特集 2013年9月10日

書き出し小説大賞・第30回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説秀作発表第三十回目である。

先日、日本が誇るアニメ界の巨匠、宮崎駿氏が長編アニメからの引退を発表した。しかし長編からの引退ということは、おそらく駿氏のなかに短編への意欲が沸き起こっているだろう。世のモードは確実に長編から短編へと向かっている。そしてその先にはさらに短い、書き出し小説の時代が待っているだろう。 それでは今回も時代の空気を敏感に察した、書き出し小説家たちの秀作をご紹介しよう。

書き出し自由部門

森を歩いていると、突然林に出た。
ウウタルレロ
若干まばらになった!
留年を親に告白した結果、罰として母のフラメンコを見る事になった。
もんぜん
もう絶対単位落とさない!
その音楽家の作品はどれもゲームの宿屋のBGMにしか聴こえなかった。
大伴
アルバム欲しい。
背後から迫る影が、どうも千手観音にしか見えない。
みー
縦に重なってる人たちかもしれない。
「砂時計恐怖症」について、三分間お話をさせてください。そう言って彼は、机の上の砂時計をひっくり返した。
Perry The Punch
と、同時に悲鳴が!
男性ヌードモデルは微妙に変化し、あちこちで消しゴムの音がきこえた。
TOKUNAGA
一方、彫像クラスの生徒たちは……
待ち合わせ場所に彼女は来なかった。腹いせに目印にしていた「定礎」を思い切り蹴った。
g-udon
てか「定礎」固ぇっ!
その言葉は祖父のダイイングメッセージであり、偶然だろうが川柳にもなっていた。
紀野珍
お茶のボトルにも載った。
私を一人前に育ててくれた傍ら、母は実話誌のサブカルライターとしてそれは勢力的な活動を行っていた。
かませけんた
カタカナ+漢字のペンネームで。
『人は人が創るもの』そう言い残してインドネシアに一人旅に出た彼は、2日間でただのおっさんになって帰って来た。
ボーズン
オランウータン可愛いよね!
宇宙服を着て険しい山道を登り、頂上に建っていたパチンコ屋でスリッパに履き替え、首にレイを掛けられてるあたりで「どうやらこれは夢だな」と気付いた。
勘定奉行
コンティニューするか。
雷が怖いか否かは恋をしている否かで決まる。みーちゃんが遺していった言葉を、私は今更理解する羽目になった。
酢漿草
恋は稲妻。
なで肩のせいで親権を剥奪された話だったね。
谷丸
続くんですか?
きみがキーボードを打つたびにいくつもあらわれる同じアルファベット。少しも動かない表情筋のかわりに、叩かれるダブリューがかたかたと笑っている。
ととと
それが動画を流れてゆく。
落ち着け。そろばんの答えは絶対だ。
らーゆ
だから揺らすなって!
がらんとしていたので、ぼろんと出した。
もんぜん
高尾行き最終で。

今回も質の高いバラエティに富んだ作品が集まった。ウウタルレロ氏の作品、読後思わずつんのめってしまう微妙な差異が面白い。大伴氏の作品、読むだけで頭の中に単調な電子音が響く。Perry The Punch氏の作品、知的なユーモアを感じる。g-udon氏の「定礎」は是非亀田の柿ピーの「けなげ組」メンバーに入れて欲しい。ボーズン氏の作品、自分探しの旅の終点はただのおっさんなのだろうか。勘定奉行氏、創作では夢オチはもっとも安易な手段と言われているが、私自身常々そこにこそ大きな可能性があると思っている。谷丸氏の作品、聞き手側の困惑の表情を想像してしまう。もんぜん氏、なぜだろう、非常に共感できる作品である。
今回も選考は拮抗し、いつもより多めに作品を選んでしまった。惜しくも選に漏れた作家たちの今後の健闘に期待したい。

