特集 2013年10月1日

カブトムシよりかっこいい虫はうんこの中にいる

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かっこいい虫と聞いて、誰もがまず思い浮かべるのは昆虫の王様ことカブトムシだろう。重量感のある鎧のような体、そして何よりあの二本の角は少年たちを惹きつけてやまない。
しかし、そんなカブトムシを遥かに凌ぐほどかっこいいシルエットを誇る虫が、実は日本にいるのだ。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

ただし、うんこの中にね

さて、その「かっこいい虫」だがイマイチ子どもたちには知名度と人気が低い。その理由は本記事のタイトルから分かるように、すみかと食料が「動物の固形排泄物」という致命的に求心力の低い物体であるためだ。
カブトムシは文句なしにかっこいい虫だ。だが上には上がいる。
カブトムシは文句なしにかっこいい虫だ。だが上には上がいる。
とはいえ、かっこいいものはかっこいいのだ。どうしてもより多くの人にその存在と魅力を知ってもらいたいし、何より僕が見たい。
というわけで初秋のある日、僕はこの世で最も動物の排泄物が安定的に生産される空間である牧場地帯へと足を運んだ。
牧場は高原に多いのでたいてい空気は澄んでいる。しかし、ほのかに家畜の落し物が香るのも事実。
牧場は高原に多いのでたいてい空気は澄んでいる。しかし、ほのかに家畜の落し物が香るのも事実。
ちなみに余談であるが本記事を執筆している現在、固形の排泄物をどのように表記するかについて非常に悩んだ。
糞(フン)と書くのが無難だろうが、少し堅苦しいというか親しみに欠ける気がする。もっとジャンクでポップな呼び名がいい。
でもウンチはかわいこぶりっこな印象だし、ウンコでは少々下品な気もする。よってここでは平仮名で「うんこ」と表記したい。
「うんこ」という響きには子どもらしい無邪気さと愛らしさ、そして素直さが感じられる。とても良い排泄物の呼称であると思う。
牛が!そして彼らのフレッシュなモノが!
牛が!そして彼らのフレッシュなモノが!
話を戻そう。
まずは牧場の管理者に見学と撮影の許可を取る。今回は現在進行形で牛が放牧されている場所は危ないということで、数日前に放牧が終わって休められている牧草地へ立ち入らせてもらえた。視界に広がる絨毯のような緑には、点々と探していたブツが落ちている。

「うわー!うんこいっぱいあるじゃん、うんこ!!」
うんこでこんなにテンションが上がったのは小学生時代以来である。
ほぼ土に還っているうんこも。
ほぼ土に還っているうんこも。
牛がいなくなって日が経つ場所にあるのは、お見せするのが少々はばかられるような生々しいものよりもパピルスや土塊のようなものが多い。こうなると、もはやうんことは呼びにくくも思える。だがとっつきやすいので、手始めにこれを掘り返してみる。
乾いた牛糞を地面からはがすように掘る。
乾いた牛糞を地面からはがすように掘る。
一見するとカッサカサに見えたうんこだが、掘り返すと何というかそれらしさを保った部分も残っている。だが草食動物だけに匂いはあまり無く、観察にも抵抗を感じない。腐葉土みたいなものだ。
と、その中に何やら黒い虫が動いた!
小さく可愛いカドマルエンマコガネ
小さく可愛いカドマルエンマコガネ
コロンとした体型がかわいいカドマルエンマコガネというコガネムシだ。お目当てのかっこいい虫ではないが、かの有名なファーブル昆虫記に登場する「スカラベ」というフンコロガシに雰囲気がよく似ていてなかなか魅力的だ。
これがファーブル昆虫記のスカラベ。似てるでしょ?
これがファーブル昆虫記のスカラベ。似てるでしょ?
そう、このカドマルエンマコガネをはじめとするうんこに集まる虫、いわゆる糞虫(フンチュウ)の多くはフンコロガシに近いコガネムシ類なのだ。
ただし、日本にはフンをコロガス種類はほとんどいない。マメダルマコガネという2ミリほどの小さな虫が慎ましいフン球を転がすだけらしい。スカラベのように軽快&豪快に転がす姿は見られないのだ。

