特集 2013年4月8日

傷心旅行、伊東の味噌汁専門店へ

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友人Tさんが失恋した、ということで呼び出された。
とある金曜日、新大久保の某タイ料理屋で。
「……はあああああああああああ~」
「それで、どうしたの」
詳細は控えるが、要するにLINEで喧嘩して、LINEで別れた、ということらしい。
「Tさん、スマホにしたばっかりじゃない。」
「それが嬉しくてさー、酔っぱらってLINEしたのがいけなかったみたい。
自分が何を書いたのか、恐くてログが見返せないの。」
「ああ、それはやらかしたね~、酔っぱらったTさんってアレだもんなあ……っていうか、じつに、いまどきな恋模様ですね。LINEとかさ!」
「で、久々にこういうことになって、自分の弱さにビックリしてるところなんですわ。仕事に集中してる時はいいんだけど、隙あらば思い出すんだよね、相手のこと。仕草とか声とかスタンプのセンスとか。」
「スタンプのセンス……。」
「スタンプのセンスがいいの! 絶妙なところで、絶妙なやつを投下してくるの!」
「スタンプのセンスねえ……。」
「……ああ、どこか遠くに行きたい。てか、車を運転したい。あのさあ、明日レンタカー借りるからさ、どっか遠くにいかない? どうせ大塚さん、記事のネタに困ってるんでしょ? 行きたいところあれば、連れてってあげるよ」
「あ、そう? そうねー、うーん、あのねー、こないだ味噌汁専門店って検索したんだけど……。」
「……なんで味噌汁専門店?」
「いや、ナントカ専門店って検索するのが好きなの、趣味で検索するんですよ、定期的に、思いつきで。で、味噌汁専門店って検索したら、都内のオシャレな店が何店かひっかかったんだけど、ひとつだけ、海っぺりにある、海の家みたいな店を発見して……。」
「そこどこ?」
「伊東なんだけど」
「伊東ってハトヤのある、あの伊東?」
「そうそう、温泉ね」
「……行く! そこまで運転する!」
ばーん! とTさんがこぶしを振り上げた。
するとタイ人の店主が私の耳元で、「イマ、オ会計シテッタヒト、スズキマサユキヨー」とささやいた。
ええ!? 伊東の味噌汁の話してたから、全然気が付かなかったよ!
ていうかサングラスしてないと、多分、顔、わからないけど!
埼玉生まれ。電子書籍『初恋と座間のヒマワリ』(リイド社刊)発売中。最近、ほぼ毎日ブログを更新していますので、良かったら読んでください。

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翌日、Tさんは朝早く、N区の私の家まで、迎えに来てくれた。わりと元気そうだった。
しかし、カーステレオをつけると、すぐに、Tさんの目から涙が出てきた。
「……え? ええっ!? ………てか、ええ!?」
「あのね、私、いま、全てのラブソングが刺さるから、音楽だめかもー……」
「いや、今の、西野カナとかだったよ……若者向けのやつでもダメなのか!」
「多分、EXILEも駄目だと思う。」
「まじで!? なんで!? 乙女か!?」
「いやあ、自分でもビックリ……。ちなみに、今、いちばん聴きたくない曲は、m-flo loves YOSHIKAの『let go』……。」
「……このまま~わすれられなくてえええ~~~」
「ヤーーーメローーーー!!!!」
良かった、K-POPのCD持ってきてて……。日本語盤は、かけなかったけれど。

で、伊東、これが、なんだかものすごく遠くて、6時間かかった。
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途中、大滝ランド跡地(山奥、廃墟)にも寄ったのですが、管理人さんとコンタクトとれず中に入れなかったので、割愛します。しかしこのテトラポッドっぽい何かはなんなんだろう。
着いたぜ、味噌汁専門店、「海女の小屋 海上亭」。すごい場所にあるなあ!
着いたぜ、味噌汁専門店、「海女の小屋 海上亭」。すごい場所にあるなあ!
店頭には、今日おすすめのメニューが! 伊東市場直送!
店頭には、今日おすすめのメニューが! 伊東市場直送!
お品書き、迫力のあるイラスト。たまらない。
お品書き、迫力のあるイラスト。たまらない。
いろんな味噌汁があるなあ。
いろんな味噌汁があるなあ。
丼ものも、たくさん。
丼ものも、たくさん。
ジャンボみそ汁もある……なんだジャンボ味噌汁って、新しい概念だなあ。大人数じゃないと食べられないけれど。
ジャンボみそ汁もある……なんだジャンボ味噌汁って、新しい概念だなあ。大人数じゃないと食べられないけれど。
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伊勢エビの味噌汁、2630円って、ひょっとしたら安いのか?

