特集 2013年9月6日

本当にビックリしている男でビックリマンシールを作る

ニセモノが混じってるぞ!
ニセモノが混じってるぞ!
80年代、子供たちの心を虜にした「ビックリマンシール」。もちろん当時小学生だったぼくも熱中し、ずいぶん集めたものであった。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 新ニホンケミカル TwitterID:tokyo26

みんな知ってますよね? ビックリマンシール

ビックリマンシール。ロッテが発売している1個30円(当時)の「ビックリマンチョコ」の中に入っているシールのことだ。

ビックリマンチョコが大ブームとなったのは1985年。それからすでに30年近く経っているわけであり、今の20代の若者はブームになった当時のことはおろか、シールの存在さえ知らないかもしれない。

「異形のキャラクターを集めて交換する」という意味においては、今の子供たちが、ポケモンを集めて友達と交換するような感覚で、ぼくたちはビックリマンシールを集めて友達と交換していた。

アナログかデジタルかの違いでしか無い。

「ビックリ男シール」を作りたい

ところで、このビックリマンシール。言葉を改めて考えると「びっくりしてる男のシール」ということになる、つまり「ビックリ男(マン)シール」。

自分が何かにビックリしておどろいているところの写真を撮り、それをシールにすればそれはまさに「ビックリ男(マン)シール」といえるのではないだろうか?

こういう、ダジャレを具体化するタイプのネタは誰よりもさきにやるのがいちばんである。
今、Googleで「ビックリ男シール」を検索したところ、見当たらなかったので、今のうちに作っておきたい。

本物のビックリマンシールを手に入れる

当時集めたビックリマンシールは残念ながらどこかへいってしまったので、参考のために新しいビックリマンシールを手に入れたい。

コンビニで今売っているビックリマンチョコを買ってきた。
復刻版のシールが入っている
復刻版のシールが入っている
いつの間にか値段が84円に値上がりしている。前のビックリマンチョコならば2個は買える値段になっていた。

さっそくシールを取り出してみる。
チョコは全部食べました
チョコは全部食べました
ヘッド1枚、天使2枚、お守り1枚が出てきた。

むかしは、ヘッド、天使、お守り、悪魔でシールの出やすさ違っており、ヘッドがいちばん出にくく、悪魔がいちばん出やすかった。

ヘッドのシールが欲しくて、家にあった貯金箱を勝手に持ちだし、箱買いしたのにヘッドが一枚も出なかったなんてこともあった。

しかし、今のビックリマンチョコはいきなりヘッドが出てしまう。公平になったのかもしれないけれど、射幸心を刺激されてハラハラ・ドキドキすることもなくなった。
出やすいので貴重性はない
出やすいので貴重性はない
絵はそんなに変わっていないと思うのだが、地のシールのキラキラが昔のものより豪華になっている。

裏側はどうか?
なんか昔と違う
なんか昔と違う
裏側の意味不明な解説文は相変わらずだが、下にあったイラストがQRコードに変わっている。時代を感じさせる変化だ。

今あらためて見ると、お守りの裏側の解説文はダジャレを駆使しており、よく考えられているのが分かる。
昔は台紙が透明だった
昔は台紙が透明だった
ダジャレが駆使された解説文
ダジャレが駆使された解説文
「口封じを舌って!天使様」である。「したって(してやって)」と「舌」をかけたなかなかアクロバティックなダジャレである。
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どうすればビックリできるのか

さて、次は肝心の「ビックリしたときの顔」である。

そもそも、どんな時にビックリするのだろうか? 最近、声をあげるほど驚いたことってない。

しいて言うと、映画監督の鈴木清順と、クイズ面白ゼミナールの司会をしてた鈴木健二が兄弟だと知ったときに「えー」と声をあげたぐらいだ。

自分のビックリした時の顔ってどうやって撮影すればいいのか?

妻に頼む

こうなると、もう人に頼むしかない。妻に「ウソでいいからなにか、ぼくがびっくりするような事を言ってくれ」と頼んでみた。

自分で頼むドッキリ、セルフドッキリである。

しかし、「今、言われてもすぐじゃそんなに驚かないだろうから、そのうち言う」と言われた。

数日後、そんな頼みごとをしたなんてすっかり忘れたころ、妻があらたまった顔で「ちょっと話があるんだけど」と切り出した。

「今日さ、病院行ったんだけど、妊娠してた」

そう言われたときの顔がこれだ。
え?! なんで?
え?! なんで?
たしかにビックリはした。したけど、なんで? という疑問の気持ちが大きく、こんな顔になってしまった。

しかも「妊娠してた」ってなんだかウェットすぎて、え!というリアクションはとれなかった……。

例えば「逮捕された」とか「隕石にぶつかった」みたいな現実離れしたウソのほうが大きいリアクションをとりやすかったかもしれない。

でも、上記のようなウソは自分が考えたウソなのでいまさらビックリできない。

ちなみに、このあと「青森県と岩手県と秋田県が合併するって知ってた?」と妻に言ってみたところ「そんなのじゃびっくりしねーぞ」と怒られた。

うーん、どうも、いまひとつだ。

絶叫マシンに乗ればいいのではないか?

ビックリしたときの顔を撮るにはどうしたらいいのか?

