ちしきの金曜日 2013年11月8日
 

私だってミステリー小説を書き上げたい

未完の小説が、15年の時を経て完成します!
未完の小説が、15年の時を経て完成します!
漫画家や小説家に憧れる人は多いと思います。
私もそんな例にもれず、高校生や大学生の頃はよくオリジナル小説の設定を考えていたものです。下手したら20代半ばくらいまで考えていたかもしれません。
特に、高校時代は主にミステリー小説の設定を考えていました。何故なら、「ミステリー書いてる」だなんて頭よさそうだから。
しかし、私の頭では斬新なトリックや誰もが納得する動機も思い付かず、物語が書かれることはなく15年以上が経過しました。
この度ミステリーの新人賞の取材に行けることになり、そんな黒歴史が記憶の底から甦りました。
1980年北海道生まれ。 気が付くと甘いものばかり食べている偏った食生活を送っています。

『鮎川哲也賞』『ミステリーズ!新人賞』の贈呈式に行きました

去る11月1日、ミステリーの老舗出版社・東京創元社が主催する『第23回鮎川哲也賞』『第10回ミステリーズ!新人賞』の贈呈式およびパーティーが、東京・飯田橋のホテルメトロポリタンエドモンドにて行われました。
受賞者および選考委員の皆さん。ミステリーファン垂涎の豪華な顔ぶれ!
受賞者および選考委員の皆さん。ミステリーファン垂涎の豪華な顔ぶれ!
鮎川哲也賞は、質の高い本格推理小説を数多く発表し、後進の育成にも力を入れていた作家・鮎川哲也(1919-2002)の名を冠した長編推理小説の新人賞です。受賞者や最終候補者から芦辺拓や加納朋子、貫井徳郎、西澤保彦などの有名作家を多く輩出しています。
今年の受賞作は、市川哲也さんの『名探偵の証明』。
かつて一世を風靡した名探偵の老い、若き名探偵との世代交代という重めのテーマですが、シンプルな構成と魅力的なキャラクターで一気に読ませる勢いを感じる作品でした。
鮎川哲也賞受賞の市川哲也さん。ペンネームではなくご本名だそう。
鮎川哲也賞受賞の市川哲也さん。ペンネームではなくご本名だそう。
一方のミステリーズ!新人賞は、短編の推理小説が対象です。
受賞作は選評とともに東京創元社刊行の文芸誌『ミステリーズ!』に掲載され、こちらも数々の人気作家を輩出しています。
今回受賞したのは、櫻田智也さんの『サーチライトと誘蛾灯』。
登場人物のとぼけた味わいや会話のテンポの良さが印象的で、事件の背景にたどり着く過程で伏線がどんどん回収されていく様も圧巻でした。
ミステリーズ!新人賞受賞の櫻田智也さん。どこかで見た名前と顔。
ミステリーズ!新人賞受賞の櫻田智也さん。どこかで見た名前と顔。
そうです、以前デイリーポータルZで執筆していた櫻田さんです。
今回は櫻田さんのご厚意で私たちデイリーポータルZチームも贈呈式の取材をさせてもらえることになったのです。

が、私は式の開始早々カメラの充電が切れ満足に写真も撮れず、ミステリー好きの斎藤充博さんに至っては大ファンである有名作家の方々にサインを頂いたり握手して頂いたりと取材に関係なくパーティーを満喫していました。
憧れの先生方とお話できた喜びでクネクネしてる斎藤さん。
憧れの先生方とお話できた喜びでクネクネしてる斎藤さん。
こんな取材で鮎川哲也賞とミステリーズ!新人賞のことをお伝えできたか不安ですが、とにかくミステリー業界期待の新人作家がここに誕生しました。
書店でお二人の名前を見かけた際は、是非お手に取ってご覧ください。ネット書店だったらポチってみてください。
お二人の今後のご活躍、期待しております!
お二人の今後のご活躍、期待しております!
以上、贈呈式レポートおよびお知らせでした。

