ひらめきの月曜日 2014年1月13日
 

悪の電子工作を子供に教える

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趣味で電子工作を作っていて、このサイトでも「醤油かけ過ぎ機」とか「メガネに指紋をつける機械」とか、嫌がらせっぽい機械ばっかり作って発表している。言うなれば、悪の電子工作である。

そんな僕に、ある日、声がかかったのである。「前途有望な子供たちを、悪の道に引きずり込みませんか」。
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変な音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
> 個人サイト nomoonwalk

悪者ではない

誤解のないように言っておくと、声をかけてくれたのは悪の組織とかではない。世界征服のために幼稚園バスをジャックするとか、そういう団体ではない。

OtOMOという団体で、子供にプログラミングを教えるワークショップを主催している人たちだ。パソコン上だけじゃなく、ロボットを実際に動かすようなテーマのワークショップもある。その一環として、僕の作っているような変な機械を作るワークショップはどうか、ということで声をかけてくれたのだ。
変な機械の例
変な機械の例
もちろん、面白そうだったので二つ返事でOKした。

悪のワークショップ

まずはワークショップの内容について打ち合わせ。
「子供たちに良心の呵責を味わってほしい」「罪悪感に訴えかけるワークショップにしたい」。

そんな僕の悪意に満ちた提案に「それはちょっと…」と引き留められるばかりかと思われたが、打ち合わせでは思いのほかの懐の深さを見せつけられ、むしろ僕の方が「これはちょっとやりすぎですね!」と退く場面すらあった。

相手にとって不足はない人たちである。
罪悪感の例
罪悪感の例
ワークショップの具体的なテーマとしては「アリの巣に水をかける機械」「髪の毛にガムをつける機械」などいろいろな嫌がらせ案が出たが、なにぶん相手は前途ある子供たちである。ここでゆがんだ体験を刷りこんでしまうと、後々の成長にどう影響が出るか、僕には保障できない。

世間、そして自分の倫理観とのせめぎ合いの末、テーマは心に傷跡を残さないであろうギリギリラインの嫌がらせ「大事な書類を破る」に決定した。

(※ここでフォローですが、いやほんと、ふだんは楽器作ったりゲーム作ったり、平和な活動をしている団体なんです)

募集文も困る

そんなノリで決めたもんだから、募集の文章を書くのも困った。

最初は「嫌がらせしてみませんか?」という誘い文句を考えていたのだが、おそらく保護者と一緒に申し込むであろうこの手のワークショップ、さすがにそれではウケが悪いだろう。
そう思って、子供らしく「いたずら」と言い換えることにした。
実際の募集文
実際の募集文
後から考えたら、「子供にいたずら」って別の意味で保護者が眉をしかめそうなフレーズである。

小手先の作文ではどうやっても下げられそうにない、応募者の心理的ハードル。自分でテーマ決めておいてなんだけど、これ、参加者集まるのか?

才能集う

しかし当日、蓋を開けてみると、なんと4人もの将来有望な子供たちが集まってくれた。
小学生3人、中学生1人の頼もしいメンツ
小学生3人、中学生1人の頼もしいメンツ
ワークショップ以前の話、まずこの子供たちがすごいのだ。
この画面が「スクラッチ</a>」といって、画面上でブロックを組み立てる感覚でプログラムが作れるソフト
この画面が「スクラッチ」といって、画面上でブロックを組み立てる感覚でプログラムが作れるソフト
みんなこれを自在に操って、ガシガシ書いていく
みんなこれを自在に操って、ガシガシ書いていく
見た目もキャッチーだし取っつきやすいソフトなのだけど、やってることはけっこうガチのプログラミングである。それを彼らは「考える速さで手が動く」といった感じで、どんどん組み上げていく。

それもそのはず、今回はスクラッチを使ったプログラミングの経験者ばかりが集まっているのだ。なんでもスクラッチにはプログラムの共有をするサイトがあって、そこでの有名人も混じっているらしい。そんな子に俺教えるのか!

