ひらめきの月曜日 2013年9月30日
 

書き出し小説大賞・第32回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

書き出し小説第三十二回目秀作発表である。

あまちゃんが終わった。巷では「あまちゃんロス」と呼ばれる無気力症候群が多数出現しているという。中には放送中はほとんど関心がなかったくせに、あまちゃんロスにだけ便乗し自分の無気力を正当化しようとする輩もいるらしい。 いずれにせよ無気力はよくない。文字を追うのも面倒だという諸君、まずはリハビリ代わりに「書き出し小説」などいかがだろうか。

書き出し自由部門

恋に堕ちたあの日から一年、タンスの防虫剤が「おしまい」と告げている。
アイアイ
取り替え時期。
チイやんはジャングルジムの中でも器用に生活している。
TOKUNAGA
シースルー生活。
自画撮りした乳房の真横をアシナガ蜂がホバリングしている。 
TOKUNAGA
これがアシナガおじさん?
金縛りが始まるや否や、エロサイトのウインドウが波紋のようにつぎつぎと開いていく。
紀野珍
海外の無修正ばかりが!
肘で戸棚の硝子を突き破りはしたが、父のテーブルクロス引きは成功をおさめた。
紀野珍
そのクロスを包帯に。
目を閉じると何も見えなくなるのではなく、まぶたの裏側を見ているだけなのだと思うと、かよ子はその晩、一睡もできなかった。
おかめちゃん
裏返して寝よう。
たっぷりと脂が乗っていることを、マグロ本人がいいと思っているわけがない。
おかめちゃん
高級メタボ。
縛られた後ろ手でつかんだスマホにボタンの手触りはなかった。
大伴
かといってSiriも使えない状況。
彼女は、水晶玉に貼り付いたシールを爪で慎重に剥がしながら、わたしの未来を予言した。
実話
きれいに剥がれたら吉。
ふいに天井から桃色が落ちてきたかと思えば、次々に。老婆は拾い上げ、すんと嗅いだ。 「初午の垂れ豚だ。鍋さ、借りいぐど。」
義ん母
この世界観!
ウォッカを母に手渡すと、借金取りに向かって豪快に火を吹いた。
もんぜん
父は飲むだけ。
キレイなマイケルは、汚いトムに「後ろから刺せばいい。」と言ったが、トムにはそんな卑劣なことできなかった。
kajたん
英訳したい。
駅の右側にあった三味線教室が、左側に移転した。
xissa
出勤で見えてた看板が帰宅時に。
彼は少しはにかんだあと免許証を提示したが、やはり未成年であった。僕は少し、おどけてみせた。
がちようじょ
やれやれ。(連行)
わしは最近の若者にはシェケナが足りないと思う。シェケナとは、簡単に言うと、下ネタのことだ。
ぬけさく
シェケハラにご用心。

今回は新旧常連組から充実の秀作が集まった。TOKUNAGA氏の2編、物語性のあるキャラものと一瞬のシャッターチャンスを捉えた描写もの、引出の多さを見せつけた。紀野珍氏はいつもネタと文学性がバランスよく融合した秀作を送ってくれる。おかめちゃん氏の作風も変幻自在で常に複数の作品が採用されている。xissa氏はいぶし銀の輝き。最近は新境地にもチャレンジしている。大伴氏、アイアイ氏は上質なネタものでクリーンヒットを打つ。最近はもんぜん氏もこれに追随する活躍を見せる。義ん母氏、いつもながら独特の世界観。今回の作品はとくにエッジが効いている。すでにミュージシャンズミュージシャンといった趣きで彼は書き出し作家内での人気も高い。
むろん他の作品もよい。実話氏、kajたん氏、がちようじょ氏、ぬけさく氏、各自がそれぞれに面白いニュアンスを持ち、独自のアプローチを試みている。やはり創作は続けることで作家性が芽生え、そこからまた次のこだわりなり挑戦が生まれるものだと思う。そうした志向が生活の中でなんらかの「張り」になれば企画者としてこれ以上の喜びはない。

つづいては規定部門、今回のモチーフは「月」であった。月に代わって発表よ!

