特集 2013年11月24日

トマト酒は鬼平もうまいと言うに違いない

山芋を熱湯で温めてからすり鉢ですって、酒を入れて燗酒にするそうです。
山芋を熱湯で温めてからすり鉢ですって、酒を入れて燗酒にするそうです。
「鬼平犯科帳」を読んだ事が有る方は多いかと思います。池波正太郎原作の時代小説で、火付盗賊改方長官の長谷川平蔵こと鬼平が主人公。テレビドラマや漫画化もされています。

鬼平犯科帳の中では江戸時代の様々な風俗も描かれていて、その中に「芋酒」なるものが出てきます。鬼平はこれを逸品だと言って飲むのです。

そんなうまい酒ならば飲んでみたいですね。まずは芋酒を作ってみましょう。
1972年生まれ。元機械設計屋の工業製造業系ライター。普段は工業、製造業関係、テクノロジー全般の記事を多く書いています。元プロボクサーでウルトラマラソンを走ります。日本酒利き酒師の資格があり、ライター以外に日本酒と発酵食品をメインにした飲み屋も経営しているので、体力実践系、各種料理、日本酒関係の記事も多く書いています。(動画インタビュー

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> 個人サイト 酒と醸し料理 BY 工業製造業系ライター 馬場吉成 website

まずは読んでみよう

冒頭で鬼平犯科帳に「芋酒」なるものが出てきますと書きましたが、実は鬼平犯科帳を読んだことがありません。人から聞いていて気になっていたのです。という事でまずはこちらを購入。
小説の方でなくてスイマセン。
小説の方でなくてスイマセン。
鬼平犯科帳のコミックです。「芋酒」は「兇賊」という回に出てきます。
そう作るのですか。漫画は開くと他の回も読んでしまうので作業が進まなくなるね。鬼平犯科帳なかなか面白い。
そう作るのですか。漫画は開くと他の回も読んでしまうので作業が進まなくなるね。鬼平犯科帳なかなか面白い。
元盗人で現在は「加賀や」という居酒屋の亭主として生きている鷺原の九平。その店で出している評判の酒が「芋酒」です。

米を発酵させて出来た酒を米ごと臼でつぶして作る「練酒」という古代の酒があり、芋酒はそれと同じような感じの物になるようです。なるほど。

山芋と日本酒を用意。日本酒は滋賀県大津市の浪乃音酒造の浪乃音特別純米酒。芋酒にしなくても燗上がりするいい酒です。
山芋と日本酒を用意。日本酒は滋賀県大津市の浪乃音酒造の浪乃音特別純米酒。芋酒にしなくても燗上がりするいい酒です。
話が分かったところで実際に作ってみます。日本酒と山芋を用意しました。
山芋は揚げた事はあるが茹でた事はなかった。
山芋は揚げた事はあるが茹でた事はなかった。
まずは熱湯に入れて加熱します。
このまま別々にトロロと日本酒を味わえばいい気もするがどうなんだ?
このまま別々にトロロと日本酒を味わえばいい気もするがどうなんだ?
加熱した山芋をすり鉢に入れてすり、そこへ日本酒を入れて混ぜます。
スズのチロリは熱伝導がよく燗酒作るのに便利です。
スズのチロリは熱伝導がよく燗酒作るのに便利です。
すった山芋と日本酒を混ぜた物を燗酒にします。少し高めの47度ぐらいにしてみました。

するのが足りなかったか少し分離しているが概ねこれでいいでしょう。
するのが足りなかったか少し分離しているが概ねこれでいいでしょう。
出来上がった芋酒は、香りは特に変化なく普通に日本酒の香りです。
冬は燗酒だねー
冬は燗酒だねー
では飲んでみます。
あー、まあ、なんといいますかー。まあ、うまいと言えばうまいようなー。
あー、まあ、なんといいますかー。まあ、うまいと言えばうまいようなー。
飲んでみて最初の感想は、味や香りは普通の燗酒と大して変わらないでした。あるとするなら口当たりや喉ごし。山芋のねばりにより、酒が口の中で滑らかに広がり、スルッと心地よく抜けていきます。

概ね美味しいのですが、特別な味の飛躍は感じられませんでした。もしかすると、山芋を単に熱湯で加熱しただけではなく、ダシや塩を使って茹でるなど味に変化をつけたのかもしれません。

昔は酒と言えば基本的には常温。温めた酒はひと手間かけるということで、身分の高い人の飲み物だったという話もあるそうです。これもひと手間かけたいつもと違う感覚の酒ということで評判となったのではと思いました。

朝ドラで出てきた魔法の酒はどうなんだ?