ただ、それを外部のモーターに接続して、動く機械を作るのはみんな初めてだそうだ。安心した。僕は拙いながらも機械作りはできるし、ましてや嫌がらせの経験値で言えば彼らの比ではない。教えられることはたくさんありそうだ。
企画の趣旨など説明したあと
企画の趣旨など説明したあと
どうやって機械で紙を破るか、お手本を見せます
どうやって機械で紙を破るか、お手本を見せます

大事な書類をどうやって破るか

今回みんなの手元にあるのは、パソコンと、モーターだ。(あとその2つをつなぐための機械も)
ほかに、材料コーナーには100均で買った大量の雑貨。自由に使ってよい
ほかに、材料コーナーには100均で買った大量の雑貨。自由に使ってよい
いろんな材料があるけど、プログラムができるのは、モーターを回転/逆回転/停止させることだけ。それでどうやって紙を破ったらいいのだろう。

たとえば、僕が最初に披露した見本の機械はこんな感じだ。
モーターを回して糸を巻き上げて、紙を引っ張って破る
荒々しい!動画だと作りが甘くて途中からヒモが軸から外れて空回りし始めるのだが、これは本日みんなの力で解決すべき課題として残しておいた。(よく言えばそうだが単なる投げっぱなしである)
ちなみにもう一個披露した「紙を汚す機械」は、会場にインクが飛び散ってやばいので今回は封印された
最初はみんなこの「大事な書類を破る機械」をまねして作ってもらうことにした。手順を一つ一つ、説明しながら一緒に嫌がらせマシーンを作り上げていく。
初めてのハードウェア制御で、モーターが動くだけで感動
初めてのハードウェア制御で、モーターが動くだけで感動
そんな感動を推進力に、無垢な子供たちを悪に染めていく…
そんな感動を推進力に、無垢な子供たちを悪に染めていく…
「みなさん、どうぞ!」で全員一斉に悪の道に引きずり込む
興奮に沸く参加者一同。もう、一網打尽である。
見る影もなくなってしまったA4用紙
見る影もなくなってしまったA4用紙

魔界への門が開く

しかしこれはまだまだ小手調べ。本番はこれからだ。テスト用のコピー用紙を破ったあとは、各自持参した「本当に大事な紙」に手を染めるのだ。
出来の悪かったテスト
出来の悪かったテスト
学校のプリント
学校のプリント
行かなかった塾の申込書
行かなかった塾の申込書
それぞれ思い思いの重要書類に手をかけ、機械の力でズタズタにしていく
さようなら、県名の覚えられなかった自分
さようなら、県名の覚えられなかった自分
こうして嫌がらせクリエイターの卵たちが着々と育っていったのである。
この子は目覚めが早かった。これは塾の申込書だが、記入しようとすると…
この子は目覚めが早かった。これは塾の申込書だが、記入しようとすると…
ビリビリと破れてしまう、「塾の申し込みできない機」を早々に完成させていた。
ああ、いやがらせ界の未来は明るい。(そんな界はない)

