ひらめきの月曜日 2013年5月20日
 

書き出し小説大賞・第20回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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書き出し小説秀作発表、第二十回目である。

電車の中で赤ん坊と目が合った場合、たいてい人は微笑み返すか曖昧に目を逸らす。私は極力相手が目を逸らすまで見つめ返すことにしている。すると次第に周囲の気配は消え、赤ん坊と心の中で会話することができる。
先日も電車の中で、私は見知らぬ赤ん坊と心の会話を交わした。話題はアベノミクスから北朝鮮問題に及び、反町松嶋夫妻の飼い犬が起こしたペットトラブルに至った。 妄想は生活を豊かにする。今回も集まった珠玉の書き出し集、続きは読者の妄想に委ねる。

書き出し自由部門

先に痛み止めを出しておきますね。と言って殴られた。
ハラセン
まず一週間分。
女子生徒だけが集められた体育館で、長年映写機を回す仕事をしている。
TOKUNAGA
少女と年老いた映写技師が性教育映画を通じて心を通わせる感動物語。
その年はいつになくツツジが暴力的に咲いていたのを覚えている。
よしおう
楳図ハウス以来の、色彩の暴力。
私の爪が淡いピンクから鮮やかな水色に変わろうとしている。彼は言った、「もうすぐ夏が来る」
とこま
秋には何色になるのだろう。
この宇宙船に残ったのは、結局ボクと頭の悪い方の山田だけになっていた。
大山倍達
向こうは頭の悪い方の鈴木だと思っている。
空き地に現れたおっさんは、自転車のチューブを紙袋から取り出すと、うなぎを捌く要領で瞬く間におろしていく。「坊主もやってみるか」おっさんは、一番小さなチューブを選んでおれに放った。「見とるだけじゃ巧くはならんもんや」
TOKUNAGA
翌日、おっさんは来なかった。
咳払いのたびに読経をはしょっているのを檀家の奥さんに指摘されたあの法事の夜、私は、彼女と深い仲になった。
おかめちゃん
木魚だけが知っている情事。
朝食のウィンナーを茹でるか炒めるかどちらにしようかと、鍋とフライパンの両方を手にしているうちに、鈍器として相応しいのはどちらだろうかと考えをめぐらせ始めた。
じゃいこっち
夫の頭部で試してみる。
「成田屋!」その声で僕は我に返った。
しょうへ
成田屋!後ろ後ろ!
課長のネクタイのペーズリー模様が、日増しに複雑になってゆく。
xissa
頭髪は単純になってゆく。
君が雷に打たれたように彼女に恋をした時も、彼女が通り雨のように君のもとから去ってしまった時も、私はいつも、空の上から見ていたんじゃ。
あるみにうむ
上から目線というより神から目線。
「四国四県の力を合わせるときだ」徳島県知事は言った。
ぐぬぬぬぬ
合併!オーストラリア県!
発射した三匹の鼠のうち、二匹はしっかり酒樽に食い込み、もう一匹は「ロマンス」の語源となった。
義ん母
イメージが追いつかない文章の跳躍力。
赤ん坊だと思っていたのは、背中でどんどん重くなるタイプの妖怪だった。まぁ今はともかく、麻薬シンジケートのボスに怪しまれずにボディガードとして潜入するのが先決だ。
井上だいすけ
泣かれるよりマシか。
名器と言う意味を知らずに使っていた。
トミ子
名器ング・ラブ。

今回も直球のネタ系から、次元のねじ曲がったシュール系まで幅広い作品が集まった。 しょうへ氏、ぐぬぬぬぬ氏の破壊力のある一発、義ん母氏の「ロマンス」の語源になったもう一匹はどうイメージすればよいのか、言葉の勢いがイメージの成層圏を破った一瞬を感じた。TOKUNAGA氏は長文も上手い。
さて今回は毎回力作を送ってくれる書き出し作家の諸君のために、選考の方法をおおまかに明かしてみたい。
まず私のもとには応募期間中約500〜600の作品がメールで届く。同じ人が複数投稿しているのでこれはのべ数である。まず全作品に目を通し100作品ほどにしぼる。そこから半分を選び、さらに最終的な掲載作を選ぶ。毎回最終選考通過者として名前を掲載しているのは、ひとつ手前の約50作に残った方々である。
最終選考は作品の出来が第一優先だが、内容的に被っているものはどちらかを選び、また全体のバランスを考え(例えばユーモア系に偏らないように)惜しくも選外とする場合もある。このあたりは運である。同作家の作品は基本一回三本までにしている。応募者の諸君は以上の点を踏まえ作品数、タイミングを考えてみてもよいだろう。

