特集 2013年10月14日

パレスチナおふくろの味が東京に

珍しい料理をたらふくいただきました
珍しい料理をたらふくいただきました
先日、知人より、東京の十条という場所に「パレスチナ料理の専門店がある」との情報を得た。これまで世界各地のグルメを喰い倒してきた当サイトも、さすがにパレスチナ料理はノーマークだった。

ということで、未体験の食文化を堪能してきました。
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

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> 個人サイト Twitter (@noriyukienami)

オーナーシェフはパレスチナ人

中東は地中海東海岸に位置するパレスチナ暫定自治政府。複雑な事情を抱えた地域であるとの認識はあっても、その文化や食、生活スタイルは我々日本人にとって未知の部分が多い。

果たしてパレスチナ料理とはどんなものなのか? また、パレスチナ出身だというシェフはどんな人なんだろうか?
こんな人でした。オーナーシェフのマンスール・スドゥキさん
こんな人でした。オーナーシェフのマンスール・スドゥキさん
カウンター越しに出迎えてくれたのは、「鈴木さん」みたいな名前のマンスール・スドゥキさん。パレスチナ料理専門店「Bisan(ビサン)」のオーナーシェフだ。
見てのとおり、ハンサムである
見てのとおり、ハンサムである
甘いマスクに加え、気さくな笑顔とやわらかい物腰を携えた魅力的な人物だ。日本語も堪能で、初めての客にもフレンドリーに話しかけてくれる。フレンドリーすぎて友達がどんどん増え、今年の夏は60人でバーベキューをしたという。ワールドクラスのリア充である。
テーブル席が4つ。店員16名の店内
テーブル席が4つ。店員16名の店内
それはさておき、パレスチナ料理だ。

とりあえず、もっともポピュラーなメニューのひとつだという「ホンモス」を頼んでみた。
その正体は、ひよこ豆のペースト
その正体は、ひよこ豆のペースト
焼き立てのピタパンにつけて食べる
焼き立てのピタパンにつけて食べる
なお、ピタパンはパレスチナの主食。このあとの料理でも大活躍する
なお、ピタパンはパレスチナの主食。このあとの料理でも大活躍する

素朴でうまい

「ホンモス」は、アラブ圏ではポピュラーな食材のひとつであるひよこ豆を、練りゴマでのばしたペースト。パレスチナ特産のオリーブオイルとともに、焼き立てアツアツのピタパンにつけて食べる。

ゴマの香りとコク、オリーブオイルのまろやかな口あたり。名前がほぼマンモスなので、もっと荒々しい料理を想像していたが、素朴でやさしい味わいだ。おいしい! ちなみに、スドゥキさんはこれを毎朝欠かさず食べているという。日本でいう納豆みたいな位置づけだろうか。
こちらも人気メニューの「バーミヤ」。サフランライスの上にオクラのトマト煮をかけたもの。オクラの粘りが食欲をそそる
こちらも人気メニューの「バーミヤ」。サフランライスの上にオクラのトマト煮をかけたもの。オクラの粘りが食欲をそそる
チキンのソーセージも、豚肉を食べないムスリムではポピュラーな料理。肉がしっかり詰まった食べ応えのあるソーセージだ。スパイスはほんのり利かせる程度。とにかく肉のうま味が濃い。
チキンのソーセージも、豚肉を食べないムスリムではポピュラーな料理。肉がしっかり詰まった食べ応えのあるソーセージだ。スパイスはほんのり利かせる程度。とにかく肉のうま味が濃い。
ピタパンにくるんで食べてもおいしい
ピタパンにくるんで食べてもおいしい
ヒヨコ豆のコロッケ「ファラフェル」。オーナーの愛情が詰まったハート型
ヒヨコ豆のコロッケ「ファラフェル」。オーナーの愛情が詰まったハート型
野菜とともにピタパンに挟んで食べる。そのままだとやや重いファラフェルを、ドレッシングのさわやかな酸味とフレッシュなサラダが中和し絶妙なバランスになる。なお、このファラフェルサンド、現地ではケバブと並ぶ定番のファストフードで、専門店も多いそう
野菜とともにピタパンに挟んで食べる。そのままだとやや重いファラフェルを、ドレッシングのさわやかな酸味とフレッシュなサラダが中和し絶妙なバランスになる。なお、このファラフェルサンド、現地ではケバブと並ぶ定番のファストフードで、専門店も多いそう
パレスチナ唯一の地ビール「タイベビール」。現地サマリア山脈からの清冽な水を使用。外国産ビール特有のクセはまったくなく王道のうまさ。日本が誇る金持ちビールことエビスビールに少し似ている
パレスチナ唯一の地ビール「タイベビール」。現地サマリア山脈からの清冽な水を使用。外国産ビール特有のクセはまったくなく王道のうまさ。日本が誇る金持ちビールことエビスビールに少し似ている
パレスチナ産のワインもあります
パレスチナ産のワインもあります
そういえば『孤独のグルメ』というドラマで、主人公の井之頭五郎が異国の見知らぬ料理(たしかブラジル料理)に挑み、いつも以上に食い気を爆発させる回があった。あの時の五郎の気持ちが今の僕にはよく分かる。テーブルいっぱいに並んだ料理を食べている間ずっと、心の中の五郎が(うん、いいぞ、いいぞ)と何度もリフレインしていた。
お腹もふくれてきたところで、改めて店内を見渡す。所狭しと置かれたアラブの調度品を眺めるのもけっこう楽しい。
お腹もふくれてきたところで、改めて店内を見渡す。所狭しと置かれたアラブの調度品を眺めるのもけっこう楽しい。
中東の福沢諭吉
中東の福沢諭吉
オーナー自身が内装を手がけたという店内は、アラブ世界のエキゾチックなムードに満ちている。
かと思えば、よく見ると所々に垣間見える大和魂
かと思えば、よく見ると所々に垣間見える大和魂
アラブに迷い込んだ新選組
アラブに迷い込んだ新選組

