ロマンの木曜日 2013年1月10日
 

書き出し小説大賞・第7回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。

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書き出し小説秀作発表、七回目である。

年またぎの募集だったにも関わらず、メールボックスにはいつも通り大量の作品が寄せられた。
あらためて書き出し作家たちの熱意には頭が下がる。ただ単に正月がヒマ過ぎただけかもしれないが。

それでは新年一発目。今回もこの冒頭に続く、めくるめくイマジネーションの世界を堪能して欲しい。

花占いの花弁は初めから一枚だけでした。 TOKUNAGA
一枚の花びらに主人公の決意と諦めを感じさせる、秀逸な書き出し。

昔の彼の名前を発見したのは夜中のニュースの被害者としてだった。思わず力が入ったらしい。腕の中の猫が肉球を強く押されて「ニャーッ!」と抗議の声をあげた。 夏猫
シリアスとユーモアのバランスが見事。完成度高し。

ネクストバッターズサークルにはなぜか地蔵が鎮座していた。 概念覆す
地蔵の配置場所としてはベストの選択。

深夜だというのに救助要請の無線が入った。首につけたブランデーの樽が重い。 おかめちゃん
救助犬目線の救出劇。犬の気だるさがよい。

いきおいよく持ち上げた紙袋の取っ手が切れてそのまま自分の顎にアッパーをくらわせた。重い紙袋本体を受け止めた右足親指の爪は、紫色に変色している。 xissa
かつて紙袋ひとつにここまでダメージを受けた主人公がいただろうか。

表面積を求めていたら奥行が発生していた。もうダメだ。 すり身
理系パニックものという珍しい書き出し。

「家内安全」安藤中尉の手榴弾には、いつもそう書かれていた。 サトシ(仮)
御守りであり、武器でもある手榴弾。戦争と平和を謳った一文。

ゆで卵をテーブルに立てて見せた男の金色のまつげがチラつき、その夜イザベルはなかなか寝付けなかった。新大陸なんかぜったいあるはずないんだから…。 ぱぱす
コロンブスに恋人フラグのキャラを創造したアイデアに脱帽。

「今度の合戦、あれ目立つんじゃない?」彼女がおでんののぼりを指さした。 山盛やよい
「中古車セール」ののぼりもオススメ。

元旦の朝、誰もいない新宿駅を自転車で走るのが好きだ。今年も田舎には帰らなかったな。頬を切る風がヒヤリと冷たい。 タカノ
正月ネタその1。正月の空気の、どこか切ない清々しさがよく出ている。

「限界まで我慢した屁を数分にわたり無音で放出する」という初夢で目が覚めた朝のことである。 大伴
正月ネタその2。こちらはひたすら情けない。

恩田さんは身体を前のめりにして「そのバーは照明が薄暗いのかい?」と聞いてきた。三十五にして初デート。応援してあげたい。 kossetsu
もう、恩田さんから目が離せない!

相撲取りが公務員ではないと知ったのは17の春だった。 市橋カイジ
だって国技だろ?!

誰よりもまじめに油絵に取り組んだ僕の美術の成績は、学年最下位で、卑猥というレッテルまで貼られた。 僕の息子は反抗期
果物の断面をリアルに描きすぎたばかりに…。

父は母の背中を流している。子どものように体を揺らす母は、何も分かっていない。おっぽ
淡々とした文章に、ひんやりとしたシリアスさ。

皿に残ったパセリを三角形に3つ並べて、彼はぼそりと「森」と呟いた。忘年会の喧噪の中でかき消されてしまうほどそれは、か細い呟きだった。 そらまめかかお
喧騒の中に現れた小さな森。ビジュアルも鮮明に浮かんでくる。

以上である。

まさに新年を飾るにふさわしい作品が出揃ったように思う。
常連組は安定した力を発揮。基本的に採用はひとり一本としているのだが、その一本を選ぶのが難しいほどである。 そんな中、新人の作品がきらりと光った。偉人コロンブスに創作キャラを共演させたぱぱす氏(※注 その後読者の方からの指摘で、イザベルはコロンブスの航海を援助した実在の人物と分かりました。教養不足ですいません。でもそう考えるとさらに深い作品です)とぼけたユーモアで笑いを誘った山盛やよい氏、冷たい読後感を残したおっぽ氏の、今後の活躍に期待したい。

さて、今回は通常の発表に併せて、十二月の月間賞を発表する。 十二月は発表自体が少なかったもともあり、月間賞を1本、審査員賞を各1本づつとした。 ゲスト審査員はおなじみ林雄治氏。以下は選考の模様である。
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天久「前回の月間賞は忙しくてメールのやり取りだけだったんだよね。なんで今回はちゃんと会って決めようと」
林「料亭じゃなくてすいません。ニフティの応接スペースで」
天久「屋根があるだけで充分です。どうですか、ざっと読んでみて」
林「ぜんぶ面白いですね。この企画はじまってまだ二ヶ月なんですが、もうすでに長寿感が…」
天久「あるよね。常連のひともついたし。TOKUNAGAさんとか夏猫さんとか、毎回面白い」
林「発表したときから気になってたのがあって、あ、これ。スーパーでフラれるヤツ」

