チャレンジの日曜日 2013年1月20日
 

書き出し小説大賞・第8回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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書き出し小説秀作発表、八回目である。

正月もとうに過ぎ、寒さのみが身に染みる今日この頃。新年の誓いもどこにやら、引き籠もりがちな自分に喝を入れる。「よし、温かくなったらかんばろう」去年もたしか、そう思った。

今回も厳選された16本、この書き出しに続く、感動巨編を想像してお楽しみいただきたい。
「酒の席での告白なんて本気にしたらイタイよね」自分の言葉に思いがけず傷ついていた。
のほちん
静かな自爆ぶりが胸を打つ。
宙を舞う銀色のカツオに向かって、男は指揮棒を振り続けた。
赤嶺総理
力強い指揮者の勇姿が浮かぶが、実際はただの足手まとい。
「植物にも感情ってもんはあんだよ」大山田はそう言って除草剤を散布し始めた。
おかめちゃん
大山田の葛藤と諦めが、沁みる。
「半歩右!」タワーマンションの上から課長の声が降ってきた。もう姿すら見えないが、56階で目薬を握っているのだろう。
吉蔵
ネタはベタだが、文章構成の巧みさで上手くまとめた。
全てに絶望し、銃を手に取る。銃口を口に咥え、ためらわず引き金を引く。口内に国旗と紙吹雪。私はまだ死ねない。
ぬっさん
絶望とカラフルな口の中の対比がよい。
今年も又「店じまいセール」の旗を立てると、靴屋の新しい一年が始まる。
TOKUNAGA
店じまいセールに対する素朴な疑問を上手く落とし込んだ。
虹の付け根が、吉田の家に刺さっている。
TOKUNAGA
よりによって吉田の、という語り手の軽い苛立ちを感じる。
皆さんはご存じないだろうがパンチラにも流れが存在する。今は凪の時間であり、ただただ我慢を必要とする時なのだ。
哲ひと
パンチラに対する真摯な姿勢が伝わる。「凪」がいい。
上りエスカレーターでいまだにエビナくんのことを思い出すのは、カドを踏んで立ちアキレス腱を伸ばすストレッチを教えてくれたのが彼だから。
suzukishika
細かな日常観察から物語を広げた好例。
「      が下がったわー」
  テンション
「先輩、下がってきたテンションが凄く邪魔です」
dekuno
メタな文章遊びがきれいに決まった。二度は使えないが面白い。
枝毛探しには自然光が、それもこのくらいの赤い西日が一番なの。そう言って先輩はそっと操縦桿から両の手を離した。
雁が音
最後のくだりで、コクピットに西日が差した。
「魂の話をしよう」真面目くさったな顔でそう言った後、先生は黒板に塊と書いた。
たかもち
シンプルなオチ。愛嬌がある。
道端に、高そうな皮手袋が落ちていたので何気なく拾った。ら、ボトリ、中身が落ちた。
福間伊与
句点を効果的に使ったラスト。ぞくりとさせる。
ポケットにあった地図を今更眺め直すと、等高線と地図記号が乳房となって飛び込んできた。見る間に紙に積もる白雪が今だけは恨めしい。
ぱーく
山奥にあるという風俗店を目指し道に迷った男の話、だろうか?
持ちあげられないダンベルが捨てられない。
人呼んで議長
「られない」の反復が、無力感をさらに強調する。
終業式が終わった。明日、妻と子供は帰省する。
HANAFUKURO
一文の裏にある男の開放感。不実の予感を残すアダルトな書き出し。
電子レンジの音と同時に消えた和也くんが、天袋から出てきた。
水晶の玉手箱
全然うらやましくない能力。

以上である。

今回は吉蔵氏、ぬっさん氏、雁が音氏の作品など、後半にオチを持って来た作品が目立った。採用作はどれもきれいに決まっている。が、あまりこの仕掛けにこだわると、書き出しの広がりが狭まるおそれもある。せっかくのアイデアがネタに終わらないよう、さじ加減には細心の注意が必要だろう。
dekuno氏の遊びはただの実験に終わらず、とぼけた味わいを出している。たかもち氏にも感じたが、笑いにはどこか人をほっとさせる愛嬌が大切なのかもしれない。HANAFUKURO氏の作品に漂う中年男の心情には共感する。

いつもは書き手のみなさんに向けてのメッセージが多いのだが、今回は読み手のみなさんにもひと言。
書き出し小説はその先を想像する楽しみのほかにも、書き手の工夫や、思惑を想像する愉しみもある。短い文章にこめられた構成の巧みさや文体のリズム、裏にある狙いなどを味わっていただけると嬉しい。
冒頭だけの書き出し小説は、読者の想像と深読みで完成する。そして気が向いたら、是非書き手側にも挑戦して欲しい。

次回の締め切りは27日の正午、発表は30日を予定している。以下の投稿フォームで応募されたし!
最終選考通過者

大伴/日暮里のナポレオン/夏猫/さいしんどう/植本浩治/かっぱ68/てとらむ/あきら/セニョールセギノール/タドロック/dekuno/えてこ/アイアイ/fumi/ヒロアキ = ジョヴォヴィッチ/Sia_Ais/おしえて委員長/おなかぺこり犬/反現代死イ/サマー/jiji/天網恢々疎にして上沼恵美子
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