チャレンジの日曜日 2013年2月10日
 

書き出し小説大賞・第10回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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今回は通常の書き出し小説に加え、前回の募集からはじまった規定部門(モチーフ・妹)、そして1月の月間賞発表と盛りだくさんの内容でお送りする。盛った内容が崩れないうちに早速発表に移りたい。

厳選された珠玉の書き出し集。その続きはむろん、諸君らの妄想に委ねよう!

書き出し自由部門

女性を抱く夢を見た。カーテンの隙間から朝日が股間に射していた。
なすびまん
股間に天使が降りてきそう。
「この中に犯人が居るかもしれないんだぞ!俺は部屋に戻る!」と言った横田にも無事朝が来た。
タコさん
死亡フラグをあっさり回避。
伸ばされた手を掴むか、掴まないか。一瞬の迷いに彼女は気付いた。彼女に気付かれた事に僕は気付いた。
夏猫
恋愛に潜むジョジョ並みの心理戦。
正夢とは尿意の事ではないかしら。
TOKUNAGA
濡れた布団を見つめながら。
喫茶店にはいると父はテーブルを見渡し、プログラムを、と言った。
xissa
まずは「お冷」の入場です。
「次は多摩川」
きた。アナウンスから五秒後。私の乗る北千住行きの8両目と彼女の乗る渋谷行き3両目が一瞬だけ平行のまま距離をつめる。
向かいの車両に稲光みたいに斜めにカットされた黒い前髪の彼女を探す。
でいこ
動きのあるシーン設定で緊迫感を出した。
あれはトムですか?
いいえ、トムはその隣の星です。
黒船鬼太郎
翻訳例文の間抜けさを上手く使った。
席をつめたがカップルは座ろうとせず、私はただ横の老婆にすり寄っただけの人間になってしまった。
大伴
脇役目線でも物語は生まれる。
おばあちゃんの字で「おかか」と書かれたシールを貼ったおにぎりからは、何も出てきやしなかった。おかめちゃん
「出てきやしなかった」に語り手の悔しさが伺える。
「革命を起こす?」思わず聞き返した時にはもう、彼は再びイヤホンのボリュームを上げ、型紙を裁断する作業に戻っていた。幾分さっきより小気味良く。
中谷ふみ
清潔さと野蛮が同居。ニュー・ウェーブ風。
2階にあるハンバーガー屋。スペースキーのような窓から池袋を歩く人々を見下ろしている。この瞬間だけ僕は勝ち組だ。
ヨコヤ
「スペースキーのような窓」ひとつの比喩が全体を締める。
ハハ、ハハ、ハハハ。ぶつぎれになった飛行機雲が、青い空を背にして、僕を笑っている。
あとは余生
抜けのいいイメージと「僕」の対比が見事。
どうやら実験ガムを持っていないと、拷問されるらしい。
拷問が終わった女の子が部屋に戻って来た。
「エルビスのつづり、わかる?」 
jajamen
謎だらけの文章だが、崩れることなく求心力を保った。
宇宙から来たなら、ドアくらい閉めろよ。
生おにぎり
気圧が…

以上である。

今回はユーモア系から本格派、少し毛色の変わった作品までバラエティに富む作品が出揃った。レベルはみな高い。
タコさん氏の作品はここ数年よく目にする「死亡フラグ」のセオリーを華麗にうっちゃった。小説のみならず現在ではあらゆるジャンルで、キャラ属性や死亡フラグなど、物語上のお約束、それ自体を楽しむ傾向が目立つ。こうした中からも異形の作品が生まれてくるのかもしれない。

中谷ふみ氏、jajamen氏の作品はなんとも奇妙な空気感を持つ。80年代のニュー・ウェーブが今様にリバイバルされたような、これも最近いろんなジャンルで目にする。時代の流れが書き出し小説にも敏感に反映されているようで面白い。

今回は通常16本採用のところを14本に抑えた。新しく規定部門ができたことに関係するが、これで固定するつもりはない。応募作の量と質によって臨機応変に対応するつもりなので、今後とも自由部門をよろしくお願いします。
それでは前回の募集からはじまった規定部門の発表に移る。
記念すべき第一回目のモチーフは「妹」だった。まずはその秀作10本を紹介しよう。


書き出し規定部門(モチーフ・妹)

