チャレンジの日曜日 2013年12月15日
 

書き出し小説大賞・第38回秀作発表

!
書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

書き出し小説第三十八回秀作発表である。

師走も半ばに差し掛かるとそろそろ年賀状の準備も始めなければならない。最近はメールです済ます相手も多いが、やはり親類縁者、親しい友人には年賀ハガキで送りたい。あけましておめでとうございます。筆ペンでそう書く度に、これこそ一年の「書き出し」だなと思う。それでは今回も珠玉の書き出し作品を紹介しよう。

書き出し自由部門

外したブラの下に背中へ戻る脂肪がみえた……。
あだんそん
アイル・ビー・バック!
助手席の彼女はスマホの画面に指先を溶かしている。
TOKUNAGA
車窓の景色までイメージできそうな秀作。
慣れない歯磨き粉の味は、僕を優雅な気分にもした。
ハラセン
歯ブラシ握る小指も立った。
爪先であんかを擦りながら、貴方の踵を想った。 
merumo
切づねえ……。
裸の男達を穴に入れて、上から矢を放つ。そんな女に恋をした。
もんぜん
穴の底からプロポーズ!
つかまえた虫を見せたいのに、おかあさんがいない。
xissa
手の中がくすぐったい。
ほどけて散ったお手玉の、ジュズダマの実に混じって、乳歯がひとつ畳に落ちた。 
イセグチ
お手玉に戻すか、迷う。
赤、青、黄、緑、ピンク、5色のブーツが、悪の組織の玄関に並べられた。
TOKUNAGA
示談で解決。
「逆に」で始まった彼の話は、なにひとつ逆ではなかった。
大伴
回文のような討論。
メールのやりとりの終わらせ方がわからず、僕は、電池パックを乱暴に取り外した。
おかめちゃん
「僕」の焦燥が伝わる。
手のひらの茶色いほくろはシャープペンシルが刺さった跡で、黒鉛と血が混じってできた色。そうよ。これだけがあたしの記憶を「あったことに」しているの。
わつ
己への刻印。
ミカン畑のアスファルト。大事にしていたマーライオン。それでも知りたい蕎麦のなぞ。
akuaion
謎のポエムのような書き出し。
人の顔にはね、ピウメがいるの。かわいいピウメ、馬のようなピウメ。
無辺世界
ピウメ、思わず検索したけどそれらしいモノは見当たらず。
猫の手も届かないマンションの隙間に落ちた蝉の亡骸は、木枯らしが吹いた今になっても、ただただ天を見上げ続けている。
prefab
正月の空も見上げるのだろうか。
幼い頃、目薬の使用期限で感じた遠い未来はもう過ぎている。
サガピン
身近な使用期限をリリカルに扱った秀作。

今回は日常の微細な観察にもとづいた感覚的な作品が多かったように思う。
あだんそん氏の作品、ユーモアと残念さが溶け合った女性ならではの秀作。ハラセン氏の作品もいつもとは違う歯磨き粉を口にしたときの「あの感覚」が鮮やかに表現されている。
merumo氏は爪先の感覚に切ない感情を絡めてひとつの情景をつくった。
わつ氏の作品、過去と記憶の照合を手の平のシャーペンの芯に求めるという着想、書き出しとしてもミステリを感じさせ思わず続きが読みたくなる。
サガピン氏、目薬の使用期限は大人にとっても「かなり先」こどもにとってはもちろん「遠い未来」になるだろう。これも当たりのいいスマッシュヒットのような秀作。俗に言う「あるあるネタ」も研ぎ澄ませば充分文学の一文たり得ることが証明されるような秀作が並んだ。
akuaion氏の作品は語呂がいい。三つの無関係な要素が可愛く同居している。無辺世界氏の作品。ピウメという「なにか」を説明しているのだが、これは書けそうでなかなか書けない。ナンセンスと文体が絶妙なバランスで成立した作品だと思う。常連組は手堅い出来。