せっかくなので、プロから作品のアドバイスをもらいたい

フレッシュなお二人のご活躍をお祈りしつつ終わってもいいのですが、ほら、冒頭でお話した私の未完(ていうか設定だけで書き始めてすらいない)のミステリー小説ですよ。
ミステリー業界の方とお話する機会なんてそうないことですし、ちょっと図々しいけど私の作品にアドバイスをもらえませんか?
そんな思惑のもと、櫻田さんと市川さん、そして東京創元社の女性編集者・Iさんを直撃しました。
控室にて。贈呈式の直前にすみません。
控室にて。贈呈式の直前にすみません。
それではまず、私の作品についてご説明いたしましょう。
名付けて、『女子プロレスラー殺人事件』。
名付けて、『女子プロレスラー殺人事件』。
物語の冒頭。人気レスラーの死。
物語の冒頭。人気レスラーの死。
メインの事件。悪役軍トップレスラーも死ぬ!
メインの事件。悪役軍トップレスラーも死ぬ!
容疑者全員にアリバイが。
容疑者全員にアリバイが。
レスラー(女の子)とレフリー(男の子)コンビ。
レスラー(女の子)とレフリー(男の子)コンビ。
過去と現在の事件がリンクする!
過去と現在の事件がリンクする!
というところで丸投げ。
というところで丸投げ。
いかがでしょうか。いかにもオタクの考えた妄想っぽいですね。
探偵役が男女のコンビなのは、その頃読んでいたライトノベル(当時はそんな呼び名ではありませんでしたが)に影響を受けたのではないかと思われます。
ついでに、これを考えていた頃本当に女子プロレスラーが試合後に亡くなる事故が起こり、自分はエスパーではないかと疑うようになったことも思い出しました。恥ずかしすぎる。

ここから先の私が決めかねていた各要素について相談し、物語を結末へと導いていきます。
ミステリーのプロである皆さんが私の妄想をどのように料理してくれるのか、楽しみです!

質問1『変死体で発見された悪役レスラーの死因は何?』

死因によって発見場所も違ってくるし、もちろんトリックも関わってくる部分ですので決めかねていたのですが、本気で書き進めるためにもここから決めていきたいと思います。
自分も少しは考えているぞというアピールも兼ね、4択で選んでいただくことにしました。
わりと無難な死に方をピックアップしたつもりですが、皆さんどれを選ばれるのでしょうか。
「ガス中毒」「刺殺」「毒殺」「溺死」の中から、好きな死因にシールを貼ってもらいます。
「ガス中毒」「刺殺」「毒殺」「溺死」の中から、好きな死因にシールを貼ってもらいます。
緑=櫻田さん、青=市川さん、赤=Iさん。溺死やや有利。
緑=櫻田さん、青=市川さん、赤=Iさん。溺死やや有利。
毒殺を選んだ櫻田さんに理由を聞いてみました。
櫻田さん:毒殺
「これは試合中、リング上の死です。悪役レスラーの得意技は毒霧なんですよ」 ご存じだとは思いますが、『毒霧』とは口から液体を霧状に噴射して相手に吹き付ける反則攻撃のことで、古くはグレート・カブキ、現役レスラーではグレート・ムタやTAJIRIが使用していることで有名です。
「ここで事実誤認があったりしてアリバイにも関わってきますが、悪役レスラーが当日使う毒霧に毒が混入されていたんです」
何だかすでに物語が固まりつつあるようです。
市川さんとIさんはお二人とも『溺死』ですが、その理由は異なっていました。
市川さん:溺死
「アリバイを確保しつつ溺死させるトリックが、僕の頭の中ではもう出来上がっています。」
Iさん:溺死
「屈強なレスラーを怪しまれずに殺害するなら、例えばお酒に酔わせたところを溺死させるというのが自然かなと思います」
とのことでした。自然な流れとして殺害方法を考えるIさんもさすがですが、トリックのストックがいくつもあるという市川さんもさすがの回答です。
ちなみに、私としてはガス中毒がいいかなと思っていたのですが、皆さん「ガス中毒は最近あまり聞かない」とのことでした。
最近の流行の殺害方法がないか尋ねると、
「流行りというわけではありませんが、衝動的な犯行で殴って殺してしまうというのは多いですね。手っ取り早いし」(Iさん)
だそうで、撲殺もありでしたね。

質問2『人気レスラーと悪役レスラーの関係』

1年前の事故の当事者二人の関係性が今回の事件のカギを握る…という展開はサスペンスドラマなどでありそうだと思い、入れてみた質問です。
選択肢そのものはわりとありがちなものを用意しましたが、選んだ理由を聞くと、さすがプロ、と思わせる説得力がどなたにもありました。
「なかよし」「ほんとに敵対」「師弟関係」「実は姉妹」。
「なかよし」「ほんとに敵対」「師弟関係」「実は姉妹」。
シールを貼る手に迷いがないお二人。
シールを貼る手に迷いがないお二人。
市川さんもほぼ即答。
市川さんもほぼ即答。
櫻田さんが「師弟関係」、残るお二人は「なかよし」ということでした。
「なかよし」って響き、実に曖昧ですね。
「なかよし」って響き、実に曖昧ですね。
櫻田さん:師弟関係
「師弟関係なのは、1年前の事故が起こった試合で人気レスラーにも毒霧を使わせたいからです。師弟の直接対決で、弟子が師匠の得意技を使うという流れですね。」
市川さん:なかよし
「この二人は恋人同士でした。女子だけの空間にありがちな恋愛関係です。」
Iさん:なかよし
「危険な技を掛け合うのはお互いに信頼関係がないとできないでしょうし、恋愛とまではいかなくても、同じ団体で活躍する者同士の強い絆があると思います。」
プロレス的には櫻田さんの毒霧攻撃に心惹かれるものがありますが、市川さんの頭の中でどんなストーリーになっているのかもかなり気になります。
皆さん、一つ一つの質問からすでにストーリーの展開を見出しているようです。

