ちしきの金曜日 2013年5月10日
 

書き出し小説大賞・第19回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

書き出し小説秀作発表、第十九回目である。

昨日TBSラジオの「たまむすび」という番組でゲストに呼ばれ、当「書き出し小説」を紹介させていただいた。赤江珠緒アナによる朗読によりたった一行の文学は、ラジオドラマのはじまりのような魅力を放っていた。 今回も厳選された珠玉の書き出し集、是非声に出して読んで頂きたい。電車の中で。

書き出し自由部門

海は生命の源だが、飛び込めば死ぬ。
かんごわご
うかつに陸へ上がったばかりに。
盗まれたビニール傘が返ってきて以来、流れ星を信じている。
トモマリ
信じる理由になったエピソードの貧しさがいい。
「世が世ならぼかぁ、ちょっとした有名人だぜ」そう言いながら彼は空の浴槽で丸くなる。
小夜子
蓋をして重りを乗せたい。
投げたブーメランは大きく旋回し、目の前を横切ったピザ屋の側頭部で止まった。
くだんの件
ピザ屋はそのまま去って行った。
蟹の身を全て小鉢に移し替えた時、既に宴会は終わっていた。
TOKUNAGA
居残り給食のトラウマが…
十二単を一枚ずつ脱ぐたびに彼女は徐々に小さくなる。
明日の鯱
和製マトリョーシカ。
とっくりを傾けると、中から小さな男が出てきた。飲み仲間が一人増えた。
ウウタルレロ
一方的に愚痴られた。
高速から手を出すとおっぱいを触った感覚に似てるという噂を信じ、彼は右腕を切断した。
たくわんシャキ男
幻肢痛は乳房の感触。
制服が冬服から夏服に変わったその日、学校の裏に流れるドブ川に一匹のイルカが迷い込んできた。
ちゃけろう
翌日、不良に眉毛を描かれた。
松葉杖をついた老人に追い越され、その背中はどんどん見えなくなった。
おかめちゃん
続いて三輪車の幼児にも。
2時間24分、星のないプラネタリウムだった。残った12人で盗賊団をはじめた。
rahio
言葉の散らし方と繋ぎ方が絶妙。
彼女がつくった料理は奇跡的な確率の結果、地球上にまだ存在しない新しい物質になった。もちろん、毒性がある。
ミミズグチュグチュ
レンジから七色の煙が!

今回は短くまとめたキレのいい作品が集まった。
書き出しのアプローチには主人公の内面から切り込んだもの、設定を押し出したもの、語りのリズムから入るのもなど多様にあるが、やはりビジュアルを想起させるものが強いような気がする。
くだんの件氏の作品ではピザ屋の側頭部に刺さったブーメランが瞬時に浮かぶ。TOKUNAGA氏の作品には祭りの後の宴会場が、ウウタルレロ氏の作品には妖精っぽいオッサンが、明日の鯱氏の作品には脱ぎ散らかったカラフルの羽織がありありと浮かぶ。 ただビジュアルは鮮明であればあるほどいいというわけではない。rahio氏のようにどこか抽象性を残した表現の方が、物語の雰囲気をより伝える場合もある。書きたい情景をどんなタッチで表すか、そこに各作家の個性が出る。

つづいては規定部門、今回のモチーフは「殺人事件」であった。
GW中ヒマを持てあました書き出し作家による、数々のミステリを紹介したい。

書き出し規定部門(モチーフ・殺人事件)