そうだ、よく絶叫マシンで「キャー」となってるところを勝手に写真を撮り、マシンから降りた時に売っているやつがある。あれを使ったらどうだろうか?
絶叫マシン
絶叫マシン
都内各所の遊園地に連絡し、そういうサービスをしているアトラクションはあるかどうか聞いて回った。
その結果、東京ディズニーランドにいくつかあることが判明した。でも、ディズニーランドは入園料大人ひとり6200円である。

ビックリしている顔を撮るためだけに6200円は厳しい。

どうしたものか。
そうだ、ぼくが絶叫マシンに乗っているところを外側から望遠レンズで撮ってもらえばいいのではないだろうか?
とくに入園料が必要ない東京ドームシティ(旧後楽園ゆうえんち)であれば、ぼくがアトラクションに乗るお金だけでなんとかなる。

さっそく後楽園に向かった。
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大人になると怖さが理屈でわかる絶叫マシン

子供のころはジェットコースターやフリーホールといった絶叫マシンの類はそんなに苦手というほどでもなく、好んで乗っていたものだったが、大人になるにつれ、なぜか恐くなり、足が遠のいてしまっていた。

体重が重くなると、落下時にかかる重力加速度(※重力加速度という言葉の意味をよくわからず使っています)が大きくなり、体重の軽い子供よりも一層恐怖感が増すのだ。

ぼくが勝手にそう思っているだけだが。

東京ドームシティでは、大きなジェットコースターは休止中であり、写真が取れそうな絶叫マシンは「高さ13メートルから水中へダイビング! ワンダードロップ」ぐらいしかなかった。
高さ13メートルからプールめがけてザッパーン
高さ13メートルからプールめがけてザッパーン
カートのようなライドに乗りこみ、13メートルの高さからプールに向かって落ちるというわかりやすいアトラクションだ。

勢い良く水しぶきをあげるワンダードロップを見ていると、あれに乗るのかと、自分が言い出したとはいえ、なんだか気持ちが重くなってきた。

妻に望遠レンズでの撮影を頼む

望遠レンズでの撮影は妻に頼み、ぼくは子供と一緒に絶叫マシンに向かう。
神妙な顔で説明を聞く
神妙な顔で説明を聞く
係員の説明を神妙な顔つきで聞いているのは、絶叫マシンにビビっているからだ。
いよいよライドが動き出す
いよいよライドが動き出す
断頭台に向かうマリー・アントワネットの気持ちが今ならわかる
断頭台に向かうマリー・アントワネットの気持ちが今ならわかる
きた
きた

その瞬間はいっきにきた

ライドがいちばん上まで登りきり、ゆっくりゆっくりと急斜面に近づく。
妻には「下を向かずにちゃんとカメラの方見ててよ」と強く言われたので、カメラを構えている妻のほうを必死に見つめつづけた。
ライドががくんと大きくゆれる、その瞬間。
!
!!
!!
!!!
!!!

ビックリしてるところの写真なのか?

幽体離脱した顔
幽体離脱した顔
つい、下を向きがちになってしまうところをなんとか耐えてカメラ目線の写真を捉えることができた。
必死さはじゅうぶん伝わる
必死さはじゅうぶん伝わる
「撮れた」というよりも「捕れた」と表現したいぐらいの写真が撮れた。しかし、同時に「これ、ビックリしてるところの写真か?」という思いもわいてきた。

「ビックリ」じゃなくて「ビビってる」ところの写真ではないのか?

でも、いまさらごちゃごちゃ考えるのはよくない。これは「地球の重力加速度(※言葉の意味をよくわからず使っています)にびっくりしているところ」の写真である。
そういうことにしておく。
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シール作りをする

次はいよいよシール作りである。
先ほど撮った写真でビックリマンシールを作りたい。
ビックリ男(マン)
ビックリ男(マン)
先ほどの写真をベースにライドで水の中に突入しているイメージの物を作る。このシールを、キラキラのシール用紙にプリントアウトする。
ヘッド用のキラキラシール
ヘッド用のキラキラシール
どんな感じにできあがるかなー
どんな感じにできあがるかなー
……
……
キラキラすぎて見えない。角度によっては見えなくもないが見えにくい。
これではダメだ。もうちょっとキラキラを押さえ気味の銀色のシール台紙でもう一度プリントしなおした。
シルバーのシール用紙を準備
シルバーのシール用紙を準備
若干の気持ち悪さはある
若干の気持ち悪さはある
ひとまず完成である。中の一枚を切り取ってみた。
地球の物理法則と恐怖心にびっくりする自分
地球の物理法則と恐怖心にびっくりする自分
重力加速度のものすごさに「ビックリ」している男。すなわちビックリ男(マン)シール。誕生の瞬間だ。

せっかくだから裏も凝りたい

以上、イラストレーターでシールをあたかも自分で作ったような風に書いてきたが、作業のほぼすべては妻の仕事である。

フランダースの犬で、主人公ネロがひと目みたいと熱望したあのルーベンスの絵も、そのほとんどは、工房で弟子に指示して描かせたものだという。同じようなものである。

ついでなので、シール裏側も作ってもらった。
意味不明さがよく出たと思う
意味不明さがよく出たと思う
裏側の下段で使うイラストに何を使うかでずいぶん悩んだのだが、過去の写真の中で、その変貌ぶりに自分のことながらちょっと「ビックリ」してしまった写真を入れた。
ちなみに元画像はこれだ。
大衆演劇の取材で女形のメイクをしてもらったときの写真
大衆演劇の取材で女形のメイクをしてもらったときの写真

子供は騙せたが……

ロッテルダムのフォントのあたりがこだわり
ロッテルダムのフォントのあたりがこだわり

プリントアウトし、インクを乾かしていると、シールを7歳になる息子がみつけ「わぁー! ビックリマンシールだー!」とうれしそうな声をあげた。

子供は完全に騙せたなと思う反面に、なんだか少しだけふびんな気持ちになった。

当時、社名の部分が「ロッチ」となっている偽物がずいぶん流通していたけれど、そんな偽物を作って売っていた大人も同じような気持ちだったのだろうか?

この仕事が終わったら本物のビックリマンシールを買ってあげよう……。
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