22歳で来日、27歳で開店

スドゥキさんが初めて日本にやってきたのは今から8年前、22歳の時。そこで見た古い建築物や歴史に魅せられ、日本で暮らすことを決めたという。その後、鳶(トビ)などを経て、飲食業に入ったとか。生粋の日本人よりよっぽど日本人っぽい。ちなみにワサビをたっぷり利かせたざるそばを好むそうだ。
お店のツイッターがあったのでフォローした
お店のツイッターがあったのでフォローした
そしたら10秒後にフォローが返ってきた。カウンター越しのフォローバック
そしたら10秒後にフォローが返ってきた。カウンター越しのフォローバック
その後、このお店を開いたのは2011年1月。母国のお母さんが子どもの頃に作ってくれた「おふくろの味」をそのままメニューに採用したという。スドゥキさんいわく、「パレスチナに行ってもレストランでは出てこない料理ばっかり」。
そんなスドゥキ家の実家ごはん。なかでもマンスール少年の大好物だったのが、こちらのマンサフ。18種類のスパイスをブレンドした、パレスチナのチャーハンだ。具は細かく刻んだ玉ねぎ、ピーマン、ひき肉、トマト。スパイシーなチャーハンとトマトの酸味が合う
そんなスドゥキ家の実家ごはん。なかでもマンスール少年の大好物だったのが、こちらのマンサフ。18種類のスパイスをブレンドした、パレスチナのチャーハンだ。具は細かく刻んだ玉ねぎ、ピーマン、ひき肉、トマト。スパイシーなチャーハンとトマトの酸味が合う
こちらはパレスチナの水ギョーザ「シュシュバラク」。ひき肉を皮でつつみ、ヨーグルトソースで食べる。皮は餃子というより、すいとんみたいなモチモチした食感
こちらはパレスチナの水ギョーザ「シュシュバラク」。ひき肉を皮でつつみ、ヨーグルトソースで食べる。皮は餃子というより、すいとんみたいなモチモチした食感
最後にガツンとした肉料理を。こちらの「シシケバブ」も、パレスチナのお母さんがよく作ってくれたメニューなのだとか。人んちの実家の味を思う存分堪能
最後にガツンとした肉料理を。こちらの「シシケバブ」も、パレスチナのお母さんがよく作ってくれたメニューなのだとか。人んちの実家の味を思う存分堪能

食材は母が送ってくれる

聞けばアラブ圏はどの国の料理もけっこう似ていて、違うのはスパイスの使い方。パレスチナの場合、スパイスはやや控えめで、しっかりと味付けされた料理が多いという。

なお、ビサンでは、そうしたスパイスをはじめとするほとんどの食材を現地から取り寄せている。輸入業者が扱っていないものはお母さんに電話して送ってもらうそうだ。母の愛は国境を越える。
良質なオリーブオイルも現地から。パレスチナは世界有数のオリーブ原産地。写真はオリーブの実を収穫する子どもたち
良質なオリーブオイルも現地から。パレスチナは世界有数のオリーブ原産地。写真はオリーブの実を収穫する子どもたち
それにしても、やっぱりハンサムだ
それにしても、やっぱりハンサムだ

ホントにうまかったです

というわけで、中東のサムライが作るパレスチナ料理は、遥かなる母国のおふくろの味でした。そんなスドゥキ家の食卓を体験したい方は東京都北区十条、演芸場通り商店街「Bisan」へどうぞ。羊の丸焼きもあるそうですよ(1週間前に予約)。

●「パレスチナ料理 Bisan」
http://bisan.biz/
食べきれなかった分は包んでくれます
食べきれなかった分は包んでくれます
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