特集 2013年10月19日

ピロリ菌の除菌を歌にする

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朝方に胃が痛んだので病院に行った。鼻から胃カメラを入れて検査をした結果、胃潰瘍と十二指腸潰瘍が発見された。ショックである。
そして、更に検査をした結果、私の胃にはピロリ菌がいる事が分かった。
ピロリ菌、正式名称をヘリコバクター・ピロリという。そいつが私の胃痛の原因だったのだ。
シンプル・イズ・ベストをモットーに日々精進中。旅先では早起きをして、その街のゴミ収集の様子を観察するのが好き。


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ピロリ菌の歌をつくるようになった経緯

私の検査結果。判定は(+)。基準値を大きく上回っている
私の検査結果。判定は(+)。基準値を大きく上回っている
私の胃からピロリ菌が発見されてショックを受けた後、サントス散歩のコーディネーター、ミスター林にその旨を伝えた。ミスター林は私の健康状態を常に気遣ってくれている。

それは大変でしたね、大丈夫ですか?

そんな言葉を期待していたのだが、ミスター林からの答えは私の予想と全く違った。

「ピロリ菌の歌を作るというのはどうでしょう?」

それはどういう意味なのか。正直、私は分からなかった。ピロリ菌に感染している不安について、ミスター林と共有したい。私はそう思って伝えたつもりなのだが、その答えが「ピロリ菌の歌をつくる」である。

「以前、デイリーポータルに出てくれたアーティストにお願いしてみますね」

ミスター林は、私の思いとは裏腹に話を進める。以前当サイトに登場したアーティストとは、ひよせさんというプロのミュージシャンだ。最近では赤い羽共同募金のCMソングを歌っているという。
話はトントン拍子に進み、ひよせさんはピロリ菌の歌を作ってくれることを快諾。スタジオでの収録まで決まってしまった。

なんだこの展開は?

日本人のピロリ菌感染者は約6000万人

歌の話を進める前に、私が感染しているピロリ菌についてアウトラインをお伝えしよう。
お医者さんから頂いたピロリ菌除菌のための冊子
お医者さんから頂いたピロリ菌除菌のための冊子
ピロリ菌は胃の粘膜に生息するらせん形をした細菌で、感染すると胃に炎症を起こすことが確認されている。

そのビジュアルはこんな感じだ。
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)
こんな邪悪な細菌が私の胃の中でのうのうと生息しているのだ。想像しただけで恐ろしい。そりゃあ、潰瘍も出来るだろう。胃が痛いはずだ。更に恐ろしいことに、ピロリ菌が胃の中にいると胃がんにかかるリスクが高まるらしい。なんてことだ。

しかしこれは私に限ったことではなく、日本人のピロリ菌感染者は約6000万人といわれているのだ。ざっくりと2人に1人、胃の中にピロリ菌が生息しているのである。

ピロリ菌に感染していて、更に胃潰瘍や十二指腸潰瘍を発症した患者はピロリ菌の除菌療法が必要だ。

除菌に必要な日数は7日間で、その間3種類の薬を飲み続けると約8割の確率で除菌に成功するらしい。ただ、その7日間は酒を飲んではいけない。これまでに7日間も酒を飲まずに過ごした経験がないので、除菌出来るのかどうか不安を抱えている。

そんなピロリ菌に対する私の思いを、ミスター林との共同作業で歌詞にすることにした。

ミスター林と共同で作詞

ピロリ菌に対して私がどういう感情を抱いているかというと、主に憎しみしかない。あんなに胃が痛かった原因がピロリにあるのだ。それは仕方ないだろう。しかし、自分の胃の中にずっといたという事実を知ったことで、「愛着?」のような感情があるのも否めない。憎らしいけど愛おしい。まるで恋愛のようである。

