特集 2013年11月26日

アフリカから来た「泉の鯛」!?「ティラピア」を食べる

ティラピアってこんな魚。
ティラピアってこんな魚。
ティラピアという外来魚をご存じだろうか。アフリカ原産で、ナイルティラピア、モザンビークティラピア(カワスズメ)、ジルティラピアの三種がいる。いずれも食用魚として持ち込まれたが食卓には受け入れられず、今では日本各地の温泉地や温排水の流れる川に野良ピアとして住み着いている。
酷い話であるが、聞くところによると導入当初は「淡水魚なのに姿も味も鯛にそっくり!」ということで「イズミダイ」という素敵な名前で売り出されたというではないか。そりゃ美味そうだ。食べてみよう。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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沖縄では獲り放題!

先ほども書いた通り、ティラピアが国内で暮らせるのは基本的に温泉地や温排水の流れる川に限られる。それはこの魚たちの故郷が温暖なアフリカの河川や湖であるためだ。
だが日本でもこの魚が場所を選ばずのさばり放題になっている土地がある。南西諸島だ。
特に沖縄本島でのティラピア類の定着ぶりには目を見張るものがある。目を覆いたくなるほどに。
例えば那覇の国際通りを流れる安里川
例えば那覇の国際通りを流れる安里川
那覇市のど真ん中を流れる都市型河川に群れているかと思えば、原生林に囲まれた清流にまで姿を見せる。沖縄の川や池を覗くと最も高確率で目にする羽目になるのがこのティラピアなのだ。
なぜこんなことが起きるのかというと、ティラピアは低水温に弱い点を除けば環境への適応能力が規格外に優れているのだ。
うじゃうじゃいるなあ…。
うじゃうじゃいるなあ…。
高水温にも負けないし、酸欠にも強い。挙句の果ては海水の二倍という濃さの塩水にすら適応できると言うから驚きである。現にオーストラリアなどではサンゴ礁にまでティラピアが住み着いているらしい。

ところでこの特性を生かして世界中で食用魚として養殖されているティラピアだが、残念ながら日本ではあまり歓迎されなかった。イズミダイなんて立派な名前も付けたのにだ。しかし、持ち前のタフネスで野良魚としてしぶとく生き残ったというわけである。

せっかくだから綺麗な川で獲ろう

しつこいようだがティラピアは沖縄ならどこにでもいくらでもいる魚だ。その気になれば沖縄の玄関口である那覇空港へ降り立ってから数十分で釣り上げることも十分可能だ。
だが食べるなら都市部を離れた綺麗な川で獲れたものの方がいい。そんなわけで僕は沖縄本島北部の清流へと向かった。
沖縄のありのままの自然を残す清流…に見せかけてティラピアはばっちりいやがる北部の川。
沖縄のありのままの自然を残す清流…に見せかけてティラピアはばっちりいやがる北部の川。
沖縄の川と言うと濁っているイメージを持たれがちだが、北部の河川、しかも上流域となるととても澄んでいる。
沖縄の川と言うと濁っているイメージを持たれがちだが、北部の河川、しかも上流域となるととても澄んでいる。
本島北部の川はどこも水が綺麗なので、ティラピアがいればすぐにわかる。しかも誰も釣ったり捕まえたりしないので人間をあまり警戒しない。つまり沖縄本島内でも輪を掛けて釣り放題というわけだ。
いるいる。誠に残念ながら。
いるいる。誠に残念ながら。

エサはエビの細切れやミミズがベストだが、魚の切り身でも魚肉ソーセージでもよっちゃんイカでもなんでもいい(ちなみに那覇市内など、街中の川にいるティラピアは食パンが大好き)。適当なエサを適当な釣り針に刺して、ティラピアの群れの中に適当に放り込もう。

