ひらめきの月曜日 2013年3月18日
 

無個性で、町をおこすぜ、桃色ウサヒ

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私はゆるキャラファンである。
もともと着ぐるみが好きで、可愛いものが好きなんだから仕方ない。ゆるキャラに恋してしまうのは当然の成り行きであった。
いま、時は、空前のゆるキャラブーム。くまモンにも、バリィさんにも会った。嬉しかった。
しかし、軽い虚しさが、胸を襲うのだ。
私は何を愛してるのだろうか? ハリボテの何が、私を動かすのだろうか、ゆるキャラっていったい何なワケ?

そんな時、一体の、不思議なキャラとの出会いがあった。

・無個性が売り(実際、造形としては可愛くない)
・ゆるキャラさみっと(日本最大のゆるキャラフェス)の舞台裏を、日記に書いてる(そんなゆるキャラほかにはいない)
・っていうか、中に入っている青年が、普通にメディアに顔出ししている
・その青年は「町おこし」をテーマにしている研究者で、自ら着ぐるみに入り、日々活動している


無個性? 顔出し? 研究者? 町おこし?

あまりにも分からないことだらけだな、と思いながら、そのキャラクター「桃色ウサヒ」が出演するイベントに、行ってみた。
埼玉生まれ。電子書籍『初恋と座間のヒマワリ』(リイド社刊)発売中。最近、ほぼ毎日ブログを更新していますので、良かったら読んでください。
> 個人サイト 日々の凧あげ通信アネックス

初めて出会った時のウサヒは、ダイナミックな動きをしたと思えば、こんなふうに膝をかかえたり……自由でした(ダイキン工業フーハ東京にて)
初めて出会った時のウサヒは、ダイナミックな動きをしたと思えば、こんなふうに膝をかかえたり……自由でした(ダイキン工業フーハ東京にて)
可愛くない……けど、かわいい! 仕草がすごくカワイイ! 動きが機敏! そしてサービス精神がすごい! ああ、どんどん好きになってしまう! あんま可愛くないのに! 可愛くないのに! 
なんなのこのキャラ!?
……そんなわけで、桃色ウサヒの中の人、佐藤恒平さんにお話を伺ってみました。
桃色ウサヒ。かわいい…よね!?
桃色ウサヒ。かわいい…よね!?
ウサヒの仕掛け人で中の人・佐藤さん
ウサヒの仕掛け人で中の人・佐藤さん

町おこしの……研究??

――根本的には研究者なんですよね?

「はい、地域振興の研究者をしています。実験的な地域おこしを現地で試す研究者なので、活動家って言っても差し支えはないんですが…、研究者と名乗るほうが信頼感もあるかなって思って。」

――町おこしの研究……。どんなことをされてるんですか。

「今の町では、くだんのゆるキャラ?『桃色ウサヒ』を使った地域情報のPR活動していますが、商店街の活性化や、伝統工芸品産地の活性化とか、学生さんの就職意識の向上とか……。」

――はい。

「あと、無人の廃墟の村おこしとか、踊って地域活性とか……ツチノコを捕って売る町おこしとか……。」

――……つ、つちのこ??

「僕が女子校生の格好をして、『女子校生が捕ったツチノコを売りにしている町の産業』というのをテーマにした劇をやったんです。やっかみを女子高生がたおしていくっていう……壮大なストーリーでした。」

――げ、劇? フィクションなんですか? それ町おこしになるんですか?

「いやぁ、みんな成功した町おこしって間近で見たことないだろうから、ぜひ、臨場感ある町おこしを体験してもらおうって思って……。」
――確かに、成功した町おこしは、テレビや本でしか見たことはないですけれど。でも、みんなに伝わりましたか?

「はい、呼ばれた所で上演したりとか。GEISAI(アートイベント)に出展したら入選させてもらったり、あとマサチューセッツ工科大学のサイトにも紹介してもらったんですよ!! 大学の先生のブログで。

………あの、この説明だと、僕のやってること、どんどん意味が分からなくなってないですか?」

――あ、はい。全然わからないです。

「…じゃあ、まず僕がなんでこんな町おこしをしてるのか、研究テーマである『非主流地域振興』とは何かからお話しますね。」
今をときめく、くまモンと。
今をときめく、くまモンと。

非主流地域振興ってなんなんですかね?

――「非」主流地域振興って何なんですか?

