特集 2013年10月22日

世界最長の並木道「日光杉並木」を踏破したかった

世界最長の杉並木と聞けば、歩き通してみたいと思うのです
世界最長の杉並木と聞けば、歩き通してみたいと思うのです
ご存じ、江戸幕府を開いた徳川家康を祀る日光東照宮。極彩色の彫刻によって飾り立てられた絢爛豪華な社殿は、日本国内のみならず海外にも良く知られている。

元和3年(1617年)に創建されて以降、歴代将軍を始め、数多くの人々が参詣した東照宮。その街道沿いには、寛永2年(1625年)から約20年かけて、杉の木が植えられた。その杉並木は400年近く経った今もなお現存し、世界最長の並木道としてギネスブックにも記載されている。

並木道、しかも世界最長と聞いてしまったら、踏破したくなるのが人の心というものだ。というワケで、杉並木を歩きに日光まで行ったのが……さすがに世界最長の名は伊達じゃなかった。
1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

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東照宮へと至る、約35kmの杉並木

日光杉並木が存在するのは、東照宮へと続く三本の街道(日光街道、日光例幣使街道、会津西街道)のうち、かつての神領(東照宮の領土)内の範囲である。

……と言われてもイマイチピンとこないと思うので、杉並木をなぞった地図を用意してみた。
東からの日光街道、南からの日光例幣使街、北からの会津西街道の三街道が今市で合流、西の東照宮へと続いている。杉並木はその三街道すべてに植えられており、総延長は約35kmだ。

さて、これをどう歩くかだが、今回は杉並木の終着点である東照宮から下る事にした。

並木道の始点と終点に立つ並木寄進碑

というワケで、スタート地点は並木道の終点にあたる東照宮である。

日光杉並木の始点と終点には、それぞれ並木寄進碑という石碑が立っている。杉並木を植えたその由来を記したもので、寄進碑から寄進碑までが杉並木の範囲というワケだ。

東照宮側の寄進碑が立っているのは、東照宮の入口に架かる神橋の袂である。
日光に来た誰もが目にする神橋
日光に来た誰もが目にする神橋
その袂に東照宮への入口があり、その傍らにひっそり立つ寄進碑
その袂に東照宮への入口があり、その傍らにひっそり立つ寄進碑
慶安元年(1648年)に立てられた、なかなか立派な石碑だが……
慶安元年(1648年)に立てられた、なかなか立派な石碑だが……
誰にも見向きされていないのが悲しい
誰にも見向きされていないのが悲しい
日光は相変わらず盛況で、大勢の人々が門前町を歩いて東照宮にやってくるものの、並木寄進碑に目をやる人は誰もいない。その近くにドドンと置いてある、世界遺産の碑にばかり注目されている。

そんな日陰者の寄進碑に妙なシンパシーを感じながら、東照宮の逆方向に向かってスタートである。
それでは、歩き始めよう
それでは、歩き始めよう
しばらくは並木の無い門前町を歩く
しばらくは並木の無い門前町を歩く
並木の一部か? と思ったら全然違った。そもそも杉じゃなくて松だし
並木の一部か? と思ったら全然違った。そもそも杉じゃなくて松だし
町並みが切れる所から杉並木は始まる
町並みが切れる所から杉並木は始まる
神橋から門前町をてくてく歩いて行くと、ちょうど東部日光駅に差し掛かる辺りで、こんもりとした杉の木が前方に見えてくる。

ここが日光杉並木の実質的なスタート地点。いよいよこれからが並木歩きの本番だ。
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序盤は基本的に車道沿い

