特集 2013年3月6日

仙台を見下ろす大観音がすごかった

仙台は巨大観音像に見守られている
仙台は巨大観音像に見守られている
杜の都、仙台市郊外の高台に、真っ白な仏像が立っている。

いや、「立って」いるというより「建って」いる。

なぜなら高さが100mもあるのだ。もう立派な巨大建造物である。しかも中に入ることができるらしい。

これは見に行かなければならない。じゃあいつ行く...?

今でしょ!(いちど使ってみたかった)
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

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めちゃくちゃでかい観音像

仙台駅前から市営バスに乗っておよそ30分。仙台市の北西部に広がる新興住宅地のはずれに、その仏像は立っていた。
リアル「山よりでかい人、あらわる。</a>」である
仏像とは真っ白な観音像であった。田園都市線の沿線みたいな、戸建ての家と量販店が立ち並ぶ丘陵地帯の向こうに現れる、高さ100mの巨大観音像。

ただ、真っ白な色のせいか、そして観音像という柔らかみのある姿のせいか、これだけの巨大仏像にもかかわらず、個人的には不思議と威圧感とか非日常感のようなものは感じなかった。ただそこにおわします、という感じである。

このへんに住んでいる人がどう思っているのかは分からないけど。
とは言えまあ笑っちゃうくらいにはでかい
とは言えまあ笑っちゃうくらいにはでかい
こんなに巨大な観音像、いったいいつ誰が造ったんだろう、と思いながら進んで行くと、観音像の来歴が書かれた看板があった。
なんと建てたのはいち個人!
なんと建てたのはいち個人!
どうやらこのあたりのニュータウンを開発した、つまり丘陵地を切り開いて田園都市線の沿線みたいな戸建ての家と量販店が立ち並ぶ街を造った会社の社長が信心深い人で、開発が成功したのは信仰のおかげ、ということでこの場所に大観密寺という寺を建立、観音像も自分で建ててしまったらしい。剛胆にもほどがある。

それにしても開発した会社の社長がやってしまったなんて、このあたりに家を買った人は複雑な思いで工事を見守っていたことだろう。

同じ敷地内にはホテルとゴルフ場もあって、創建当時は大いに賑わったというけど、現在ホテルとゴルフ場は経営者が変わってしまっている。

...つまり、その後いろいろ大人の事情があったらしい。うーん。なんとも言えない複雑な思いが交錯する。

そのまま観音像の足元まで行くと、入口がぽっかり口を開けていた。
正面の足元から中に入ることができる
正面の足元から中に入ることができる
目の前にある池は凍っていた
目の前にある池は凍っていた
入口はまさに「口を開け」ている
入口はまさに「口を開け」ている
ではさっそく中に入ってみよう。

寺というより博物館

入口を過ぎるとすぐに受付がある。入場するには入場料の代わりに500円のお札を受けることになる。

その先はひたすら仏像が連続する空間だった。僕は仏像のことはまったく分からないけど、お寺というより博物館を見ているようだった。
まるで博物館のような収蔵品の数
まるで博物館のような収蔵品の数
仏像が途切れたと思ったら、とつぜんテーブルの上に懐かしいファミコンゲームや車のカタログなどが置いてあるスペースがあった。親戚の大学生の部屋を覗いてしまったのかと思ったら、この観音像の底にタイムカプセルがたくさん埋めてあって、今は完成した当時のカプセルを開けて展示しているそうだ。
とつぜんやたら懐かしいグッズが置いてあった
とつぜんやたら懐かしいグッズが置いてあった
車のカタログもバブル華やかなりし頃のものばかり
車のカタログもバブル華やかなりし頃のものばかり
お寺なのに、観音像なのにタイムカプセル。だいぶ昔に行った、後半になるとアンティークやこけしや鎧が飾られていたフェラーリの博物館を思い出した。地方にあるこういう施設のごった煮感、嫌いじゃない。

その先の階段を上がって2階からは、エレベーターか階段で最上階の12階まで行くことができる。迷わずエレベーターに乗り、最上階から階段で降りてくることにした。
観音像の真ん中をエレベーターシャフトが貫いている
観音像の真ん中をエレベーターシャフトが貫いている
そして上を見上げると...、最上階まで吹き抜け!
そして上を見上げると...、最上階まで吹き抜け!
最上階に着くと、そこには御心殿という部屋があって、うやうやしく何かが祀られていた。たぶんこの観音像の心臓部分なのだろう。
後光が射してるみたいな背景が嘘っぽくていい
後光が射してるみたいな背景が嘘っぽくていい
ちなみにこのとき、僕のすぐ後から、腰まである長髪を束ね、仙人髭を生やし黒のロングコートを着た、いかにもスピリチュアルに傾倒してそうな男性とわりかし派手な見た目の女性という、およそ冬の仙台市郊外に似つかわしくない外国人カップルが入ってきていた。

