特集 2013年9月18日

東京オリンピック決定の街頭インタビューに映り込む

ついに街頭インタビューに映りこんだ!
ついに街頭インタビューに映りこんだ!
2013年9月8日の明け方、日本中がにわかに沸いた。ブエノスアイレスで行われていたIOC総会で2020年の夏季オリンピックの開催地に東京が選ばれたのだ。

新聞各社はただちに号外を出すだろう。そして、テレビ局は号外を受け取る人々を街頭インタビューするはずだ。

そんなテレビの街頭インタビューに、何も知らないふりをして近づき、映りこみたい。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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街頭インタビュー捲土重来

街頭インタビューに関しては、以前も映り込もうとして失敗したことがある。「街頭インタビューに街頭インタビューする
街頭インタビュー失敗(「街頭インタビューに街頭インタビューする」https://dailyportalz.jp/b/kiji/120620156100_1.htmより)
街頭インタビュー失敗(「街頭インタビューに街頭インタビューする」より)
以前はなんのイベントもニュースもないただの平日に、むりやり街頭インタビューされようと頑張ったわけだが、今回は違う。

「東京オリンピック決定」である。

テレビ局はニュースで使う「歓喜する、または懸念を示す一般市民」という映像を撮影するため、街頭インタビューをするはずだ。

ぼくは熟睡する妻子を家に残し、さっそく新橋へ向かった。

早朝過ぎて誰も居ない

街頭インタビューといえば新橋のSL広場だ。ここは「サラリーマンの町」としてよく登場する。

前回、失敗したときもSL広場前で取材クルーと、手に汗握る攻防を繰り広げた思い出の場所だ。
手に汗握る攻防(「街頭インタビューに街頭インタビューする」https://dailyportalz.jp/b/kiji/120620156100_1.htmより)
手に汗握る攻防(「街頭インタビューに街頭インタビューする」より)
さて、今回「東京オリンピック決定」でどれほどの取材クルーがいるのか?
駆け出したくなる広さ
駆け出したくなる広さ
ひとが居ない……早朝すぎた。取材クルーどころか、サラリーマンさえも居ない。

6時47分頃である。平日であればもう少しひとでがあるかもしれないが、さすがに日曜日の朝はこんなものなのかもしれない。

わかった、銀座に行ってみよう。銀座ならばひとがいるかもしれない。

銀座にもひとが居ない

新橋から中央通りを北上し銀座四丁目交差点までやってきた。
交差点に寝転びたくなる
交差点に寝転びたくなる
みごとにひとが居ない。どこに行っても人の気配がしない町。なんかそういう感じの映画みたことあるけど、これでは街頭インタビューどころの話ではない。

数寄屋橋に取材クルーを発見

数寄屋橋交差点の方に行ってみよう、ここも街頭インタビューの多い場所なのだ。新橋も銀座も日曜日の7時前だからだれもいなかったのだ。

すでに時刻は7時半になっている。町ゆく人も少しづつ増えてきている。

すると、有楽町マリオン前に取材カメラらしきものをもったひとがいるのを発見。
足の下にカメラがある
足の下にカメラがある

想定問答を作っておく

ところで、今回は「東京オリンピックが決定しましたが、どう思いますか?」という質問が来ることは間違いない。やみくもに街頭インタビューを受けようとした前回とはちがい、今回は質問内容が予想できる。

ここは、本番であわててトンチンカンなことを言わないように、想定問答を作っておきたい。

「うれしいですねー」だけだと確実に採用されない。なぜならそんな凡庸な意見、だれでも言うからだ。
街頭インタビューで採用されるには、ニュースで使えそうな「自分の意見」や「変わった切口の意見」をさり気なくいうことが肝要なのだ。

以上を踏まえて、下のような想定問答を用意した。
「え?!東京決まったんですか! あーよかったですねー。被災地の復興も含めて、2020年までに笑顔でお客様をお迎えできるようなオリンピックにしたいですね☆」
まずは、知らないふり。東京に決まったのを今知ったかのように驚く。要するに「今まであまり興味なかった」アピールである。

つぎに、被災地への配慮でやさしさを表現。東京都民としての希望を述べた後、最後の笑顔(☆の部分)でしめる。完璧だ。

「オリンピック開催に興味のなかった都民だが、決まったら決まったで、被災地に遠慮しつつもやっぱりちょっと嬉しくなった」という体の想定問答である。

山が動いた!

想定問答を考えつつ、有楽町マリオンの前に戻ると、さきほどの取材クルーがしきりに電話をしている。そして数寄屋橋交差点の方へ動き始めた。

すでに、数寄屋橋の交番前では号外を配りはじめていた。そしてその号外を受け取った人を街頭インタビューしはじめた。
スポニチの号外を配ってた
スポニチの号外を配ってた
ぼくも号外をうけとり、わざとらしく「えー」とか「ほぉー」などと軽いリアクションをとっていると、取材カメラが近づいてきた。

「すみません、取材よろしいですか?」

胸には「NHK」のネームタグ。きた、全国放送だ。いきなりカジキマグロを釣り上げた感がある。能年玲奈と同じテレビ局に出演するチャンスだ。

ーーはいどうぞ。

「オリンピック、東京開催が決定しましたが、いかがですか?」

想定問答通りだ。落ち着け自分。

ーーえぇ?! 東京に決まっ……ぁ

ここで、ぼくはすでに号外を受け取っていたことを思い出した。しまった「知らないふり」ができない!