そこで、ピロリ菌の歌のコンセプトを以下のように考えた。

・ラブソング的な歌詞。
・除菌することを決断。別れの決意。
・ピロリとの別れ、そして未来へ。

つまり、私とピロリの関係を、恋が始まってから終わるまでの男女のそれに喩える訳だ。

このコンセプトに基づき、ミスター林と私の間でキーワードを出し合い、それを歌詞にまとめてみた。

曲のタイトルは「ピロリ」。スマップのセロリを少し意識している。
「ピロリ」

はじめてのデート 2人で食べたカルボナーラ
目の前であの娘が笑うけど

緊張した僕の胃が チクリと痛んだ

2人でドライブ Sunroof あけて海を見る
海岸線がどこまでも愛

幸せを感じながら 僕は胃が痛い

ある日僕は知ったんだ お医者さんが言っていた
胃痛の原因は君、ピロリ ずっと一緒だったんだね
らせん形のバクテリア、ピロリ


(ラップ)
そんなお前を明日から除菌
そして俺はこれから夜勤
お前が長年かじった胃壁
俺は正直もう辟易
お前にかじられ胃潰瘍
俺はほんとに痛いよう


君の名はピロリ


(2番)
最後のセブンデイズ 君との別れの旅に出よう
寂しいけれどそれが宿命

君がいなくなる世界 心が痛むよ

君はバクテリア 僕の胃壁に住む細菌
(ピロリンららら)

歌うように君を呼び 愛が憎しみへ

そして僕は決めたんだ お医者さんが言っていた
除菌が必要な君、ピロリ 七日間でさようなら
ピロートークはここまで、ピロリ


(語り)
おれの胃壁はおいしかったかい?
住みやすかったかい?

(小芝居)
え、なになに? そんなでもなかったって?
そりゃないよー ピロリー


Life with ピロリ
それぞれの道を go to heaven
Life without ピロリ
だけどピロリは in my heart
途中にラップと語り、小芝居などが入る変わった歌詞になってしまったが、ひよせさんはこれを受け入れてくれるだろうか?

関係者がスタジオに集結

歌詞をひよせさんに送ってすぐ、次のような返信をいただいた。

「思っていたより大作ですね。これ5分超えますよ!」

そうか、曲の長さとか全く考えずに歌詞を綴ってしまった。5分を超えるということは、マキシシングルという扱いになるのだろうか。多分、違う。

ひよせさんに恐縮しながらも、送った歌詞のまま曲をつけてもらえることになった。一体ひよせさんはどんなピロリの歌を作ってくれるのだろうか?

歌詞を送って2日後、関係者がスタジオに集まった。
音楽スタジオで収録
音楽スタジオで収録
スタジオに集まったメンバーは、私とミスター林、さらに今回の曲のキャラクターを描いてくれたべつやくさんも来てくれた。新曲「ピロリ」にはイメージキャラクターまで用意されているのだ。

べつやくさんがピロリ菌の歌のために描き起こしてくれたキャラターがこれだ。
ぴろりんA
ぴろりんA
ぴろりんB
ぴろりんB
ぴろりんC
ぴろりんC
A案、B案、C案ということで3つ提案していただいたが、どれも素晴らしいキャラクターなので全て採用ということで良いと思う。ウルトラマンに登場する怪獣ダダに、ダダA、ダダB、ダダCがあることに習って、ピロリンA、ピロリンB、ピロリンCということでやっていきたい。

また、当日は演奏をサポートするサポートミュージシャンとしてイチゲさんも駆けつけてくれた。ひよせさんとイチゲさんは、「ひよせとイチゲ(ひよゲ)」というユニットを組んでいて、ひよゲ名義でのライブもやっている。
ひよせさん
ひよせさん
サポートミュージシャンのイチゲさん
サポートミュージシャンのイチゲさん
このように、今回のプロジェクトに関係する人たちがどんどん増えて来て私のプレッシャーも増幅していく。このプレッシャーがストレスとなり更に胃を痛める、ということだってない話ではない。

しかし、私がプレッシャーに負ける訳にはいかないのだ。なぜなら、今回の曲はピロリ菌に感染する私のための曲なのだから。
マスクを被って収録に備える
マスクを被って収録に備える
まずは、ひよせさんが家で軽く作ってきた、という曲を流して聞かせてくれた。

私とミスター林で紡いだ歌詞に素晴らしいメロディがついている。ひよせさんの口笛から始まる爽やかな曲調とひよせさんの透き通るような声。コンセプトとしていた「男女の出会いと別れを歌うラブソング」が見事に表現されている。

