特集 2013年5月14日

山頂で集合する登山がアツい

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三国志か水滸伝か何かで、英雄3人が「三年後に、この山頂で再会しよう!」と誓って別れ、流浪の果てに再会するというシーンがあった。
あれを僕もやってみたい。
僕は友人2人に、山頂での集合を告げた。
1978年、東京都出身。漂泊の理科教員。名前の漢字は、正しい行いと書いて『正行』なのだが、「不正行為」という語にも名前が含まれてるのに気付いたので、次からそれで説明しようと思う。

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「じゃあ明日、山頂に集合で」

その日、ぼくらは3人とも残業が忙しかった。
翌日に3人で登山の約束をしていたが、行程を考える余裕が誰にもなかった。
そもそも集合場所を考えるのが面倒くさい。3人とも住んでる場所がバラバラなのだ。そして僕が苦しまぎれに送ったメッセージがこれである。
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こうして僕らは翌日、山頂で集合することになった。

12年前に失敗した山頂集合

じつは山頂に集合するのは、初めてではない。
今から12年前に一度挑戦し、失敗したことがあるのだ。
あれは大学4年生の夏のこと。
単位を落として大学を留年したシュン君 、就職の決まらなかった団長 、そしてそもそも就職活動をしなかった加藤
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世界で一番ヒマな3人が集まって飲んでいるとき、僕が「磐梯山にあさって登りに行くんだ」と言ったら、団長が「じゃあ全員、磐梯山の山頂で集合だ!」 と言い出して、本当に実行したのである。
しかしこのときは、団長のコースだけ急な雷雨に見舞われ、買ったばかりのデジカメを守るために、彼だけが山頂を目前に下山した。
というわけで12年前に山頂に集合したのは加藤とシュン、2人のみ。
というわけで12年前に山頂に集合したのは加藤とシュン、2人のみ。
こうして山頂の集合は果たせず、団長は「友達との約束よりデジカメを選ぶ男」 として未だに飲み会でなじられる結果となっている。

目指すは奥多摩の川苔山

さて、今回目指すのは、奥多摩にある「川苔山(かわのりやま、川乗山とも)」という山である。標高1363m、都心からまあまあアクセスがいいので人気だ。

より大きな地図で 川苔山 を表示
コースはいくつかあるが、このコース選びが山頂集合の最大のポイントである。
できれば誰かと重なるのは避けたいので、互いにどのコースで来るかの読み合いとなる。しかし、行きたいコースをあきらめるのも寂しい。
1.奥多摩駅からバスで移動し、西の川沿いを登る。 2.鳩ノ巣駅から尾根伝いに登る。 3.鳩ノ巣駅から尾根を通らずに登る。 4.川井駅からバスで移動し、東から登る。
1.奥多摩駅からバスで移動し、西の川沿いを登る。
2.鳩ノ巣駅から尾根伝いに登る。
3.鳩ノ巣駅から尾根を通らずに登る。
4.川井駅からバスで移動し、東から登る。
1の川沿いには滝があり、そっちを行きたかったのだが、バスに間に合うには5:50に自宅を出るしかなかったので、残業明けにはきつく、2か3で行くことにした。できれば見晴らしの良さそうな2で行きたい。
予定は9:33に鳩ノ巣駅に着。3時間もあれば登れるなと目論んでいた僕に、アクシデントが発生する。

ルール『山頂で出会うまで、連絡は禁止』

さて、山頂で集合する登山には、一つだけルールがある。
それは到着の時間まで、互いに連絡をすることが許されないという点だ。
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「互いの約束を信じて再会する3人の英雄」 が、この企画のイメージである。
「登山道到着!これから開始!」だの、「つかれた~、小屋でひと休憩。」だの、報告しながら登ったのでは意味が無い。
乗換えに失敗し、立川駅で呆然とたたずむ英雄。
乗換えに失敗し、立川駅で呆然とたたずむ英雄。
この日、僕は初めて乗る青梅線で乗換えに失敗し、到着が40分遅れるというミスをした。
だが、それを2人に伝えることは許されない。
ただ地図を見つめ、どうにか時間通りに着くように検討するのみである。2時間20分で登れるか、いや無理か、じゃあ何分まで遅刻を短縮できるか……。

携帯電話での待ち合わせに慣れきった精神に、久しぶりにめきめきと力が入っていく。
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英雄、靴ずれを起こした上に、道に迷うの巻

