草野球レベルでは難しい
野球部にこそ入ったことはないが、子どもの頃から草野球に慣れ親しんできた。バッティングよりは守備の方が好きだ。ポジションは内野が多い。軽快にゴロをさばいて、一塁へ送球。間一髪でアウトにする快感は、他の何物にも代え難い。
近所の公園で子どもたちの試合を観ながら考えた
しかし、残念ながらゲッツーを取った記憶がない。プロの試合と違って、草野球レベルではなかなか難しいのだ。忸怩たる思いである。ならば、今こそ取ろうではないか。しかも、グラブトスで。
手でつかんで投げたのでは間に合わない。補給したボールをそのままトスする。それが、グラブトスという妙技だ。10月の早朝、グランドへ向かった。
途中でおにぎりを購入
「あなたなら取れるわよ、グラブトスでゲッツー」
ピッチャー返しを取って1-4-3のゲッツー
集まったのは高円寺界隈に住む野球好きたち。まずは、それぞれの「守備における夢のプレイ」を聞いてみた。
野球経験は様々
「ショートバウンドをすくって送球することです」
なるほど。それも気持ちいい。ちなみに、現在の時刻は朝の9時。彼は1時間しか寝ていないそうだ。
続いて、賀川さん(美容師)。
「センターからのレーザービームかな」
おお、草野球では見たことないぞ。じゃあ、最近ボクシングを始めたという林君(大学生)は?
「三遊間の強烈なゴロに飛びついてアウトにしたいです」
いいね、派手なプレイだね。店の営業終わりで来た和田君(バー店長)、どうぞ。
「ピッチャー返しを取って1-4-3のゲッツー。一睡もしてないっす」
お、ゲッツー。ちなみに、1-4-3とはピッチャー→セカンド→ファーストというボールの流れのこと。次は、まるさん(芸人)。
「センターフライをセカンドの中継を入れて捕殺」
タッチアップの三塁走者をホームでアウトにするわけですね。うん、中継プレイは守備の醍醐味だ。
最後に、野球場がまったく似合わない勝又さん(ライブハウス店員)。
「エラーしないことですね」
現実は甘くなかった。まず、体が動かない
やはり、それぞれに追い求めたいプレイがあった。しかし、何か忘れていないだろうか。そう、「グラブトスのゲッツー」という終着駅のことだ。
今日は、皆さんに僕の熱い思いを説明し、その実現に向けて協力してもらうことにした。
絶対に負けられない戦いが、そこにはある
勇んでショートのポジションにつく。飛んできたゴロを捕球して、そのままグローブからセカンドにトス。セカンドが一塁に送球してゲッツーの完成だ。
「バッチ来い!」
「ショート!」
よし、来た!
ポロリ
びよーん
おばちゃんとの約束、守るからね
続けること30分。一向に完成する気配がないので、ちょっと休憩。
ユニフォームは以前所属していた草野球チームのもの
チームメイトから励ましの言葉を受ける
さっき買った筋子のおにぎりを食べよう
おばちゃんとの約束、守るからね
蝶のように舞い! 蜂のように刺す!
練習を再開。やがて、その瞬間はやってきた。
「はい、ショート!」
来た!
土をしっかりとグリップする
蝶のように舞い!
蜂のように刺す!
まるさん、一塁へ送球!
ワンバウンドだが…!
アウト!
「ナイスゲッツー!」
練習とはいえ、非常に大きな達成感を得た
かくして、「グラブトスでゲッツーを取る」という積年の夢は叶った。練習時のシミュレーションでこれだけの達成感を味わえるのであれば、本番の試合で実現できたら俗世を捨てて出家してもいい。
読書の秋、芸術の秋、スポーツの秋。皆さんも、思い思いのジャンルで理想のプレイを追い求めてみてください。
バッティング練習もしました