このプロジェクトの仕掛人、ミスター林の「いける」という心の声が聞こえた。

サントスはラップと語り、ミスター林とべつやくはコーラスで参加

いよいよ収録に入るのだが、私とミスター林とべつやくさんの3人にはそれぞれ役目がある。

既にご覧いただいた歌詞に(ラップ)(語り)(小芝居)とあった部分を私が担当し、ミスター林とべつやくさんはコーラスで曲に参加する。
コーラス担当のミスター林とべつやくさん
コーラス担当のミスター林とべつやくさん
サントスはラップと語りと小芝居を担当
サントスはラップと語りと小芝居を担当
ラップ担当となったのはいいが、私はラップを習ったことがない。全くのラップ初心者である。唯一の頼みはカラオケのレパートリーの中にMCハマーの「U Can't Touch This」があることだ。あの曲をイメージしながら「ピロリ」のラップを表現するつもりだ。

コード進行が書き込まれた楽譜をひよせさんからもらい、私たちはそれぞれのパートの歌い方を教えてもらう。もちろんコード進行などを見ても意味は分からない。ひよせさんに歌ってもらって、それを真似ていく。
コーラスを練習するミスター林
コーラスを練習するミスター林
MCハマーを意識しながらのラップ
MCハマーを意識しながらのラップ
ひよせさんとイチゲさんは、ミュージシャン同士の会話で曲の細部について打ち合わせをしている。唯一聞き取れた用語が、「リット」で、後から検索で調べたら「だんだんゆっくりになって終わる」という意味らしい。今回覚えたので、今度飲み会があったら「そろそろ、リットで」と使ってみようと思う。だんだん飲み方をゆっくりにして会を閉じる、という意味だ。
プロの2人は順調な仕上がり
プロの2人は順調な仕上がり
何度か練習をして、いざ収録に入る。


リズムトラックをスタジオ内に流し、そこにひよせさんの歌、イチゲさんのギター、私のラップ、ミスター林とべつやくさんのコーラスを乗せていくのだ。
歌詞が良く見えないのでマスクを外して収録
歌詞が良く見えないのでマスクを外して収録
思いを込めるために譜面台に自分の胃の写真を置いて(グロテスクな映像なのでモザイク処理をかけています)
思いを込めるために譜面台に自分の胃の写真を置いて(グロテスクな映像なのでモザイク処理をかけています)
ひよせさんの合図でラップを始める
ひよせさんの合図でラップを始める
2回収録して2回目を採用とすることにした。

これ以上やったところで良くなることはない。集まった全員が暗黙のうちにそう一致した結果だ。



それでは、ピロリ菌との愛と憎しみの日々を綴った曲、「ピロリ」を聞いていただきたい。
「ピロリ」
作詞:林雄司、サントスジュニア
作曲:ひよせ

歌:ひよせ
ギター:イチゲ
ラップと語り:サントスジュニア
コーラス:林雄司、べつやくれい
私の胃にはピロリ菌がいる
私の胃にはピロリ菌がいる

こんなに素敵な曲が出来て、なんだかピロリ菌とお別れするのが惜しいような気持ちになってきた。今となっては憎さよりも愛おしさの方が強い。ピロリ菌とうまく共存出来ないものだろうか?

出来ないのだ。

一度割れたコップは元に戻らない。スナックのママに教えてもらった恋愛の鉄則だ。だから、私は来週からピロリ菌を除菌するセブンデイズに入るつもりだ。

もし、除菌に失敗したら、またひよせさんにお願いして「ピロリ 第2章」を作ってもらう、という手もある。失敗したくないけど。

ライブ情報

今回楽曲を作ってくれた、ひよせさんとイチゲさんのユニット「ひよせとイチゲ(ひよゲ)」さんのライブがあります。「ピロリ」を演奏する予定はないと思いますが、お2人の素晴らしい音楽を生で是非!

11月23日(土) ひよゲLIVE @ CAFFE LOCASA(カッフェ ロカーサ)
詳しくはひよせさんのHPのスケジュール欄からご覧ください。http://hiyose.jimdo.com/
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