特集 2013年9月29日

特許を出願してみた

試飲会で使うとグラスや箸を持つ手が空くので便利です。
試飲会で使うとグラスや箸を持つ手が空くので便利です。
何か便利そうな物を作ったり考えたりした人に「それ特許とったらいいよ!」と言う事があります。しかし、実際に特許を取りに行くにはどうしたらいいか分からない人が多いはず。

先日便利な物を作ったので、実際に特許を出願してみました。
1972年生まれ。元機械設計屋の工業製造業系ライター。普段は工業、製造業関係、テクノロジー全般の記事を多く書いています。元プロボクサーでウルトラマラソンを走ります。日本酒利き酒師の資格があり、ライター以外に日本酒と発酵食品をメインにした飲み屋も経営しているので、体力実践系、各種料理、日本酒関係の記事も多く書いています。(動画インタビュー

前の記事:ミルクティーで煮た水餃子がうまい

> 個人サイト 酒と醸し料理 BY 工業製造業系ライター 馬場吉成 website

利き酒会ではグラスを持つのが大変

今回特許出願した物は上の写真の物になります。実際に使うとこんな感じです。
グラスや箸、筆記具を首から吊下げて持っていられます。
グラスや箸、筆記具を首から吊下げて持っていられます。
日本酒の試飲会に行くと専用のグラスや猪口をもらいます。それで酒を飲むのですが、合わせて出品されている酒の資料ももらいます。更に、料理が出ているので箸や皿も持つことになります。両手がいっぱいでメモをとることも出来ない。

そんな時にこの道具。グラスや箸、筆記具を首から吊下げて持つことが出来て両手が空きます。
接着剤不要の組み立て式。グラスのサイズに合わせて大きさは変えて作れるので、ビールグラスやワイングラスにも対応可。表面にロゴシールなども貼れます。
接着剤不要の組み立て式。グラスのサイズに合わせて大きさは変えて作れるので、ビールグラスやワイングラスにも対応可。表面にロゴシールなども貼れます。
このグラスを首から下げる道具は、一枚の紙から出来ていて接着剤を使わずに簡単に組み立てられます。
分解するとこうなります。今回作った物はB4サイズ1枚から少しはみ出すサイズ。
分解するとこうなります。今回作った物はB4サイズ1枚から少しはみ出すサイズ。
強度も十分あるので飲み物が入ったままのグラスを入れられます。コートされた厚紙を使っているので少しぐらいならば濡れても大丈夫。
折り曲げて差し込んでいくだけ。
折り曲げて差し込んでいくだけ。
組み立て式なので使用後はバラして平たくして保管が出来るし、紙なので簡単に捨てられます。
組み立てて首から下げる紐を穴に通して結べば完成。簡単。
組み立てて首から下げる紐を穴に通して結べば完成。簡単。
試作品を実際に試飲会で使用してみたところ、設計者も驚きの使い勝手の良さ。
試飲会でグラスやペンを持ち続けなくていいと、メモをとるのも料理を食べるのにも便利!
試飲会でグラスやペンを持ち続けなくていいと、メモをとるのも料理を食べるのにも便利!
そもそもこのグラスを首から下げる道具は企画にかかわった日本酒のイベントでの使用を想定して私が設計したもの。あまりに使い勝手がいいので他でも使ってもらえないかと思ったのです。
CADで図面を書いて色々試作を重ねています。
CADで図面を書いて色々試作を重ねています。
他でも使ってもらうとなると、同じ物を作られて販売される可能性があります。そうされないように特許をとってしまおうということになりました。

特許を出願しに行こう!

ということで、特許を出願する為に霞が関の特許庁に来ました。
特許は特許庁(特許庁長官)あてに提出します。東京特許許可局という役所はありません。
特許は特許庁(特許庁長官)あてに提出します。東京特許許可局という役所はありません。
いきなり特許庁に来ましたと書きましたが、その前に色々調べたり、必要書面を作成したりしなくてはいけません。
必要書類一式。作るのは結構大変。通常は特許事務所(弁理士)にお願いして作成してもらいます。
必要書類一式。作るのは結構大変。通常は特許事務所(弁理士)にお願いして作成してもらいます。
特許を出願する前にやる事の1つに、自分の作った物や考えた物が既に出願や発表されていないかを調べるというのがあります。既に出願、発表されているものは出願しても特許にはなりません。

既に出願されて公開されているものは特許庁のホームページで調べられます。
全く同じ物で、既に特許になっている物は勝手に作って販売することは出来ないのでこの時点で終了です。似た物に関しても色々あるのですがその点は長くなるので省略します。
こんな文書を書く。長くて読みづらい。
こんな文書を書く。長くて読みづらい。
続いてやることが出願書面の作成。「特許願」、「明細書」、「特許請求の範囲」、「図面」(必要に応じて)、「要約書」の5種類の書面を作ります。

