特集 2014年2月2日

書き出し小説大賞・第41回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説秀作発表第四十一回目である。

近所にとんかつ屋がオープンし、店前の歩道に「とんかつ弁当480円」と書かれたのぼりが並んでいる。のぼりは赤いナイロン地に黄色のゴシック体で書かれていて、冬の陽光のもと、そののぼりがはためく様は間抜けながら、なんとも言えない哀愁がある。ただし側を歩くとはためいた布が顔に掛かり思いっきりウザい。顔を顰め、とんかつ屋ののぼりを手で払う中年男性。我ながらそこにもまた、間抜けな哀愁が漂っているように思う。では今回も、書き出し作家たちの哀愁漂う秀作を紹介しよう。

書き出し自由部門

問1が解けなくても問3が解けないとは限らない。
おかめちゃん
が、解けるとも限らない。
どの麺も濡れているが、小麦の時は乾いていた。
義ん母
小麦サイドもまさかの展開。
実況ツイートがドラマの内容より若干はやくなった。
TOKUNAGA
アキレスが亀を抜いた瞬間。
優に二メートルは超えようという女が、体を折りながら列車に乗り込んできた。
puzzzle
網棚にアゴを載せて。
親方がその四股名を思いついた時の目は、とてもキラキラしていた。
おどげっつぁん
四股名「夢工場」ってどう?
味噌が角を立て、出汁が丸くおさめる。そんな関係を続けている。
suzukishika
バディものの基本設定。
ここのところ、以前よりもすこしゆっくりと、時間をかけて、立ち直るようにしている。
tomowvsky
風で倒れた稲のように。
このあたりでは洞窟を耳と呼び、耳をジャンバと呼ぶ。洞窟という言葉はない。
ミミズグチュグチュ
耳に縄文人の痕跡が。
頭にいま抜いたばかりの草を乗せて母は苺になった。
おかめちゃん
全身が紅潮し皮膚にブツブツが。
初めてかけた国際電話は拍子抜けするほどあっさりつながった。レバノンは今朝だ、と眠そうな声が聞こえる。遠くで犬が吠えている。
xissa
行ったこともないレバノンの早朝が浮かぶ。
猿がむやみに振り回す懐中電灯に照らされ、豚は人の様に眩しい目つきになった。
人が生きてる
なんとも言えない読後感の悪さ
喪服に袖を通せば、卓上のカップに喪汁が注がれる。珈琲のように黒く、珈琲のように、苦い。
義ん母
喪汁って……?
酔っ払いが消えた街を新聞配達のカブが走っていた、空はまだ星が綺麗だ。
らい麦メガネ。
冬のこの時間を的確に表現。

冒頭のおかめちゃん氏のには「人生もまた然り」的暗喩を感じる。TOKUNAGA氏は大衆の思念が現実を上回った瞬間。おどげっつぁん氏の作品、無邪気な親方の表情が浮かぶ。どんな四股名か読み手がそれぞれ想像する楽しみもある。suzukishika氏の作品は擬人化して想像すると楽しい。コンビキャラの基本設定と言えよう。xissa氏の作品。埃っぽいレバノンの早朝風景が広がる。ビジネスものか、ハードボイルドか、スケールの大きな話になりそう。人が生きてる氏の作品、猿と豚の人間じみた仕草がなんともいえない不快感を起こす。人には醜いものほど見たい、臭いものほど嗅ぎたいという好奇心がある。読み手に負の感情を抱かせるのもひとつの手段と言える。義ん母の作品、喪汁という造語が効いている。らい麦メガネ。氏の作品は冬のいまの時期の早朝を素直に描写した。澄んだ空気を感じる良作。

