フェティッシュの火曜日 2013年2月5日
 

何味だ?飯塚のソウルフード味覚焼

感覚が名前になってしまった味覚焼とは
感覚が名前になってしまった味覚焼とは
感覚が名前に入ってしまっている。一体どういうことなのだろう。

福岡県の飯塚には味覚焼という粉モノを出す店があって根強いファンがいるそうだ。

「うわー、おいしい! ってものじゃないですけどね」

と店のおっちゃんは言う。食べてみてわかったが、だからこそソウルフードといえる味だった。
1980年生。明日のアーというコントのユニットをはじめました。動画コーナープープーテレビも担当。記事はまじめに書いてます

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奥に見えるのはボタ山。飯塚は炭鉱で栄えた町だ
奥に見えるのはボタ山。飯塚は炭鉱で栄えた町だ

元炭鉱の町飯塚

飯塚はかつて筑豊炭田として栄えた町で規模も大きい。

だが関東の中くらいの町とちがってチェーン店が見当たらない。代わりに大きな地方劇場とたくさんの和菓子屋がある。そして平日昼間だからか町にいるのはおばあさんばかり。

よそものが勝手なこと言うが、ノスタルジーが濃霧のようにたちこめている。
「飯塚名物」味覚焼
「飯塚名物」味覚焼

味覚焼、発見

町の中心部に味覚焼のお店はあった。店には人がひんぱんに出入りしている。へんな名前(失礼!)なのにちゃんと繁盛しているのだ。
「はい、いらっしゃい」 出たー!
「はい、いらっしゃい」 出たー!
「いらっしゃい、何個にしましょう」と店に入るなりおじいさんが言う。調理場ではおばあさんが何人もいて何かを焼いている。

何かある。ここには何か知らない強固なシステムがあるぞ。
おばあさんが何人もいて何かを焼いている
おばあさんが何人もいて何かを焼いている

味覚焼きシステムが発動

何個ってなんですか? と聞いてみると、味覚焼には10個と15個があって、あとはところてんがあるのだという。

逆に言うとそれしかない。ビールもジュースもない。

限りなくシンプル。注文するとものの60秒経たずにおばあさんが味覚焼を運んでくる。早い。やはりマクドナルド級のシステムがあった。
これが味覚焼。シンプルなタコ焼きそのものだ
これが味覚焼。シンプルなタコ焼きそのものだ

タコが入っていない

見た目はまるでたこ焼きだ。うすく醤油だれがかかっていてかつお粉がかかっている。

食べてみると外カリカリの中フワフワ。関西風のゆるゆる生地でなくもう少しカタめ。ネギと天カスがまざっていて、ダシが効いている。

しかし肝心なものがない。そう、タコがない。じゃあすじコンか何かが入ってるのかといえばそうでもない。

何もない。ほんとに何も入っていないのだ。
虚無
虚無

のたうちまわるほどノスタルジー

あるはずのものがない不在の味。しかしそれはそれでまた別の地平がひろがっている。

たこ焼きは、うまみのつよいタコと味のつよいソースの拮抗が楽しめる。一方、味覚焼は生地としょうゆだれ。

たこ焼きが領土戦争だとすると、こちらは畑の境界の石を相手に気づかれないよう10年かけて動した係争くらいだろう。平和な味である。

この圧倒的な素朴さ、はじめての味なのにものすごくなつかしい。
「味覚焼の由来? 社長〜!」と呼ばれて出てきた店主の園山さん
「味覚焼の由来? 社長〜!」と呼ばれて出てきた店主の園山さん

味覚焼のなぞにせまる

「どうですか? 素朴な味でしょ」と店主の園山さんは言う。たしかに素朴すぎる味。でもどうして味覚焼っていうんですか?

「……辛いのはお好きですか? とうがらしをかけてもね。おいしいんですよ」

質問をものともしない答えが返ってきたが、とりあえずやってみます。
唐辛子でガラリと変わる。口にポイポイほりこんでビール飲みたくなる(が、店にない)
唐辛子でガラリと変わる。口にポイポイほりこんでビール飲みたくなる(が、店にない)

元は歯がわるい人のためのタコ焼きだった

いい。とうがらしもいける。もともとが素朴な味だけに、辛味で急にひきしまる。

「元々はたこ焼きをやってたんですが、きっかけは40年前ですよ。

歯が悪い人の注文でタコをぬいたんです。そしたらそれが好評だったんでね。ダシを入れたり改良してやってます。

うちのは歯の悪いおばあちゃんから赤ちゃんまで、家族4世代が食べてくれる味なんです」

なるほどね〜、でもどうして味覚焼って言うんですか?
「ところてんもおいしいですよ〜」たしかにうまい。けど味覚の由来は?
「ところてんもおいしいですよ〜」たしかにうまい。けど味覚の由来は?