このペン1つで何人も人を殺してきた。
トミ子
ミステリ作家の自供。
そのバラバラ死体を組み合わせると、どうやっても腕が一本余る。
おかめちゃん
じゃあ枕に。
昼休み、その男が新宿にいたことを、全国民が知っていた。
suzukishika
それはサングラスの小柄な男。
「立入禁止」と書かれた黄色いロープを、隆は華麗なベリーロールで越えていった。
あむねじ
死体に着地。
今日、初めて君のコートが僕の部屋のクローゼットに掛かった。君が暴れるから、少し汚れてしまったけれど、仕方ないよね。ああそうだ、一緒にお風呂に入ろう。僕が洗ってあげる。
ちゃん蔵
サイコな読後感。
「犯人はこの中にいる!」膨大な国勢調査のデータを眺めながら、警部はそう叫んだ。
夏猫
一度言ってみたかった。
それはあまりに完璧な殺人計画で、誰かに話さずにはいられなかった。
杉浦印字
警察にも意見を求めた。
百人一首クイーンの手が、まっすぐに取り札に向かう。勢いよく飛んでいく取り札。眉間に刺さった札は、奇しくも読み手の最期の言葉となった。
こめ
文末の納め方が見事。
ラーメンのスープに沈んだレンゲを見る度、あの事件を思い出す。
七天抜刀
湾に沈みゆく男の姿が…
「この凶器に見覚えは?」そう言って渡されたのは、僕が小学生の時に京都で買った手裏剣だった。
豆助
田んぼに投げて無くしたヤツだ。
名探偵10人の推理がきれいに割れた。
大伴
まさかの全員不正解。
後ろを行進するトロンボーンのスライド管が被害者の後頭部に当たった事が、直接の死因のようだ。
おかめちゃん
パレード中の惨劇。
現場でルンバがまわっている。
xissa
遺体の隙間もきれいにお掃除。
当方、彼女なし、金なし、職なし、アリバイなしです。
Yves Saint Lauにゃん
ただの容疑者志願。
「被害者の会」ならぬ「第一発見者の会」があってもいいと思う。
苺大福
「隣りの住人の会」も欲しい。
最初に断っておくと、この殺人事件の犯人は医師の中条である。物語の中盤で登場する優しそうな人物だ。完璧なアリバイもあり、皆さんもきっと驚くだろう。それでは話を始める。
g-udon
これはこれで確認したい。
鮮血で彩られた薄暗い和室に向かって、アップテンポなナンバーがどんどん近付いてくる。ユーロビート刑事、三年振りの現場復帰である。
ミヤガワ
ミラーボールも回りだした。
現場の写真をこっそりアップしたら、285人から「いいね!」がつけられていた。
大倉野のりゆき
容疑者からも「いいね!」

血なまぐさいモチーフに関わらずユーモア漂う作品が集まった。コントの基本は舞台上に置かれた一体の死体から始まるという。不謹慎は題材ほどそれをひっくり返してみたいという欲望に駆られる。
suzukishika氏は大胆にも日本の昼の顔を容疑者に仕立てた。あむねじ氏、xissa氏の作品は事件現場の保持という大原則を根本から覆した。大伴氏の名探偵10人はそれぞれのキャラを見てみたい。g-udon氏はただ冒頭を確かめるだけという推理小説とは真逆の手法、確認小説を生み出した。事件解決だけがミステリの目的ではない。ただ現場と戯れ、事件そのものをないがしろにするこれらの作品は、今後のミステリ界の大きな流れとなるだろう。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
お母さん
次の応募期間では母の日を挟む。そこで次回は母親をモチーフとした。身近な人物だけにさまざまなアプローチが可能だろう。また母親というものはそれだけでキャラの立った存在である。写実的に書くだけで思いもよらぬ秀作が生まれるかもしれない。書き出し小説では珍しい涙モノにも期待したい。無論、母親の解釈に制限はつけない。日頃の感謝は別にして、貴方なりの母親像をつくって欲しい。

それでは4月期の月間賞発表に移る。
今回も諸事情により発表は寸評のみとなってしまった。申し訳ない。お詫びとして今回天久、林賞は各2本とした。受賞作品は以下の通り。
書き出し文学
4月月間賞
その日、少女はエイプリルフールの日だと知らずに告白した。
その日、少年はエイプリルフールの日だと思って承諾した。
その日、二人の物語は動き出した。 
春乃はじめ(自由部門)