うんこにいるのに綺麗な虫とうんこにいるのにかっこいい虫

他のうんこをほじくっていると、こんなに綺麗な虫がコロッとキラッと転がり出てきた。
まだ比較的新しい牛糞の中に潜っていたセンチコガネ。名前の「センチ」とは雪隠が訛ったものだという。
まだ比較的新しい牛糞の中に潜っていたセンチコガネ。名前の「センチ」とは雪隠が訛ったものだという。
そのままブローチにしてしまえそうなセンチコガネという虫。タマムシも驚くほどの金属光沢を放つ。これがうんこ食ってるというギャップよ。
この虫も見栄えがいいが、「かっこいい」とは少し違う。早くカブトムシよりかっこいい虫を見たい。そう思って7つ目の牛糞をひっくり返したとき、ついにそれは姿を現した。
出た…!
出た…!
異様な存在感を放つ黒い虫。これこそが目当てのカブトムシよりかっこいい虫。その名はゴホンダイコクコガネ!
漆黒のボディー。無骨なかっこよさ。
漆黒のボディー。無骨なかっこよさ。
トリケラトプスを彷彿とさせる
トリケラトプスを彷彿とさせる
昔のダイヤル式黒電話を連想させるような、重厚感のある黒光りしたボディー。そして何よりインパクトがあるのがこの角だ。
かっこいい
かっこいい
ゴホンダイコクコガネはその名のとおり5本の角を持つ。頭には大きく反ったサーベルのように長い角が1本、肩のあたりから4本の太短い角が生えており、虫というより恐竜のようだ。
背面から。5本の角は見る角度によって大きく表情を変える。
背面から。5本の角は見る角度によって大きく表情を変える。
しかし疑問が生まれる。その角は何のために生えているのだ。
聞いた話では、オス同士はたまに喧嘩をしたりもするそうだが、特に角を活用するわけでもないらしい。
さらに今回、ゴホンダイコクコガネは牛糞の中はもちろん、その下の地中に潜っているものも見つかった。絶対に角がつっかえて潜りにくかっただろう。どう考えても邪魔にしかなっていない。
もしかすると機能らしい機能は無いただの飾り、人間の男性で言うところのヒゲみたいなものなのだろうか。
迫力あるなあ。虫のくせに。かっこいいなあ。うんこ食ってるくせに。
迫力あるなあ。虫のくせに。かっこいいなあ。うんこ食ってるくせに。
出会えた感動とあまりのかっこよさに夢中でシャッターを切った。ゴホンダイコクコガネ、かっこよすぎる。
「キミはスターになれる逸材だ!うんこの中で終わってしまうような器じゃない!」とスカウトの一つでもしたいところだったが、
「それでも自分は…、うんこが好きっすから…。」という強い意志のこもった声が聞こえた気がしたので、彼の気持ちを尊重して諦めた。
角の長さには個体差が。
角の長さには個体差が。
もう概ね満足だが、もしかしたらもっとたくさん見つかるかもしれない。また牛糞をいじくりまわす作業に戻ると出るわ出るわ。ゴホンダイコクコガネは次々に姿を現す。
そしてここであることに気がつく。角が長いものと短いものとがあるのだ。その辺りはカブトムシと同じだ。
こちらはメス。
こちらはメス。
ただカブトムシの場合、立派な角を持つのはオスだけだ。しかしゴホンダイコクコガネはメスにも頭のてっぺんに申し訳程度だが角が備わっている。オスほどではないが、やはりサイのようで迫力がある。

実は小さいんです

これほどかっこいいのになぜ昆虫マニア以外には知名度と人気が低いのか?いや、うんこに住んでいるというのはかなりのマイナスポイントではあるが、それを差し引いても余りある魅力的なビジュアルだろう。
そんな疑問への答えはこの写真を見れば明らかになる。
実際は指先ほどのサイズ
実際は指先ほどのサイズ
小さいのだ。ここまでずっと拡大写真でごまかしてきたが、実際はあずき粒よりちょっと大きいいくらいのサイズしかない。角の有無や長さなんて、手にとってまじまじと眺めなければ絶対わからない。確かにこれでは見過ごされがちになるし、「かっこいい=デカい」という思考の子どもたちには人気も出まい。
だがゴホンダイコクコガネよ。キミのかっこよさをわかってくれる人間はたくさんいるはずだ。僕を含めて。

もっとかっこいい虫もうんこの中に

さて、ゴホンダイコクコガネという虫がいかにかっこいいかわかっていただけたと思う。しかし世の中には、いやうんこの中にはまだまだかっこいい虫がいる。日本産のツノコガネやダイコクコガネも目立つ角を生やしているし、南米のニジダイコクコガネ類(検索結果)をはじめとする外国産の糞虫にも素晴らしい造形のものが多い。ああ、うんこをひたすら掘り返す海外旅行も悪くないかもしれない。
牧場で可憐な花と可愛いトラマルハナバチを撮影。一見綺麗な光景だが、トリミング前の画像には大量の牛糞が写りこんでいた。
牧場で可憐な花と可愛いトラマルハナバチを撮影。一見綺麗な光景だが、トリミング前の画像には大量の牛糞が写りこんでいた。
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