ーー……決まってよかったですねー……

出鼻をくじかれたがなんとか体勢を立て直した。インタビューアーはまだ黙ってる。

ーーそうですね、被災地の復興もまだという状態ですけど、復興も含めてね、2020年までに、笑顔でお客様をお迎えできるような、そんなオリンピックになるといいですね☆

乗り切った。

想定問答がとても役に立った。事前の準備が大切だということを今更ながら痛感。

インタビューアーはさらに質問を重ねてきた。

「オリンピック、どんな種目が楽しみですか?」

そうきたか。

本音をいわせていただければ、オリンピックはそんなに詳しくないので、特にどの種目が楽しみとかそういうのは、ない。

ーーあ、本当は野球があれば野球みたかったんですけど……明日にならないとわからないですよね……。
(※この時点で、レスリング、野球、スカッシュの三種目の中から、2020年に実施する正式種目を次の日に決める予定であった)

野球のルールをよく知らないにもかかわらず、とっさに出たセリフとしては上出来だった。日本で人気の高い野球を推すことによって「そのへんの人感」がよく出たと思う。

以上のやりとりをしていると、雨が強くなってきたので、ではこのへんで……という感じで取材は終わった。

我ながら、これは結構イケるのではと期待に胸がふくらむ。

さらに取材される

さらにネットで有楽町の丸井前の広場で号外を配っているという情報をつかんだので現場に急行する。
確かに配ってる
確かに配ってる
号外を入手すると先ほどと同じように、さも今、知ったかのようなふりをして号外を眺める。

しばらくすると、取材カメラが近づいてきた。
外国人と日本人のカップルが取材されている、このテレビカメラがぼくのところにやってきた
外国人と日本人のカップルが取材されている、このテレビカメラがぼくのところにやってきた
「取材よろしいですか?」

はいきた本日二組目。入れ食い状態の釣りってこんな感じだろうか? 自然と笑みがこぼれてくる。しかし、今度の取材クルーは見た目ではどの局なのかわからない。

「東京オリンピック決定しましたが、どんなオリンピックになって欲しいですか?」

こんどの質問は変化球できた。しかし、さっきの想定問答をアレンジして答えればなんとか乗り切れそうだ。

ーーそうですね、やはりうれしいというのはあるんですが、被災地の復興もまだですし、2020年までにね、安心してオリンピック迎えられるような、そういうオリンピックになったらいいですね。

どうだ、まいったか。完璧だろうこれ。中庸な意見としては申し分ないのではないだろうか。ぼくが自分の発言に悦に入っていると、インタビューアーがさらに質問してきた。

「安倍首相は原発は問題ないと言っていますが、どう思いますか?」

「え、知らんよそんなの」といっしゅん思ったが、なんとかコメントを捻り出さなければならない。

ーーうーん、今は信じるしかないですよね……まあ、オリンピックをきっかけにね、今までのダメだったところも、改善していただいてもらえるようになるといいですね。

ここも乗り切った。不安を感じつつも未来に希望をつなぐ言い方でうまくごまかせた。

その後、このひとたちは「BS11」というテレビ局の夕方のニュース番組の取材クルーだということが判明した。

街頭インタビュー大漁

最終的に地上波1局(NHK)、BS1局(BS11)に取材された。

おもしろメガネや扮装などの飛び道具を使わずにテレビ局2つの取材を受けたのは、なかなかの釣果だったと思う。

あとはオンエアで使われるかどうか? である。

家に帰って結果を確認

急いで帰宅し、その後のNHKのニュース番組すべて、そしてBS11の夕方の番組も録画し確認してみた。

結果から言うと、NHKはオンエア無しだったが、BS11ではみごとオンエアされていた。

NHKはさすがの取材力で、選手や前回のオリンピックを経験したひとたちなどの特別なひとのコメントがてんこ盛りで、われわれ一般人のコメントが入り込む余地がなかった感じだ。

一方、ぼくのインタビューがオンエアされたBS11の夕方のニュース番組「ウィークリーニュース」はこんな感じだった。
いかにもな感じのオープニング
いかにもな感じのオープニング
キャスターの雑談のあと……
キャスターの雑談のあと……
でたー!
でたー!
「ダメだったところも、改善していただいてー2020年までにね、安心してオリンピック迎えられるような……」

ニュースの中でよくある「一方、こんな意見も……」というくだりで、ぼくの最初の答えと後の答えをうまいこと編集でつないで使っていた。

いずれにしろ、目的は達せられた。

命名「エクストリーム街頭インタビュー」

「街頭インタビューに映り込むあそび」これは釣りの楽しさに近い

街頭インタビューを探して町を歩き、取材カメラが近寄ってきたときの、あの気持の昂ぶりは、釣り竿に魚の振動が伝わった時の興奮のようだ。
さらに、その取材クルーがNHKだったりすると、大物を釣り上げた爽快感に近いし、テレビでオンエアされるのは、釣って帰った魚がうまかったという楽しさに近い。

まさに「エクストリーム街頭インタビュー」である。

次は誰かiPhone5s発売のときにやってください。
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