特集 2013年7月22日

麺類が甘い街、松山

これ、甘いんです
これ、甘いんです
出張で愛媛県の松山に行った。何かおいしい地元の食べ物があるかな、と思って調べていると、松山ラーメンというのを発見。その名前は今回初耳だったのだけど、その特徴も今まで聞いたことがないものであった。どうも甘いらしいのだ。甘いラーメン…!?

それはそれとして、松山の人は夏でも鍋焼きうどんを食べるらしい。へー、と思って調べてみると、これまた聞いたことがないような特徴があるらしい。甘いらしいのだ。甘いうどん…!?
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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File1:甘いラーメン

取材前に地元出身の人と話す機会があった。「ラーメンが甘いって聞いたんですけど」ときくと「え、なにそれ?」という反応。「松山ラーメンって甘くないんですか?」と食い下がるも「松山ラーメン??」と更にぬかるみへ。

そのあと別の、ラーメンが好きだという人を呼んできてくれた。その人にきいてようやく、である。
「あー、ありますね、甘いの。瓢太とか。」
ここが瓢太さん
ここが瓢太さん
どうやら僕がネットで見つけた「松山ラーメン」っていうのは地元でもそんなに浸透した用語ではないらしい。
そのラーメン、「僕は好きですけど、苦手な人もいますね」という。理由はもちろん、甘いから。
店内に入ったとたんに甘いにおいが……しない
店内に入ったとたんに甘いにおいが……しない
年季の入ったメニュー表
年季の入ったメニュー表
お店の張り紙には「開店33周年」と書いてある。僕が今月ちょうど33歳になったばかりで、同級生である。
お店の方に「甘いラーメンがあると聞いてきたんです」と伝える。特別な「甘そば」みたいなメニューがあるわけではなく、普通の中華そばを注文すればいいらしい。
そして出てきたのがこちら。
普通のラーメン
普通のラーメン
な、何の変哲もない!スープの色が白っぽいけど、こってり系のラーメンにはよくある色あいである。
以前アイスクリームラーメンの取材について行ったことがあるので、甘いと聞くとついこういうアグレッシブなやつを連想してしまうのだが、普通のラーメンだった。

実際食べてみると、しょうゆスープのラーメンなんだけど、確かにけっこう甘い。スイートコーンの缶詰のシロップ、あれ薄ら甘いじゃないですか。あれくらいの甘さ。(甘さの度合いの話で、味が似てるわけじゃないです)。
鍋の後にうどんいれると、たまに野菜の甘みが出てることがある。あれと同じで、確かに甘いんだけど、奇をてらったそれではない。普通にごはんとして成立する甘さだ。(なんたってこれで33年商売してるのである。)

ただ、これだけでは終わらない。へー、と思って感心しながら食べていると、強烈なのが待ち構えていた。
この肉
この肉
こいつだけは手加減なしの本気の甘さだった。食べた瞬間、脳裏に浮かんだのは生クリームのことだった。
極度に甘く味付られた肉というのは油+甘味で構成されており、その点で生クリームと変わらない。これ、完全にスイーツなのである。
ちなみにおでんもありました。こっちも甘いのだろうか
ちなみにおでんもありました。こっちも甘いのだろうか
この松山ラーメン、ネットで調べると「松山ラーメンという一派があって、瓢太、瓢華など『瓢』の字を冠した店名がついていて、総じて甘い」というようなことが書かれている。

でもお店の人に聞いてみると
「うちは確かに甘いけど、他のお店はどうだかよくわからないですねー」
「甘いとしたら、松山はしょうゆの味が甘いからそのせいかも」
と、意外に他店には無関心で、あんまり「一派」みたいな繋がりはないようであった。老舗の余裕であろうか。

ちなみにこの店のスープが甘い理由だけど、 「うちは、隠し味で甘くしてるんです。それが何かは秘密です。」
とのことであった。隠し味。やっぱりアイスかな…(違うと思います)

