ロマンの木曜日 2013年4月11日
 

書き出し小説大賞・第16回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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書き出し小説秀作発表、第十六回目である。

EXILEのHIRO氏が今年限りでパフォーマーを引退しプロデュース業に専念するという。年齢を見るとHIRO氏は私とほぼ同い年であった。私もなにかを引退してなにかに専念したい。とりあえずいまはアダルトサイト徘徊を引退して書き出し小説選考に専念する。では、今回もよろしくお願いします。

書き出し自由部門

サンドイッチの境目がわからず、そっとパンの枚数を数えてみた。
おかめちゃん
なんと奇数だった。
芯だけになったセロハンテープをたくさん抱えて、大仏殿から和尚が出てきた。
トモマリ
ハリボテ大仏。
タイヤチューブの小さなゴムキャップと弁当醤油のフタをそっと取り替えてみる。
大伴
違和感はなかった。
正義の自転車乗りが左折する前に伸ばした腕が、春一番を裂いた。
赤嶺総理
そして通行人をなぎ倒した。
「皮が肉を包んでいるという点では、人間も餃子も同じようなものよね」モトコはそう言いながら一口頬張った。
小夜子
羽根つき餃子は天使と同じ。
足がもつれて靴が脱げた。タスキも肩からずり落ちそうだ。でも関係ない。これはタイムではなく「必死さ」を競うスポーツなのだ。
震える手足
コーチの精神論は正しかった!
勢いあまって勝訴の紙を真っ二つにしてしまう。奴はそういう男だった。
無気力
そして裏門へ駆けていった。
スーパーですれ違った男の傘を包む、細長いビニール袋の先には、血が溜まっていた。
モハメド・ナシ
小道具使いが光る不気味はイントロ。
「今朝アパートの住人がこの駐車場で発見したそうです」「そうか」東刑事は小さく合掌すると外車のヘッドライトにかけられた布をめくった。
TOKUNAGA
「ガイ者」違い。
カッパドキアって世界遺産があるんだってさ。トルコに。一度でいいから行ってみたいんだよね。
彼女は頭の皿をキラキラ輝かせながらそう言った。
じゃいこっち
たしか砂漠地帯だったような…。
おばあちゃんが焼いたものは、さほどぽたぽたしていなかった。
夏猫
せんべいとは限らない。
「ゴン、お前だったのか。いつも栗をくれたのは」タンスにゴンは、ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました。
東雲長閑
防虫もゴンのおかげだった。
五線譜に適当に丸を描いた。46分の33拍子の曲ができていた。
ウウタルレロ
現代音楽界に新星現る。
その日、少女はエイプリルフールの日だと知らずに告白した。
その日、少年はエイプリルフールの日だと思って承諾した。
その日、二人の物語は動き出した。
春乃はじめ
決定的な誤解に物語の推進力を感じる秀作。
下の名前で彼を呼んだらびっくりされた。とうとうこの恋も終わってしまったようだ。
トミ子
勇気が裏目に。
「ほれ、これ喰っとけ」そう言うと祖母はサイババのようにどこからともなく飴を取り出した。
無気力
外見もサイババそっくりだった。

今回は思わずクスリとさせられる作品が目立った。
投稿全体の中でもユーモア系は7割ほどを占める。アイデア自体は選考外の作品にも面白いのがあるが、採用の決め手はやはりそこにネタ以外の背景が内包されているかのような気がする。また、語り口調があざといものはせっかくのアイデアを無駄にする。笑いには「間」が大切だが、それは文中の「間」だけではない。読者との距離感という意味での「間」も大切である。面白い話もあまりに近くでされると暑苦しいように、読者とは適度な距離感を保ちたい。夏猫氏、無気力氏をはじめとした採用作の語り口にはそういう意味での上手さを感じる。
震える手足氏の「必死さ」を競うスポーツは是非実写で見てみたい。春乃はじめ氏の作品は書き出しのお手本のような仕掛けがよい。

さて、続いては今回の規定部門、テーマは「先輩」であった。
愛おしくも情けない、素敵な先輩方が集まった。早速ご紹介したい。

書き出し規定部門(モチーフ・先輩)

クラス替えの掲示をみて心が躍った。今年は先輩と同じクラスだ。
鳳仙花
同アイデアが多い中、一番きれいにまとめた。
「在校生起立!」の号令で、卒業する憧れの先輩が私たちと同時に立った。
g-udon
「憧れの」のひと言が定番ネタを劇的に変えた。
好きな先輩の第二肋骨をもらうのが、あたしたち一族の習わし。
おかめちゃん
モテなくてよかった。
篠原先輩のギプスには、寄せ書きにまぎれて、ある公式が書き込まれている。
おかめちゃん
物理学を終わらせる統一理論が。
「僕は2年の北山だ。何でも聞いてくれ」 大丈夫、昨日はこのセリフを2時間練習したんだ。
ぽこあぽこ
でも噛んだ。
確かに俺の方がちょっと先にこの串に刺された。だからといって上のやつにこんな風に慕われても困るのだ。
ぽこあぽこ
意外なモチーフを被せた鮮やかな秀作。
あの夜、全てのロケット花火はY先輩に向けて投げられていたはずだ。
てこん道
本人だけがはしゃいでいたが。
先輩は頭にも品物を乗せる。
トミ子
なにを乗せるかは読者次第。
OBだという虚無僧集団がアルプス席を占拠した。
g-udon
尺八による「狙いうち」
深夜0時。僕が万引き主婦の顔にモザイクをかけているとき、由利子さんは迎えに来た旦那の怒号をテロップにしていた。
トモマリ
どんな現場にも物語はある。
深夜3時をまわり、コンビニの本棚には今日発売のマンガ雑誌が並んだ。そろそろ「先輩」が来る時間だ。
ゆとりバルス
いつもの制服(パジャマ)で。
先輩がうちに泊まりに来ると、必ずブレーカーが落ちる。
xissa
カナリアも騒ぐ。
試合中に目が合うとウインクしてくる大木先輩。アイコンタクトの意味を教えてあげるべきだろうか。
ハヤシワカ
そのままで、いい。
今夜も同室の先輩の暗誦が始まった。「ゲルマン民族大移動〜。ゲルマン民族大移動〜。いーつ起こった。いーつ起こった」 僕はそちらを見ない。心の中で「4世紀ごろ」と唱えるだけだ。
HawkLaughs
心の中だけが賢明。
その日、先輩は六つの路線を使って九つの駅を移動した。
茹でられて
結局隣りの駅に着いた。
夏のキャンプ、初日。俺たち一年坊の最初の仕事は、ハンモック先輩の木を探すことだ。
刺客
ネーミングの妙でキャラを立たせた。
スプーン一杯の胡麻を口に含んだ後、先輩はゆっくりと酔拳の構えを取った。
トゥットゥクルー
伝承は避けたい。
「先輩!本日先輩の頭上を飛んでいたヘリコプターは6機でした!」
TOKUNAGA
「ふむ、ご苦労!」