規定部門 モチーフ「月」

うさぎ達は既に餡を包む作業にはいっていた。
TOKUNAGA
中秋前は大忙し。
どこまでも追いかけてくる月。全く追いかけて来ない彼。サンダルでは歩きにくい。
おかめちゃん
ムーンウォークも難しい。
なんでいつも地球に同じ側を見せているのかって? 誰にでもキメ顔ってのがあるもんでしょ?
ぽこあぽこ
いつケータイ向けられてもオケ。
川に下り、下水をつたって歩く。月が見えた。ここにも空がある。
xissa
マンホールから夜空。
月の満ち欠けみたいなものよ。浮気の理由を訊くと、妻は短くそう答えた。
dcsy
万引きの理由も。
三十年以上前の事じゃ。月光が空き地に放置された土管を神秘的に照らしたのじゃ。町民はこぞってこの奇跡を「月の極み」と騒ぎ立てよった。それがこの駐車場の名前の由来じゃ。
g-udon
完全なる小咄。
ハンバーガーに挟まれた月は真横から観る事が出来る。
TOKUNAGA
期間限定。
立入禁止の市役所の屋上から観る月は、格別の美しさだという。
横山小観
隣の芝と同じく。
月に住むうさぎは、餅をつまらせたドラゴンを地球に見た。
松っこ
ドラゴンボールは月側の民話?
月が欠けるスピードで、私たちの愛のカタチも変わっていった。
とこま
意外と三日月の頃がよかった。
その国旗は革命前夜、すべり台の上で風呂敷マントをたなびかせたケン坊のシルエットが、すっぽりと満月に収まっていたのを象ったものだ。 
よしおう
広場には巨大なケン坊像が。
月がきれいだったから……。窓を閉め忘れ、大量の蚊をひきいれた少女はそう言い訳をした。
きざみねぎ
虫コナーズを!
その男は、満月の夜に、突然、雄叫びを上げると、地面にうずくまり、物凄い形相でブルブル震えながら、手の甲にあるホクロから、一本、長い毛を生やした。
ねもっ血風クン
狼男のイトコのハトコ。
何処までも拡げられていく柔らかい黒空に鈴のような月がひとつ浮いている。
小夜子
虫の声がリーン。
あのひとは指輪といっしょに月に埋められてしまったから、もう見つからない。
とりあえずとうじゅ
でも見上げれば会える。
自由時間の終わりを告げるブザーが鳴り、僕の四暗刻はだらしなく宙に浮かび上がった。
タカラ
三つの月(イーピン)が浮かんでる。
月に向けて足を突っ込んでみた。底にいたドクターフィッシュはみるみるうちに集まり、月を貪った。
prefab
月は崩れ角質はとれた。
「これがバーチャルリアリティってやつか。」水たまりに映る月の上を、アメンボがすいすい泳いでいるのを見て父は言った。
イワモト
全然ちゃう。
唯一のATMをかれこれ十分独占している女の後ろで、小さなクレーターが続々と出来上がる。
義ん母
謎の因果関係。
満月の夜、我が家の冷蔵庫がムーンとうなった。
もんぜん
いつもはブーンなのに。

月は昔からアーティストの創作意欲を刺激する普遍的なモチーフである。書き出し作家陣もさまざまなアプローチで月を料理している。ここでも常連が強かったが前述したので、その以外の採用作を。ぽこあぽこ氏、キメ顔と持って来るあたりが現代風。もし中世の女流作家がエッセイを書けばこういうフレーズも出てきそう。dcsy氏、月がおよぼす女性心理。生理ネタは多いと予想したが全体的には意外と少なかった。g-udon氏、由来話を援用した高度なネタもの。横山小観氏、抑制した文体で月の静謐さが出てると思う。松っこ氏、この見立ては秀逸のひと言。とこま氏、皆既月食なら一夜の恋になろうか。よしおう氏、スケールの大きな寓話性。きざみねぎ氏、オチが可愛い。ねもっ血風クン氏、金をかけて映像化したい。小夜子氏、ぶれない抒情性。とりあえずとうじゅ氏、美しい完全犯罪。タカラ氏、意外な月の出し方。プロレタリアート調。prefab氏、水に映る月をモチーフにしたものは多かったがまさかのドクターフィッシュ!秀逸。イワモト氏、完全に間違っているのになんとかくニュアンスは伝わる絶妙な誤解。以上である。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
中学生
今回のテーマは思春期真っ盛り、中学生とした。中学生が主人公、もしくは中学生が作品の中で重要な位置を占める作品を募集する。世間では「中二病」という言葉がある通り、この年頃はとかく自意識と性に絡んだ痛いエピソードが多い。そうした実体験からくる物語でもよし、甘酸っぱい青春ものも可能だろう。書き方としては中学生になりきった一人称、また独自のキャラクターをつくってもよい。他人、たとえば妹視線から見た兄なども面白いだろう。自由な発想で挑んで欲しい。もちろん現役中学生の作品も待っています!
締め切りは10月8日正午、発表は10月10日を予定している。以下の投稿フォームで自由部門、規定部門を選択して応募されたし!力作待っています!

ミミズグチュグチュ/ジョンレモン/菅原 aka $UZY/トミ子/親指と中指の間/ハラセン/不眠/東雲長閑/Perry The Punch/kesuke/消火栓/村バンダム/にゃー美/チャリリ・ドゴール/Ryu-Q/三食豆子/ちかぞお/小岩井祝/

お知らせ

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