チャレンジの日曜日 2014年2月16日
 

書き出し小説大賞・第42回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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書き出し小説秀作発表、第四十二回目である。

まさか四十歳を越えてバレンタインのチョコを渡したい男性が現れるとは思わなかった。羽生くんである。しかし相手は同性、しかも親子ほど年が離れている。悩んだ末、私は母親目線で彼を応援することに決めた。みなさんのお陰でウチの結弦が金メダルを獲りました!ありがとうございます! それでは今回も、素晴らしき書き出し文学の世界をお楽しみください。

書き出し自由部門

鍋の具材とぼくは彼女の帰りを待ちつづけた。
大伴
マロニーは溶けている。
物は、自分で自分の値段をつけられない。
おかめちゃん
名前もまた然り。
リア友だ。足元に影がある。
xissa
実在したのか……。
ペナントの形をした部屋に、三人で住んでいる。
xissa
地味なルームシェア物語。
雪の中からこんにちは。つくしです。お呼びでない? まあそう言わずに。
ウウタルレロ
この後ニセの儲け話が。
幽霊の姿は一向に判らないが、「ぱちん」と聞こえる度に爪だけはしっかり飛んでくる。
義ん母
ほのかに足の臭いもする。
母が指を鳴らすと、手作りのペガサスに乗った父が登場した。
もんぜん
ペガサスの角はサランラップの芯。
どぶ川だって せせらがないこともない。
人が生きてる。
泡がすごいけど。
野村そっくりの野村の姉と付き合っている。
TOKUNAGA
野村は黙認している。
骨董市をぶらり水石を購入。立ち蕎麦を食い公園で一服。寄席の前で荻元先生に会う。火星人の話などする。
ボーフラ
明治の随筆のような世界観。
ガラスで跳ね返った午後の陽射しが便所の壁に不思議な模様を描いている。寺崎は用を足しながら「かぜいしろたかぶ」と声に出してみた。
TOKUNAGA
カゼイシロタ株?
初めて行った家でいきなり「ただいまー!」と叫ぶ遊び。身から出た錆で破傷風だ。自作自演だ。永久機関だ。
ミミズグチュグチュ
絶望と開き直り。
読経のさなか、坊主は口角に流れ落ちてきた汗を舐め、昨日届いた地ビールに思いを馳せた。
紀野珍
読経のあとの一杯は美味い!

大伴氏の作品、煮詰まった鍋と語り手の心情がシンクロする。xissa氏の作品、リアルが完全に後追いとなった現代、物語のプロローグも変化を迫られている。ウウタルレロ氏の作品、思わず目が止まる可愛らしい作品だが、このつくし、案外裏のあるキャラかもしれない。もんぜん氏のトホホなビジュアル、人が生きている氏のアフォリズム、ボーフラ氏は粋な設定を火星人で落とす意外性が光っていた。ミミズグチュグチュ氏の作品はまさに言葉に出来ない心情を、文体の勢いだけで表現した。紀野珍氏、みんな薄々感じながらも言いだしにくいお坊さんの俗っぽさを見事に描写した。

続いては規定部門、モチーフは「バレンタイン」であった。書き出し作家たちのスイート&ビターな一文を受け取ってもらいたい。

規定部門 モチーフ「バレンタイン」

ようやく納得のいくカカオが実った。
哲ロマ
なぜ植えたかはすでに忘れた。
いちばんの失敗作を投げつけてやろうと思った。
アサガヲ
投げつけられたい。
下駄箱を開けると、僕の上履きがきれいにチョコでコーティングされていた。
本塁MAX
裏から舐めた。
上履きの中にアポロチョコが入っている。
TOKUNAGA
先端が足ツボを押した。
貰っても貰わなくてもモヤモヤする日だ。
流し目髑髏
無論貰ってないけどな。
プレイ後に女王様がくれたチョコは、やけに甘かった。
おかめちゃん
チョコと鞭。
ハートのチョコに半額シール。君からのバレンタインは、今年も2月15日。
らい麦メガネ。
去年のと合わせ技で本命ってことでいいよね。
「本命か?」「その様だ」
中年男性と思しき彼らは、短く確認し合い、本命と思われる男の素性を調べる手はずを整えた。
okazuka
せめて心配させてくれ。
あの子が誰にもチョコをあげていない。それだけで僕は満足だった。
大伴
お前もか、俺もそうだ。
熱い義理チョコが盃に注がれた。
大伴
盃の形で固まった。
バレンタインデーの苦い経験が、ハーバード大学進学への活力となった。
流し目髑髏
偉くなって廃止してやる!
あたしが伝えたい想いはチョコみたいな甘さじゃない。朝まであいこのじゃんけんがしたい。
わつ
で、最後は勝ちたい。
「やっぱ、渡そう」
私は雑路を逆流し、赤いマフラーを追った。
merumo
がんばれ雑踏!
涙と共に祖母の手作りチョコを食べたものでなければ、人生の味はわからない。
re2daradara
甘じょっぺえ。
行きつけの居酒屋の女将からもらったチョコは、義理よりも人情の味がした。
g-udon
民間のセーフティネット。
2月14日に僕は彼女に電話した。
「雪のせいかな? まだ届かないや……」
「何が?」
かぼちゃ
注文した腹筋座椅子だよ!
それは喜ばれると信じる女子と、いっぱいもらえるのを夢みる男子、両者の交わらない期待を食い物にする大人たちの抗争である。
ウチボリ
端的にまとめてくれました。
羽交い締めにされながらも、チョコレートだけは渡せた。
TOKUNAGA
凶器型のチョコを。
代金を支払い、チョコを受け取った。
紀野珍
レジのおじさんから。
茶色いものがすべて憎い、木々の幹までが憎い。
すり身
あの古民家も憎い!

哲ロマ氏、同じネタの作品はいくつかあったがキレ味はこれが一番。アサガヲ氏、好きにも嫌いにも取れる胸きゅん作品。流し目髑髏氏、バレンタインという浮ついた一日を簡潔にまとめた。大伴氏の作品は男の気持ちを代弁した胸のすく秀作。わつ氏の作品、挑戦的なのにいじましいというこの乙女心。merumo氏の作品も鮮やかな光景が浮かびきゅんとさせられる。かぼちゃ氏の作品、とぼけた味わいがいい。今回は男性視点か女性視点かでくっきりカラーの差が出た気がする。切ない系も、ネタ系もどちらも語り手の切実さが入っていて面白かった。

では次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ

今年は全国的に雪が多い冬ではないだろうか。東京でもすでに二回大雪が積もった。そこで今回のモチーフは雪。雪にまつわる思い出、情景などから物語を立ち上げて欲しい。今回のモチーフは地域によって多様な作品が集まりそうだ。抒情的な作品にも期待する。締め切りは2月28日、発表は3月2日を予定している。下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して応募されたし。力作待ってます!
最終選考通過者

カイテン/ひらり庁/suzukishika/げっきょく駐車場/トモマリ/トモマリ/中津/みづは/ハラセン/毛根/松っこ/トミ子/おどげっつぁん/明日の鯱/トニヲ/けーと/ASDTO/CHIEF/稲妻柔術/早百合/horikirix/じゅんじゅん/jiji/鍵カッコ/あやせ本丸/大山倍達/
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