File2:甘いうどん

松山の人は夏でも鍋焼きうどんを食べるし、鍋焼きうどんは松山のソウルフードと言われている。
有名なお店が2店舗あって、片方はこの記事にでてきた「ことり」。もう一つが今回いってきた「アサヒ」である。「ことり」はそうでもないみたいだけど、どうやら「アサヒ」の方は甘いらしいぞ。(ここまでガイドブック情報)
素朴な書体ののれんがいい
素朴な書体ののれんがいい
奥の部屋っぽいところは座敷席
奥の部屋っぽいところは座敷席
味のある張り紙。「asahi」のロゴがアサヒ飲料のウーロン茶なのか、それとも店名なのかは不明
味のある張り紙。「asahi」のロゴがアサヒ飲料のウーロン茶なのか、それとも店名なのかは不明
食べ物メニューはうどんの玉子あり/なし、いなりずしの3種類
食べ物メニューはうどんの玉子あり/なし、いなりずしの3種類
玉子なしの鍋焼きうどんを注文しました
玉子なしの鍋焼きうどんを注文しました
文句なしにうまそう
文句なしにうまそう
土鍋じゃなくこのアルミの鍋に入ってくるのが松山の鍋焼きうどんの特徴らしい。
つゆは関西系の透き通った色。一口食べてみると…
微甘!
微甘!
うん、つゆがほんのり甘い。甘くておいしい。
壁の張り紙には「まだ甘いものが貴重だった昭和二十二年に、曾祖父の考案で誕生しました」と書いてある。
いくら甘いものが貴重だからってうどんで摂取せんでも、と思うがそれで美味しくなっているんだから結果オーライである。
お店は今年で66周年。老舗だった瓢太の、さらに倍の老舗である。
そしてやはり肉が甘い
そしてやはり肉が甘い
そう、やはり肉は甘いのだ。こちらは瓢太の肉の直球の甘さとは違って、煮物の甘さ。ごはんなど主食にも合いそうな味だ。(実際うどんにあってる)

お店の方にきいてみると、この鍋焼きうどんの甘味の出所は、甘く味付けした肉と揚げだという。そういわれて改めて食べてみると、肉は甘く、揚げはそうでもない。きっと元々甘かった揚げの甘味が全部しみだして、つゆの甘味を作っているのだろう。
レンゲの魚マークが可愛い
レンゲの魚マークが可愛い
東京から来たんです、と言うといろいろ話をきかせてくれた。ほかの材料は今まで何度か変えたこともあるが、蒲鉾だけは八幡浜(愛媛にある漁業が盛んな町)のおなじ蒲鉾店からずっと仕入れているとのこと。蒲鉾からうまみや塩味が染み出すから、甘味が強くてもこのうどんが食事になっている。この蒲鉾がないと甘いだけのおやつになっちゃうからね。そういう担保があっての、この甘味だったのだ。
八幡浜の場所を図で説明してくれたり、観光地図やガイドブックまで持ってきてくれた。親切!
八幡浜の場所を図で説明してくれたり、観光地図やガイドブックまで持ってきてくれた。親切!
「松山はラーメンもうどんも甘いって聞いたんですが、何か関係があると思いますか?」ときいてみた。
関係があるかはわからないけど、松山人の舌なんだとおもいますよ。甘いものが好きなのは。
舌かー。66年の歴史を背景にいわれると、もう納得するしかない。
棚に並べられたいなりずしが可愛かった
棚に並べられたいなりずしが可愛かった

おまけ:再びラーメン

甘いラーメン、うどんときて、最後にもう一度ラーメンである。なんでここだけ「おまけ」なのかというと、取材のつもりじゃなくて普通に飲みに入ったので、写真もあんまり撮ってないし、記憶も微妙におぼつかないからである。ごめん。
北山軒というお店。「元祖松山ラーメン」っていう看板が出ていた(この写真はは翌朝撮ったので出てない)
北山軒というお店。「元祖松山ラーメン」っていう看板が出ていた(この写真はは翌朝撮ったので出てない)
一緒に出張していたウェブマスターの林さんと二人で飲みに入ったのだけど、店のお母さんの話が面白くて、ほとんどずっとその話を聞いていた。(おもに、店にきた有名人に知らずに接してあとで肝を冷やした話、だ。)

そして締めに「中華そば」。
こちらは比較的透き通ったスープ
こちらは比較的透き通ったスープ
ほのかな甘み。言われずに食べたら、もしかしたら別に甘いと思わないかもしれない。自然な味だった。(たしか)

この甘味はどこから来るのか聞いたら、実はよくわからないのだという。砂糖や甘い調味料は入れていないので、ダシの甘さだと思う、以前詳しいお客さんが来たときは「骨の髄の甘味じゃないですかね」と言っていた、とのこと。

その後、お母さんが店にきた福山雅治さんに「福山雅治に似てるね!」と言ったという話を聞きながら、この日の宴は幕を閉じた。

ほんとに甘かった

うん、たしかに甘かった。しかし、「隠し味で甘くしてる」「具が甘い」「出汁からにじむ甘さ」と、甘味の出所が全くバラバラなのは意外だった。こうもバラバラだと、どうやら、どこかのお店が発明した甘い味付けをみんなが真似した、という事情ではない気がする。ここはアサヒで言われた通り「松山の人が甘いもの好き」というところに尽きるのではないだろうか。
松山にはタルトというお菓子があって、これも甘かった。と思ったけどお菓子が甘いのは普通か
松山にはタルトというお菓子があって、これも甘かった。と思ったけどお菓子が甘いのは普通か
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