チャレンジの日曜日 2012年12月23日
 

書き出し小説大賞・第6回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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書き出し小説秀作発表、六回目である。

まずは今回も、政権交代の激動にあって、筆を執ることを忘れなかった書き出し作家の諸君に感謝したい。
投票は国民の義務と言えど、限られた候補者から名前を選ぶより、自由なイマジネーションの中から言葉を選び出すことの方が、筆の本懐に違いない。それにしても、選挙速報の石破副総裁の顔はすごかった。

今回は年内最後の発表ということで、いつもより増量の20作品を採用した。 なにかと忙しい年末には、まさにうってつけのミニマム小説20本。ひとときの物語世界を味わっていただきたい。

「田中君、僕だ。山中だ。」
待ち合わせ場所でその地域のゆるキャラの着ぐるみがささやきかけてきた。 瓢六堂
ご当地ネタ満載のサスペンスに期待。ほどよいゆるさで好感の持てる書き出し。

先が三つに分かれているのと、四つなのとでは一体どちらがいいのかしら。つぶやきながら、にぎり具合や振り回しやすさを何度も確かめる。いっそカマは?と、さらに迷う。週末は彼女が悪魔になってからの初仕事なのだ。
文京
読むすすめるにつれ、設定がわかりはじめる味な書き出し。萌えの予感も。

紙芝居屋は、家裁へと続くなだらかな下り坂を一気に駆け抜けて行く。
TOKUNAGA
紙芝居屋と家裁、ミスマッチの妙。どんな裁判が待っているのか?

「思ったこと、顔に書いてあるよ。」しまった、まだた。そういう奇病を患っている。
口江
まさかの奇病オチ。耳なし芳一的なビジュアルが浮かぶ。

付き合い始めは「なんとなく」なのに別れる時は理由がたくさん出来ちゃうんだなあ。荷物を運び出しながら困ったように彼女は笑った。
夏猫
別れからはじまる物語。最後の「笑った」にさまざまな感情が読み取れる。

彼は満天に輝く星達の中からとりわけ輝く星を選び、繋げて「ブロッコリー座」と名付けた。
概念覆す
花束や宝石箱ではきれい過ぎる。ブロッコリーを持って来た点が勝因。

「まだ遅い!もっと早く!君なら出来る!」
祖父の声援を受けてカゴの中のハムスターは、少し回転を早めた気がした。
水ボトル
祖父、ハムスターともに微笑ましい。今回のかわいい枠。

こひつじ幼稚園の隣の細川さんちの裏庭で、空っぽの漬物樽に耳をつけると「ウサギシグナル」をキャッチできるって教えてくれたのは平山くんだ。
かずピツ
一気に読ませながら不思議系の世界に誘う。ウサギシグナルの造語が効いている。

十八十九の新兵じゃあるまいし、俺は運命なんて信じンよ。食パンくわえた女子高生? はん、罠さ。
小祝林檎
新しくも古めかしくも感じる、小気味いい口調がよい。

「お前はいままで食べた夢の数を覚えているか」「違う、俺はアリクイだ。」
ウウタルレロ
とぼけた味わいの中にセンスが光る。お手本のような考えオチ。

先輩の引き出しの三段目には、花に埋もれて男が眠っている。残業中に見つけた時は驚いたが、今や彼を見ることが、いや彼がそこに在るとわかっていることがわたしの癒やしとなっている。
でいこ
一文でも成立するが二文目を加えることで、男と語り手に関係性が生まれた。

かつて丘の上に建っていたあの神殿は、いまはラーメン情報館になっている。
大伴
居抜き(元の建物をそのまま利用)でつくったのだろうか?

支配欲。先導の白バイは、そっとブレーキに手をかけた。
かよわしず
背後を走るおびただしい数のマラソンランナー。先導バイクの心理を拾った着眼点が秀逸。

クリスマスは夜景の美しいホテルの最上階で彼氏からプロポーズをされた妄想をしていたので私には空想アリバイ法が成立する。
いちんや
架空の法を言い切ることで世界観が一変する。それにしてもクリスマスの空想アリバイとは、切ない。

今更そんなことを言っても始まらないのだが、どうしてこの筆を腋に挟んで歩かなければいけないのだろう。すごくすべる。
KSK
「すごくすべる。」が体感に訴える。たしかに筆の柄、すべりそう。

甲から乙へとプレゼントが手渡された。乙は喜び甲の胸元へ、其のまま背中に手を回しひしと抱き締めた。
タカノ
契約書の人称を使うことで独特の文体が生まれた。このあと丙が登場し三角関係に?

肌白きことイカ刺しの如し。髪黒きことイカ墨の如し。美味きこと下足の如し。
とりかわつくね
イカフェチにはたまらない書き出し。

遺品を整理していて夫が大学で落研だったということを初めて知った。するといろんな事が腑に落ちた。話の本題に入るときに必ず上着をはらりと小粋に脱ぐあの癖、長男にやたらと長い名前をつけようとしたこと、それからあの迷宮入りの事件。
よしおう
落語ネタの羅列がうまく書き出しに昇華されている。迷宮入り事件は粗忽長屋?

飲み会代の回収が始まった途端、その妊婦は陣痛のふりを始めた。
長尾パンダ
こんな妊婦はイヤだ。ネタをうまく書き出しに転化した。

なんでそんな波打ち際でティッシュ配ってんだ?
xissa
しかも冬の海で。

以上である。

いつもは16作品であるところを、今回は特別に20作品にしてみたが、それでも選考の難しさは変わらない。
それだけ採用のボーダーラインには、秀作がひしめき合っているということである。最後の分かれ目は運としかいえまい。

今回は選考の段階から長文の作品によいものが目立った。書き出し小説は極力言葉を削ることが正攻法だと言えるが、文京氏やでいこ氏、よしおう氏のように、敢えて言葉を連ねることで、より世界観を鮮明にし、読み手のイマジネーションに方向づけを施す手法もある。
今回紹介した作品はその手法が成功した例であろう。ただ今後も「止めどき」には注意していただきたい。蛇足の一文が想像力を限定してしまっては元も子もない。

さて10月末に始まった当企画であるが、わずか二ヶ月あまりでかなりの反響を得た。これも一重に投稿していただいた書き出し作家の諸君と、それを楽しんでいただいた読者諸君のおかげである。重ねて感謝したい。
来年はさらなる飛躍を目指し、また新しい才能の発掘にも努めてゆく所存である。よろしくお願いします。

次回の締め切りは1月7日正午。発表は1月10日を予定している。 次回発表では1月1回目の秀作と12月の月間賞を発表する。本日までの投稿作は月間賞の対象となり、本日以降の投稿は1月秀作の対象となる。ゲスト審査員はお馴染みウェブマスター林雄司氏。以下の投稿フォームでふるって応募されたし! それでは諸君!よいお年を!
(最終選考通過者)

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デイリーポータルZ新人賞

 

 
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