ちしきの金曜日 2013年4月26日
 

「雰囲気五線譜」を演奏してみる

「雰囲気五線譜」と名付けて、演奏してみました。
「雰囲気五線譜」と名付けて、演奏してみました。
比喩でなく、街には音楽があふれている。とくに歓楽街に。

スナックの看板に多い「譜面ってたしかこんな感じだよね」というてきとうな感じで描いたと思われる「雰囲気五線譜」を見てみよう。そして実際演奏してみよう。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。

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命名:雰囲気五線譜

「雰囲気五線譜」とは、冒頭の写真のようなものを指す。ぼくが名付けた。「これ弾いて」って渡されたら困惑する、そういう譜面のことだ。要するにちょっとへんなのだ。ちょうど、海外旅行先でへんな日本語文章を目にすることがあるだろう。楽譜読める人間からしたら、あれに近い。

上のものでいうと、最後の全音符が困る。
全体を見るとこんな感じ。色鮮やかに階段を下りるよう誘う。「歌謡パブ」のフォントの妖艶さと「キャロン」の力強さの組み合わせも素晴らしい。そして雰囲気五線譜が華やかさを添えるのだ。完璧だ。
全体を見るとこんな感じ。色鮮やかに階段を下りるよう誘う。「歌謡パブ」のフォントの妖艶さと「キャロン」の力強さの組み合わせも素晴らしい。そして雰囲気五線譜が華やかさを添えるのだ。完璧だ。
楽譜には通常「小節」というものがあって、その小節内でずっと、文字通り「全部」音を鳴らせ、というのが全音符が示す内容だ。通常は4分音符4つ分ならすことになっている。

ところが、この譜面にはそもそも小節線がないのでなにがどう「全」なのかわからないのだ。
これも小節線がなくて困惑する系。何拍子だろうこれ。一番最後の音符が五線から外れちゃってるのもいい。
これも小節線がなくて困惑する系。何拍子だろうこれ。一番最後の音符が五線から外れちゃってるのもいい。
ただ、そういう細かいルールにいちいち照らし合わせてあげつらうつもりはない。もっと全体的な、それこそ雰囲気を鑑賞してみたいのだ。

考えてみれば音楽をビジュアルで表現するというのはとてもむずかしい。音楽がテーマのマンガが他のジャンルより少ない理由のひとつは絵で表せないからだと思う。

看板で「カラオケありますよ」と伝えるために使えるものといったら楽譜ぐらいだ。だから「詳しい楽譜のルールはわかんないけど、とりあえずそれっぽいもの描いとけ!」となるのだろう。

ぼくが中学生の頃流行った「英字新聞がプリントされたシャツ」とかと根が一緒だと思う。内容はどうでもいい。というか、わからない。いいんだよ、雰囲気で。ということだ。

小節線はたいてい、ない。

今回いくつかの雰囲気五線譜を見てわかったのは、前出と同様小節線がないものが多いということだ。たぶん、ただの線なので、ビジュアルとして地味ゆえ雰囲気的には重視されないのだろう。一方、たとえばト音記号のような「いかにも楽譜!」っていう見栄えのするものは描かれがちだ。おそらく同様に見栄え上の理由で、四分音符よりは八分音符が登場しがちだ。

ちなみにヘ音記号やハ音記号の作品は今回見つけることができなかった。
「とりあえず楽譜です」という勢いが感じられる作品。八分音符のもっさりずんぐりとした存在感がかわいい。あとなんか要所要所エンジ色に塗りつぶしてある点も画期的。「おまかせ料理」もきっとほんとにおまかせなんだろうな、と思わせる。
「とりあえず楽譜です」という勢いが感じられる作品。八分音符のもっさりずんぐりとした存在感がかわいい。あとなんか要所要所エンジ色に塗りつぶしてある点も画期的。「おまかせ料理」もきっとほんとにおまかせなんだろうな、と思わせる。
奇しくも上のものと全く同じ譜面だ!(全く別の場所です)なにより一般住宅に雰囲気五線譜はめずらしい。そしてこれもやっぱり小節線がない。
奇しくも上のものと全く同じ譜面だ!(全く別の場所です)なにより一般住宅に雰囲気五線譜はめずらしい。そしてこれもやっぱり小節線がない。
かなりの雰囲気っぷり。音符の大きさの違いも見所だが、「ま」の下の空白が気になったが、たぶんこれ「ま」の文字の一部を四分音符に見立てているのだと思う。すばらしい。しかしその音程は不明だ。
かなりの雰囲気っぷり。音符の大きさの違いも見所だが、「ま」の下の空白が気になったが、たぶんこれ「ま」の文字の一部を四分音符に見立てているのだと思う。すばらしい。しかしその音程は不明だ。
これもカラフルさが際立つ。そしてやっぱり小節線がないので非常に困る。描かれている範囲で一小節だとすると、実に9/8拍子という意欲的なビートだ。
これもカラフルさが際立つ。そしてやっぱり小節線がないので非常に困る。描かれている範囲で一小節だとすると、実に9/8拍子という意欲的なビートだ。
小節線がない、というのがどれぐらい困るかというと、句読点も改行も全くない文章を読むような感じだ。

ただ、楽譜の歴史で言うと、小節線が広く使われるようになったのは17世紀だそうだ。つまりルネサンスの音楽には今のような「ビート」はなかったのだ。また、20世紀のいわゆる現代音楽でも意図的に小節線を示さなかったり、そもそも音符そのものを描かなかったりする。

つまり「雰囲気五線譜」はわれわれに、硬直化した近代のドグマたる譜面による音楽というコンセプトを解体するよう迫っているのだ。ほんとか。
これも小節線などどこ吹く風。上と同じようにカウントするならば19/8拍子だ。難しすぎる、武蔵野。
これも小節線などどこ吹く風。上と同じようにカウントするならば19/8拍子だ。難しすぎる、武蔵野。

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