ちなみに、私のイチオシは「実は姉妹」ですが、これについては満場一致で「それはない」ということでした。
「使い古されたネタですよね」(櫻田さん)
「その設定を出した瞬間、ミステリファンから非難されますね」(市川さん)
「体型や顔立ちからすぐバレるんじゃ?」(Iさん)

質問3『悪役レスラーの悩み』

悪役レスラーに何か悩みがあったということにして、その悩みが過去の事故に関わっていたり変死体事件解決の糸口になったりすると話に深みが出るかも…という思い付きですが、ここにもそれぞれの物語が色濃く反映されることとなりました。
選択肢は「借金があった」「ストーカーにつきまとわれていた」「最近試合で負けることが増えた」「他団体から移籍のオファーがあった」の4つです。
「これ、どうしようかなー」と考える櫻田さん。
「これ、どうしようかなー」と考える櫻田さん。
市川さんは「これはストーカーでしょう。」とキッパリ。
市川さんは「これはストーカーでしょう。」とキッパリ。
3人ともバラバラの選択肢に。
3人ともバラバラの選択肢に。
櫻田さん:試合で負けがち
「ちょっとずるいかもしれませんが、悩みの内容は何でもいいです。ただ、『悩んでいたらしい』ということが捜査を進めるきっかけになると思うので、悩んでいると探偵が気付きやすいものがいいと思いました。」
市川さん:ストーカー
「ストーカーに悩んでいたんですが、これは仕組まれた罠です。恋愛感情を持った女が自分に頼ってくるようにストーカーを差し向けます。」
Iさん:移籍のオファー
「せっかくの女子プロレスという舞台なのだから、それを生かした設定にするといいんじゃないかと。それに、人の生死に関わることなら大きなお金も動く職業上の一大イベントにする方がいいと思います。」
ここでも市川さんの独自の世界観が異彩を放っています。
私がノリで考えた質問でもプロの手にかかるとこんなにしっかりした設定になっていくんだ…!と感動すると同時に、贈呈式1時間前にこんなことさせて申し訳ない気持ちが湧いてきました。

質問4『悪役レスラーを殺した犯人は誰?』と、ストーリーまとめ

犯人くらいは自分で考えろよ!と思われるかもしれません。
ですが、ここまでの流れをわりとがっちり考えてもらったのに、一番重要な要素である犯人を素人の浅はかな考えで決めてしまっては勿体ない。プロの目から見てふさわしい犯人を決めてもらい、より良質なミステリーを作り上げようではありませんか。
私の本命は「探偵役の新人レスラー」でした。
私の本命は「探偵役の新人レスラー」でした。
1年前の事故との因縁を感じさせる人物として「人気レスラーのタッグパートナー」、被害者を邪魔だと感じていた人物として「悪役軍No.2レスラー」、一見関係なさそうな奴が怪しいということで「熱烈なファン」、反則技をひとつくらい入れようと「探偵役の新人レスラー」という選択肢をそれぞれ用意しました。
迷いなく犯人を決めていくお二人。
迷いなく犯人を決めていくお二人。
市川さんもすぐ決めてくれました。
市川さんもすぐ決めてくれました。
櫻田さん、Iさんは『タッグパートナー』、市川さんが『悪役No.2レスラー』
櫻田さん、Iさんは『タッグパートナー』、市川さんが『悪役No.2レスラー』
それぞれの回答を踏まえ、あらすじをまとめてみました。
櫻田さん版『女子プロレスラー殺人事件』
「人気レスラーの元タッグパートナーは自分が引き立て役になっていることを不満に思っていて、人気レスラーを負けさせようと企んでいました。1年前の事故は、師弟対決で毒霧を使うことを知っていたタッグパートナーが毒霧に睡眠薬を仕込んだため、意識が朦朧として受け身に失敗してしまったことが原因です。それにひょんなことから気付いてしまった悪役レスラーを、口封じのため毒霧に毒を仕込んで殺したんです」
「すごく作りこんでるけど、冗談半分に聞いてね」とのことでした。
「すごく作りこんでるけど、冗談半分に聞いてね」とのことでした。
Iさん版『女子プロレスラー殺人事件』
櫻田さんと犯人は同じだったものの、「私は逆ですね」とIさん。
「タッグパートナーは悪役レスラーに移籍の話があったことを知り、移籍に花を添えるために人気レスラーに勝とうとし、わざと危険な技を使ったのではないかと疑うようになりました。その恨みが募って、ついには殺してしまった。でも、悪役レスラーは人気レスラーと一緒の団体で頑張っていきたいと移籍は断るつもりでいて、1年前の出来事は本当に不幸な事故だったんです。二人とも人気レスラーを思っていたのに…という悲しいすれ違いですね」
市川さん版『女子プロレスラー殺人事件』
悪役軍No.2レスラーを犯人にした市川さん。
この選択肢は悪役軍団内の勢力争いを想定して作ったのですが、市川さんは独自の理由で選んでいました。
「これは恋愛感情のもつれによるものです。正規軍と悪役軍の激しい戦いはお互いの信頼関係の上に成り立つものですが、悪役No.2レスラーがそれを嫉妬するようになったことがすべての事件のはじまりです。」-
淡々と予想外の説を語る市川さん。
淡々と予想外の説を語る市川さん。
4つの質問の答えを生かしながら、それぞれに見事なミステリーが出来上がりました。
同じ回答を選んでいてもその根拠が違ったり、想定していた理由とまったく違う理由で選んでいるところも面白かったし、私の考えた妄想全開の設定と適当な質問から一貫したストーリーを作り出しているところに、さすがはプロだと感心させられました。