続いては規定部門。今回のモチーフは「魔法少女」であった。書き出し作家たちのペンが起こす束の間の魔法を楽しんで頂きたい。

規定部門 モチーフ「魔法少女」

少女は魔法のタクトを天高くかかげると、敵を力任せに殴打した。
大伴
駆けつけた警官に羽交い締めされるまで。
魔法少女カバディはその名のとおり、呪文を唱え続けるあいだしか、魔法がかけらないのだ。
鍵カッコ
決め台詞もナシ。
魔法少女からのエスカレーター組と、編入組とに分けられる。
suzukishika
魔女学校にもスクールカースト。
ママにさえバレなければ、おかずのピーマンは魔法で消せる。
あまなつ感
幼女と魔女の合わせ技。
毎晩のように窓辺から世界を救いに飛び立つ君は、今日も扉が開けっ放し。そんな所も、お母さんにそっくりですね。
らい麦メガネ。
二世代魔女。
訛りが可愛い女の子だと思っていたら、魔法を詠唱していたようで、僕はカエルにされてしまった。
かぼちゃ
がばいせがらしだどもだっぺ!
「すごい! なんでもできる! なんでもできるよ!」魔法少女らしき少女は、スマートフォンを手にして、ものすごく興奮していた。
かぼちゃ
写真を水彩画風にもできる!
純潔の乙女たちの魔法は10年かけて念じられ、夏の1週間だけその力を発揮する。
わつ
儚く激しく。
少女は番傘の上で土瓶を回しながら、みるみる大人の姿へと変わっていく。
TOKUNAGA
回し過ぎに注意。
姉の変身中の照明を担当している。
TOKUNAGA
俺的には充実してる。
箒は彼女の手のひらに、少しも揺れず立っていた。
魔法か努力の賜か。
魔法少女の水筒のお湯は比較的冷めにくい。
よしおう
これをヒントに商品化されたのが……。
僕と契約してこのコスチュームを着てよ!
よしおう
料金も前払いするから!
彼女がその手に持ったーーリボンがモチーフになっている非常に可愛らしいーーステッキを軽く一振りすると、立ち並んでいたビルは崩れ、遥か向こうに見える海岸線は裂け、山々は地響きとともに崩れ去った。
きりぽん
モーゼもびっくり。
「だーれだ?」
後ろから両目をふさがれた。少女の苛酷な半生が頭の中に流れこんでくる。
紀野珍
魔女狩りの歴史が……。
箒にまたがる前に、私はあるものを外にサッと塗った。
CHIEF
デリケートゾーン。
少女は塵取りの平らな部分にうんこ座りの姿勢で乗り、私たちの前に飛んできた。
正味
ホウキ派とチリトリ派。
県境付近の事案ではお隣の県を担当されている少女への応援要請、連携はおろそかにできないわ。
マソリズム
魔法の管轄は県警と同じ。
雪をかき分けて、我が街の魔法少女が駆けてきた。制服のスカートの下にあずき色のズボンを履いているので、変身には約五分かかる。
もにょ
もう上から着ればいい。
だから娘が欲しかったのよね。俺と兄貴への当てつけのように呟き、オカンは魔法で鍋に火をつけた。
オーティズ
俺だって妹欲しかった。
女子トイレが魔法少女でいっぱいだ。
xissa
夢の光景。
「だから、待てってば!」
最近、変身している間、敵が待ってくれない。仕方なく、倒してから変身した。
兎餅アリス
倒した敵の前で自画撮り。
もう弱虫なんかじゃない。だってお母さんの形見のペンダントが、いつだって守ってくれるから。あたしは片方の手で愛車にガソリンを給油しながら、もう片方の手でハイライトに火をつけた。
ASDTO
ペンダントはバックミラーにつり下げている。
魔法少女が今、鶏ガラスープと並んでブームである。
ウウタルレロ
投書好きのおじさん視点。

旬のモチーフだけあっていつもより多数、そして新顔さんの投稿が目立った。魔法少女はすでに定型のスタイルがあるだけにネタものは作りやすかったと思う。大伴氏、かぼちゃ氏、よしおう氏のネタはさすがの切れ味。個人的には正味氏の作品から喚起されるイメージに笑った。魔女っ子をあえて日常に落とし込む手法ではオーティズ氏の作品が良かった。この一文の中にこの物語の世界観、登場人物のキャラや立ち位置すべて織り込まれている。この後ヒロインの魔女っ子登場を仮定するとさらに書き出しとしての意味も出る。わつ氏のキレイめの世界もいい。ASDTO氏、この主人公は果たして魔女っ子かという疑問もあるが、敢えて魔法に頼らない力強い生き方を選んだヒロインかもしれない。フィクションをモチーフにすると逆にリアリズムを感じる作品が集まるという現象も面白く、楽しい選考だった。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
バレンタイン
この時期はもうこれ以外考えられないモチーフである。昨年末のクリスマスに匹敵する愛憎混じった秀作が集まることを期待する。女性、男性、その周辺、あらゆる視点でこの奇妙な風習を盛り上げて欲しい。締め切りはまさに当日2月14日正午、発表は同月16日を予定している。また今後、書き出し小説秀作発表は隔週の日曜更新の予定である。(デイリーポータルZの日曜は投稿記事主体となるそうなのでその括りになります)以下の投稿フォームより自由部門、規定部門を選択し応募して欲しい。これまでより若干期間が空くが一層の力作を期待しています。
最終選考通過者

merumo/縄のれん/g-udon/イワモト/トニヲ/e/にゃーごろ/おが/ニシカタ/かめ/稲妻柔術/雨模様/りっちゃん/マエカワグリオ(再)/りずむ原きざむ/Araki Tomohiro/勘定奉行/気まぐれ紳士協定/いk/みつばち社長/翌日未明/オチチスキー/ペケーノ/ウチボリ/ボーフラ/わたしがMです/TL125/エドマド/秒速340mで近づくから覚悟しろよ/とだちろりん/くわよそうる/ゴロ/アイアイ/もんぜん/じゃいこっち
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