天久
ちょうどエイプリルフールのあった期間の投稿。冒頭で生まれた小さな誤解が、先を読まずにはいられない強力なフックになっている。ドジっ娘萌えの要素も入って本当にアイドル主演のドラマにもなりそうな、書き出しのお手本みたいな作品。



その日から始まる3つの文がリズムを作っていて神話のようです。エイプリルフールという世俗にまみれたイベントをこんな切り口でロマンチックに転化させたのがすばらしい。可愛いんだけど自分のことを可愛いと思ってない女の子が主役ですよね。
永久に共にという約束は1人の考古学者の手で消えた。彼女は今博物館に、僕はまだ冷たい地中にいる。
あらぶるおにぎり(自由部門)
天久
続きというより生前のエピソードが気になる。ここから回想に入ればラブロマンスだし、彼女奪回という展開だとホラーにもなる。実際に五千年前の抱き合った骸骨が発見されたってニュースを思い出した。完成度の高い作品。



これもたまらない。恋愛と歴史とロマン、おっさんが好きなものすべてが入っている作品。映画だとタイトルが入る前のエピソードですよね。これから起こる出来事のきっかけ。
『酸素を二酸化炭素にする仕事』自分の今の仕事をそう説明すると、大抵の人は僕が科学メーカーに勤めているのだと勘違いする。
あさせがわ(規定部門モチーフ「無職」)
天久
これは実際に使えそう(笑)。屁理屈も堂々と言えば妙な説得力が生まれる、無職にとってはまさに救いになる作品。社会からははみだしてても、生態系にはしっかり組み込まれてる。



ここまでの機転がありながらなぜ無職。この仕事のパートナーは植物ですよね。逆に二酸化炭素を酸素に変える仕事。就職などという枠を超えた大きな仕事に見えてきます。
天久賞
足がもつれて靴が脱げた。タスキも肩からずり落ちそうだ。でも関係ない。これはタイムではなく「必死さ」を競うスポーツなのだ。
震える手足 (自由部門)
天久
これは読み方によっていろんな解釈ができる。実際に必死さを競うスポーツなのか、チームの足を引っ引っ張る駅伝ランナーが意地でそう思い込もうとしてるだけか。個人的には必死さを競うスポーツと見たい。砲丸投げの円内でデタラメに体をくねらせる競技とか。
楽なのは肉体だけ、肉体だけである。
すり身 (規定部門モチーフ「無職」)
規定部門「無職」に送られてきた作品。哀しいくらいの実感がこもってる(笑)。無職ほど精神的にハードな仕事(?)ってない。
林賞
オランウータンと握手しようとして、右手をぐしゃぐしゃに潰されたことを除けば、概ねいい人生だったといえるんじゃないかな。
井上だいすけ
頭の悪い村上春樹。文体と雰囲気が村上春樹っぽいのですが、内容がひどい。 村上春樹のエッセイで僕らの時代はそんなに悪い時代じゃないんじゃないかな、みたいなものがあってうっかりそれを思い出してしまいました。
カッパドキアって世界遺産があるんだってさ。トルコに。一度でいいから行ってみたいんだよね。 彼女は頭の皿をキラキラ輝かせながらそう言った。
じゃいこっち (自由部門)
カッパドキアが河童っぽいのは誰も気づいてたのですが、こういう青春っぽい感じになるとは思いませんでした。僕のなかでこの河童は能年玲奈です。

さて、締め切りは5月18日正午、発表は同月20日を予定している。自由部門、規定部門を選択し、以下の投稿フォームで応募されたし!力作待ってます。
最終選考通過者

みう/あゆかわあきら/紙製梱包具/wabisuke/あんこく/おかかむすび/つみき/迂闊女子/御馳走夏(サマー)/苺大福/ミヤガワ/イワモト/山田将軍/とりあえずとうじゅ/じゅんじゅん/ikeyo/かんごわご/天河/なん/くびまわり寝具/頭浮/アバレボン将軍/あむねじ/ニセ生物/
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