ひらめきの月曜日 2014年1月20日
 

書き出し小説大賞・第40回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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書き出し小説秀作発表第40回である。

先日、話題の映画「ゼロ・グラビティ」を観た。命綱を絶たれた宇宙飛行士の、究極とも言える危機的状況に息を呑んだ。しかし気づかないだけで、私たちの周りにもこうした危機的状況は常に繰り広げられている。たとえば風呂の排水溝に吸い込まれる抜け毛も、抜け毛サイドからすると究極の危機的状況と言える。そして抜け毛に対して私たちが無関心なように、人間もまた神からすれば一本の抜け毛に他ならない。 それでは今回も優秀な抜け毛たちによる、秀作を紹介する。

書き出し自由部門

角を曲がったはずの猫は、手品のように消えていた。
司窓

次の瞬間、向かいの塀に現れた。
朝刊を抜くと油揚げが床に落ちた。
稲妻柔術
油揚げの方は今月で止めよう。
どの中継カメラにもそのポメラニアンは映り込んでいた。
大伴
犯人がパトカーに乗りこむシーンにも。
むせかえった父は、大量に舞い上げた粉薬を残し、忽然と消えた。
TOKUNAGA
それが二年前。
ビブラートのかかった鼻歌。ハカセの「素数かぞえ唄」が始まった。 
紀野珍
メロディーは「いなかっぺ大将」と同じ。
朝ぼらけの窓が、小さな祈りと結露に潤んでる。
merumo
【朝ぼらけ意味・夜のほのぼのと明ける頃】よし、覚えた。
彼女が口にした事で、僕の長所がまたひとつ消えた。
もんぜん
秘めてるうちが花。
鼓膜の近くで飼っていた蛹が今朝方羽化した。
小夜子
羽化したまま耳の中で死んでた。
月もない、音もない夜をわけて、サーカス団がやってくる。
xissa
耽美で猟奇な雰囲気。
仄暗い灯りの中で,彼女は僕に背中を見せ,あらわになったうなじからネックレスの金具を外そうとしている。もう二時間は経つだろうか。 
TL125
手伝って!
フィリピン・レイテ島沖に住む人魚にとって、沈んだ軍艦を家にする事が一つのステータスとなっているという。
prefab
入居待ちで溢れてる。
「で、相談ってのは何だい?」本題に入ると親方は、話を聞きながら刻みタバコをふにふにとこね、猫の鼻にポンと置いた。
ウチボリ
猫がフギャーー!
陽光に蒸された河童は背もたれに上着を置くと、こくりと首を鳴らした。
義ん母
スタバの窓際で。
不安定な一人称の海の中を、私は潜水していった。夢でいつも見る潜水艦を叩いてみると、中には亡妻がいた。
ボーフラ
不穏なトリップ感。
水は掴むのではない。掬うのだ。
おかめちゃん
また、飲むことも可能だ。

司窓氏の作品、切れのいい文末にそこはかとないチャーミングが漂う。TOKUNAGA氏の消え方、こちらに漂うのは苦笑と憐憫。merumo氏の作品、朝ぼらけ、あまり聞かない言葉だがこの言葉の響きが全体の印象に大きな効果を与えている。もんぜん氏の作品は読者に解釈を委ねる。自分では長所と思っていたことが、彼女にとってはむしろ短所だったことが判明したのだろうか。別の解釈があるような気もするし……読者をひきつける高度なテクニック。prefab氏の作品、この書き出しで読み手をぐっと世界に誘う。ただのファンタジーではなく、その世界観の社会性まで織り込んでいるところが上手い。ウチボリ氏の作品には独特のペーソスがある。親方のキャラが気になる。おかめちゃん氏、これだけ力強く言われると、ただの常識がくっきりとした輪郭を持つ。今回は独特の世界観や情景をもった秀作が集まった。

