ちしきの金曜日 2013年5月31日
 

書き出し小説大賞・第21回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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書き出し小説秀作発表第二十一回目である。

「書き出し」と似た言葉を探しているうちに「炊き出し」を思いついた。炊き出しと言えば石原軍団である。石原軍団が各地の困っている人々に炊き出しを振る舞うように、我々もヒマで困っている人々に書き出しを振る舞う。
今回も書き出し軍団の秀逸な書き出しを堪能して欲しい。

書き出し自由部門

鏡の前で高速でまばたきしたら、目をつむっている自分の顔が見えた気がした、中二の夜。
よしおう
もしや鏡の中こそ現実では?と怖くなる中二の夜。
列車の窓越しに見えるキオスクだけが動き出した。
TOKUNAGA
下に足が見えた。
トランプを切る様に凄い速さで均等に混ぜられ、みるみる内に蛙が配られていく。
義ん母
道端でカラッカラになってるヤツなら出来そう。
この土地の湖に渡り鳥が飛来しなくなった背景には一人の老人の地道な努力があった。
タコさん
「しなくなった」のか……。
空飛ぶ夢は低空飛行だった。もがきながら這い上がると、電線が水草の様に足首に絡む。夢の中なのに、空を飛んでいるのに、自由にはなれない。
夏猫
ドライブスルーの看板にも激突。
満月と大潮が重なったあの日の夜、僕の部屋は赤い蟹で埋め尽くされた。
おどげっつぁん
今年は何日だろうか。
手にした紙製のトランプが空気中の水分を吸ってかすかに厚くなっている。梅雨が近い。ストリートマジシャンには厳しい時期だ。
天河
鳩もしっとり。
「わかりました、俺が差し色になりましょう」スイミーはいつも洒落た言い回しをする。
パク
スイミー語録、知りたい。
義雄は見事にちゃぶ台をひっくり返した。しかし芸術点が低かった。
概念覆す
飛距離は充分。
隣のやつを見るとその隣の解答を覗き見ており、その隣のやつもそのまた隣のやつの解答を覗き見ており、巡り巡って僕は僕の解答をカンニングしていることなった。
くろいさん
環ニング。
受付嬢が残したエビフライの尻尾をめぐって社長を軽くビンタしてしまった。
トモマリ
社長も瞬きなしで受け止めた。
週に二度、三度と会っていた彼女に、二週間振りに再会したが、何の感情も無く、診察は始まった。
ハラセン
乳首に触れた聴診器は冷たかった。
ベビーカーを押す若い母、自転車で向かってきた老婆、トラックのドアを開けて出てきた運転手、そして犬を連れた僕が、道にちょうど一列に並んだ。
大伴
地面が割れ、木製ロボット登場!
おかげさまで、客足も売上も店長ものびました。
紙製梱包具
よかったね、店長。
1 徳川家康
2 徳川秀忠
3 徳川家光
4 徳川家綱
5 徳川綱吉(インストゥルメンタルver)
6 徳川家宣
義ん母
生類憐れみのバラード。

中二病なる言葉が浸透して久しいが、よしおう氏の作品はまさに中二の実態をリアルに描写している。タコさん氏の作品はつい読み流しそうになるが、文中に絶妙なつまずきの石を配している。おどげっつぁん氏はユーモアと不気味さが混じったビジュアルを提示。パク氏の軽やかな作品は応募作の中でも浮かんで見えた。
トモマリ氏の作品、社長のリアクションを想像すると楽しい。最後の義ん母氏の作品、これを書き出しと呼べるのだろうか。しかし小説の中には冒頭に資料的なもの(年表や調書など)を提示する手法もある。5曲目の詳細はいやでも読者の妄想を誘う。そういう意味ではこれも書き出しか?とまれテキストの冒険は我々の想像を超えた広がりを見せている。今回もあの手この手の秀作が集まった。