けさ、我が家に牛五十頭が届けられた。あした妹は異国に嫁ぐ。
木倉
義弟とは明日、はじめて対面する。
双子の姉なんて損ばっかりだ。
「お姉ちゃんなんだから」そう言って私をたしなめるお母さんの陰で妹が舌を出す。お母さんのお腹から私を先に押し出した、妹は策士だ。
さると
キャラの印象づけが見事。
「もうちょっと男らしい名前を付けてくれても良かったと思うんだよね、ほら、字面だけ見ちゃうと勘違いして期待しちゃうでしょ?」
転校してきた小野の自己紹介は自虐から始まったが、皆の心を掴むには十分効果的だった。
不眠
数ある妹子ネタから選ばれた一本。
澄み渡った空から、ひらりと落ちてきたシュシュが私の手元に収まった。持ち主である妹は、大凧に大の字で張り付いていた。
御馳走夏(サマー)
このときほど妹がまぶしく見えたことはなかった。
「兄者!風呂だぞ!」「うん」
TOKUNAGA
読んだ瞬間、膝から落ちた。
「いっそ喝采を送ろうよ!」妹の寝室からやけにはっきりした寝言が聴こえてきた。
寺庄拓也
妹、普段は地味な気がする。
喪服の胸元からネックレースを外すと妹は、ハンカチで丁寧にぬぐい始めた。「汗に弱いのよ真珠は」 遠雷が聞こえる。
wabisuke
この妹像はラノベにはない。大人な作品。
妹が鱧を骨切りする音で目覚めた。清々しい朝だ。
概念覆す
かなりの上流階級。
僕の家庭は少々込み入った事情があって、僕には血の繋がっていない、戸籍上なんの繋がりも無い、同じ家にも住んでいない妹がいる。
すずき
読後の虚しさたるや。
爆音を立てて妹は離着陸を繰り返している。
xissa
地元住民の反応は?
以上である。

最近の妹系ラノベの隆盛からそうした作品を予想していたが、期待はいい意味で裏切られた。ここまで「萌え」を無視した作品がそろうと逆に清々しい。いや、それでも萌えは微かに感じる。むしろこうした姿勢でアプローチする方が、いまだ気づかれない妹の魅力発見につながるような気もする。

御馳走夏氏、TOKUNAGA氏、xissa氏の作品はこれまでの常識をぶった斬る妹像。wabisuke氏の作品が放つ色気と情景はよく出来た邦画を見るようである。あなたなら女優は誰をキャスティングするだろうか。

規定部門は初の募集ということで、投稿者諸君も攻め方には苦労しただろう。また、今回採用された作品を見て触発された方もいるのではないだろうか。
一回で終わらせるにはもったいないモチーフだと思うので、次回も引き続き「妹」で募集する。今回の採用作を例にあなたなりの「妹」を創作して欲しい。(但し小野妹子ネタはもうナシで)
次回モチーフ 