では続いて今回の規定部門、モチーフは「お母さん」であった。母の日を挟んで寄せられたバラエティ豊かなお母様方を紹介しよう。

規定部門 モチーフ「お母さん」

母さんの育てた花が初めて蠅を捕えた。
TOKUNAGA
家族が沸いた!
自慢のキャラ弁をUPした母のブログが、にわかに炎上している。
TOKUNAGA
目が十三個あるドラえもん。
テレビをつけたまま炬燵で眠る母の手からリモコンを奪い取るまで小一時間を要した。
g-udon
繊細かつ過酷なミッション。
田舎の母からみかんの段ボール箱が下宿に届いた。中を開けると大量のりんごにサバ缶、タッパーに入った漬物、そして緩衝材のつもりなのか親父が穿いていたブリーフ10枚が丸められていた。
g-udon
りんごは捨てた。
血染めのティッシュでカーネーションが出来上がった。
小夜子
殺意を込めて「ありがとう」
「かあさん…俺だけど…助けて欲しいんだ」
「わかってるのよ! 詐欺でしょう?!」
そう言われて電話は一方的に切られた。 家まであと300m。腹には刺さったままの包丁。人通りはない。カーネーションは渡せないかもしれない。
じえ
ラストはコブクロの蕾っぽいBGMを浮かべて読んで欲しい。泣けます。
「トマホーク、早くお風呂入りなさい!」「トマホーク、初任給は自分の為に使って良いのよ」「トマホーク、お嫁さんをしっかり守ってね」母は亡くなるまで結局一度も洋介とは呼んでくれなかった。
ミヤガワ
いつもお空から見守ってますよ…トマホーク。
美容室の鏡には新婚当時の母が映っている。
suzukishika
美容師だけが老けていた。
母が、十五年の時を経て、いよいよあの「かたたたき券」を使うらしい。
たけち
まさか換金を迫られるとは。
ようやくお母さんをお父さんと呼び間違えることもなくなった。
ジョンレモン
同アイデアの作品が多い中、シンプルにまとめた。
「もう一度だ。失敗は成功の?」監禁から六十八時間。ミスターの答えは今だ変わらない。
ねことか
「…反対」
産みの母、育ての母、優しく叱ってくれる母、ほか総勢三十一名で僕の母は構成されている。
おどげっつぁん
三十一人目は声が遅れて聞こえる母。
ルールは簡単、互いが同時に子供の手を引っ張り始め、かわいそうに思って手を離した方の勝ちだ。この巨大なトーナメントを制するのはいったい誰なのだろうか。
ふじいり
試合用の子供も緊張を隠せない。
村長と初めて会った時、母は自分のことを「俺」と言った。
サイドライス
なぜ面白いのか分からないけど、面白い。
我が子に「おかあさんだいすきー!」と飛びつかれることや、そう言われてどう反応するのか。夢にも考えていなかった。結果、まさかのまさかだが「光栄です」と応えている。
くびまわり寝具
母側の視点から。微笑ましい。
「サルの腰掛けっていうのはねひとつの事を長く続けるためには・・・」母さんの説教が始まったが、たぶんお母さんも間違っていると最近感じる。
皮すけ
その勘違いが子から孫へ。
「冬は餌を食べへんのよ。」可愛がっているランチュウの世話をしながら母は言った。ヒーターを入れればいいと素人は考えるがそれは駄目だという。冬に冷えてはじめて春に卵を抱いてくれるそうだ。
聴き役予備校
親ってこんな面もあるから油断出来ない。
母は新しい母とハイタッチを交わして、去って行った。
義ん母
軽快な足取りで。

以上である。
もっとも身近なモチーフだけあって写実的、実体験的作品が多いと予想したがやはりネタ系が強かった。ミヤガワ氏のしつこさ、ねことか氏のシチュエーション、ふじいり氏の設定はモチーフを抜きにしても笑いを誘う。サイドライス氏の作品はどこが面白いというより、全体がぼんやりとした独特の味わいを持ち読み返すたびに笑ってしまった。どこにもピントを合わせない新しいスタイルのボケかもしれない。
一方実体験ものではg-udon氏の作品がふたつともいい。聴き役予備校氏の作品はその専門知識が不思議なリアリズムを生んだ。suzukishika氏のような作品があるとホッとする。じえ氏の作品を映像化すればラストは母親との思い出が走馬燈のようにインサートされるのだろう。切ない。 どんなアプローチも難なく受け入れるお母さんの懐の深さを、あらためて実感した。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
スマホ・
ケータイ電話
いまや完全に現代を象徴するアイテムと化したケータイ電話。実際いまもっともドラマが起きている場所は、現実ではなくケータイの画面ではないだろうか。今回はそんなケータイ電話をモチーフにする。
ケータイから起きるドラマ、ケータイのある風景、ケータイに送られた文面、どう料理するかは諸君次第である。ただしケータイ小説の書き出しではないので、そこは注意を。今回は若い人たちの投稿にも期待したい。私のようなおっさんでは到底書けないリアリティのある描写が可能であろう。
締め切りは5月29日正午、発表は5月31日を予定している。自由部門、規定部門を選択し以下の投稿フォームで応募されたし。力作待っています。
最終選考通過者

あむねじ/べらぼう/五代剛/山田将軍/イワモト/靖丸/柊クイチ/くろいさん/トモマリ/概念覆す/ボランティア爆弾/ミヤガワ/ツチフマズ/Yves Saint Lauにゃん/なますて/Ryu-Q/ゆうきせつ/頭浮/ジョンレモン/オモプラータ/震える手足/大伴/頻子/ちかぞお/おかかむすび/新品の畳/不眠/夏猫
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