それでは続いて今回の規定部門、モチーフは「秋の味覚」であった。それでは早速たたわに実った書き出し作品を味わっていただこう。

規定部門 モチーフ「秋の味覚」

金色のクレパスに最も近い色は梨だ。
TOKUNAGA
……!
買った松茸は全部カレーに入れるつもりだ。
ただの県民
THE・暴挙。
あの娘が買いに来た時だけ、芋をニューヨークタイムズで包む。
義ん母
「スト~ンファイヤ~ポテッ!」
カツオは戻ってきたが、妻は戻らない。
xissa
戻らない勝代。
焼き足りない秋刀魚のはらわたを食いちぎって、えへと笑う妻の口から血がしたたった。
ゴータミー
どす黒いのが。
視覚と聴覚と嗅覚と触覚が、ほんのわずかに後れを取った。
黒船鬼太郎
味覚一着!
松茸ご飯が爆発した。かやくが、多過ぎた。
菅原 aka $UZY
顔中米だらけ。
栗はサルめがけて囲炉裏から飛び出した。そのあとの彼の行方は誰も知らない。
大伴
仕事はしたぜ。じゃあな。
嫁がマツタケを食い入るように見つめていた、義父の私にできることはないか考えた。
大倉野のりゆき
力になりたい。
季節のパフェには深々と、秋刀魚が丸ごと刺さっていた。
ファームかずと
この白いのは大根下ろし?
『甘栗むいちゃいました』パッケージを眺めながら、おばあちゃんは「おおきに。」と言った。私は来月この家を出る。
缶缶
おばあちゃん……
いが栗でジャグリングしながら、野ゴリラが近づいてくる。
おかめちゃん
ゴリラの手の皮は厚い。
明後日までには床屋へ行こう。帰りに八百屋でも立ち寄って、葡萄など買えればそれもまたいいだろう。
すお
いいですね。
「大変です!被害者の死亡推定時刻と秋刀魚の腐敗状況が一致しません!」鑑識の報告に本部は騒然となる。まさか凶器は別の魚なのか。
鯖みそ
太刀魚とか?
「ええぃ黙れっ!わたしは芋煮会の翌日に産まれた女だぞ!!」
顎なしひょっとこ
よしよし(抱擁)
「近いうちにも内示が来るかもね」そう言う彼女は、ほうれん草に和える胡麻をすり始めた。部屋が少し、肌寒くなった気がした。
窓々
日も短くなった。
「今日のおすすめなんですか?」「新米です」見習いはそう答えた。わたしは秋刀魚を頼み、あがりを飲み干した。
みう
出身は新潟。
どうしてそう簡単にはんこ、押すかねえ。母はぶつぶつ言いながらフライパンを振っている。銀杏が一つ、ぱん、とこちらに飛んできた。
xissa
この日常感。
私が焼き秋刀魚を好きな理由は、脂がのっていて美味いのは勿論だが、骨を取るのが簡単で気持ち良い、というのもある。腹部と背中を軽く押さえてならし、頭を外して胴体を掴み、首のあたりを摘んでゆっくり引き抜くと、嘘のように全ての骨が抜ける。多分、人間だとこうはいかないだろう。
NORITA
ラストの一文!
まだ冷麦が残っている。
xissa
去年もそうだった。

実はお芝居での食事シーンが案外難しいように「たべもの」を絡めた文章はやさしいようで難しいのではと思っていたが、心配は杞憂に終わった。
TOKUNAGA氏の作品はハッとする発見。義ん母氏の作品はネタとしての完成度が高い。黒船鬼太郎氏の作品、「味覚」を際立たせるのに実に秀逸なアイデアだった。大倉野のりゆき氏の作品、松茸を性的に捉えた作品は多数あったがこれがもっとも遠回しで、かつエロかった。小津映画の世界である。すお氏の作品、何気ない文章なのになんともいえない味わいがあった。語り手の充実した孤独がいい。顎なしひょっとこ氏、なぜか萌えた。窓々氏、xissa氏の作品は規定をこなしながら、文章全体にそこはかとない秋の気配を感じさせる。季節感を醸す文章力、大したものだと思う。
さて、今回は予定では月間賞の発表であったが、都合により次回以降に致します。申しわけ御座いません。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
オリンピック
先日2020年の東京オリンピック開催が決定した。それを記念しこのようなモチーフを出してみた。各競技でもよいし開会式、表彰式、先ごろの開催地決定など関連するイベントでも構わない。夏季に限らず冬季ネタでもオッケーだ。観客目線で、あるいは選手目線で、無関心なスタンスでもよい。今回はネタの宝庫である。躍動感のある、突き抜けた作品を期待する。

締め切りは9月18日正午、発表は20日を予定している。以下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して応募して欲しい。諸君からの力作、待ってます!
最終選考通過者

兎は月を見てぴょんと跳ねた/ミックスベジタブル/煉瓦/トミ子/あほうどり/たなけん/prefab/おどげっつぁん/炎の文房具屋さん/哲ロマ/中目黒/ななゆき/けーと/ウチボリ/頭浮/13時の母/ブナ林/ねもっ血風クン/洋子/すり身/(たま)
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