特集 2013年8月26日

名は体を表さない?食べ物たち

それはどうだろう
それはどうだろう
「名は体を表す」という言い回しがある。「ものの名前は実体と通じている」といった意味の言葉だろう。パソコンのマウスはネズミに似ているからマウス、といった話だ。

しかし、中にはそうでもないものもある。個人的に、特に気になったのは食べ物だ。名は体を表しているかどうか、疑問に感じた食べ物たちを調べてみた。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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つっこみが細かい

食べ物の中でも、しっかり名は体を表しているものはたくさんある。肉じゃが、目玉焼き、うまい棒。名前と実体はちゃんとつながっている。

ただ、どうだろうと考えさせられるものも多々ある。きっかけになったのはこれだ。
昔からある駄菓子、どんどん焼
昔からある駄菓子、どんどん焼
お前、ほんとに焼いてある?
お前、ほんとに焼いてある?
子供の頃からある駄菓子、どんどん焼。カテゴリーとしては米菓ということになるだろう。

いつだったか、これを食べながら「どんどん焼って言うけど、これって焼いてる?」と疑問に思ったことがある。どうも揚げてる気がするのだ。
20円のお菓子にしては言葉遣いが過剰に丁寧
20円のお菓子にしては言葉遣いが過剰に丁寧
パッケージをよく見ると、「サラダ油でフライにして」とはっきり書いてあった。やっぱり焼いてない!

「うすうす感づいてはいたが…」と思いつつ、あっさり認めていて拍子抜け。続く言葉は「口あたりを良くあなた様のお口に合います様調理いたしました」と、慎ましい。最後まで読むと「どうぞ私『どんどん焼』をご賞味していただき」と、一人称で言ってることがわかる。

わかった、焼いてないこと責めたりしない。他にも疑問に思う食べ物を調べてみよう。

お前たぬきじゃないだろう

例えば麺類の「たぬき」。地方によって違うが、関東では天かすが入っているうどん・そばのことを指す。
前々から不思議に思っていた
前々から不思議に思っていた
同じく「きつね」はキツネの好物とされる油揚げが入っているため名前とつながるが、たぬきはよくわからない。タヌキの好物としての天かすは変だし、当然タヌキそのものが入ってるわけでもない。
何がどう「たぬき」なのか
何がどう「たぬき」なのか
調べてみると、名前の由来には諸説あることがわかる。そのうち1つは、「天かす、つまり天ぷらのタネ抜きが入っていて、タネ抜きが詰まって『たぬき』」というもの。

なるほど感ある説。名は体を表しているのか疑問に思っても、調べてみるとそれなりに説得力のある話が見つかることもある。

言われても相当わかんない「名は体を表す」

続いて考えてみるのは天乃屋のロングセラー、歌舞伎揚。
なんで歌舞伎なんだろう
なんで歌舞伎なんだろう
袋が歌舞伎風なのはわかる
袋が歌舞伎風なのはわかる
揚げせんべいであることはわかるが、歌舞伎とのつながりは不明だ。

調べてみたところ、メーカーのサイトに説明があった。演劇と菓子という違いはあるが、共に日本で古くから親しまれている歌舞伎とせんべい。これら2つの伝統文化を合体させて、歌舞伎をあしらったせんべいを作ったということらしい。(詳しくはこちら)

だからああいう袋の模様なのね、というわけだが、歌舞伎要素はパッケージだけではない。せんべい本体にもあるのだ。
左が市川團十郎、右が片岡仁左衛門
左が市川團十郎、右が片岡仁左衛門
実はそれぞれのせんべいにも、歌舞伎の家紋が刻まれているのだ。…ただ、かなり見えにくい。個体差もあるが、写真ではわからないくらいだ。

この歌舞伎揚、以前は今より堅いタイプのせんべいで、家紋もはっきり見えていたらしい。現在はソフトに仕上げているゆえ、このように見えづらくなったとのこと。実はせんべい一枚一枚が、名は体を表していたわけだ。

身近な食べ物で考えてみた、名は体を表しているか否か。続いてはローカル食で調べてみよう。
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北の大地で混乱する食べ物たち