続いては規定部門、今回のモチーフは「地獄」であった。ではさっそく書き出し作家による、プチ地獄めぐりを堪能して欲しい。

規定部門 モチーフ「地獄」

「体罰はなかった」と閻魔は主張した。
大伴
モンスターペアレンツ対閻魔。
鬼達の労働時間は平均15時間という過酷なものだった。 
TOKUNAGA
とんだブラック企業ですわ!
閻魔が首を横に振った。ブザーが鳴り、赤色灯が回り、僕は椅子ごと奈落に落ちていった。
アイアイ
わーーーーーっ!!
私の地獄行きはいいが、彼の天国行きが腑に落ちない。
大伴
隠れて功徳積んでやがった。
堕ちる前は正直不安だったけど、閻魔様は一人ひとりの個性を尊重してくれるし、鬼のみなさんも丁寧に教えてくださるので、すぐに慣れることができました。
イワモト
これなら続けられそうですね。
いくら探しても二丁目が見つからない。人に聞こうにも互いに舌がない。
g-udon
地獄の会話はほぼジェスチャー。
普段着で来ていたのは私だけだった。
TOKUNAGA
地獄でブレザー?!
揚げもの担当のトクさんは地獄好きだ。
紀野珍
亡者も揚げてみたい。
つきたての餅に、砂がまぶされてゆく。
suzukishika
まさに外道!!
かつおぶしは踊っているのではない。熱さに苦しみ悶えているのだ。 
おかめちゃん
耳をすませば断末魔。
テレビカメラが回ると、血の池の住人達はいっせいに悶え苦しみ始めた。
タカラ
リハーサル通りに。
天国から遅れること一週間、今日はジャンプの発売日だ。
Yves Saint Lauにゃん
探偵ナイトスクープはひと月遅れ。
軽部真一の悪口を言った人間だけが行く地獄には、やっぱり軽部真一そっくりの鬼がいた。
ミミズグチュグチュ
鉄の蝶ネクタイを嵌められる。
地獄の釜茹での余熱を利用する事で、極楽の蓮池の水温は蓮に最も良い温度に保たれている。
prefab
床暖房も同じ仕組み。
リカは、小さなジャムの空き瓶に無数の蟻を詰め込み、「地獄ね」と言った。そうかもしれない。でも俺の知っている地獄はそうじゃない。
マツオ
もっとメンタルな地獄だ。
ファミレスの四人掛けテーブルで私と妻、そして不倫相手と隠し子が沈黙を守り続けていた。子どもはパフェに夢中で、コーヒーは冷めきっていた。
g-udon
地獄の方がマシ!
遮るもののない日射しが痛い。短い、濃い影に汗が落ちる。物干し竿は果てしなく続き、洗濯物は一向に減らない。ああ。喉が渇いたなあ。
xissa
この後は畳み地獄が待っている。
神様なんていないと言いながら、地獄に落ちることを恐れている。不信がばれるのを恐れて、熱心に祈りを捧げている。彼も君も等しく愚かで、愛おしい。
かぼちゃ
けれど全員地獄行き。
恐ろしい場所に来てしまった。燃え盛る大地、針の山、血の池、逃げ惑う亡者達。そしてスピーカーからFMラジオが流れている。
トニヲ
J-WAVE。
「ここ、ホントに地獄なのかな?」そう思いながら初日のタイムカードを押し、帰路に就いた。
勘定奉行
通勤ならぬ通獄。

地獄とどう向き合うかで各作家の個性が見られ楽しく選考した。大伴氏、冒頭のネタにも笑ったがもう一本の作品も妙に共感できる秀作であった。TOKUNAGA氏は徹底した外からの視点、イワモト氏の親切地獄、prefab氏のエコ循環、アイアイ氏のアトラクション的地獄、xissa氏の家事地獄、どれもいい。紀野珍氏の作品は人が地獄に惹かれる理由を端的に表現した秀作。suzukishika氏は一発ネタで地獄の鬼畜ぶりを表した。ミミズグチュグチュ氏のネタは人選が絶妙。g-udon氏のファミレスの作品にはリアルな地獄を見た。天国がぼんやりとした概念であるのに対し、地獄はひとそれぞれ、多様にして具体的である。地獄人気の根強さを再確認した回であった。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
魔法少女
今回はマンガ、アニメでお馴染みのキャラクターをモチーフにする。禁じ手は既存のキャラクターを使わないこと。是非オリジナルのキャラクターで勝負して欲しい。ただし既存キャラの設定、パターンなどを拝借するのはオッケー。そのミックス具合、パロディ加減は各自のセンスに任せます。日本のポップカルチャーでは定番とも言えるこのキャラクター。最近ではさまざまな進化形が現れ人気を集めている。その変身方法、日常生活、敵対者、決め台詞など、アイデアの取っ掛かりはたくさんあると思う。萌え、反萌え関わらず、諸君なりのヒロイン像を創造して欲しい。次回の締め切りは1月31日。発表は2月2日を予定している。以下の投稿フォームで自由部門、規定部門を選択し応募して欲しい。力作、待ってます。
最終選考通過者

朝食/縄のれん/勝新/ウウタルレロ/黒船鬼太郎/めざめ/流し目髑髏/菅原 aka $UZY/マエカワグリオ(仮)/horikirix/丸岡/青い鳥/野村バンダム/
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