特集 2013年10月29日

小さなジオラマで壮大な神話を表現する

壮大に見えても10cm内でのできごと。
壮大に見えても10cm内でのできごと。
ハッピー ハロウィーン!

ところでハロウィンとは全く関係なく、神話の壮大な世界をジオラマで表現してみたらどうなるか、やってみた。
1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

前の記事:フリスクとお守りが似ているので作ってみた

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ケンタウロすぞこのヤロー

毎度のことながら、「やってみたい」ことには、きっかけが必ずある。それは後でお話するとして、まずは巣鴨の有名なジオラマ専門店へ行き、材料をドバっと買い込んでみた。いちいちけっこういいお値段がして、懐と心が少し痛い。しかしジオラマ用の人形が大変な数で揃っており、足を運んで心底良かったと思った。
「記事で使うんだから…!」という大義名分があるので、気になっていた材料にも手を出してしまう。うはは。
「記事で使うんだから…!」という大義名分があるので、気になっていた材料にも手を出してしまう。うはは。
さて、なぜ神話のジオラマを、という話に戻るが、いつだったか使ったジオラマ用の馬が部屋の隅から出てきたのだ。それも、首がない。何に使ったか、あるいは使おうとしたのか、全く覚えていない。
これが、問題の首なし馬。
これが、問題の首なし馬。
理由の詳細な説明をと思ったのに、いきなり「理由のわからない首なし馬」が出てきてしまったわけだが、とにかくこの馬を見て「あ、ケンタウロスができる」と思ったのだ。

ケンタウロス、さらには、そうした壮大な神話上の動物、人物を、この大きさで(体長約2cm)表現してみたくなったというわけです。

ただし、あまり小さすぎても大変なので、鉄道のHOゲージ用(1:87)を主体に作っていくことにした。
ケンタウロスの馬の部分は少し小さめの、Nゲージ用(1:160)を用いることにした。こういうことは実店舗で検分しないとなかなかイメージがつかめない。
ケンタウロスの馬の部分は少し小さめの、Nゲージ用(1:160)を用いることにした。こういうことは実店舗で検分しないとなかなかイメージがつかめない。
神話っぽい服装の人はいなかったので、なるべく着衣をつけてない人を選んで(そして当たり障りのないポーズのを)買ってきた。
神話っぽい服装の人はいなかったので、なるべく着衣をつけてない人を選んで(そして当たり障りのないポーズのを)買ってきた。
オオカミ、馬、ライオン、そしてお値段…
オオカミ、馬、ライオン、そしてお値段…
ぜひとも使ってみたい、雑草や花。
ぜひとも使ってみたい、雑草や花。
まずは、ケンタウロスを作ってみよう。
このバカンス中の女性の…上半身を…。
このバカンス中の女性の…上半身を…。
すいません足を切断します、そのうえ調整のため削らせてください。
すいません足を切断します、そのうえ調整のため削らせてください。
帽子、胸も削って載せてみる。ちょっとした罪悪感。
帽子、胸も削って載せてみる。ちょっとした罪悪感。
しかし形をなじませて、色を塗ったらケンタウロス!
しかし形をなじませて、色を塗ったらケンタウロス!
うーん、思った以上にケンタウロしてた。では調子に乗って、地獄の番犬・3つ頭を持つケルベロスを作ってみよう。
おうおうおう、俺たちのお通りだぜ。
おうおうおう、俺たちのお通りだぜ。
と次の瞬間、仲間が頭だけに。ショボン。
と次の瞬間、仲間が頭だけに。ショボン。
削って足して、ケルベロス(前足折ってるのは、後で眠らせたかったため)。
削って足して、ケルベロス(前足折ってるのは、後で眠らせたかったため)。
なんとかケルベロしてやったぜ。次はペガサスだ。
妖精(ジオラマ人形のラインナップになぜかある)の、羽をむしる。
妖精(ジオラマ人形のラインナップになぜかある)の、羽をむしる。
ペガサスの羽っぽくカットする。
ペガサスの羽っぽくカットする。
本来なら白い馬につけたいが、躍動感は茶色いほうが圧倒的。
本来なら白い馬につけたいが、躍動感は茶色いほうが圧倒的。
なのでアクリル絵の具で白く塗る。
なのでアクリル絵の具で白く塗る。
瞬間接着剤で羽つけて、ペガサス!(ピント甘くてすみません)
瞬間接着剤で羽つけて、ペガサス!(ピント甘くてすみません)
まんまと、ペガサしたった。

このように、動物はそれなりにできあがって、楽しくなってきた。問題は人間のほうだが、イメージするような壮大な神話上の人物に、果たして生まれ変わらせられるか否か。
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どこまで緻密にやればいいのか