めちゃくちゃ簡単に釣れる

はい一丁上がり。ティラピアってこんな魚です。
はい一丁上がり。ティラピアってこんな魚です。
即、釣れる。
楽勝。一発。何のドラマもありはしない。釣り堀より簡単に釣れてしまう。
見た目はこれといった特徴のない「普通の魚」といった印象である。強いて違和感を覚えるなら、川魚というより海の魚っぽいところだろうか。クロダイあたりに少し雰囲気が似ている気がする。なるほど、イズミダイと名付けられたのもちょっとだけ納得。
これはクロダイ。なかなかおいしい魚だ。ティラピアも見た目の雰囲気は似ているが味はどうだろう。
これはクロダイ。なかなかおいしい魚だ。ティラピアも見た目の雰囲気は似ているが味はどうだろう。
婚姻色でヒレのエッジが赤く染まっているオス。同じ種でも雌雄や成長の程度で外見が大きく異なる。
婚姻色でヒレのエッジが赤く染まっているオス。同じ種でも雌雄や成長の程度で外見が大きく異なる。
沖縄に生息する3種のティラピアは結構区別が難しい。これはおそらく、近年はカワスズメという名前で呼ばれることが多くなったモザンビークティラピアだろう。ちょっと自信が無いが…。
疑似餌でも釣れる。もはやエサすらいらないのだ。これは全長40センチと沖縄のティラピアにしてはそこそこ大物。
疑似餌でも釣れる。もはやエサすらいらないのだ。これは全長40センチと沖縄のティラピアにしてはそこそこ大物。
あっという間に3尾釣れた。本当にあっという間だ。
那覇からこの川までの往復に5時間以上かかってしまったが、釣りに費やした時間はものの10分足らずである。
死ぬとみるみるうちに色が黒ずんでしまう。あんまりおいしそうじゃないな…。
死ぬとみるみるうちに色が黒ずんでしまう。あんまりおいしそうじゃないな…。
さて、粘れば粘っただけ釣れそうな気配だが、そんなに釣っても食べきれない。早々に切り上げ、新鮮なうちにさばいてしまおう。
三枚おろしの練習にちょうどいいな…。
三枚おろしの練習にちょうどいいな…。
さばきながらふと思う。このティラピア、魚としてかなり均整のとれたプロポーションをしている。魚のさばき方の基本を学ぶのにうってつけだ。
うむ、これでもし美味しかったら、今度から沖縄に来たらティラピアをさばきまくって魚料理を練習しよう!
肉の色はかなりきれい。やはり鯛に似ている。
肉の色はかなりきれい。やはり鯛に似ている。
内臓の臭いが気になったが、身の色はとてもきれいで味にも期待が持てそうだ。
でも内臓やうきぶくろが詰まっているスペースがやけに大きいのがちょっと残念。
でも内臓やうきぶくろが詰まっているスペースがやけに大きいのがちょっと残念。
とりあえず「素材の味」というやつも確認しておきたい。一尾は内臓だけ取り除いてシンプルな塩焼きにすることに。
ティラピアの尾頭付き。ちょっと顔が怖い。
ティラピアの尾頭付き。ちょっと顔が怖い。
もともと皮が黒っぽい魚なので、尾頭付きで塩焼きにしてもちょっと見栄えが悪くなってしまった。
だが料理によって彩りや盛り付けはどうとでもできる。肝心なのは味だ。
いただきます…。
いただきます…。
まあ見た目は「ちょっと不細工なクロダイの塩焼き」といった感じなので、特に抵抗なく箸を伸ばせる。身のほぐれ具合も鯛っぽい。いただきます!
お腹の部分が苦くてちょっと臭う以外は合格!
お腹の部分が苦くてちょっと臭う以外は合格!
…なるほど、食感にも味にも鯛に通じる部分は多い。川魚としては十分においしい部類である。ただお腹(ハラス)の身が臭い。そして苦い。しっかり内臓を取って洗ったのに。ここだけが残念である。
それから意外だったのが皮の美味しさだ。川魚は皮が臭うことが多いので警戒していたのだが、全くの杞憂だった。むしろ脂がよく乗っていて、むっちりとした食感が素晴らしい。ティラピアは皮こそ食べるべきだなと思った。

さばき方から間違っていた!?

さて、なかなかポテンシャルの高い魚であることは分かった。問題はお腹の肉である。
打開策はないかと東南アジア系の料理を得意とする食堂のご主人をたずねた。
ティラピアは東南アジアでは非常にポピュラーな食材なのだ。
「ティラピア料理は久しぶりだね~。」経験者の言葉は心強い!
「ティラピア料理は久しぶりだね~。」経験者の言葉は心強い!
少しでも手間が省けるようにと三枚におろした状態で持ち込んだのだが、ここで驚愕の一言が。
「綺麗におろせてるけど、ティラピアでこれはやらない方がよかったね~。」
ええっ!?
こういう感じで肉を取ってやると臭いを軽減できるらしい。
こういう感じで肉を取ってやると臭いを軽減できるらしい。
詳しく話を聞くと、泥の中の有機物や藻類を食べるティラピアは内臓の臭いがキツく、腹を割いて取り出す時に少しでも傷がつくと身にまで広く悪臭が移ってしまうらしい。
それを防ぐためにはウロコを落としたら腹は開けずに肉の部分だけを削ぎ取るという変則的なおろし方をするのがいいそうだ。
そういえば、霞ケ浦の漁師さんも同じく泥を食む外来魚であるアメリカナマズを調理する際はそのようにさばくのだと言っていた。
見たことのないスパイスや調味料が次々飛び出す
見たことのないスパイスや調味料が次々飛び出す
さてどうしようか。丸のままのティラピアはもう手元にない…。どうしようかと思案していると、
「うん、でも大丈夫。なんとかなるよ~。」
と頼もしいお言葉!先ほどの塩焼きのような料理は厳しいが、スパイスを上手く使ったエスニック風のメニューなら、この状態からでも十分美味しく仕上がるという。
ティラピアとヘチマの東南アジア風カレー。
ティラピアとヘチマの東南アジア風カレー。
ほどなくして完成した料理が運ばれてきた。ヘチマとティラピア、そして各種香辛料をふんだんに使ったエスニックすぎる雰囲気のメニューだ。ティラピアにヘチマ。どちらも僕の中では泥臭い、あるいは土臭いイメージの食材なのだが大丈夫なのか。恐る恐る口へ運ぶ。
美味すぎてくやしい!プロってすごい!
美味すぎてくやしい!プロってすごい!
…美味い!全然臭くない!ご飯が進む!
八角をはじめ、スパイスの香りがバランスよく効いていてとてもおいしい。そして、素人の調理とプロの手にかかるのとではこんなにも差が出るのか…!とちょっと悔しくも思った。
だって食材のティラピアは無限に釣れるのだから、この腕前があればあのおいしいカレーが食べ放題になるわけだ。ああ、料理の修行をして沖縄に移住しようか。

正しく料理すればとてもおいしい魚だった

わざわざアフリカから食用魚として導入されたのに、魚屋やスーパーに並ばず池や川にあふれるティラピア。誰も食べないということは日本人の口に合わなかったのではとも思ったが、実際に食べてみると決してそんなことはなかった。調理する人の腕と工夫次第で絶品料理になり得る魚だったのだ。いや、それって実はティラピアに限らずほとんどの外来魚に言えることなのかもしれないな。
これは那覇で捕まえた中米原産のコンヴィクトシクリッドというティラピアの親戚のような魚。本当に沖縄は外来魚ばっかりだ。
これは那覇で捕まえた中米原産のコンヴィクトシクリッドというティラピアの親戚のような魚。本当に沖縄は外来魚ばっかりだ。
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