やってきたのは北海道の室蘭。この街のローカルフードと言えば、カレーラーメンと室蘭やきとり。このうち、カレーラーメンはばっちりと名は体を表しているのだが、やきとりに謎があるのだ。
室蘭やきとり、昼からやってるのは少数派
室蘭やきとり、昼からやってるのは少数派
訪れたのは鳥安という店。室蘭やきとりはやきとりという食べ物の性質上か、夜にならないと出さない店が多いのだが、この店は昼から食べられる。
室蘭やきとり丼、なのだが…
室蘭やきとり丼、なのだが…
注文したのは室蘭やきとり丼。ごはんの上に串に刺してあるやきとりが4本。ビジュアルとしては一見普通に見えるかもしれない。
いや、君って豚肉だよね
いや、君って豚肉だよね
室蘭では豚肉が「普通のやきとり」
室蘭では豚肉が「普通のやきとり」
しかしよく見ると、肉の様子が何かおかしい。実はこのやきとり、豚肉なのだ。

鶏肉を焼いたから、やきとり。そのはずなのだが、室蘭ではやきとりと言えば豚肉であるのが普通。このねじれについては、室蘭市のサイトに詳しい説明がある。ごくごく簡単にまとめると、「昔、豚モツや野鳥の串焼きをやきとりと呼んだ頃があり、時代が流れて豚肉が主流になっても名前はそのまま残った」というところだろうか。
店内の張り紙、それほど秘伝っぽくないのがいい
店内の張り紙、それほど秘伝っぽくないのがいい
「明らかに豚肉なのに、やきとりって変じゃないかな…」と思った室蘭の人もいる気がするが、たくさんの「ま、いいか」が積み重なって現在があるのだろうか。そういうことってある。

経緯は一応わかったが、今となっては名は体を表してない。しかしそれゆえ、名物性を高めているようにも思える。

練り物コーナーが謎めく北海道

同じく北海道内では、スーパーの魚肉練り物製品コーナーが気になった。
白い部分がシーラカンスみたいな形なのも気になる
白い部分がシーラカンスみたいな形なのも気になる
マフラーである。それは防寒具だろう。

明らかに違うのに、思いっきりマフラーと書いてあるのが衝撃的。方言の一種ならそういうもんかと思うのだが、それとはちょっと違うようだ。パッケージに説明が書いてあった。
個人的には今ひとつ腑に落ちない
個人的には今ひとつ腑に落ちない
北海道ではさつま揚げのことをマフラーと呼ぶらしい。1行目にきっぱりそう書いてある。

形がマフラーに似ているからとのことだが、うーん、どうもピンと来ない。寒い北国ではマフラーが身近であるゆえ、長方形のさつま揚げを見て「これってマフラー」と思ったのだろうか。

説明文でも最後のところは「…という一説があります」と、ぼかし気味。名は体を表しているかどうか微妙な例だ。
まあわからなくはない
まあわからなくはない
同じコーナーにあった「かりんとう揚」。棒状のさつま揚げであるらしく、マフラーよりはネーミングの雰囲気はわかる気がする。

メーカーは大手の紀文。名前以外に気になったことがある。
あの北海道名物料理への提案
あの北海道名物料理への提案
「ジンギスカンと一緒に!」と書いてあるのだ。羊の焼肉と合わせて、かりんとう揚。個人的にはしっくりこない取り合わせだが、北海道では一般的なのだろうか。

そう思ってGoogleで「"ジンギスカン" "かりんとう揚"」と検索をかけると、原稿執筆時点での検索結果は4件。紀文の呼びかけは空振っているということになるだろうか。
念のため、魚肉練り物コーナーです
念のため、魚肉練り物コーナーです
字体もいい感じ
字体もいい感じ
さらに気になったのがこちら。揚げしゅうまいではなく、「しゅうまい揚」。

語順を逆にしただけならともかく、それにしても練り物コーナーにあるのはおかしくないか。ただ、パッケージの写真を見ると、全くシュウマイらしくない。
どう考えてもシュウマイではない
どう考えてもシュウマイではない
パッケージの裏側は透明で、正体がはっきりわかるようになっている。細長い直方体のそれは、全くシュウマイっぽくはない。
食べてもシュウマイはそこにない
食べてもシュウマイはそこにない
3行目、カレー粉が入ってる
3行目、カレー粉が入ってる
食べてみる。甘めのさつま揚げだ。ただ普通と少し違うのは、カレーの香りがほのかに漂うこと。このフレーバーは意外とさつま揚げによく合う。

それでも名前は謎のまま。というより、カレーでさらにシュウマイから遠ざかる。
ネットで調べると、会社関係者の証言があった。考案者がカレー粉を中華食材と思い込んでいて、中華風の商品名にしようと「しゅうまい揚」としたらしい。(参照したページはこちら北海道Linkers)

命名経緯はわかったが、これは「名は体を表してない」と言っていいだろう。それは決してマイナスの意味ではなく、楽しい裏話だとも思う。
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「名は体」検証・パン部門

