特集 2013年11月8日

切れかかった蛍光灯「息切れ蛍光灯」を愛でる

実は蛍光灯ってかなり風情のある照明だったのではないか、と思うわけです。
実は蛍光灯ってかなり風情のある照明だったのではないか、と思うわけです。
いまや照明界のスターといったらLEDだ。省電力、長寿命。その眩い輝きはまさにスターと呼ぶに相応しい。今後、いろいろな照明がどんどんLED化されていくことだろう。

しかし、ぼくらは蛍光灯特有のあの風情を忘れてはならない!と思うのだ。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

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蛍光灯だいすき!

蛍光灯が悪者だった時代がある。ぼくが子どもの頃、「寒々しい」「こんなに蛍光灯ばかりなのは日本だけ」「明るければいいというものではない」などという蛍光灯批判をよく聞いた記憶がある。のっぺりとした均一な光は管理社会を表現している、云々。

ちなみにこれらの論は、だいたいさいご谷崎の「陰翳礼讃」で締めくくられるのが常だ。

で、それへの対応か、各メーカーがこぞって電球色の蛍光灯を出してきた時期があった。

ここで思い切って告白するが、ぼくは蛍光灯が好きだ。あの「こなれた大量生産品感」がいい。すばらしいと思う。

いまも続く、「あえて電球使うのってセンスがいい」みたいな風潮なんなのか。がんがん使っていこうぜ蛍光灯!「昼光色」で!
散り際にしみじみとした風情を漂わせる。それも蛍光灯のいいところ。
散り際にしみじみとした風情を漂わせる。それも蛍光灯のいいところ。
そしてなにより蛍光灯には他にはない大きな特徴がある。それは「さいごがある」という点だ。管の両端だけ赤黒く光り、ときおり不規則に点滅する、あれだ。あんな息の切れ方をする照明ってほかにない。
こときれる前に、いかにもって感じの光り方をする。すごく生き物っぽい。
こときれる前に、いかにもって感じの光り方をする。すごく生き物っぽい。
こういう終わりの迎え方って、ロウソクやたき火など照明発明以前の灯りに似ていないか。こと終わり方に関しては、白熱電球よりも蛍光灯のほうが炎っぽいのだ。これは興味深い。

蛍光灯のさいごを愛でてみよう

LED時代になれば、「雨の降る裏路地を照らす、息切れ蛍光灯の光」がうら寂しい雰囲気を演出する映像表現として通用しなくなるのだろう。失うものは大きい。
伝統的な電柱に付いた街灯だが、ここにもLED化の波が。
伝統的な電柱に付いた街灯だが、ここにもLED化の波が。
しかし、この組み合わせ、嫌いじゃない。
しかし、この組み合わせ、嫌いじゃない。
また「照明のことを『蛍光灯』って言う→年寄りあるある」なんて日もそう遠くはあるまい。考えてみれば「白熱灯」も「蛍光灯」もそれなりに日本語で命名されていたものだが、今後は「LED」などとハイカラな呼び名になるわけだ。

ともあれ、失われてしまう、この「息切れ」を今のうちにじっくりと愛でておこうではないか!
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蛍光灯の数だけ最期がある

蛍光灯が「息切れ」を起こす原因の最たるものは、電極に塗られた電子を放出する物質が消耗するためだそうだ。

原因が同じでも、その最期の迎え方はさまざま。おそらく終わりにも段階があるし、周辺の温度など環境によって息切れ方もさまざまになるのだと思う。蛍光灯の数だけ最期があるのだ。

とはいえ、なかなか見つからなかった「息切れ蛍光灯」。以下に貴重な息切れ例をご覧いただこう。(画像クリックで息切れ解説ページへ)
理想的な息切れ方。気配を感じてふと見上げた集合住宅の廊下にいました。
理想的な息切れ方。気配を感じてふと見上げた集合住宅の廊下にいました。
秋の夜風によく似合う。規則的な中にも命を感じる息切れだ。
秋の夜風によく似合う。規則的な中にも命を感じる息切れだ。
息切れというよりも肩で息をしているかのようなパワーを感じる。
息切れというよりも肩で息をしているかのようなパワーを感じる。
主系列蛍光灯の最期。いずれ太陽もこうなるだろうと言われている蛍光灯。
主系列蛍光灯の最期。いずれ太陽もこうなるだろうと言われている蛍光灯。
息切れというよりも肩で息をしているかのようなパワーを感じる。
息切れというよりも肩で息をしているかのようなパワーを感じる。
街灯だけではない。看板の中で息切れというケースもある。
街灯だけではない。看板の中で息切れというケースもある。
「こんなケースも!」と喜んで見ていたら脇の踏切が鳴り出した。
「こんなケースも!」と喜んで見ていたら脇の踏切が鳴り出した。
一度気になると、こういうところも見逃さないようになるのだ。
一度気になると、こういうところも見逃さないようになるのだ。
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息切れマスターピース

不規則な点滅間隔と点灯時間。まるで「まだまだ若いもんには負けん!」とぎりぎりまで力をためて光るも、寄る年波には勝てない、といった感じ。われわれが思い描く「息切れ蛍光灯」そのものの光り方だ。