そもそも何のキャラクターを作ろうか。果たして自分はどれだけの神話を知っているのか。ジオラマにしやすい光景、キャラクターとは何なのか。

そこでハタと考え込んでしまう。「ケンタウロスを作るぞ!」と意気込んではみたものの、じゃ他には何がある。

自分は星が好きだったので、星座にまつわる話を思い出せば、とっかかりはあると考えた。そこで選んだのが、次の人々だ。
大変陽気な人たちですが。
大変陽気な人たちですが。
この2人は、ペルセウスとアンドロメダに。
この2人は、ペルセウスとアンドロメダに。
この2人は、オルフェウスとエウリュディケ。
この2人は、オルフェウスとエウリュディケ。
ブラを盗んだイタズラな子供は、メデューサにしてやろうか!
ブラを盗んだイタズラな子供は、メデューサにしてやろうか!
それぞれの神話の詳細は後回しにして、まずは成形だ。全員ほぼ裸であるから、神話風の服を着せてやらねばなるまい。そして体型や髪型も変えてやらないといけない。このちっさい人形に、パテを盛って、削っていくのだ。
盛って盛って、
盛って盛って、
削る。その繰り返し。つくづく「1:160」じゃなくてよかった…
削る。その繰り返し。つくづく「1:160」じゃなくてよかった…
非常に稚拙ではありますが、もうこれ以上良くなりませんので完成とさせていただきます。
非常に稚拙ではありますが、もうこれ以上良くなりませんので完成とさせていただきます。
小道具もあったな…もう厚紙でいいか。
小道具もあったな…もう厚紙でいいか。
塗ればごまかせるであろう。
塗ればごまかせるであろう。
体型も服もポーズもなかなかビシッと決められなかったが、あとは塗ればなんとかなるだろうというわけで、できあがったのがこちら。
妻エウリュディケの手を引いて走る、琴の名手オルフェウス。
妻エウリュディケの手を引いて走る、琴の名手オルフェウス。
なんとか戦士っぽく塗ってみたペルセウスと、捕らわれのアンドロメダ。左端のレタスは何か、って?
なんとか戦士っぽく塗ってみたペルセウスと、捕らわれのアンドロメダ。左端のレタスは何か、って?
こいつが…
こいつが…
こうなって、蛇の髪の毛を持つメデューサになっちまったのさ!
こうなって、蛇の髪の毛を持つメデューサになっちまったのさ!
はっきり言ってメデューサとするにはかなり無理があるが、蛇1本1本はとても表現できないし。せめて顔色は悪くしといた。

これらの人形の、元の形を作った原型師さんを心から尊敬する。ドイツの会社なのでたぶんドイツの人だろうか。ダンケシェーン。

人物・動物が全て出揃ったところで、舞台となる情景の模型に取り掛かろう。
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寄り目になりそうな世界

ジオラマのベースは、スタイロフォームを削って作っていこう。卓上スチロールカッターを買ったので、真っ直ぐな切断は思いのままだ!
卓上機械って素晴らしい。
卓上機械って素晴らしい。
大きさは、全て10cm×8cmにしてみた。壮大なドラマが、スマホ並のスペースで展開される。

まずは川の流れるシーン。これは何用かというと、ケンタウロス用である。

というか、ケンタウロスの出てくる話っていまいち場面の詳細が曖昧なので、普通に川辺でキャッキャウフフしている様子でいいかな、と。んで神殿の跡みたいなのが立ってればいいかなと。
岸辺の層を貼り付ける。
岸辺の層を貼り付ける。
壁用のパテを塗り付けて、地面っぽくしてみる。
壁用のパテを塗り付けて、地面っぽくしてみる。
アクリル絵の具で着色。
アクリル絵の具で着色。
ボンド塗った上に芝生用の粉を撒いて、
ボンド塗った上に芝生用の粉を撒いて、
トントン。
トントン。
神殿の柱は、棒キャンディー用のスティックで。
神殿の柱は、棒キャンディー用のスティックで。
これが楽しみだった!花をランダムに植え込むお仕事。
これが楽しみだった!花をランダムに植え込むお仕事。
これも楽しみだった、混合が不要な、流すだけの水用の素材!
これも楽しみだった、混合が不要な、流すだけの水用の素材!
次は冥界のシーン。これはオルフェウスが、亡き妻エウリュディケを冥界から連れ出そうとするシーンだ。一番のヤマ場は出口寸前だろう、というわけで冥界の門を作らねばならぬ。
大きさはこんなモンでしょうか。ライオンも使います。
大きさはこんなモンでしょうか。ライオンも使います。
開閉できるよう、テープで留める。
開閉できるよう、テープで留める。
着色したあと、なんか寂しいので木工用ボンドで模様を描き、またその上から着色。ライオンは頭だけ使わせてもらいました。
着色したあと、なんか寂しいので木工用ボンドで模様を描き、またその上から着色。ライオンは頭だけ使わせてもらいました。
ひぃー、あと一つ。ペルセウスとアンドロメダが出会う海上でのシーンだ。アンドロメダは、母親カシオペアが神を怒らせたせいで生贄に差し出され、岩に繋がれてしまうのだ。
鎖…の代わりに、銀の刺繍糸を接着。
鎖…の代わりに、銀の刺繍糸を接着。
岩場もなんとかスタイロフォームで。
岩場もなんとかスタイロフォームで。
先ほどの水用素材を流し、固まりかけのときにつついて波立たせる。
先ほどの水用素材を流し、固まりかけのときにつついて波立たせる。
だー、やっと3シーン終わった。見たこともない世界を手探りで「らしく」していくのは大変だったが、まあ思い通りにできるといえばできるので、神にでもなったつもりでやれば楽しい。

