたが、洞窟によって居住のスタイルが違っていたらしい。

50万年前とか100万年前とか気の遠くなるような昔の遺跡ではあるが、こう実際に見に行ってみると、人類の祖先が案外身近に感じられるものである。なかなか面白い見学であった。
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ルーゴのローマ城壁

最後はルーゴという町の世界遺産である。

ルーゴは私が歩いた巡礼路沿いではないのだが、サンティアゴまであと約100キロメートルという地点にあるサリアという町からバスを使って行く事ができる。
巡礼路の佳境にある町、サリア
巡礼路の佳境にある町、サリア
そこからバスで一時間程でルーゴに到着する
そこからバスで一時間程でルーゴに到着する
いきなり門がどーん
いきなり門がどーん
ここは少し特殊で、町の旧市街を囲む城壁(城は無いので厳密には城壁ではなく市壁だけど)が世界遺産である。

通常、このように城壁(市壁)で囲まれた古い町は、城壁を含むその町並み全体が世界遺産になっている事が多いのだが、ここはあくまで城壁だけが世界遺産なのだ。
実はこの城壁、ローマ帝国時代のもの
実はこの城壁、ローマ帝国時代のもの
それが旧市街をぐるりと囲んでいる
それが旧市街をぐるりと囲んでいる
この城壁は3世紀から4世紀にかけてローマ帝国によって築かれたものである。

その時代の城壁がほぼ完全に残る場所はこのルーゴにしかなく、非常に貴重な城壁なのだ。
総延長、約2.5キロメートルが「ほぼ完全に」残る
総延長、約2.5キロメートルが「ほぼ完全に」残る
「ほぼ完全に」なのは、後世に門が数ヶ所開かれている為だ
「ほぼ完全に」なのは、後世に門が数ヶ所開かれている為だ
階段が備わり、城壁の上に登る事もできる
階段が備わり、城壁の上に登る事もできる
城壁の上は市民の散歩&ランニングコースだ
城壁の上は市民の散歩&ランニングコースだ
蛇の道のようにくねくねと続いて行く
蛇の道のようにくねくねと続いて行く
ちなみに、城壁だけが世界遺産だからといって旧市街に古いモノが無いというワケではなく、他の観光地と同様に風情と賑わいが感じられる良い町である。

カテドラルやその他の教会など見どころも多く、ルーゴは城壁のみならず旧市街を合わせて見学すると、十分満足できる観光になると思う。

世界遺産には多種多様な文化財が詰まってる

さて、今回はスペイン三ヶ所のややマイナーな世界遺産を紹介させていただいた。全体的に地味――もとい、渋い感じではあったが、それぞれに世界遺産たる価値があり、また実際に訪れる事でそれを実感する事ができた。

世界遺産というと見た目に派手で分かりやすいものが好まれがちな気がするが、私は今回紹介したもののような、際立って注目される事は少ないけれど、その中に凄さを秘めている感じの物件が好きですな。
サンティアゴの北にあるア・コルーニャという町の「ヘラクレスの塔」。これもローマ時代の灯台(現存するものでは世界最古の灯台、しかも現役)で世界遺産だけど、ガイドブックに書かれているので今回は除外
サンティアゴの北にあるア・コルーニャという町の「ヘラクレスの塔」。これもローマ時代の灯台(現存するものでは世界最古の灯台、しかも現役)で世界遺産だけど、ガイドブックに書かれているので今回は除外
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