問題は、どなたも面白い物語を作ってくれたため結局どれを選べばいいのか分からない、ということです。

今後の課題

今後小説を書き上げていく上での参考に、私の設定の問題点をうかがってみたところ、編集者Iさんから「設定はいいと思いますが、タイトルが…」という言葉がありました。

「応募作の選考の時まず目に付くのがタイトルですから、素敵なタイトルが付いているものはやはり好印象です。逆に、読んでみたら面白いものでも、タイトルのせいで素通りされてしまう可能性もあります。」
ズバズバ切り込んでくるIさん。さすが編集者。
ズバズバ切り込んでくるIさん。さすが編集者。
要は、タイトルがダサいってことですね。
Iさんによれば、まずタイトル、そして最初の3行と1ページ。
この部分が書店で手に取られるかどうかの重要なポイントであり、タイトルと冒頭にインパクトがあるものは強いとのことです。

Webマスター林さんが、
「団体名とタイトルをリンクさせるのはどうですか?」
と聞いてみたところ、
「いいですね!これは人名じゃないし何のことだろう?と興味を引き付けることができそうです。
(私がプロレスを習っている団体・アイスリボンだったら)アイスリボンという名前自体が美しいので、『アイスリボンの死』『アイスリボンの祈り』のように単語を付け加えるだけで想像を膨らませる良いタイトルになりますね。」

ちなみに、私が考えていた団体名は『東京女子プロレス』でした。
当時実在しない団体名だったので名付けたものの現在はその名前の新団体ができているので使えませんが、林さんから
「タイトルだけじゃなく、団体名も安直なんですね」
と言われました。
相次ぐダメ出しに、苦笑いするしかありません。
相次ぐダメ出しに、苦笑いするしかありません。
プロの作家ならばどうするだろうかと、櫻田さんと市川さんにタイトルや冒頭のシーンをどうするかうかがってみました。
「もうそのタイトル(『女子プロレスラー殺人事件』)を受け入れてしまっていました。
冒頭のシーンは毒霧で決まりでしょう。『貴子は毒霧を吹いた。』で掴みはOKですよ!」
(櫻田さん)
貴子の毒霧から始まる小説、確かにインパクトは十分です。

「僕がタイトルを付けるなら、『女子プロレスラーの証明』ですね。」(市川さん)

どっかで聞いたようなタイトルです。
いっそ、本当に『女子プロレスラーの証明』書いてください。
いっそ、本当に『女子プロレスラーの証明』書いてください。

本気で小説書けそうな気がしてきました

高校時代のふわふわした妄想に過ぎなかった設定がプロの手を借りて一本の線としてまとまっていき、何だか感慨深いものがありました。
これだけ設定もストーリーも固まったなら来年の『ミステリーズ!新人賞』に応募できちゃうんじゃない?なんて思ったりしたのですが、3つのうちのどのあらすじにするか、トリックやアリバイ崩しをどうするのか、結局自分で考えなくちゃいけません。
まだ何も解決していなかった!
とりあえず、かっこいい団体名とタイトルから考えていきたいと思います。

櫻田さん、市川さん、東京創元社の皆様、ありがとうございました。
ちゃっかりサインをもらっちゃいました。
ちゃっかりサインをもらっちゃいました。
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