ところてんうまいな

すすめられて頼んだところてんは酢醤油の味付けが素晴らしい。さっぱり。爽快。ハンバーガー店でいうコーラ。コーラですこれ。

コーラです、じゃなかった。

店主がおじいちゃんなのと僕の声が小さいのが相まって、味覚焼のなぞに全然たどりつかない。
「女性の方はね、ところてんの汁に味覚焼をつけておいしいってね」 あ、これうまいです。酢醤油なのでもちろん合う
「女性の方はね、ところてんの汁に味覚焼をつけておいしいってね」 あ、これうまいです。酢醤油なのでもちろん合う

味覚のなぞが判明

すいません、どうして味覚焼っていうんですか?

「あのね、初めて食べて、うわ〜おいしいっていう味じゃないでしょ。でもね、2回3回食べてみたらなじんでくる……」

なるほど、味覚が変わるっていうところですかね。

「……」

はい。たぶんそうです。明言されてないですけど、味覚が変わってどんどん好きになるっていうことでいいと思います(それか本当に由来がないか)。
昼も過ぎたが繁盛している。持ち帰りの客もひんぱんにくる。
昼も過ぎたが繁盛している。持ち帰りの客もひんぱんにくる。

ソウルフードを宣言

「あそこで焼いてるのはね、60才70才のおばあさんでしょ。お盆はみんなやることがあるからお休みにしてたんですよ。

そしたらせっかく帰省したのにやってないの? ってクレームがきてね。実は味覚焼が一番売れるのが8月。帰ってきたら食べたくなるんですかね」

それめちゃくちゃわかります。こういう素朴な味のものを昔たべてたら、大人になっても絶対またたべたくなる。

「まあ、ソウルフード、ですね」

自分で言った。

話の流れ上全くその通りなのだが。、自分で言うとなるとなんだかへんな感じだ。僕が言ってあげないといけなかった。

しかしこのソウルフード宣言から先、お父さん止まらなくなった。
もう帰るの? 嘉穂劇場見て行かないの? ここからちょっと離れたところにある資料館もあるよ?
もう帰るの? 嘉穂劇場見て行かないの? ここからちょっと離れたところにある資料館もあるよ?

味覚焼きはデートに使える

「男性は大350円で女性は小250円。600円でデートができます。高級レストランに行くよりもね、こういうところだとかえって親しくなれます」

女心、勉強になります。おじいさんにデートを指南してもらってなんだか恐縮です。
「嘉穂劇場からボタ山見えるからね」あ、どうもありがとうございます。さようなら
「嘉穂劇場からボタ山見えるからね」あ、どうもありがとうございます。さようなら

味覚焼きで偏食がなおる

「魚粉がかかってるのでね、赤ちゃんのころから食べていたら偏食がなくなるっていってね」

子供のうちから魚の味に慣れておくといいのだろう。たしかにたしかに。素材も天然だし、舌にも幅がひろがります。
「こっちから行くとね、からくり人形も見られるよ」あ、そうですかそうですか
「こっちから行くとね、からくり人形も見られるよ」あ、そうですかそうですか

味覚焼で東大に受かる

「青魚にはDHAが入っているから。二才くらいからうちの味覚焼を食べていれば東大も通るっていってね」

しまった。このお父さんをほったらかしにしていたら粉モノで東大に通ってしまった。ふるさとの味のはずが、知のドーピング扱いになってきてしまった。
「こっち通っていくといいよこっちこっち」このおっちゃんめちゃくちゃ人がいいか、それかさよならがヘタだ
「こっち通っていくといいよこっちこっち」このおっちゃんめちゃくちゃ人がいいか、それかさよならがヘタだ

ソウルフードがある町

幼少期に覚えた味は一生好きでいるからハンバーガーチェーンは必死に子供をよびこんでいると聞いたことがある。

同じことが味覚焼でもおこなわれている。

子供のころにすりこまれ、成人したらデートに使い、結婚したら里帰りして食べ、子供がうまれたらまた偏食を直し、知を注ぎ込む。

飯塚のソウルフード味覚焼。飯塚市民が味覚焼を愛しているのか、それとも味覚焼が飯塚市民に愛するようしむけているのか。

新飯塚からここまでマクドナルドみたいなチェーン店がないなと思っていたが、代わりに味覚焼があった。
店の前で写真を撮ったのだが、同行の藤原が入ってしまい急に記念写真みたいになった
店の前で写真を撮ったのだが、同行の藤原が入ってしまい急に記念写真みたいになった
取材協力
『味覚焼』

福岡県飯塚市本町8-7
TEL:0948-23-1167
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