「Tさん、オーダーした海鮮丼きたよ。」
「……ん。」
「……おいしい? ものすごくゴージャスだけど。」
「いやー、なんかあの、味は理解出来るんだけど……。
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……味がすごく遠い。美味しいのは分かるんだけど、分かるんだけどね、遠いの。
というか身体が全身が、ぼやーっと麻痺してるんだよね。つねってもあんまり痛くないというか…。運転してても、実際に移動してる感じじゃなく、ゲームみたいなんだよね。他人ごとみたい。」
「え、私、そんな車に乗っけてもらってるのか……。」
「いや、感覚はちゃんとしてるのよ。
大塚さんのは何か、すげー地味な魚ね。」
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「えー、だって、海のそばに来たら、地魚が食べたいじゃん。ま、どれを食べても、似てる味なのは確かだが…。どうせ、Tちゃんの丼のスターな感じとは違いますよ……。」
「味噌汁も、地味なの飲んでるねえ……。」
「つみれ団子汁ですよ。こういうのがいいの、こういうのが食べたかったの! でも地味過ぎたかなあ、この組み合わせ。」
団子汁。かなり日常的な味ですが、この海の前のロケーションで食べると、美味しく感じずにいられない。
団子汁。かなり日常的な味ですが、この海の前のロケーションで食べると、美味しく感じずにいられない。
Tちゃんの頼んだ漁師汁。魚のダシがばんばん出ててうまい!
Tちゃんの頼んだ漁師汁。魚のダシがばんばん出ててうまい!
食後、Tちゃんと、店の外に出て、海と釣り人を眺めた。
「うわ、あの人脈が切れちゃったから、あの花見に顔出せない、やべー!」「うわ、そうか、まじか!」「まじすよ!」なんて話をしていたのだが、急に「……………どうでもよくなった!」と言い出したので、驚いた。
「なんか、遠くに出かけて、おなかいっぱいに、何か食うのが大切ね! 気持ちが変わるよ! 落ち着いてきたもん!」
「いや、多分、変わったのは血糖値だと思うけど……。」
「そうか! じゃあ血糖値大事! 味噌汁と海鮮丼で血糖値上げると失恋はなおる!」
「……いや…………無理はしないで!?」
味噌汁屋さんに、居着いていたネコ。全然、触らせてくれませんでした。いいもの食べさせてもらってるんだろうなあ。
味噌汁屋さんに、居着いていたネコ。全然、触らせてくれませんでした。いいもの食べさせてもらってるんだろうなあ。
その後、伊東の商店街まで行って歩き、有名な甘味店「わかば」でソフトクリームを食べ、もっと血糖値を上げる私たち。

お店のオリジナルソフト。激うま。
お店のオリジナルソフト。激うま。
「うま、このソフトクリームうま! これだけで町おこし出来そうなくらいウマッ。」
「私も、甘いものはさほど好きじゃないんだけど、これは美味しいわ。」
「大塚さん、スイーツ好きじゃないもんね。」
「んー、でもアイスは食べる。デパ地下のジェラート屋とか。ピスタチオ味とか最高。
ジェラート屋で、立ったままアイス食べてる女の人たちって、よく考えると変だよね。他の食べ物だったら、そんな食べ方、しないもの。」
「鬼気せまる顔で、食べてる人が多いよね。」
「あれだ、女は何かあると、アイスクリームを大量に食べるよね。パフェとか。」
「そうね。だって私、おかわりしたいもん、このソフトクリーム。」
「食べれ、食べれ。食べて血糖値上げれ!」

ソフトクリームをたっぷり摂取し、温泉(250円)に入る。
ハトヤ以外の伊東は、派手さのない温泉街で、古い建物が並んでいた。
ここはここで、再び訪れたいと思った。
(後で調べたら、車で行くより、電車で行く方が、安くて早いんですね、伊東。絶対にリベンジだ!)。

帰路でもK-POPを聴きつつ、どうでもいい話を続けた。
ダイエットで酵素とりたいけど、酵素高いし、納豆食べるだけで充分じゃないの? とか、
台湾かソウルあたりに旅行に行きたいね、こういうの決めないといつまでも行けないよね、とか、
子供生むの、もう諦めてる? 私、結構諦めてる、とか、
実家に帰るたび、あと何度、親の顔が見れるかなあと思う、とか、
仕事がうまくいかない、あと何年人生があるかわからないけど、やりたいことが出来るだろうか、もう時間なんか全然ないね、という話とか。

「……ねえ、結局、あの店、味噌汁専門店だったのかな? 大塚さん。」
「いや、味噌汁メインというより、魚料理メインで、味噌汁もたくさんありますよ、って感じでしたね…。でもあれはあれで、いいのではないでしょうか!」
「遠出するキッカケになったしね!」

数日後、TちゃんからLINEメッセージが来た。
「昨晩、彼からLINEで連絡があって、仲直りしました。ご心配かけましたテヘペロ」
……少し考えて「よかったねw」と送る。
クマがウサギの耳をふんづかまえてる絵のスタンプも送る。

春っていろんなことがあるなあ! 春だからしょうがないね!
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