自由にアレンジしよう

ここまで無事、全員一緒に「紙を破る機械」を完成することができた。

この先は、自分の作品を作る時間だ。さっきの機械を自分でアレンジしたり、違うオリジナルの機械を思いついた人は自由に作ってもいい。
飲み込みの早い子たちで、すぐに慣れて、好き勝手な物を作り始める
飲み込みの早い子たちで、すぐに慣れて、好き勝手な物を作り始める
個人的にぐっときたのが「拍手に合わせて正月飾りが上がったり下がったりする機械」。謎すぎる
これ、前日の買い出しで「正月飾りは何に使っても面白いだろうな」と思って買っておいたのだけど、考えうる限りもっともシンプルかつ無意味なやり方で使ってくれて、興奮した。
主催のOtOMOのメンバーも、「黒板消しを落とす機械」を制作中
主催のOtOMOのメンバーも、「黒板消しを落とす機械」を制作中
いっぽう、機械でなくプログラム側に凝る子も。破る作業中に画面の猫がしゃべる。
いっぽう、機械でなくプログラム側に凝る子も。破る作業中に画面の猫がしゃべる。
淡々と実況しながら紙を破る様子は、嫌がらせというより「業務」といった感じで最高にクールだった。
フローチャートを知らない世代による原初のフローチャートが誕生したぞ
フローチャートを知らない世代による原初のフローチャートが誕生したぞ
こちらの子はストイックにひたすら振り子運動の研究を重ねる求道派
作業してるとだんだん机の上が意味のわからないことになってくる
作業してるとだんだん机の上が意味のわからないことになってくる
ボウルとクリップを使ったベルも発明された
教えると言うより一緒に楽しむといった雰囲気で、楽しかった
教えると言うより一緒に楽しむといった雰囲気で、楽しかった
試行錯誤を繰り返し、それぞれ違った方向へ発展していく作品たち。そうこうしているうちに、時間も残り少なくなってきた。

発表タイム

そして2度にわたる時間延長の末(この往生際の悪さはさすが子供という感じだった)、最後は発表タイムだ。最初の紙を破る機械から、見事に遠いところまでやってきた作品が4つ、出そろった。
作品1.紙を破る機械との同じ巻き上げ機構を流用、ヒヨコ専用エレベーターを作った。声までついててかわいい。(これほんとは鈴虫の鳴き声なんだけど、一瞬だけならしてうまくヒヨコっぽく聴かせている)
作品2.正月飾りが上下する機械を作った子が、最終的に行き着いたのは「旗を揚げたり下げたりする機械」。正月飾りは旗を降ろすためのおもりに使われていて、ここではちゃんと機能を持っている!
作品3.クリップがボウルの中に入ると、パタン!とボウルが閉まる機械。鳥を捕まえるカゴ罠、あれみたい。単純な機構で大きな動きを作り出していて、派手でおもしろい。
作品4.振り子の彼の完成品。振りのコントロールをキーボードでできるようになってたり、こだわりの高性能。モーターとの接着にゴムチューブを使ってるせいか、動きが妙に生き物っぽいのもキモくていい
全部おもしろい!

僕は「子供ならではの自由な発想」とか「大人の常識にとらわれないアイデア」みたいなのは迷信だと思っている。大人の方が人生経験は豊富だからひねくれようと思えばすごいひねくれ方ができるし、常識だって知ってた方がそこからの逸脱も簡単だ。

むしろ子供のアイデアって、すごく素直で、むしろ常識的なことが多い。

ただ子供は、それを実現するための手段が変だ。大人なら定番の方法でできちゃうことを、そのノウハウがないから変な方法で無理矢理やっちゃう。大人なら上手にできることが、不器用でできないからそれを補うために一つ余分な工夫を入れる。あと集中力が散漫だから、途中の思いつきで、作ってる物の方向性が変わったりする。

全体に非効率で洗練されてない。それが結果的に、大人から見るといびつで面白く見えるんじゃないかな。そんなことを思った。

だから、子供の作品はほんとうに面白い。
終了後は交流会に。前述のスクラッチの交流サイトのアカウントを教えあったりして盛り上がっていた
終了後は交流会に。前述のスクラッチの交流サイトのアカウントを教えあったりして盛り上がっていた
いやーほんと、実りの多い一日でした。

浄化される一日

大人が「子供に罪悪感を植え付けたい」と悪意むきだしで企画したワークショップ。いざ終えてみると、ヒヨコ専用エレベーターを始めとして、作品は癒し系の方向に。

大人の悪意が子供のフィルターを通して癒しへと浄化されるという、心洗われる一日となりました。

ただ僕は心の汚れた大人として、ここで改心せず、これからも嫌な機械を作り続けようと思います。

【協力】
OtOMO:OtOMO Scratch ワークショップ

今回声をかけてくれたOtomoの阿部さんが「小学生からはじめるわくわくプログラミング」という本を出しています。これを読んでやってみたくなった子、またはお父さんお母さんがいたらこちらもどうぞ。
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