特集 2013年1月9日

巨大トンネル水路の正体とは!?

コンクリート、水路、トンネル、3本に分かれてる、水が流れていない、はい満貫確定
コンクリート、水路、トンネル、3本に分かれてる、水が流れていない、はい満貫確定
子供の頃からコンクリートで固められた人工的な川が好きだった。

などと書くと、少し神経を疑われるかも知れない。もちろん緑に囲まれたせせらぎは美しいと思うけど、それと同じくらい、コンクリート3面張りの川、というか水路にも癒しを感じてしまう人間がここにいる。物心ついたときから身近にあったんだから仕方ない。

静岡県の伊豆の国市に、そんな僕と同じような子供が育っているんじゃないか、と思える場所があった。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

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水の流れていない巨大水路

トンネルで山を貫いている巨大なコンクリートの水路。

人によってはもう、何という自然破壊!と血管の2、3本はブチ切れそうなこの光景、その正体は、先日、静岡県の伊豆方面に行ったときに立ち寄った狩野川放水路だ。

かっこよすぎて僕は大興奮。逆の意味で血管キレそうだった。
建設中の高速道路、ではない
建設中の高速道路、ではない
伊豆半島の北側を流れる狩野川は、雨が多く急流で曲がりくねっているため、昔からたびたび洪水が起こっていたという。特に、昭和33年の台風22号は、後に「狩野川台風」と名づけられたほど、狩野川流域で大きな被害が出てしまった。

狩野川放水路は、そんな狩野川が洪水になりそうなとき、川の水の一部をバイパスさせて直接海に流してしまおう、という水路で、狩野川が直線距離で海から2キロほどの場所を流れる地点から分岐し、山をトンネルで貫いて一直線に海に向かっている。

より大きな地図で 狩野川放水路 を表示
赤い矢印が狩野川の流れ、放水路は分岐して青い矢印の方に流れる
いわゆる「川の非常口」なので、水量が通常のときは水が流れないらしく、僕が見たときも染み出した地下水(?)が薄く流れている以外は、乾いたコンクリート張りの底面が見えていた。
こんな非日常な光景が日常風景だなんて!
こんな非日常な光景が日常風景だなんて!
ふだんは水を流さず、水量の多いときだけ水を引き込むために、放水路が狩野川から分岐する場所にはこんなすごいものが造られていた。
写真奥を狩野川が右から左に流れている
写真奥を狩野川が右から左に流れている
右を流れる狩野川の水位が上がった分だけ堰を乗り越えて放水路に入る
右を流れる狩野川の水位が上がった分だけ堰を乗り越えて放水路に入る
不謹慎は承知で、こういう非常用の設備ってわくわくするよね、と思ったけど、水路沿いに建つ看板にあった平常時と洪水時の写真を見て黙った。はんぱない。

一度見てみたい。でも見たら何か漏らしそう。
水路眺めててこの水量がいきなり流れてきたら泣く
水路眺めててこの水量がいきなり流れてきたら泣く
地図を見ると、放水路が狩野川から分岐する地点の傍に、放水路の管理所と狩野川の資料館があるというので行ってみた。

管理所はダムとかでもよく見るお役所タイプの建物だったけど、隣の資料館がいい味出していた。
右が管理所、左は狩野川の資料館
右が管理所、左は狩野川の資料館
ローカル線の駅舎のようないい味出てる資料館
ローカル線の駅舎のようないい味出てる資料館
資料館には狩野川の洪水の歴史を残す写真がたくさんあって、地元の小学生などがよく見学に来ているようだった。壁に貼られていた小学生からの感謝状に「水路を見学させてくれてありがとう」と書かれていた。なんと団体であらかじめ連絡しておくと放水路の中に降りて見学もできるらしい。団体め!

悔しいので、放水路を外から眺めながら海までたどって行くことにした。我ながら子供じみた反動である。
ふだんは水が来ないとは言え、まあそうですよねー
ふだんは水が来ないとは言え、まあそうですよねー
ちょうど工事が行われていて水路とトンネルの大きさが引き立つ
ちょうど工事が行われていて水路とトンネルの大きさが引き立つ
あのトンネル入口に行ってみたい、もう今度ぜったい団体で来ると心に誓った
あのトンネル入口に行ってみたい、もう今度ぜったい団体で来ると心に誓った
狩野川から分かれた放水路は、500mほど進むとトンネルに入っていく。道路はトンネルがないので、少し遠回りしてトンネルの出口側に向かった。
これを見てなぜか中央線の四ッ谷あたりの景色を思い出した
これを見てなぜか中央線の四ッ谷あたりの景色を思い出した

トンネルを出てまたトンネルへ

最初のトンネルの出口にやってきた。このあたりから小さい川の水が流れ込むらしく、徐々に水が流れはじめていた。
入口と似ているけどトンネルの間にある仕切りの形が違う!
入口と似ているけどトンネルの間にある仕切りの形が違う!
放水路は全長およそ3km、地図上だとたった5cmくらいの長さだけど、実際の大きさを見ると何もないところにこれよく造ったなあ、と思ってしまう。残念ながら建設を始めてから完成する前に狩野川台風に襲われて流域は大きな被害が出てしまったけど、その後の大雨でこれだけの水量を下流に流さなくて済む効果は小さくないだろうと思う。
不良がたむろしていた
不良がたむろしていた
こちらは優等生たち
こちらは優等生たち
1kmほどでまたトンネルが口を開ける
1kmほどでまたトンネルが口を開ける
トンネルを出た放水路は、1kmほどまっすぐ進むとその先でふたたびトンネルの中に吸い込まれていた。つまりは山に囲まれた場所を真横に横切るという、自然の河川ではぜったいあり得ない流れかたをしているわけで、あたり前だけどこれが造られる前とは景色が一変しているんだろうなと思った。

そしてそこに、大雨という緊急時にだけ大量の水が流れる。僕は朝のラッシュ時の通勤電車が駆け抜けるようなイメージをしてしまった。防災インフラって考えれば考えるほど現実離れしていておもしろい。

大きな地図で見る
トンネルを出てまたトンネルに吸い込まれる放水路
放水路トンネルの脇に掘られた国道のトンネルを抜けて、出口側に回り込んだ。ここが放水路の終点、駿河湾に繋がる江浦湾だ。
2つ目のトンネルの出口。もう水が海の色である
2つ目のトンネルの出口。もう水が海の色である
運ばれてきた水は駿河湾に放たれる
運ばれてきた水は駿河湾に放たれる
本来は河口までまだ10km以上あって、多くの人が暮らしている三島市や沼津市内を脅かしながらごうごうと流れるはずだった狩野川の濁流を、途中で強制的にショートカットさせて海に放り出してしまう、その名も狩野川放水路。

濁流も何が起こったか分からずにキョトンとするんじゃないか。

防災インフラが活躍しないに越したことはないけれど、これからは台風が来たら、あのトンネルに濁流が流れ込むところを想像して、ちょっとドキドキしてしまいそうだ。

防災インフラを表に引きずり出す

たぶん何も知らない人が見たら、狩野川放水路は単に水の少ない川、としか見えないかも知れない。でも年に数回あるかないかの機会では、ほかの何にも代えられない仕事をしているはずだ。

防災インフラはその名の通り防いであたり前、なのでいちいち報道されることはないかも知れないけど、そんな施設たちをこれからもどんどん表舞台に上げていきたいと思う。
狩野川の河口がある沼津には「びゅうお」というめちゃくちゃでかい防潮水門があった
狩野川の河口がある沼津には「びゅうお」というめちゃくちゃでかい防潮水門があった
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