結局、駅に着いたのは10:07。2時間20分で山頂まで登らなければいけない。これはものすごく厳しい。
少しでも時間を稼ぐために、必死に走って頂上を目指す。
関羽―!張飛ー!いま向かう、ぞー!(てきとう)
関羽―!張飛ー!いま向かう、ぞー!(てきとう)
中国の英雄をイメージしたはずだったのに、かなり情けない状況だ。しかもさらに残念なことに、いきなり全力で走ったため靴ずれを起こす。
英雄として、あってはならない現象。
英雄として、あってはならない現象。
このテーピングでさらに10分間のロス。これを取り戻そうと地図を見ずに走り抜けようとしたところ、意味わからないぐらい道に迷った。
どこだここ。
どこだここ。
間違えた場所から、野山をかき分けて必死に復帰する。
こんな英雄、水滸伝にいない。
こうして遅れに遅れ、元の道に復帰したころにはすでに時間いっぱい、山頂までだいぶ残して制限時間オーバーとなった。
僕の心の中のメロスが「友よーー!!」と叫ぶ。
僕の心の中のメロスが「友よーー!!」と叫ぶ。
待っているのがセリヌンティウスだったら、邪知暴虐の王に殺されているところだ。
団長とシュンが友達で本当によかった。
さて、しょうがないから電話で連絡するかと思ったら、この川苔山、僕の電話が圏外なのである。
マジかっ!
マジかっ!
もう、どうしようもない。到着まであと30分はかかる。
それまで2人は待っていてくれるだろうか。
とにかく走るしかない
あいつらなら、30分は待ってくれるはずだ。
いや、1時間までは待ってくれるか?
いや、そんなに待つ前に探しに来てくれるか?
その場合、僕がこのコースだと察してくれるだろうか。
まて、逆にあいつらがこの山を甘く見て、まだ到着してない可能性もあるぞ……。
とか考えながら、ひたすら走る。メロスの気持ちが分かる。
とか考えながら、ひたすら走る。メロスの気持ちが分かる。
そして頂上は目前。
僕はそこに見慣れた人影を見た!
あれは! あの見慣れた人影は!!
あれは! あの見慣れた人影は!!

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12年前、自分だけ山頂にたどり着けなかった汚名を晴らすため、最短のコースを選びました。はっきり言って、超ラクだった。ほぼ一直線で山頂に向かえるコース。
7時に新宿を出て、9時ころから登りはじめ、11:10には山頂に到着。
山頂で2時間も加藤を待ってたから、超寒かったぜ。
鳩ノ巣駅から一直線に登る。最短コース。
鳩ノ巣駅から一直線に登る。最短コース。
ほとんど平坦な道。最大の難所は、駅から登山口までの坂道だったかな
ほとんど平坦な道。最大の難所は、駅から登山口までの坂道だったかな
迷うところもなく、初心者にはおすすめの道。
迷うところもなく、初心者にはおすすめの道。
頂上には一番乗り。まだ誰もいなかった。
頂上には一番乗り。まだ誰もいなかった。
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体力と脚力は自信が無いので、一番短い3のコースにしようか悩んだけど、せっかくなので滝を通るルートの方が面白いかなと1のコースにしました。
川崎を6:04に出発。けれど、行きの青梅線が4両編成で想定外のラッシュに見舞われ……。
電車の到着がどんどん遅れ、3のルートに変更しようか悩むも、何とかなるかなと奥多摩駅を目指す。
電車の到着がどんどん遅れ、3のルートに変更しようか悩むも、何とかなるかなと奥多摩駅を目指す。
出発ぎりぎりで着いたら、バスもラッシュ状態。
出発ぎりぎりで着いたら、バスもラッシュ状態。
1のコースの名所である滝に到着。これからの急坂があるので、リフレッシュも兼ねて滝見学。
1のコースの名所である滝に到着。これからの急坂があるので、リフレッシュも兼ねて滝見学。
途中で道を間違えるも、11:45に山頂到着。先に着いていた団長に撮ってもらう。
途中で道を間違えるも、11:45に山頂到着。先に着いていた団長に撮ってもらう。

シュン! 団長! 待っててくれたんだね!!
シュン! 団長! 待っててくれたんだね!!
何とか、何とか無事に2人と遭遇である。
僕の到着は13:01、約束の時刻を30分オーバーしたが、2人は頂上でメシを食いながら待っていてくれた。
2が加藤のコース。結局3人とも違うコースだった。
2が加藤のコース。結局3人とも違うコースだった。
聞くと、僕の電話が圏外だったので、まあ登ってはいるんだろうと思っていたが、あまりに来ないので事故ったんじゃないかと考えはじめていたという。
2人の予想では、加藤は1のコースから来ると思われていたため、探しに行くなら山頂から西に行っていたという。
あと少し遅れたら、出会えずに終わるところだった。
英雄3人で記念写真。あのときの約束、今果たしたぞ!!
英雄3人で記念写真。あのときの約束、今果たしたぞ!!
あとは3人でゆっくりと山を下る。
名誉挽回の団長、滝を楽しんだシュン、大幅遅刻の加藤、同じ日に同じ山を登ったのに、それぞれのドラマがある。
3人それぞれ、歩いてきたコースの感想の話をするのが楽しい。

おすすめしたい、山頂集合の登山

みんなで登るのも楽しいけど、メンバーが待ってると思って登るこのスタイルもいい。
きつい登りも、登らなきゃメンバーに会えないと思えば頑張れるし、年中会ってる友達なのに、こうして山頂で会うと不思議な新鮮さがある。
さあみんなも今年の登山シーズンは、英雄気取りで山を目指そうぞ!
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