このページではパンというジャンルに絞って、名は体を表しているかどうかを調べよう。まず疑問に思ったのは、ホットドッグだ。
手持ちの写真が極端なのしかなかった
手持ちの写真が極端なのしかなかった
ホットはともかく、ドッグは犬だろう。ソーセージを挟んだパンであるホットドッグと犬とはなかなかイメージが結びつかない。

名前の由来はいくつか説があるようだ。1つは、もともと長いソーセージのことを体の長さに例えて「ダックスフント」呼んでいたのを、ある漫画家が作品中に「ホットドッグ」と描いたことがきっかけというもの。
お前が食べようとしてるの、すごいのに例えられてるぞ
お前が食べようとしてるの、すごいのに例えられてるぞ
他には、あつあつのソーセージを興奮した犬のペニスに例えたという説もあるらしい。

…そういうのやめろよ、アメリカ人。誰かがふざけて言ったんだろうけど、すごい普及しちゃってるぞ、この呼び方。知ってしまうと、これからホットドッグを食べるときに妙な気持ちになりそうだ。

名は体を表しているかどうか。あまり深く考えたくない話になった。

微妙に違うけど、うまければそれでいい

続いてやってきたのは、福島県白河市にある山田パンとうお店。
街のパン屋さんというたたずまい
街のパン屋さんというたたずまい
バターロールの袋がクラシック
バターロールの袋がクラシック
ここには誰でも名前は知ってるけれど、実体がやや独特なパンがラインナップされているらしい。まずは名前より先に、そのパンの実体を見ていただこう。
知ってるような知らないような
知ってるような知らないような
深さがあるクリーム
深さがあるクリーム
言葉で説明すると、トーストした食パンに白いクリームが塗られているもの、ということになるだろうか。あんパンやクロワッサンのように、一般的な名前が普及しているパンではないと思う。

かじってみると、ミルク味のクリームの厚さが予想以上。パン生地に対してクリームのバランスが高めという構成が個人的にはうれしい。うまい。
知ってるのとは違うなあ
知ってるのとは違うなあ
この商品、名前はフレンチトースト。一般的なものとはかなり違うが、完全に別物とも言い切れないか。

フレンチトーストの作り方を伝言ゲームで伝えたら、こういうことも起こるのかもしれない。名は体を表している度合いの判定が難しい。

べちょべちょした女の子

最後は再び外国の料理を紹介したい。やったきたのは銀座にあるヴィラモウラという店だ。
店名の意味がさっぱりわからない
店名の意味がさっぱりわからない
ポルトガル料理ってどんなのか
ポルトガル料理ってどんなのか
ヴィラモウラと聞いても何もイメージが湧かなかったが、これはポルトガルのリゾート地の名前とのこと。ここはポルトガル料理の店なのだ。

ポルトガル料理。個人的には何も思い浮かばない。どんなものがあるのだろうか。
テーブルの小物にも異国情緒
テーブルの小物にも異国情緒
目的としたのはこれ
目的としたのはこれ
今回食べようと思ってきたのは、フランセジーニャという料理。基本的にはサンドイッチであるらしい。

注文してしばらく、やってきたのはこれだ。
女子か男子かで言えば、男子
女子か男子かで言えば、男子
あれだ、べちょべちょ系の食べ物だ。

ビジュアルはやや捨て気味というスタンス。ならば、おいしさで勝負ということだろう。

下にフライドポテトが敷いてあるなど、なんとなく男子ムード漂うフランセジーニャ。しかしその意味は、ポルトガル語で「フランスの女の子」という意味だ。
かなりの肉食系女子
かなりの肉食系女子
どうしてこういう名前になったのだろう。調べてもよくわからなかった分、考えていると妄想が広がっていってしまう。

中にはたっぷりベーコンなどの肉類がたっぷり挟まっている。間違えて2回たっぷりと書きたくなるくらいの充実度だ。

名は体を表しているか検討すべく、自分の中にあるフランス人女性のイメージと、目の前のべちょべちょしたパンを照らし合わせてみる。…わからない。全く以て不明と言わざるを得ない。

北海道で見つけた「ボリボリ水煮」
北海道で見つけた「ボリボリ水煮」

食べ物について、名は体を表しているか考えてみた今回の試み。なるほどという新発見もあったし、命名のフリーダムを感じたものもあった。

上の写真は北海道のスーパーで見つけた「ボリボリ」。キノコであるようだが、これはどちらかというとフリーダム寄りではないかと思う。
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