「はい、現在主流の町おこしとは別の方法で、地域が元気にできないかっていう考える研究です。例えばちょっと乱暴な言い方なんですが、お年寄りに手厚い介護サービスをする町っていうのが今の地域福祉の主流だとするならば、逆に厳しい環境を作って、鍛え抜かれた強靭なお年寄りを育成する町づくり(介護予防の町づくり)、なんて感じですかね。」

――ちょっと逆の発想で行う町おこしなんですね

「まあ、そうでいうことですね。ウサヒを見るとわかると思いますが、一般のご当地キャラクターとはちょっと違うトコいっぱいあるでしょ。あれは全部、この非主流地域振興に基づいて設計されています。」

――でも、なんでそんな研究を?

「大学の入った頃から『地域おこしに生かすデザイン』をテーマに研究活動を続けていたんですが、なんとなく腑に落ちないことがあって……。」
――というと?

「本屋さんには並んでる町おこしの成功例の本とか見ると、『奇跡の町おこし』『奇跡の集落』とかやたらと『奇跡』って言葉で強調されて使われているんですよね。その事例自体はすごいんだけど、全国には1700以上の自治体があるわけで、奇跡の確率でしか町がおこせないのか、と思うと……。」

――確かに奇跡の○○って本は多いですね。

「町おこしって言葉は、僕が生まれた1980年代に出来た言葉なんですけど、かれこれ30年以上にわたって町おこしをやってるこの国で、奇跡の確率でしか町がおきていないのだとすると、もしかしたら、町おこしのやり方に、何か根本的に間違いがあるんじゃないかと思ったんです。」

――そこで非主流の……という考え方に至るんですね。

「大学院からは、主流メソッドじゃない地域振興を研究するようになりました。奇跡の町おこしの成功要素を抽出するタイプの研究じゃなくって、違う方法のことをやっても地域が幸せになれるような成果が出ないのか? っていうのを考えて。
それで『非主流地域振興研究者』を名乗る決意をし、活動し始めたことになります。」
昨年末、ドイツの国営放送から取材が来たそうです。ドイツ人の目にはどう映ったんだろうか……。
昨年末、ドイツの国営放送から取材が来たそうです。ドイツ人の目にはどう映ったんだろうか……。

町おこしに悩んでいた中学2年生

――大学入りたての頃から、町おこしをやりたかったんですか。

「うーん、中学のときから漠然とやりたいなーと思ってました。社会の将来を憂いてて……。」

――変わった中学生ですね。

「いや、わりと普通の中学生でしたよ。ビジュアル系バンドとか好きでした、マリス・ミゼルとか。『ゴシック&ロリータバイブル』とか熟読してました。
その時は人口2500人くらいの小さな町に移住してきていて、母親が町の施設で働いたりしていたんです。明るさが売りの人だったので、地域おこしイベントの司会とか、町のお見合いイベントのコーディネーターとか頼まれごとをされてたんですよ。……すごく頑張ってたんですけど、それがなんか痛いたしいというか、地域の人と温度差がすごいあるところを見ていまして。なんで温度差があるんだろう、どうして頑張っている母を、頑張っただけ応援しようと思わないんだろう、田舎の人って変だなあ、この町で将来暮らすのやばいんじゃないか? ってその時に思ったんです。
世間一般で言われる『中ニ病』の世代の時、何かちょっとおかしいところで、社会に鬱屈を感じていたんですね。」

――中二のころから、町おこしにひっかかりがあったんですね。

「だから、とにかく町を出ようって思ったんです。地域を変えれる力をつけようって……。デザインとか映像とか、一通り教えてもらえる高校へ進学して。クイエイティブ系の仕事で食べていきたいなと思ってたら、先生に、『お前、この勉強して何がやりたいの』って言われて。『町おこしとか出来ますかね…』ってなんとなく聞いたら、それを先生がすごく褒めてくれて。それでめっちゃやる気でました。
町おこしをするデザイナーになろうと考えていたら、高校二年の冬に、たまたま、山形の美術大学の先生が、学校紹介に来たんです。僕、ノートに書きためた地域おこしの案とかを見てもらったら、『どこの大学に行きたいの?』って言われて。『東京の美大に行きたいです!!』って言ったら、『地方を盛り上げる勉強したいのに、東京に行ってしまったら活動なんか出来なくならないかい? 君は地方の大学で研究すべき人材だ』的なことて言われて。」
――ちょっと、うまいこと勧誘されちゃいましたね。

「褒められ慣れてなかったから…そういうのに弱いんです(笑)。
そんなこんなで、山形の大学に行って地域おこしの活動をやってていたんですが、そこでちょっとした問題が……ウチの学科ってまだ方向性が定まってない学科だったので、年に1度、学科の名前が変わっていったんですね。」