日光杉並木は国道119号線に沿って続いている。いや、正確には国道119号線が杉並木(日光街道)に沿って敷かれたと言うべきか。

まぁ、ともかく、東照宮からしばらく、杉並木は基本的に車道沿いを行く。元は江戸時代の街道なので道幅がいささか狭く、歩道がほとんど無いので行き交う車が結構怖い。
杉並木は国の特別史跡&特別天然記念物として保護されている
杉並木は国の特別史跡&特別天然記念物として保護されている
立ち並ぶ杉は壮観だ
立ち並ぶ杉は壮観だ
序盤のこの辺りは、若い杉が多い印象である
序盤のこの辺りは、若い杉が多い印象である
宅地化の影響か、並木が途絶える場所もままある
宅地化の影響か、並木が途絶える場所もままある
さらに進むと、並木道は車道と分離した
さらに進むと、並木道は車道と分離した
石仏も残り、なかなか良い風情だ
石仏も残り、なかなか良い風情だ
しかし歩く人はあまりいないのか、やや寂しい感じもする
しかし歩く人はあまりいないのか、やや寂しい感じもする
台風の影響か、枝が折れて電柱が大変な事になっていた
台風の影響か、枝が折れて電柱が大変な事になっていた
さらに進んで行くと、また並木が途切れた
さらに進んで行くと、また並木が途切れた
JR日光線の高架橋をくぐると、並木道の続きを発見
JR日光線の高架橋をくぐると、並木道の続きを発見
この辺りは、近隣の方々の生活道としても使われているようだ
この辺りは、近隣の方々の生活道としても使われているようだ
杉葉も掃除され、しっかり手入れされている印象
杉葉も掃除され、しっかり手入れされている印象
しかしやはり倒木はあるようで、見事にポッキリいっていた
しかしやはり倒木はあるようで、見事にポッキリいっていた
杉の木は背が高くなる分、落雷を受けたり、台風などの暴風によって倒れる事が多いと聞く。特に並木は森のように木々が密生しているワケではないので、影響を受けやすいのだろう。

日光杉並木を歩いていると、太い枝が折れて道に落ちていたり、中には幹が折れてしまったものを見る事もある。世界最長の杉並木は、維持もまた大変そうだ。
人気がある店なのか、やたら車が停まっているラーメン店を横切る
人気がある店なのか、やたら車が停まっているラーメン店を横切る
杉並木は再び車道に。歩道が狭いので車に気を使う
杉並木は再び車道に。歩道が狭いので車に気を使う
ふと、杉の木と竹が意外とマッチする事に気が付いた
ふと、杉の木と竹が意外とマッチする事に気が付いた
徐々に木も太くなってきて、テンションが上がる
徐々に木も太くなってきて、テンションが上がる
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車道を外れ、雰囲気がぐっと急上昇

東照宮からてくてく歩く事およそ4km。野口という場所に差し掛かると、杉並木は国道から反れ、歩くのに最適な歩道になった。

特にこの辺りは昔ながらの風情が残っており、雰囲気が非常に良い。
水路や古い家屋、塀など、盛り上げてくれる
水路や古い家屋、塀など、盛り上げてくれる
杉の木に着生している苔もまた美しい
杉の木に着生している苔もまた美しい
馬頭観音の石仏が密集して置いてあった
馬頭観音の石仏が密集して置いてあった
馬頭観音は動物を救う仏として、馬が活躍した街道沿いに祀られる事の多いものである。こういうのを見ると、「あー、やっぱり昔から人が歩いてきた道なんだなぁ」と思わせてくれる。

一ヶ所にこれだけ集まっていると、墓石みたいで少々不気味な感じもするが、おそらくは街道のあちらこちらに散らばっていた石仏を、一ヶ所に集めたのだろう。

そんな事を思いつつてくてく歩いて行くと、その先にはびっくりする程にカッコ良い雰囲気の道が待っていた。
なにこの雰囲気、凄く良い
なにこの雰囲気、凄く良い
杉の木のたたずまいもさることながら、その根元の草や苔、そして道に散らばる杉葉が相まって、ため息が出る程の景観である。