さて、今回は忙しい。続いて1月の優秀賞を発表する。
ゲスト審査員は毎度お馴染み、林雄司氏。月間賞3本、審査員賞各1本が選出された。以下は選考の模様である。
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天久「じゃあ、今月もお願いします」
林「場所はいつものニフティ、打ち合わせロビーです」
天久「でっかい商談やってる隣りで、書き出し小説選考会(笑)」
林「格差の縮図がここにありですね(笑)」
天久「では目についた作品から拾っていきますか」
林「ボクはまずこれですかね。夏猫さんのリリカルなヤツ」
彼女の白い人差し指が、僕の指の間の水掻きをなぞった。
夏猫
天久「これ、河童じゃないよね。念のため」
林「河童だとギャグですけどね。これは普通に指の間の皮のことでしょう」
天久「うん。オレもそう思って採用した。なんか青春感じるよね」
林「夏休みのプールって感じです。そこで起きた刹那の出来事」
天久「やっぱ彼女は同級生かな?」
林「小学生のときはクラスメイトだったんですよ。それが中学に入ってクラスは別になり、でも気がつけば目で追う存在。言葉には出さないけどお互い意識はしてるという」
天久「いきなり妄想全開だね。(笑)そんな相手に水の中で…」
林「向こうはイタズラのつもりですけど、そこには含みのあるニュアンスが」
天久「小悪魔だな。ズバリ女優で言うと誰?」
林「蒼井優です。あの顔でこっそり秘密とか仕掛けてきそうでじゃないですか」
天久「秘密持ちたいわー、蒼井優と」
林「あと浮かんだ景色が水の中から見た水面。こう光がキラキラして。でもこういう甘酸っぱい妄想すると現実に戻ったときがキツいんですよね。もう絶対その頃には戻れないと思うと」
天久「鏡の中のオッサン見てこれ誰?ってなるよね。今日も目の充血がすごいよ」
林「そうすぐに感傷的になるのもまた中年の証拠だという。(笑)じゃあ、中年を泣かした罪により林賞はこの作品に」
天久「いただきました。じゃあオレはこれかな」
しっかり寸法を合わせたはずなのに、ちょっと首元が苦しそう。そんなワタシの、鎖帷子。
prefab
林「この文末はハッとしますね」
天久「なぜかCMっぽい終わり方。読んだ瞬間、腰くだけました」
林「ルミネとかのCMみたいですよね。急にOLっぽい口調になるという」
天久「鏡の前で鎖帷子着てね。しかしどんな状況なんだろ」
林「文章からすると自分でつくった鎖帷子ですよね」
天久「たぶん職場じゃみんな同じ鎖帷子なんだよ。でも乙女心としてみんなと同じじゃ嫌じゃん。それで自分でおしゃれ帷子をつくった」
林「おしゃれ帷子って(笑)そもそもどんな職場なんですか」
天久「戦場?(笑)ひょっとして元ネタがあるのかもしれないけど、普通の発想じゃ出ない味だよ」
林「小説の書き出しという範疇でも括れないし、とにかく不思議な作品です」
天久「個人賞じゃないと拾えないとも思うので、天久賞はコレにします」
林「なるほど。では続いて月間賞を」
天久「月間賞は悩むね。今回はさらにレベルも上がったし」
林「文章力はたしかに高くなりましたね。やっぱり推敲とかもしてるんでしょうか」
天久「短い文章だから特に助詞のひと文字とかが重要なんだよ。そのへんキメ細かくなったなと思う」
林「これなんかもネタ自体はベタなのに、文章力で魅せますね」
「半歩右!」タワーマンションの上から課長の声が降ってきた。もう姿すら見えないが、56階で目薬を握っているのだろう。
吉蔵
天久「ディテールの積み上げがすごい」
林「課長の真剣さが前面に出てるのもいいですね」
天久「こういうネタものって変にヒネると逆に白けるから。直球で臨んだ方が結局強いのかも」
林「あとこれも上手い」
皿に残ったパセリを三角形に3つ並べて、彼はぼそりと「森」と呟いた。忘年会の喧騒の中でかき消されてしまうほどそれは、か細い呟きだった。
そらまめかかお
天久「キャラも状況も小道具も、全部上手くつながってる」
林「飲み会の喧騒でふと素に戻るときってありますよね。なんかそういう雰囲気がすごく出てる」
天久「完成度じゃひとつ抜けてるよね。これは月間賞でいいんじゃない?」
林「異議なしです。あとこれもキャラ立ってるんじゃいですか?」
恩田さんは身体を前のめりにして「そのバーの照明は薄暗いのかい?」と聞いてきた。三十五にして初デート。応援してあげたい。
kossetsu
天久「オレも応戦してあげたい。恩田さん(笑)」
林「でも関わりたくなないですね。ある程度距離を置いて応援したい」
天久「仲間だとは思われたくない。(笑)小太りのメガネってビジュアルは浮かぶ」
林「シャツも柄もの重ねて着てそうですよね。あと妙に機能性に優れたリュック背負ってそう」
天久「デートにリュックは止めた方がいい。それは忠告しとくわ」
林「そう言えば『恩田さん』って名前もハマってます。こういう創作に出す名前って意外と難しい」
天久「そう。山田や田中だと平凡過ぎるし、伊集院や小比類巻だと狙い過ぎてるし」
林「芸能人のイメージが強すぎるのも使いづらいですね。梅宮だと辰夫とアンナしか浮かばない」
天久「徳光だと和夫だけだもんな。ちょうどいい名前ってなんかある?」
林「野上、榎並、岸本…そのへんじゃないですかね。ちなみに野上って人うちの人事部にいるんですけど、なんか人事部の野上さんっていうだけでしっくりくる」
天久「たしかに。その点でも恩田さんってぴったり。じゃあ、2作品目はコレにしましょう。ちょっと面白系も入れようか。コレなんかどう?」
宙を舞う銀色のカツオに向かって、男は指揮棒を振り続けた。
赤嶺総理
林「オーケストラの間からカツオが跳ねるんですか?シュールですね」
天久「え?オレ全然違うビジュアル考えてた。カツオ漁船の中にひとり指揮者がいるという」
林「それは邪魔ですね。(笑)でもそっちの方が面白いかも」
天久「漁師に混じってひとりだけタキシードなんだよ。なぜかこいつだけ」
林「完全なバカじゃないですか。そのひと」
天久「うん。地域に養われているタイプね。みんなからは『カラやん』って呼ばれている。(笑)」
林「いまビジュアルがはっきり浮かびました。カラやん!(笑)じゃあ、3つめはこれで…」
天久「ああ!いっこ忘れてた。これは賞あげたいと思ってたんだよね」
ゆで卵をテーブルに立てて見せた男の金色のまつげがチラつき、その夜イザベラはなかなか寝付けなかった。新大陸なんてぜったいあるはずないんだから…。
ぱぱす
林「いやあ、これはよく出来てますね。歴史ものの新解釈」
天久「実はここに出てくるイザベルって女性、オレてっきり架空のキャラかと思ったらちゃんと実在してんのね」
林「実際にコロンブスを資金面で援助した女王らしいです」
天久「それ知ってさらによく出来てるなと。ちょっとツンデレ入れてね。コロンブスに対する認めたくない感情が…これはキュンとする」
林「コロンブスそんな男前だっけ?って思うけど。金色のまつげってのがまた憎いですね」
天久「よく知らないけど戦国モノのBLとかってこういうの多いのかな。投稿者が女の子かどうかは分からないけど、女子のこういうものにかける妄想パワーって怖ろしいよね」
林「頭の中つねにそういうのでいっぱいらしいですよ」
天久「腐女子の方々ね。できればそういう人たちにも参加して欲しいんだよね。そういう希望も込めて3つ目はこっちにしない?」
林「はい。じゃあ、カラやんの負けで」
天久「カラやんごめん!(笑)」