続いては規定部門、モチーフは「クリスマス」であった。間近に迫った聖夜に対する、書き出し作家たちの愛と憎しみを堪能されたい。

規定部門 モチーフ「クリスマス」

昨日までは大好きな街だった。
いしがみ
それが邪教の街に!
庭でトナカイがひづめを鳴らしている。サンタは自分が淹れたミルクティーで気分が悪い。
xissa
甘い痰が降りてくる。
クリスマスツリーの飾り付けは、無職である僕の唯一の仕事で、褒美はとくにない。ケーキは人の倍食べる。
めざめ
毎日がクリスマスなら。
プレゼントを置いて出てくると、トナカイごと盗まれていた。
大伴
アスファルトに橇の跡。
「来ちゃうものは仕方がないさ」家がお寺のK君はいった。
かぼちゃ
木魚の中にプレゼントが。
男が白い袋をひろげると、裏地は唐草模様になっていた。
大伴
まさかのリバーシブル!
理沙が今年のトナカイに選ばれた。僕はサンタを倒す事を決意した。
もんぜん
トナカイ目線じゃ強制労働。
シルエットだけで、このくつ下に入っているのは、チャカだとわかった。
おどげっつぁん
鼻の穴には実弾が。
「お手柄サンタ、聖なる夜に大立ち回り!」古い新聞記事のスクラップに若い頃の父をみつけた。
Yves Saint Lauにゃん
仏間の感謝状はこのときのもの。
今年、村田家のイルミネーションが灯される事は無かった。
TOKUNAGA
喪リスマス?
クリスマスなのに蚊が飛んでいる。
ザラメコガル
今夜は刺していい。
イブの夜に、干し椎茸を水に戻し、クリスマスの早朝に、戻し汁を漆器の器で頂く。我が家の、比較的新しい風習だ。
ボーフラ
広め、受け継ぎたい。
ヒトデとイカを並べてクリスマスツリーみたいにしたものを船長に見せると、鯛が入った長靴を手渡された。
もんぜん
パイレーツ・オブ・クリスマス?
急に腹痛に襲われた僕がナースコールを押すと、赤い帽子を被っただけの未完成なサンタの集団が険しい表情で現れ、慌ただしくオペの準備を始めた。
勝新
体内に置き忘れたメスがプレゼント。
イルミネーションの中にはどんな星座でも見つけられた。好きな星座を創造できた。
紀野珍
美しい孤独座が……。
ひとり寂しく過ごす予定のホワイトクリスマス。ブラック企業がボクを救ってくれた。
カイテン
ブラック企業に勤めてるんだが、この日だけは感謝かもしれない。
クリスマスの朝ホテルで目を覚ますと薬指にリングが光っていました。嬉しくって泣きながら彼を探したけれど、よく考えたら私には彼氏もいないし、ここも会社の寮だし、指輪も裂きイカでした。
トニヲ
てへぺろ!……そして涙。
モヤイがサンタ、ハチ公がトナカイに関する隠語だと聞かされた私は、あまりの衝撃に嘔吐しかけながら、
「で、では、クリスマスは?」と聞くと、蔑んだ笑みを浮かべている男は「東京都庁さ。」と答えた。
その瞬間、私は目の前が暗くなり、覚醒した時には109の1と0の間に挟まっていた。
吉田
1と0の間がSFっぽくっていい。
夫は妻にプレゼントを買うために闇業者に腎臓を売った。
妻は夫にプレゼントを買いに行く途中で交通事故に遭い、片方の腎臓を失った。
夫は腎臓の売却代金を妻の治療費に充て、妻は闇業者から夫の腎臓を買った。
クリスマス、二人は病室で過ごした。それで幸せだった。
おかめちゃん
力作パロディ。
過ぎてしまえば、ただの一日。
xissa
さて、ゴミ出すか。

年に一度の大ネタだけに、粒ぞろいの作品が集まった。作品は主にサンタネタと孤独なクリスマスネタに集中した。サンタネタはどれも笑えるものばかり。もんぜん氏、大伴氏のネタは共に冴えている。おどげっつぁん氏、サンタの正体は誰だろうか。勝新氏のネタはツッコミの隙を与えない。孤独ネタでは冒頭のいしがみ氏と、最後のxissa氏の作品がすべてを言い表している。めざめ氏は家族の気遣いがさらに孤独と哀愁を深める。カイテン氏、ホワイトとブラックを対比させ見事な一本ととった。トニヲ氏の作品、畳みかけるような現実への揺り戻しに笑う。吉田氏の作品はクリスマスへの不信をどれだけこじらせるとこんな作品が書けるのかと逆に心配してしまった。

やはりと言おうか当然といおうか、幸せなクリスマスを書いた作品はほとんどなかった。聖夜の主役は仲むつまじいカップルではない。そのカップルを恨みがましく照らす孤独なイルミネーションたちである。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
年末年始
クリスマスの次は年末年始。ストレート過ぎて申し訳ないが今回はコレでお願いします。暮れの大掃除から大晦日、そしてお正月。扱える題材は枚挙にいとまがない。次の締め切りまでは年をまたぐので、年末編も年始編もリアルタイムで執筆できるのではないだろうか。今年を締めくくる意味で、また新年への門出として、書き出し小説の書き納め、書き初めにチャレンジして欲しい。
締め切りは1月8日。発表は1月10日を予定している。以下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して送って欲しい。 それでは書き出し作家諸君!今年も素晴らしい作品をどうもありがとうございました。来年も力作、待ってます!!
最終選考通過者

ししゃしゃ/春乃はじめ/流し目髑髏/肩幅先輩/よしお/司窓/じん魔神/夏猫/明稀/黒船鬼太郎/撫でない子/コルフ/空想庭園/長瀬勝手口/唐桃/TL125/Flying Disc/みつる/tomowvsky/紙製梱包具/ぽんたろう/サガピン/じゃいこっち/どーん/縄のれん/二階から胃薬/

 ▽デイリーポータルZトップへ つぎへ>

デイリーポータルZ新人賞

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