そんな神の作りし世界。見るがよかろう。
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叙事詩 on 10cm×8cm

ちっさく壮大なドラマが展開されており。
ちっさく壮大なドラマが展開されており。
冥界の門、開かれし。
冥界の門、開かれし。
ケルベロス、オルフェウスの琴の音(ね)に眠り居り。
ケルベロス、オルフェウスの琴の音(ね)に眠り居り。
冥界の門には、獅子の紋章あり。由来はわからじ。
冥界の門には、獅子の紋章あり。由来はわからじ。
オルフェウス、亡き妻エウリュディケの魂を蘇らせんと、冥界より連れ出さんとす。
オルフェウス、亡き妻エウリュディケの魂を蘇らせんと、冥界より連れ出さんとす。
地上まであとわずかとなりしに、嬉しさのあまり妻へ振り向きたるその瞬間、永遠に妻 戻らじ。いと凄まじ。
地上まであとわずかとなりしに、嬉しさのあまり妻へ振り向きたるその瞬間、永遠に妻 戻らじ。いと凄まじ。
時と場所は変わりて、いと のどかなり。ケンタウロス達、川辺にて遊ぶ。
時と場所は変わりて、いと のどかなり。ケンタウロス達、川辺にて遊ぶ。
水冷たく、良き心持ちなり。全て世は 事も無し。
水冷たく、良き心持ちなり。全て世は 事も無し。
このたびのクライマックスここにあり。ペルセウス、メデューサの首を辛くも討ち取り、ペガサスを伴い帰路に着きしが…
このたびのクライマックスここにあり。ペルセウス、メデューサの首を辛くも討ち取り、ペガサスを伴い帰路に着きしが…
嗚呼、アンドロメダ姫、母の責にて生贄に捧げられ居り。今にも怪物、姫を襲わんとす。
嗚呼、アンドロメダ姫、母の責にて生贄に捧げられ居り。今にも怪物、姫を襲わんとす。
しかし怪物とは何者ぞ…。
しかし怪物とは何者ぞ…。
ペルセウス、メデューサの眼光にて怪物を討たんとす。ペガサス、無関係に舞い居り。
ペルセウス、メデューサの眼光にて怪物を討たんとす。ペガサス、無関係に舞い居り。
目をギューッと細め神話の世界に没頭。
目をギューッと細め神話の世界に没頭。
慣れない文語調とジオラマで、神話の世界をうたってみた。ちいさーい人々が織り成す雄大な物語、感じ取っていただけただろうか。

ポケットサイズなので、旅先や仕事先で、小さい自分が嫌になったときなど、これを見て勇壮な気分になれればと思う。
鉄道模型とともに。「メーテル、乗り遅れるよ!」を後ろからうらやましげに見送るその星の住人、ってところか。
鉄道模型とともに。「メーテル、乗り遅れるよ!」を後ろからうらやましげに見送るその星の住人、ってところか。

お知らせ1

乙幡の書籍『乙幡脳大博覧会』(アールズ出版)と消しゴムはんこ本『笑う、消しゴムはんこ。かんたん、たのしい、おもしろい』(世界文化社)、好評発売中でございます。

どうぞよろしくお願いいたします。

お知らせ2

個展開催中。今週末は京都にまいりますえ。

10月24日~10月29日 名古屋:新栄Cafe Dufi
10月31日~11月4日 京都:河原町Second Royal
11月21日~24日 愛媛:松山 THE 3rd
FLOOR

土日祝日には消しゴムはんこのワークショップもいたします。
詳細は乙幡ブログツイッターにて告知いたします。

こちらも、よろしくお願いいたします。
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