というわけで、今回も厳正な審査の結果、受賞は以下の5作品となった。

書き出し小説 1月月間賞

皿に残ったパセリを三角形に3つ並べて、彼はぼそりと「森」と呟いた。忘年会の喧騒の中でかき消されてしまうほどそれは、か細い呟きだった。
そらまめかかお
恩田さんは身体を前のめりにして「そのバーの照明は薄暗いのかい?」と聞いてきた。三十五にして初デート。応援してあげたい。
kossetsu
ゆで卵をテーブルに立てて見せた男の金色のまつげがチラつき、その夜イザベラはなかなか寝付けなかった。新大陸なんてぜったいあるはずないんだから…。
ぱぱす

天久賞

しっかり寸法を合わせたはずなのに、ちょっと首元が苦しそう。そんなワタシの、鎖帷子。
prefab

林賞

彼女の白い人差し指が、僕の指の間の水掻きをなぞった。
夏猫
さて、次回の締め切りは2月17日正午。発表は2月20日を予定している。自由部門はハンドルネームの後ろに(自由)。規定部門「妹」は同じくハンドルネームの後ろに(規定)と記入して欲しい。それでは諸君からの力作を待っている。以下の投稿フォームで応募されたし!
最終選考通過者

哲ひと/縄文式あんぱん/すり身/なつは/おなかぺこり犬/電脳鼬/おしえて委員長/だいまる/dekuno/概念覆す/やげん73/トニヲ/腐女子の本懐/まこっぴ/おっぽ/fumi/伊東和彦/suzukishika/flyhih/アマテラス/硯/よしおう/そーた/dekuno/megahiro/g-udon/竜太郎/森林苗木/アウィニ/もっとダイキチ/やまちんぬ/大覚アキラ/カルボーン/葉っぱ/赤嶺総理/ぽこあぽこ/てとらむ/prefab/靴下ワルツ/豆腐鉄工所/たくさんさん/寺庄拓也/きな粉まみれ/パンプル/
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