家族や恋人のような絆はない。友人ほど親しくもない。また上司や先生ほど一方的関係でもない。考えてみれば「先輩」ほど私たちの人間関係の中で曖昧なものはないのではないだろうか。
ゆえに先輩はあらゆる対象になることができる。あるときは憧れの、あるときは軽蔑の、またあるときは赤の他人として。集まった作品でも先輩はさまざまな扱いをされている。
てこん道氏の作品では花火の的に、ゆとりバルス氏の作品では師匠的な存在に、茹でられて氏の作品では単なる観察対象にされている。どれも当の本人は無自覚であろうところが面白い。
ぽこあぽこ氏の作品は先輩というモチーフに焼き鳥というモチーフを被せた傑作。トモマリ氏の作品はモチーフをこなしつつ特殊な現場を活写した。今回は豊作であった。

それでは次回の規定部門モチーフを発表する。
次回モチーフ
飛行機・空港
今回は飛行機とその関連場所として空港をモチーフにしてみた。飛行機は機体そのものを扱ってもいいし、シチュエーションとしても使っていい。また客室乗務員、搭乗客、パイロットなど、多くの登場人物が使えるだろう。空港はドラマの宝庫だ。ジャンル的にも幅広い選択が可能だと思う。大空を舞台に自由な発想をして欲しい。
最後に3月期の月間賞発表に移る。 今回は諸事情により林氏との対談での選考は果たせず、簡略的に各賞の発表と寸評だけにとどめる形となった。ご了承いただきたい。

書き出し文学
3月月間賞
タクシー運転手と話し始めるとき、ぼくは童貞だった頃を思い出す。
金田一(自由部門)
たしかにその通り。こういう私小説的な書き出し小説は新しいんじゃないでしょうか。あるあるともちょっと違いますし。(林雄司)
分からないけど分かる。上手く説明できない思考回路を敢えて読者に投げる潔さがいい。(天久聖一)
父さんは妹をかばって死んだ。
母さんは弟をかばって死んだ。
そうして、誰にも愛されなかった私だけが生き延びた。
織部考子(規定部門・モチーフ「忍者」)
冒険小説のはじまりのようでときめきます。ライトノベルでもない昔ながらのアクションSF小説みたいです。小松左京や平井和正の。もしテレビアニメ化されたら番組冒頭で毎回ナレーションで読み上げられますね。(林雄司)
哀しい宿命を背負ったヒロイン像を簡潔な文体で印象づける。とらえ方によってはすごくアイロニカルなギャグにもとれる。(天久聖一)
ああ、この二人は恋に落ちる。だいたい初日にわかってしまう。たぶん一般的に思われている以上に、教壇は見晴らしがいい。
suzukishika(自由部門)
教壇目線になったとたんに恋愛がシムシティのように見えてくるのが発見でした。そういうラブプラスやりたいです。繁殖ゲームみたいですね。(林雄司)
教師を主人公というより観察者にしたところがいい。朝礼台目線の校長ドラマも読んでみたい。(天久聖一)
林賞
「このガマ乗りにくいわね」女は不機嫌そうにそう言った。
夏猫(規定部門・モチーフ「忍者」)
美人がガマに乗っている絵だけでグッと来るものがあります。インターネット黎明期に裸の金髪女性が豚に乗って怒ってるという謎のエロ画像を入手して、インターネットってすごい!と思ったのですがそれを思い出しました。(林雄司)
天久賞
七分咲きの桜の枝に、ちいさなビニール袋で泳ぐ赤い金魚がぶらさがっていた。朝日を浴びてゆらゆらしている。捨て金魚だ。
xissa
ファンタジックな風景を印象だけでなく、ディテールの行き届いた文章で書いているところが見事。捨て金魚というオチも嫌味にならない効き方。上手い。(天久聖一)

さて、次回の締め切りは4月18日、発表は同月20日を予定している。自由部門、規定部門を選択し、以下の投稿フォームより応募されたし!諸君からの力作を待っています。
最終選考通過者

畑のお肉/えぬ/うどん/菅原 aka $.U.Z.Y./オモプラータ/ゴロ/のぎろうて/isenma/wabisuke/坂口川端糸井/黒船鬼太郎/横尾モスラ/とこま/みう/大倉野のりゆき/小澤。/aquaion/古杉拓也/らむ/袋とじはダンシング/りんごぱん/ぱろっと/テロメア/
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デイリーポータルZ新人賞

 

 
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