ロマンの木曜日 2013年7月11日
 

書き出し小説大賞・第25回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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書き出し小説秀作発表第二十五回目である。

先ごろ開催された「DPZ 第一回書き出し小説大賞授賞式」は皆様のおかげで無事盛況のうち幕を閉じた。その報告は後に記するとして、まずは今回も淡々と物語の冒頭開発に勤しむ、書き出し作家たちの秀作を紹介しよう。

書き出し自由部門

プールに浮かぶ月は彼女のバタ足にゆらゆらと揺れた。
夏猫
浸れる書き出し。
三回目の路上教習中、タイムマシンと衝突した。
紀野珍
歴史の改竄を未然に止めた?!
なんでお前のギプスの寄せ書きの文字はさかさまなの?
おかめちゃん
キレイな考えオチ。…自分で書いたのね。
十年前の横顔じゃんけん大会決勝戦で、正岡子規を出した私は負けた。
スティック海苔
「横顔ジャンケン」なるネーミングの勝利。たしかに正岡子規は強い。
走馬灯のラストは、ファウルボールを紙コップでキャッチしたシーンであった。
大伴
その静止画に「完」のテロップが。
父が失くした議員バッヂが、追分食堂の蛍光灯からぶら下がった、ヒモの先で発見された。
アイアイ
シャドーボクシングの的。
その時早希は、自分が、悪口を言う為だけに掘られた穴のようなものであることに気がついた。
小夜子
口の堅さには定評がある。
課長の嫌味は或る時、美しい結晶となった。
TOKUNAGA
琥珀色の嫌味。
辞書そっくりの角煮をほぐすと、父はどんどん言葉を失っていき代わりに近所の猫が喋れるようになった。
たまたま
連鎖するシュール。
ドアノブを取ってみた。自分の世界がまた広くなった。
ハラセン
不便という可能性。
肉厚な黒光りの海パンは、迷いのない隆起を描く。続々と集う、国道の果てに。
booo_booo
エッジの効いた夏の光景。
告白を始める前に私がなぜドクダミの群生する日影に心惹かれるようになったのか説明したい。
wabisuke
なぜ説明したくなったのかを知りたい。

常連夏猫氏は得意の世界観。今回もずっとこの世界に居たくなる書き出しである。スティック海苔氏の作品は不遜ながら後半を削らせていただいた。「横顔ジャンケン」と正岡子規だけで充分キマってると思う。小夜子氏の作品、早希は自分が悪口を言う側でなく「王様の耳」の穴のような存在なのだろう。無口な少女の心理が出ている。たまたま氏の作品、意外な比喩の後の畳みかけるような不条理が気持ちいい。とぼけたユーモアもある。ハラセン氏の作品、ドアノブがないと実質的な世界は狭くなるはずだが、そこをうっちゃった解釈が思わぬ深みを出した。booo_booo氏は特異な世界観。シュールにデザインされた光景がかっこいい。

続いては規定部門、今回のモチーフは「匂い」であった。書き出し作品の行間から漂う芳香、悪臭をかぎ取って欲しい。

書き出し規定部門(モチーフ・匂い)

その香水は、世界一臭い汗を極限まで薄める事で出来上がる。
prefab
なんとなく真理っぽい。
西瓜の甘い香りに誘き出されたのは、クワガタと僕と祖母。
不眠
壮絶な三つ巴戦が!
闇金融の男は夕焼けの匂いがした。
TOKUNAGA
匂いを通して絵も浮かぶ。
おばあちゃんがくれるお年玉はいつも、バスクリンのにおいがした。
おかめちゃん
バスロマンではない。
こんな都会の雑踏の中で一瞬、田舎のおばあちゃんちの匂いがした。おばあちゃんが居た。
哲ロマ
いきなり結末!
久しぶりに嗅ぎに行こうかと寄ったそば屋の排気ダクト下には既に先客がいた。
哲ロマ
※行列で出来る排気ダクト。
会衆の中から迷うことなく私を選び出した司祭は、そっと私の頭頂部のにおいを嗅ぐと司教をふり返ってゆっくりとうなずいた。
wabisuke
あの司教の帽子の形も匂いと関係が?
突然の衝撃と爆発音。目の前にぶら下がる酸素マスク。いつか見たパニック映画と同じじゃないか。そう思いながら私は必死でマスクを掴み口に押しあてた。一昨日別れたばかりの彼の匂いがした。
着信メモリー
前振りの設定が上手い。
木こりとヒグマの格闘よりも、ギャラリーのほとんどは、彼が火にかけたままのシチューの焦げた匂いが気になっている。
ジャイアン
ほのぼのしました。
空気清浄機が活発に作動しはじめた。どこかにあいつがいる。
大伴
フィルターが見たことない色に!
子どもがふたり、かわりばんこに消しゴムの匂いをかいでは笑い転げている。
xissa
子どもは「臭い=おもしろい」
仰向けになった蝉の死骸を拾って嗅ぐと、なぜだか白檀の香りがした。
g-udon
蒔絵の箱にしまいたい。
彼女の匂いをどうにかめんつゆに例えることができた。
ジョンレモン
その汗で素麺食べたい。
蝋燭の匂いが鼻先で揺れる。次はムチの出番だ。
夏猫
目隠しされてる設定。
「あー、犬の匂い犬の匂い」と、頭を嗅がれた事がありますか?犬なのにですよ? 
921
犬のキャラがかわいい。