車道として舗装されている部分が多い中、江戸時代の風情を今に残している貴重な区間と言えるだろう。
戊辰戦争の時に弾丸が撃ち込まれたという杉もある
戊辰戦争の時に弾丸が撃ち込まれたという杉もある
並木の横を通る水路がまた良い味だしているのだ
並木の横を通る水路がまた良い味だしているのだ
さらにしばらく歩いて行くと――
さらにしばらく歩いて行くと――
今市の市街地に出た
今市の市街地に出た
一見すると何の変哲も無い町だが……
一見すると何の変哲も無い町だが……
かつての宿場町という事もあり、古い建物も結構ある
かつての宿場町という事もあり、古い建物も結構ある
町中には水飲み場が設けられていた
町中には水飲み場が設けられていた
今市の水はいまいち……ではなく、おいしいらしい
今市の水はいまいち……ではなく、おいしいらしい
街道の分岐地点(合流地点)に位置する追分地蔵尊
街道の分岐地点(合流地点)に位置する追分地蔵尊
前述の通り、この今市は日光街道、日光例幣使街道、会津西街道の三街道が合流する地点である。

特に日光街道と日光例幣使街道の合流地点には、「追分地蔵尊」と呼ばれる大きな地蔵が立っており、その左右に杉並木が続いていて、まさに「合流地点!」という感じだ。

さて、この左右のどちらに進もうかと少し迷ったが、私は右の日光例幣使街道を行く事にした。日光例幣使街道沿いにはJR日光線が通っており、帰るのに楽だと思ったからだ。

……しかし、この選択が間違いであった。
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延々と続く、狭い車道の日光例幣使街道

ぶっちゃけて言うと、日光例幣使街道を歩き通すのは結構大変だ。

今市から杉並木の末端まで13kmと距離があるのに加え、道幅が狭く、くねくね曲がっていて見通しが利きにくく危険なのである。……って言うか、人が歩く事を想定しない車道である。

おまけに街道は山の中を通って行くので、容易に離脱する事もできない。街道沿いにあると思っていた駅も、それは山を越えた10km先であった。正直、死ぬかと思った。
分岐地点からは歩きやすそうに見えた日光例幣使街道
分岐地点からは歩きやすそうに見えた日光例幣使街道
最初の辺りはまだマシであった
最初の辺りはまだマシであった
馬頭観音と同様、馬の神様である勝善神を撮る余裕もあった
馬頭観音と同様、馬の神様である勝善神を撮る余裕もあった
JR日光線の線路を越えた辺りから、道は山へと突入する
JR日光線の線路を越えた辺りから、道は山へと突入する
道の雰囲気はなかなか素敵
道の雰囲気はなかなか素敵
せり出した根っこや石垣も良い感じ
せり出した根っこや石垣も良い感じ
道沿いにはポツンポツンと集落が点在するが、寂しい印象だ
道沿いにはポツンポツンと集落が点在するが、寂しい印象だ
街道のキロポストである一里塚も残っていたりする
街道のキロポストである一里塚も残っていたりする
超絶ヘアピンカーブには思わず目を見張った
超絶ヘアピンカーブには思わず目を見張った
そして日が暮れ、道はより危険度を増す
そして日が暮れ、道はより危険度を増す
死ぬ物狂いで歩き、ひと気のある場所に出た時には心底ほっとした
死ぬ物狂いで歩き、ひと気のある場所に出た時には心底ほっとした
杉並木はまだ続くが……道は真っ暗で、歩道も無い
杉並木はまだ続くが……道は真っ暗で、歩道も無い
これ以上進むのは自殺行為だろう……
これ以上進むのは自殺行為だろう……
街道から約2km離れた所にある駅まで歩いて、帰った
街道から約2km離れた所にある駅まで歩いて、帰った

日光杉並木を歩くなら、今市から東照宮までの区間がベスト

というワケで、今市の追分地蔵尊から約7kmぐらいの地点にある、板橋という集落でリタイヤという事に相成った。

日光例幣使街道にも見どころは結構あるのだが、いかんせん、歩道が無くて危険である。安全性と道の雰囲気、交通の便を考えると、やはり今市から東照宮までの区間が一番だろう。

……と言いつつも、やはり私は日光杉並木を踏破したい。また今度、個人的にリベンジする事になるだろう。
できれば杉並木の端、この寄進碑まで歩きたかったのだ(この写真は2006年に撮ったもの)
できれば杉並木の端、この寄進碑まで歩きたかったのだ(この写真は2006年に撮ったもの)
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