続いては規定部門、今回のモチーフは「スマホ・ケータイ電話」であった。
ケータイに振り回される現代、ケータイへの愛憎入り交じった作品が集まった。早速紹介しよう。

規定部門 モチーフ「スマホ・ケータイ電話」

むかしむかし、人々がまだ公衆電話を持ち歩いていたころの話だ。
黒船鬼太郎
背負う派と担ぐ派がいたよね。
使わなくなった携帯電話は、小さなタイムマシンとなる。
イトーダ
黒歴史の墓石にも。
僕は誰よりも君を見続け、君は僕よりも画面を見続けた。
くろいさん
が、君が顔を上げた途端、目を逸らした。
何度見ても、新井百合香からのメールの文面は、僕を心底がっかりさせた。そしてもう、自分に関わる何もかもが嫌になって、そのスマートフォンを川に投げた。スマートフォンは川面で跳ねて、向こう岸にいる新井百合香の足もとに落ちた。
震える手足
その後、見事に川面を跳ねて返ってきた。
穴の深さを確かめる為、先生は私のスマホを古井戸へ放った。
TOKUNAGA
涸れ井戸だった。
時をかける親指が、タイムラインを遡る。
赤嶺総理
「時かけ」親指編。
四畳半はスマホで敷きつめられていた。
ほりあき
知的さと貧乏臭さの融合。
北西の方角から新着のろしが一件あり、殿は朝からたいそうご機嫌であった。
prefab
「新着のろし」が秀逸。
三回忌、婆ちゃんの部屋で携帯電話を見つけた。今時珍しい二つ折りの旧式のそれを開くと、可愛いらしい押し花が挟まっていた。
チョイトイ
毎年命日に開こう。
「いざという時に持っていて良かったです」犯人の血で汚れた携帯を持ち、彼女はにこやかにそう答えた。
夏猫
まさかの護身機能。
ケータイのメール送信ボタンを押したら、手紙を持った小さいおじさんが発射され、伝書鳩にさらわれて行った。
みー
頭、鷲づかみされて。
ついに自分の我が家での地位がスマホより下になってしまった。
ジョンレモン
カマボコの板扱い。
「カンベンしてくださいよー!」と言いながら恐る恐る手を入れる。箱の中身はスマートフォンだとあらかじめ聞かされていた。
ただの県民
リアクション泣かせ。
携帯がバラの香りを放ち着信を知らせる。父からだ。
もけもけ
軽い苛立ち。
同じテーブルに3人の男女。各々スマホをいじっている。3人とも目を合わせようともしない。傍からみれば他人のように見えるが、各々の指にはそれぞれの怒りが込められている。
サンフラワー
電波上では殴り合い。
彼女から届いた別れのメールを、俺は摘まんで弾き飛ばした。
ハザマ
メールの書き出しで内容察した。
受信ボックスには「母さん携帯持ちました」と件名の書かれた本文なしのメールが八通あった。
トミ子
実話っぽいところがいい。
「何かあったらいつでも連絡して」「ありがとう、でも私、携帯持ってないの。これならあるけど」その時僕は初めてホラ貝なるものを見た。
ふじいり
元祖ケータイ?
マウナケアの国立天文台ハワイ観測所が受信した、一万光年彼方の地球外生命体から送られてきた謎の信号。世界最高の頭脳が結集し、四年の歳月をかけて解読したそのメッセージは、コテコテのスパムメールであった。
矢島
一万光年彼方の寂しい人妻より。

以上である。
いまやケータイは我々の生活に欠かせない反面、それに振り回されることへのストレスも感じさせる。TOKUNAGA氏、ジョンレモン氏、夏猫氏、サンフラワー氏、ふじいり氏らの作品にはそうした世の中へのそこはかとない苛立ちを感じる。
一方、イトーダ氏、ハザマ氏、チョイトイ氏、赤嶺総理氏らの作品には、ケータイ社会だからこそ生まれた静かな叙情性が含まれている。 しかし苛立ちの中にはそれを笑ってしまう余裕も感じるし、叙情性の中には冷ややかな諦めも感じる。どちらにもケータイという現代を象徴するアイテムの二面性が出ているようにも思う。
ネタ系はいつも通りのハイレベル、トミ子氏の実話的なエピソードも面白かった。


さて、それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
先日、関東も梅雨入りとなった。今回は時候的なテーマ「雨」とした。雨に関するエピソード、雨にまつわるアイテム、傘やてるてる坊主、また梅雨を感じさせる風景、アジサイやカタツムリ、タイルのカビなど、どのように組み込むかが肝となるだろう。今回はしっとり系というか、感傷的な美しさが滲む作品にも期待したい。

さて、締め切りは6月8日正午、発表は6月10日を予定している。自由部門、規定部門を選択し以下の投稿フォームで応募されたし。力作待っています。
最後にお知らせ。
書き出し小説のイベント企画が進行中です。6月30日、場所はお台場のカルチャーカルチャーを予定しています。詳細が決まりしだいデイリーポータルZホームページ、ツイッターなどで発表致します。よろしくお願いします。
最終選考通過者

こめ/たぬき/xissa/おかめちゃん/深幸/ちかぞお/g-udon/アグネル・ジャン/穂鮫十恵香/とら兄/トミ子/ほかほかまんじゅう/彩虹/あこ/ぽこあぽこ/くらひろの順番/スゥィッと/大倉野のりゆき/井上だいすけ/荒木若干/悲しげな女が踊る/K.S/にたいし/哲ロマ/鴻惠瑞/えぬ/ねことか/ハリねず/菅原 aka $.U.Z.Y./
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