――新しい学校って、そういう所ありますね。

「大学って教えてくれる所だと思っていたけど、けっこう試験的に運営されているもんなんだなってことを知りました。今はそうでもないんですが、当時はカリキュラムもあまり安定してなくて……『社会の役に立ちたい』とか、聞こえいいこというだけでは食っていけないぞと、現実にうちひしがれていたんですが、そんな迷える僕を危惧したウチの教授が、インターンシップを紹介してくれまして。
3年生の時に、市役所と、福島の会津で伝統工芸品の復興をするのと、二カ所行きまして。そこで、学校の授業以外に、国や自治体に資金もらって、町おこしの活動をやる方法を学ぶ事になりました。」

――学生さんの時点で、そういうことを知るのは珍しいですね。

「大学の先生が、国から援助をもらって研究をするのはよくあることなのですが、学生はその予算の取り方とかはあんまり興味ないですからね。
ただ、国からそこそこ、お金は出てるはずなのに、あまり町おこし成功!! って話を聞かないなぁってことにも気づきしました。」

――「奇跡の町おこし」は、ほとんど起きてないわけですね。

「そういうことです。地域振興のあまりうまく行ってない実状を間近でも見ることになりまして……。スターウォーズで言うと、フォースの暗黒面に落ちた気分です。」
暗黒面に落ちた結果。
暗黒面に落ちた結果。

いろいろな町おこしのアイデア

――ツチノコは、どこタイミングで入ってくるんですか。

「その直後ですね。いきなり非主流地域振興やりたいって言ってもしかたないんで、まずは仲間集めしようと思ったんです。でも、まじめな地域振興の話しても食いついてもらえないから、劇をして仲間集めをすることにしたんです。
とりあえず、僕のやりたい町おこしのスタートから完結までを見てもらいたいなぁって思って。
幸い、高校の頃の例のアイデアノートにちょうどいいのがあって『女子校生が収穫した』てっいう物産品のブランド作りアイディアです! まぁ、収穫物は『ツチノコ』なわけですが。」

――それ、高校生の頃のアイディアだったんですね。

「こうして『女子校生UMAハンター大海原ネス子』は生まれたわけです。」

――そんな名前なんですか、主人公。
ネス子が売っていたツチノコ。
ネス子が売っていたツチノコ。
ネッシーのヒレ(霜降り)も売っていたそうです。
ネッシーのヒレ(霜降り)も売っていたそうです。
――わあ、いいですねえ! このツチノコ!

「僕、美大生とはいえど、論文書いて卒業している人間なんで、美術の専門指導はうけてないんですが、こういう胡散臭い工作が得意なんですよ。」

――(笑)ものすごく味がまずそうなところがいいですよね。微妙な値付けも!

「そそそ。これは完売してて…。」

――ていうか、リアルに販売してたんですか?

「劇の会場で販売してました。これを販売していると、途中から販売を妨害してくる悪いやつが現れて、それを女子校生役の僕が退治するという、アクション仕立ての劇が始まるのです。」

――いったい何個くらい売れたんですか。
「…600個くらいですね。でもツチノコ以外にも、赤字商品たくさん作っているので…。ネッシーのヒレとか、ビッグフットの足跡とか。あと、商品を良く見せたくてスーパーマーケットのサランラップをピッチリ貼る機械(業務用)とか買ってしまったりとか……。」

――それはまた無駄な買い物を…。架空の町は活性化したけど、リアルな財政は潤わなかったんですね(笑)。

「未確認生物で生計を立ててる町のパンフレットまで作ってますし、台本はなかったけど、衣装にはお金掛けてたからなぁ……。」
――あれ、ひょっとして台本なかったんですか、それは。

「流れだけかいてある進行表があって、『ここで僕がこういうセリフを言うことによって、人の気持ちが相手の気持ちがこう変化するんだ!!』とか、狙いだけは書いてあります。
あとは、それぞれの役に演じながら、思ったことを言って貰うんです。人との付き合いに台本はないから、その時の言葉でいかにドラマチックに場を演出するかが、僕がみんなに体感して欲しかった地域おこしのそんな極意みたいいなものでした。でも結果、当時の劇のメンバーは、町おこし関係のことをしている人が多いんですよ。」

――非主流地域振興は、こうして幕をあけたと……。

そうですね。同時期には『30代女性の理想のお婆ちゃん像見つける』がテーマの魔女の町おこしとか、『人が誰もいない場所での町おこしは可能か』を探る実験跡地とか、いろんな町おこし企画を実行しました……それらはどれも「非主流」の発想を軸に行った企画です……。」

――…面白そうだけど、わかりにくいです! ていうか、わからないです!(笑)

「成功したか? って聞かれるとなんともなんで、細かい説明は省きますね。でも、僕は成功までの道のりを信じてこれらの活動は行っています。」
くつろぐウサヒ……。
くつろぐウサヒ……。
美術品としてのウサヒ。と、床の間に似合う!
美術品としてのウサヒ。と、床の間に似合う!

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