子どもが母親にお菓子をねだっている。おばさんはカートを身体のように扱っている。肉に半額のシールが貼られた。レジは空いている。私はスーパーでフラれた。 まいまい
天久「ああ、まいまいさんのね。俺も好き。あとはこのふたつが出来がいいなと」

「猫の手も借りたいよ!」その声に反応した城下町の猫達が、一斉に天守閣を目指し大移動し始めた。トニヲ

「田中君、僕だ。山中だ。」
待ち合わせ場所でその地域のゆるキャラの着ぐるみがささやきかけてきた。 瓢六堂
天久「かわいいのと、よく出来てるヤツ」
林「ゆるキャラのは深夜ドラマっぽいですね。読むだけで映像が浮かぶ」
天久「一番を決めるとなると個人的な趣味だけじゃなく、バランスいいのを選びたくなる」
林「でも普通によく出来てるやつでも物足りないんですよね。そこにもう一枚その人の個性が乗ってるような」
天久「そうだよね。だから最後は相撲で決めてる」
林「なんなんですか、それは」
天久「迷ってる作品同士を戦わせるの。頭の中の土俵で」
林「じゃあ、ちょっと戦わせてください」
天久「うん。じゃあ俺の選んだ二本を…(脳内取り組み中)…うん。トニヲさんの猫のヤツが勝った。土俵際で逆転。じゃあ決勝戦は林君やってよ。猫のヤツとスーパーでフラれるヤツで」
林「俺ですか。いいですけど…(脳内取り組み中)…ああっ!」
天久「どっち?!」
林「フラれるヤツが勝ちました。がっぷり四つから最後は吊り出しで!」
天久「よし。じゃあ月間賞はまいまいさんのコレで」
林「いいんですかね。こんなんで決めて」
天久「問題ないんじゃなかな。俺もやっぱりこれが一番かなと思ったし。この畳みかける描写がいいよね」
林「乾いた文体に弱いんですよ。淡々とした語り口が海外小説っぽくもあり」
天久「喧騒の中でフラれるというシチュエーションもいい」
林「本人残して周りの音だけが遠ざかって行く感じですね」
天久「そう。(笑)表情は見せないで背景で語る感じ。じゃあ、次は審査員賞決めようか。俺はもう決めてる。suzukishikaさんのコレね」

女の私が見ても溜息が出るほど、先輩はエロティックに王を扇ぐ。 suzukishika
林「ああ、いいですね。最初はなんだろう?って思うんだけど、王様の隣りで扇を持ってる女性が浮かんだ瞬間、なるほどって」
天久「うん。前半で読み手をひきつけて後半で落としてる。何気にテクが入ってるんだよ。林君は?」
林「僕は迷ったんですけど、かよわしずさんのコレで」

支配欲。先導の白バイは、そっとブレーキに手をかけた。 かよわしず
天久「これは思い切った書き出しだよね」
林「頭に『支配欲』って単語をポンと置くところがすごいなと。やっぱり自分じゃ書けないような文章に出会うとハッとします。『トイレ、その後に』と同等のインパクトです(笑)」
天久「小林製薬。(笑)これマラソン先導する白バイ隊員の視点だよね。俺のは王様の扇係だし。どっちも特殊な仕事選んだね(笑)」
林「言われてみればそうですね。つまり視点の発見ですかね。2作品ともそこを上手くみつけた気がします」
天久「でもこれって書き出し小説ならではじゃない。実際このネタで小説書くとしたら大変だよ。取材もしなきゃだし、第一このテーマでそんな持たないでしょ」
林「最初は書き出しのパロディって感じだったのが、最近は書き出し小説ならではの、独自の文体が出てきましたね」
天久「書き出しだけだからいい意味で無責任になれるし。プロには書けないものも平気で出てくる」
林「サッカーだとPK戦みたいなものですね」
天久「PK戦ならとんねるずでもプロに勝てるぞ!みたいな(笑)」
林「今後はどういう方向へ行くんですかね」
天久「すでにある程度のテイストは出来上がりつつあるんだけど、みんなが同じ方向には行って欲しくないね。ちょっと思ったんだけど、創作ってたいていフィクションじゃん。でもリアルな実体験でもいいんじゃないかって」
林「いいですねえ。書き出し私小説。(笑)そう言えばツイッター見てると、これ書き出し小説?ってのもありますから」
天久「そうだね。つぶやきが無意識に小説っぽくなってることもあるし、逆に意識的に日常を見ればなんでも小説になるんだよ」
林「書き出しだけなら、ボロも出ませんしね(笑)」
天久「そう。(笑)今日はどうもありがとう。来月もよろしくお願いします」

とういうわけで、受賞は以下の3作品に決定しました。
書き出し文学
12月月間賞

子どもが母親にお菓子をねだっている。おばさんはカートを身体のように扱っている。肉に半額のシールが貼られた。レジは空いている。私はスーパーでフラれた。
まいまい
天久賞

女の私が見ても溜息が出るほど、先輩はエロティックに王を扇ぐ。 suzukishika
林賞

支配欲。先導の白バイは、そっとブレーキに手をかけた。
かよわしず
林氏との対談はその後もつづき、今後に向けてのさまざまな企画案が話された。その成果は追々お見せできるだろう。
さて、次回の締め切りは1月17日正午、発表は1月20日を予定している。引き続き、諸君からの名作をお待ちしている!
(最終選考通過者)

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