末永くこのままでいてほしいと思うがそうもいかないところが息切れ蛍光灯の難しさ。
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虫の声に似て

こちらは短い点滅間隔で、比較的規則的に光る息切れ。最期に一花咲かせたいという焦りのようなものを感じる。虫の声が繁殖のための求愛であるのに似て、次の世代を考えるリズムと言えるかもしれないが、残念なことにそれはLEDかも。
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早世の輝き

弱々しさよりも、むしろ力強さを感じる息切れ蛍光灯。大往生ではなく、短い人生を一気に駆け抜けた「夭折の蛍光灯」といった趣きである。息切れ蛍光灯にもいろいろなタイプがあるのだなあ、と実感した一本。
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赤色巨星

街の夜景が星空にたとえられることがある。だとすればさしずめこの息切れ蛍光灯は星の最期だろう。冒頭写真のものなのだが、ご覧の通り瞬いていない。まるでもともとこういう照明であるかのようなこの安定感はどうだ。老いてなお存在感を放つさまは、まるでアルデバランのようだ。いずれ太陽もそうなると言われている主系列星の最期・赤色巨星。商店街に太陽の50億年後を見た。

赤ら顔の親分

古い商店街アーケードにいた息切れ蛍光灯。「赤色巨星」と同様、こちらもぼくが見たときは点滅していなかった。この状態の後に点滅期がやってくるのか、これの前なのか。あるいは点滅するケースと、最後までしないケースがあるのか。

ともあれ、この蛍光灯、最期が近いとはいえあまり悲壮な感じがしない。それはきっと、これがLEDに変わることはなくこのままずっと蛍光灯なんだろうな、と思わせる周辺の環境によるのだろう。後ろに煌々と明るい若い蛍光灯の列を従え、まるで何代目かの親分のようだ。

二人暮らしの老夫婦

息切れ蛍光灯が見られるのは街灯においてばかりではない。このように看板の場合もある。

剥き出しの息切れに比べると、いまひとつ味わいにかけるとされるケースだが、この駐車場看板はひと味違う。それは、上の息切れ蛍光灯はしずかに佇み、下のものが激しく点滅している、というこの組み合わせの妙である。

息切れ蛍光灯にも個性がある。そしてその性質の異なる二人が同じ箱の中で最期を迎える。ひとりものが多い息切れ蛍光灯界隈において「自分もこうなりたい」と思わせられる、しあわせなケースと言えよう。

それぞれの灯り

暗い路地に、点滅する自動販売機を見たとき、最初は演出かと思った。街灯などと異なり、比較的頻繁に業者が見に来る(中身の補充のため)ものなだけに、照明の取り替えがまめに行われ、結果としてあまり息切れ自動販売機は存在しないのではないかと思う。だとすればこれは珍しいケースだ。 だからなんだ、って話だが。

看板部が息切れを起こしている下で、ボタン部が脳天気に演出点滅パターンを繰り返す、そのコントラストがおもしろい。と思っていたところへ、すぐ先の踏切が鳴り、煌々と車内照明も明るい車両が通り過ぎる。

踏切が上がった後には、自転車の灯りをはこぶご近所さん。ぼくらのまわりは灯りだらけだ!とあらためて気づいた一幕であった。 だからなんだ、って話だが。

こんなところに息切れ

今回最後にお見せするのは、駅ホームの下の息切れ蛍光灯。こんなところに息切れが!と驚きつつ喜びつつ、でもまあ「蛍光灯あるところに息切れの可能性あり」なので当然か、とも思ったり。

しかし変わった場所であることにばかり気をとられてはいけない。この息切れ方はすばらしい。いかにも蛍光灯の最期、って感じ。持って帰りたい。

それにしてもこの場所に照明必要なのかな。転落とかもの落とした時のため?どの駅でもここに灯りあったっけ?

息切れ蛍光灯見つけたら教えてください

「消えかかってる蛍光灯を集めてみよう」と思ってけっこう経つが、見つけられたのはいまのところこれだけだ。なんせ地図に載っているわけでもないし、すぐ交換されちゃうし。偶然で会うことを期待してうろうろ歩く以外にないのだ。

今後とも集めたいと思うので、見つけたら教えてください。
まだまだ元気そうだな!
まだまだ元気そうだな!

いっそLEDで再現したい

息切れ蛍光灯は期間限定。見つけて、たとえ譲り受けても、鑑賞している内にこときれてしまう。

だったらこういう息切れ点滅をLEDで再現すればいいんじゃないか?さいきんデイリーポータルZって電子工作流行ってるし!こんど石川さんに相談してみようかな!

【告知】2013年11月17日「間取り図ナイト」!

毎回おかげさまで大人気のイベント「間取り図ナイト」をひさしぶりにやります!その名の通り間取り図を見て楽しむイベント。過日本も出版しました

今回もおもしろい間取り図たくさんお見せしますよ。詳しくは→こちら
上の間取り図は「ダイナミックすぎる間取り図を描く不動産屋に行ってみた」より。何度見てもすごい。
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