決まった書式があって、書式に関しては特許庁のホームページに詳しく出ています。内容に関しては独特の言い回しがあって、権利をハッキリさせるために「この」とか「それ」などの指示代名詞を使わないなど、非常に読みづらい文章を書かなくてはいけません。
図面も独特の書き方があります。昔、特許用の書面を作る仕事をやっていたことがあるのでなんとか作れています。
図面も独特の書き方があります。昔、特許用の書面を作る仕事をやっていたことがあるのでなんとか作れています。
出来上がった書面を特許出願料と共に特許庁に出せば特許の出願は完了です。必要書面は窓口への持ち込み、郵送、オンラインのいずれかで提出可能。特許出願料の支払い方法も何通りかあり、出願料は現在15000円です。
特許印紙で出願料を払う場合は「特許願」に貼って提出。特許印紙は特許庁の建物が描かれている。
特許印紙で出願料を払う場合は「特許願」に貼って提出。特許印紙は特許庁の建物が描かれている。
今時は大体オンラインで出願されます。持ち込みや郵送により書面で出願すると書面を電子化するための手数料がかかります(現在は1200円+700円×ページ数)。

オンラインの出願も専用のソフトの使用や電子証明書の発行(有料)、特許料支払いに関する手続きなどをしないといけません。ページ数の多い出願や、今後も沢山出願する予定のある人はオンラインの出願の方が便利でしょう。

今回はせっかくなので特許庁へ直接持ち込んでの出願にしてみました。ということで最初に戻ります。

いざ、出願窓口へ。

受付で必要事項を書いて入館票をもらったらセキュリティゲートを通って建物内に入ります。1階の右奥に出願の受付カウンターがあります。
セキュリティゲートのすぐ横には特許庁来庁記念スタンプ台有り。誰が押すのだろう?
セキュリティゲートのすぐ横には特許庁来庁記念スタンプ台有り。誰が押すのだろう?
庁舎は平日の昼間しか開いておらず、今時持ち込みで出願する人は非常に少ないので窓口は閑散としています。
特許庁の地下食堂のメニュー。日替わり定食450円からとは安い。凄い発明品を使って調理を省力化して人件費削減でもしているのだろうか?
特許庁の地下食堂のメニュー。日替わり定食450円からとは安い。凄い発明品を使って調理を省力化して人件費削減でもしているのだろうか?
窓口に書面を出すと、書式をチェックされます。書式が間違っていて簡単に直せるところは線を引かれて印で修正されます(された)。書式に問題無ければ書面は受理され、今後の流れなどを説明してもらえます。
行ったのが午前中だった為か私以外誰もいなかった。
行ったのが午前中だった為か私以外誰もいなかった。
この時点では特許は出願しただけで権利は発生していません。とりあえず1年半後には内容が公報として広く一般に公開されますが、審査を受けてOKが出ないと(特許査定といいます)特許としての権利を主張できません。

審査の請求は3年以内に行う必要があります(現在は基本料約12万に項目数×4000円分の費用がかかる)。出願後やはり特許にしなくてもいいかなと思って放っておけば公開だけされて何もならず3年経って終わりです。

審査の結果が出るのに現在は大体2年ぐらいかかるそうです。特許に出来ないとされた場合は、内容を修正したり反論したり出来るのですが、それにも時間がかかります。
出願窓口の横には特許印紙販売やコピーサービスのコーナーがある。必要があってコピーをしてもらったら1枚30円でした。
出願窓口の横には特許印紙販売やコピーサービスのコーナーがある。必要があってコピーをしてもらったら1枚30円でした。
色々手間や費用はかかりますが、特許となれば出願を行った日までさかのぼって権利が発生します。

つまり、もし今回出願したものが特許として認められると、特許庁に書面を持ち込んだこの日から後に同じ物を作った人は特許侵害ということになります。損害請求とか使用の差し止めが出来ます。認められないと何にもなりません。

何もならないかもしれないですが、特許を出願していることをアピールしておくと、もし特許をとなった際にはその日まで戻って色々請求することになるから気を付けてというアピールはできます。
ちゃんと受理してもらえました。1か月ぐらいすると出願番号が送られてくる。「特許出願中 特願XXXXX号」とか時々かかれているのはその番号。
ちゃんと受理してもらえました。1か月ぐらいすると出願番号が送られてくる。「特許出願中 特願XXXXX号」とか時々かかれているのはその番号。
特許の権利は出願した日から20年間になります。ただし審査でOKとなった後に最初の3年分、そのあと20年経つまで毎年特許登録料というのを特許庁に収めないといけません。

ついでに、製品そのものが売れるか、この製品を作りたいから特許権を使わせて欲しいなどの申し込みがなければ一切儲かりません。つまり、特許をとっても売り込まなければ一銭にもならないのです。

特許取得は結構大変。


お問い合わせお待ちしています

今回自分で先に出願されている物を調べたり、書面を作ったりして自分で出願手続きを行いました。通常はこの手の作業の全てを特許事務所にお願いすればやってもらえます。

それなりに費用はかかりますが、自分で書くよりも専門的な知識を使ってより強い権利となるように書面を作成してくれます。諸手続き以外にもアフターケアまでやってもらえます。何かこれはと思うような物を作ったり考えたりした人はそういった所に一度相談してみるのもいいでしょう。

そして、この記事を見た試飲会の主催者の方、ホテルのパーティー担当の方、展示会などで広告を貼って配りたい企業の方などなど。お問い合わせお待ちしています!問い合わせはこちらのページにあるメールアドレスからどうぞ!
記念スタンプ押してきました。パテ丸くん、よろしくお願いします。
記念スタンプ押してきました。パテ丸くん、よろしくお願いします。
▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←
ひと段落(広告)

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