フェティッシュの火曜日 2013年6月11日
 

純白の植物 「ギンリョウソウ」を探して

緑色じゃない!
緑色じゃない!
植物といえば緑色。緑色といえば植物。これは世界中の人々に共通した常識だと思う。しかし世の中には真っ白な、というかもはや半透明に近い植物が存在する。非常識なやつである。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。
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日本中に生えるらしいが、あえて長野へ

10歳くらいの頃だったと思う。親に買ってもらったばかりの野草図鑑を眺めていると、妙な植物の写真を見つけた。形はそこまでヘンテコではないものの、葉っぱも茎も真っ白なその姿は、緑あふれる図鑑の中で浮きまくっていた。それが件の植物、「ギンリョウソウ」との出会いである。
写真の中のギンリョウソウはとても不思議で綺麗で、僕の心をわしづかみにした。この目で見てみたいと思った。しかしなかなか出会えないまま大人になってしまった。
長野は山、というか緑がとても多い。今日はこの中から「白」を探し出す。
長野は山、というか緑がとても多い。今日はこの中から「白」を探し出す。
周囲の植物好きや登山好きに尋ねると、皆口をそろえて「案外どこにでも普通に生える」と言うのだが、生育場所をピンポイントで覚えている人はいない。

「見られるかどうかは運次第なのかな〜」と諦観していたところ、Twitter上でたまたまギンリョウソウに関するツイートを発見した。つぶやきの主に連絡を取ってみると、彼女は長野県のある場所で毎年ギンリョウソウを見ているという。詳しく話をうかがっていると、なんと直接現地へ案内していただけるということになった。渡りに船とはまさにこのこと。まったくありがたい。

超強力な助っ人、その名は「とよ田キノ子」!

現場は意外と整備された道へ案内される
現場は意外と整備された道へ案内される
長野県伊那市在住である案内人の名はとよ田キノ子さん。もう名前から判断できるとおり、無類のキノコマニアであり、キノコモチーフのイラスト展やキノコ関連のイベントを開催している人物だ。(ご意向によりお顔は伏せさせていただきます)

彼女は毎年6月頃、キノコを観察するために訪れる森でギンリョウソウを目にするのだという。林の地面を見させたらキノコ好きの右に出る者はいないのかもしれない。
幼稚園児からおじいちゃんおばあちゃんまで散策を楽しんでいる。
幼稚園児からおじいちゃんおばあちゃんまで散策を楽しんでいる。
…正直に言うと、彼女の案内があってもそうやすやすと見つからないだろうと思っていた。何せ相手は僕の中ではいまだに幻の植物なのだ。捜索当日は朝から晩まで予定を空けておいた。

長野と言えばとても「緑」豊かな県である。その中から今日は一点の「白」を見つけなければならない。九牛の一毛という言葉があるが、まさにそれくらいの根気が要ると考えたのだ。
だがどんな薮でも獣道でも進んでやるぜ!待ってろギンリョウソウ!と意気込んでいたのだが、連れてこられたのは整備の行き届いたとあるハイキングコース。この日は地元の幼稚園児たちが遠足に来ていた。

は…?
ハイキングコースの脇に広がる木陰がポイントらしい
ハイキングコースの脇に広がる木陰がポイントらしい
おかしいな。人の入った形跡のない山の中で、クマの影におびえながら感動の出会いを果たすというシナリオを思い描いていたのだが。
エキゾチックでかっこいいマムシグサの花
エキゾチックでかっこいいマムシグサの花
いささか拍子抜けはしたが、信州の林に立ち入るのは九州・沖縄で育った僕にとって初めての経験であり、本やネット上でしか見たことのなかった植物や虫が次々飛び出してくる。
小さいがかわいい花。特に珍しいものではないそうだが、これも初めて見た。
小さいがかわいい花。特に珍しいものではないそうだが、これも初めて見た。

あっけないほどほどあっさり、これでもかと言うほど大量に見つかる

とよ田さんが言うのだから当たり前なのだが、なんとなくこれは期待できるかもしれない。そう思った瞬間…!
ん?ウソ…?
ん?ウソ…?
林床に白いものがちらほら見えた。まだハイキングコースについて5分と経っていないのだが、まさか…。
え?ホントに…?
え?ホントに…?
ギンリョウソウだー!!
ギンリョウソウだー!!
真っ白い草が落ち葉の間からにょきにょき顔を出している。間違いない。ギンリョウソウだ。図鑑で見たのと一緒だ。いや、図鑑の写真よりも綺麗だな。