ところで、鬼平犯科帳の「芋酒」以外にも最近気になる酒の飲み方があります。

第36話に出てくるので、どんな話か知りたい方はNHKオンデマンドとかで見てください。
第36話に出てくるので、どんな話か知りたい方はNHKオンデマンドとかで見てください。
NHKの朝の連続ドラマ「ごちそうさん」の中で「昆布酒」なるものが出てきます。なんでも、酒がよりうまくなる魔法の酒だそうです。

作り方は温めた日本酒に昆布を入れるだけ。とても簡単です。やってみました。
ダシをとるみたいなものだから不味くなる要素はなかろう。
ダシをとるみたいなものだから不味くなる要素はなかろう。
まずは昆布を入れた容器に温めた日本酒を入れます。55度ぐらいのかなり熱めの燗にしてあります。
フタが無ければ皿を被せるとか、ラップをするのでも大丈夫。
フタが無ければ皿を被せるとか、ラップをするのでも大丈夫。
つづいてフタをしてしばらく置きます。
酒と昆布のいい香りがする。
酒と昆布のいい香りがする。
これで完成。さあ飲んでみましょう。
おおっ、予想以上にうまいな!
おおっ、予想以上にうまいな!
昆布酒、予想以上にうまいです。昆布から出た旨味が日本酒の米の旨味に合わさり、より深みのあるまろやかな味になっています。また、昆布のヌメりにより、口当たりも滑らかに。クセの少ないフグのひれ酒という感じです。

ただ、昆布の風味が強いので、酒と言うよりお吸い物に近い感じにはなります。また、長い時間昆布を浸していると昆布のエグ味が出て苦いような渋いような味になるので、3分ぐらいまでの間に取り出すのがいいでしょう。

冬にこういう日本酒の飲み方もアリですね。

同じ旨味成分を持つあの野菜でもいけるのでは

思った以上にうまかった昆布酒。昆布にはグルタミン酸という旨味成分が含まれていて、これが酒の中に溶け出す事でより味わいを増していたと考えられます。

ところで、グルタミン酸を多く含むものにこんな物があります。

トマト。いいダシが出るはず。
トマト。いいダシが出るはず。
トマトです。トマトもグルタミン酸を多く含み、洋食ではスープのダシに使われる事も多い。また、最近ではツユの旨味を増す為におでんに入れる事もあります。これを燗酒に入れてみました。
つぶして入れた方が旨味が出そうだが、そうするとトマトカクテルになってしまうので適当な大きさに切っただけ。
つぶして入れた方が旨味が出そうだが、そうするとトマトカクテルになってしまうので適当な大きさに切っただけ。
まずはトマトを適当に切り分けて器に入れます。そこに55度ぐらいの熱めの燗にした日本酒を注ぎ、フタをします。昆布ほど旨味はすぐに出てこないと思われるので、5分ほど置きました。
燗酒とは思えないビジュアル。
燗酒とは思えないビジュアル。
これで出来上がり。飲んでみます。
なんだこれ、うまいぞ!
なんだこれ、うまいぞ!
トマト酒、驚くうまさです。旨味が増して深い味わいとなっています。また、爽やかな酸味も増して味を引き締めています。予想以上の効果に驚きました。

トマトは最終的に15分ぐらいまで入れてみましたが、あまり長く入れるとトマトの青臭さが移るので、味を見ながら10分ぐらいまでで取り出した方が良さそうです。

あと、トマトを入れたまま飲むと、トマトの青臭い香りを感じながら飲むことになるので、取り出してから少し温めなおして飲むのが最適でしょう。

今年の冬はトマト酒を是非一度試していただきたい!オススメです。

もっと自由に飲んでいい

以前、「ポン酢はソーダで割ってもうまい」という記事で日本酒のソーダ割りを紹介しました。今回はトマト酒という飲み方に挑んでみたところ、これが実によかった。

日本酒は冷やすか温めるかしか飲み方が無いように思われますが、何かを足すなどもっと自由に飲んでみると新しい美味しさが発見出来るかもしれません。もちろん、そのままでも美味しいので、そのまま飲むのも良し。

さー、今夜も飲むぞー!
鬼平犯科帳では芋酒には「芋なます」が合うとあったので、芋なますも作ってみました。塩と酢につけたスズキなどの肴を里芋に乗せて合わせ酢をかけて生姜を添えたもの。素朴な味わいで美味しかったです。
鬼平犯科帳では芋酒には「芋なます」が合うとあったので、芋なますも作ってみました。塩と酢につけたスズキなどの肴を里芋に乗せて合わせ酢をかけて生姜を添えたもの。素朴な味わいで美味しかったです。
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