彼らはまるで黄金の国ジパングの貴重な文化財を見るような目で、熱心に館内の仏像たちに見入っていた。来てはみたものの、僕はここがすっかり時代の波の彼方に行ってしまったB級スポットなのかも、という気持ちになっていたのだけど、こんなオフシーズンでも外国人が観光に来るようなところなら日本人にとっては変でもなんでもないじゃないか、と少し自信が出た。

彼らはここを何で知って、ここまでどうやって来たのだろう。そしてここを観て何を思ったのだろう。

御心殿を出ると、外側の壁に小さな窓がついているのが見えた。
最上階だけどまだ胸のあたり
最上階だけどまだ胸のあたり
小さな窓があった
小さな窓があった
窓からの眺めは想像した通り。いかにこの観音像が遠くからも見えるかよく分かる。

スピリチュアル外人カップルも、僕の隣の窓を覗くと小声で「ゥワオ!」と言っていた。
雪を被った山と住宅地とゴルフ場、外人よこれが日本だ
雪を被った山と住宅地とゴルフ場、外人よこれが日本だ
観音像はこの住宅地の方を向いている
観音像はこの住宅地の方を向いている
覗いたら目の前に航空障害灯があって僕も「ゥワオ!」と言いそうになった
覗いたら目の前に航空障害灯があって僕も「ゥワオ!」と言いそうになった

吹き抜けがすごかった

さて景色も堪能したし(何のために登ったんだっけ)、ここから階段で下まで降りることにする。

と思って階段を一歩踏み出した瞬間、思わずむおっ、みたいな声にならない声が出た。
大観音の神髄ここに見たり
大観音の神髄ここに見たり
さっき下から見上げた吹き抜け。上から見下ろすと、照明効果も相まってなんだかものすごく神秘的な空間になっていた。この日は風が強かったのだけど、風が通り抜ける音が遠くでヒョォォォォォ...と響いた。これこそまさに胎内。中心のエレベーターシャフトのまわりにもひとつひとつ違う仏像が置いてあって、この観音像を造った人の本気度を見た気がした。僕のように信仰心の欠片もなくても、あの吹き抜けは一見の価値がある。

仙人髭の外人さんも夢中でシャッターを切っていた。
なんだか分からないけどなんだかすごい
なんだか分からないけどなんだかすごい
その代わりコンクリートで囲われた内部は底冷えのする寒さで、このときたぶん氷点下。さすがに身体の芯まで冷えてきたので外に出た。

観音像の裏手にまわってみると、この大観密寺の本堂があった。
本堂はふつうの建物
本堂はふつうの建物

油を掛けられる大黒天

本堂の脇には小さな大黒堂が建っている。中に入ってみると油の匂いが充満していた。なんとこの大黒天、油をかけて拝むという珍しい参拝のしかたらしい。
小さな大黒堂
小さな大黒堂
中に入って油まみれの大黒天が立っていたらだれだって怯むだろう
中に入って油まみれの大黒天が立っていたらだれだって怯むだろう
興味本位で僕もさっそく油をかけさせてもらう。
下に溜まった油(本当に全部油だった!)をすくって...
下に溜まった油(本当に全部油だった!)をすくって...
ドロー
ドロー
こんなことして大黒天に本気でキレられるんじゃないかとびくびくしていたら、こんなものを見つけた。
本当に、本当の意味で油だったんだー
本当に、本当の意味で油だったんだー
大黒天の参拝も終え外に出ると、目の前に大観音の巨大な背中があった。

また来ますと心の中でつぶやき、僕はここを後にした。
背中で語る大観音
背中で語る大観音

大観音は死んではいない

あまりよく知らなかったのだけど、家に帰ってから調べたら、ここは東北地方のシュールなB級スポットとしてかなり有名なところのようだった。

しかし僕は声を大にして言いたい。ここは決して世間一般で言うところのB級などではないと。

観音像の造型はすばらしいし、そのせいか違和感や威圧感もあまり感じなかった(地元の人がどう思ってるかは分からない)し、吹き抜けは見たことない光景だし、仙人みたいな外人は来るし、最初はお金かけてまじめに造りました、という感じがひしひし伝わってきた。

とは言えA級、というほどでもない上に僕がバブルの申し子好きなので、行ってみたいと思った人はA-級とかB+級くらいだと思ってください。
出るときに気づいて、しまったやってみたかったと思った
出るときに気づいて、しまったやってみたかったと思った
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