真っ白というよりちょっと大げさに「純白」なんて表現したほうが、透き通った色合いをより正しく伝えられるかもしれない。ファンタジーの世界の植物みたいだ。
この幻想的な外見が「幻の植物」という僕の勝手なイメージに拍車をかけていたのだ。
数本ずつかたまって、林の中に散在している。かたまりごとに花の向きがある程度揃っているようだ。
数本ずつかたまって、林の中に散在している。かたまりごとに花の向きがある程度揃っているようだ。
しかしあっちにもこっちにも、間隔をあけつつもたくさん生えている。
見放題。写真も撮り放題。30分ほどで何十株、何百本見つけたかわからない。
もう一生分のギンリョウソウを見ただろう。いや、来世の分も前世の分も30分で見てしまったかもしれない。
先端のふくらみは花。めしべやおしべの部分は紺と黄色。
先端のふくらみは花。めしべやおしべの部分は紺と黄色。
この草は植物でありながら光合成で栄養を作ることをしない。だから光合成に必要な緑色の色素を持っていないのだ。そのため花の内側以外は茎も、申し訳程度の葉っぱも透けた白色なのである。

ではどうやって生きているのかと言うと、地下でベニタケの仲間の菌類に寄生し、養分をもらっているのだそうだ。なるほど、生育地がとよ田さんの活動範囲にかぶるのも必然だったわけだ。
「花が開くと目玉の親父っぽいですよね」ととよ田さん。なるほど。
「花が開くと目玉の親父っぽいですよね」ととよ田さん。なるほど。
ギンリョウソウとは漢字で書くと「銀竜草」である。名前までファンタジック!
色については言わずもがな。うつむき加減の花と細長い茎、そして鱗のように小ぶりな葉が、首をもたげて立つ龍を連想させたのだろう。

ちなみに「ユウレイタケ」という別名で呼ばれることもあるそうだが、個人的にはギンリョウソウの方がクールだと思う。
まだ背が低くつぼみが開ききっていない株もあった。
まだ背が低くつぼみが開ききっていない株もあった。
とよ田さん曰く、今年はギンリョウソウが顔を出すのが例年より少し早かったそうだ。しかし、この空梅雨で湿気が足りないせいか、ちょっと元気がないように見えるし数も少ないのだという。

えっ、これでも少ないんだ…。
もっと元気なギンリョウソウが、もっとたくさん生えていたらそれは綺麗なんだろうなあ。
コケが似合う!
コケが似合う!
撮影していて気づいたのだが、この草はコケのそばに生えているとより綺麗に見える。コケの緑がギンリョウソウを引き立てている感じがするのだ。やはり植物は植物。緑色との相性が良いようだ。

とよ田さん曰く「ちゃんと雨の降る年はギンリョウソウの周りのコケもたくさん茂って綺麗ですよ。」とのこと。
うーん。じゃあやっぱり来年ももう一回見に行かなきゃいけないな!
パンツ丸見えでも気にしない。男なんだし。いや、もし女性に生まれていてもこの時は興奮して気にしなかっただろうな。
パンツ丸見えでも気にしない。男なんだし。いや、もし女性に生まれていてもこの時は興奮して気にしなかっただろうな。
取材後、とよ田さんに撮影してもらった写真を確認していて気づいたのだが、ギンリョウソウに興奮して地面を這いつくばっている間にズボンが下がってパンツが丸出しになっていたらしい。長野の美しい緑の中に見苦しいものが写りこんだ写真がちらほら混じっている。気合を入れるために赤いパンツをはいてきたのが仇となったか。まあいいけど。

わからないことがあったら人に聞こう

とよ田キノ子さんという協力者のおかげでギンリョウソウはあっさり見つかった。道に迷ったときと同じく、見つからない生き物がいるときも人に聞くのが一番いいのだと思った。
実を言うと、とよ田さんとはこの日が初対面であっのだが、とても気さくに、そして親切に案内をしていただいた。
取材後、たっぷり余った時間に本サイトでもたびたび取り上げられる伊那市のローカルグルメ「ローメン」(林さん 玉置さんの記事があります。)を食べながら、長野の自然についていろいろと興味深いお話を伺った。また長野に来ようと思った。
この日食べたのはソース焼きそばっぽいタイプのローメンだったが、これ以外にも店によってバリエーションが豊富にある料理なのだそうだ。
この日食べたのはソース焼きそばっぽいタイプのローメンだったが、これ以外にも店によってバリエーションが豊富にある料理なのだそうだ。
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