以上である。

prefab氏の作品は「匂い」という神秘の一端を垣間見せてくれるような作品。真偽は別にしてたしかな説得力がある。常連TOKUNAGA氏の作品、商店街に漂う揚げ物の匂いや人いきれが夕焼けの風景と共に鮮やかに浮かぶ。闇金融の男が背負う人生も「匂わせ」いつもながら秀逸な作品。哲ロマ氏の作品、書き出し小説的にはかなり禁じ手だが、この結末を出されたら仕方ない。居たんだから!wabisuke氏の作品を読んでローマ法王の帽子を思い出した。あの帽子は漏れる匂い(司教臭)を抑えるためだろうか?ユーモア系も手堅い作品が揃ったが、もう一歩文章自体に匂いを感じさせる作品があればという気もした。困難なのはたしかだが再チャレンジしたいモチーフである。

それでは次回のモチーフは発表する。
次回モチーフ
怪談
今回は夏の風物詩、怪談をモチーフにしてみた。もちろん書き出しのみなので結末は不要だ。書き出しだけでその後に待ち受けているであろう恐怖の展開と結末を感じさせて欲しい。
怪談と言えばジャンルとしても完成されているし、その書き出しもある程度決まっている。それら定型をどう料理するか。怪談っぽささえあれば無論、笑い系でもオッケーです。背筋の凍るような書き出しを期待します。
それでは先日6月30日、お台場カルチャーカルチャーにおいて開催された「DPZ 第一回書き出し小説大賞授賞式」の報告に移る。

DPZ 第一回
書き出し小説大賞授賞式
写真
当日は夏到来の暑さの中、大勢の書き出し作家、また書き出しファンの方々にお集まりいただき会場はほぼ満席の盛況ぶりとなった。ご来場いただいたみなさんには改めて感謝したい。 昨年10月からはじまった当企画に寄せられた作品は実に1万7千通を越え、各賞はこの中から更に厳選されたノミネート作60作品を対象に選ばれることとなった。審査員は私、天久聖一、林雄司氏、しまおまほ氏、大北栄人氏の四名。壇上に上がり会場のみなさんと一緒に作品を鑑賞した。

当日は劇団野鳩所属、佐伯さち子氏が朗読嬢として作品を紹介してくれた。身長170センチ、普段は図書館勤務いう大型文系女子である。午前の喫茶店風軽音楽の中、作品はスクリーンに縦書きで映し出され、次々と読み上げられる。佐伯嬢の少し籠もった素朴は口調は作品の味わいをさらに深め、会場は静かな熱気と余韻に包まれた。

前半終了後、飛び入りゲストとしてなんと芥川賞&大江健三郎賞作家、長嶋有氏が紹介された。実は長嶋氏は書き出し小説への応募歴もあり、その際見事秀作を獲得されノミネート作にも名を連ねている。急遽長嶋氏にも審査員として参加していただき各作品への感想など伺った。文学的見地から発せられる膝をうつ解説はさすが一流作家のひと言であった。

途中、私が「ほぼ日」で連載している「味写道」を紹介するコーナーも挟み、全作品の紹介が終了。各賞の審査に移った。また会場が決める「書き出しラヴァーズ賞」の投票も同時に行われた。審査は口角泡を飛ばし、一時は刃傷沙汰寸前の激論を戦わせたが最後は全員納得の結論を迎え、互いに抱擁熱い涙を流し合った。それでは激論の末決定した各賞を発表しよう。
天久聖一賞
ゆで卵をテーブルに立てて見せた男の金色のまつげがチラつき、その夜イザベラはなかなか寝付けなかった。新大陸なんてぜったいあるはずないんだから…。 。
ぱぱす(自由部門)
林 雄司賞
オラウータンと握手しようとして、右手をぐしゃぐしゃに潰されたことを除けば、概ねいい人生だったといえるんじゃないかな。
井上だいすけ(自由部門)
しまおまほ賞
楽なのは肉体だけ、肉体だけなのだ。
すり身(規定部門・無職)
長嶋 有賞
「ねんど」だ! 高校以来だから10年ぶりか。ものすごくいい女になってる。ああ、本名が思い出せない。
さいしんどう(自由部門)
大北栄人賞
母は新しい母とハイタッチを交わして、去って行った。
義ん母(規定部門・母)
最優秀作家賞
TOKUNAGA氏
書き出し小説最優秀賞
(ナオタガワ賞)
&書き出しラヴァーズ賞
メールではじまった恋は最高裁で幕をとじた。
Yves Saint Lauにゃん (規定部門・失恋)
各作品、まさに書き出し小説大賞第一回にふさわしい珠玉の受賞作である。とくに最優秀賞は会場、審査委員満場一致。作者のYves Saint Lauにゃんは会場にも来られており、直接栄誉の赤ベレー帽を戴冠させていただいた。また当企画開始から常にその秀作で書き出しシーンを牽引してくれたTOKUNAGA氏には特別に最優秀作家賞を贈らせていただいた。受賞作、ノミネート作すべての栄誉を讃える。
写真
以上、第一回書き出し小説大賞授賞式は盛況のうちに終了した。会場のみなさんと作品を鑑賞し、改めて書き出し小説は書き出し作家の創意と、それを味わう読者のイマジネーションによる幸福なコラボレーションであると実感した。今後の秀作に期待したい。

さて、次回の締め切りは少し期間が空き、7月28日正午である。発表は7月30日を予定している。以下の投稿フォームで自由部門、規定部門いずれかを洗濯し応募して欲しい。今回授賞式の報告に伴い紹介できなかった6月月間賞の発表も次回に譲る。それではみなさまからの力作、お待ちしております。
最終選考通過者

黒船鬼太郎/ZERU/赤嶺総理/新品の畳/カズタカ/イコウ様/scalar/椿四十郎/ねこじゅ/よしおう/ただの県民/亜樹/ベム人間妖怪/とこま/兎は月を見てぴょんと跳ねた/北関節/
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デイリーポータルZ新人賞

 

 
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