特集 2014年2月25日

天かすは本当に自然発火するのか

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「天かすの自然発火」が原因と思われる火災が頻繁に起こっているという。
天かすの自然発火?
そんなの超自然現象としか思えないことが本当に起こるのか。天かすを5kgを揚げて実験してみた。
1978年、東京都出身。漂泊の理科教員。名前の漢字は、正しい行いと書いて『正行』なのだが、「不正行為」という語にも名前が含まれてるのに気付いたので、次からそれで説明しようと思う。

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原因は「熱いままの大量放置」

天かすの自然発火は主にそば屋の厨房で起こっており、天かすの放置が原因だという。
なんでも天かすの油が酸化して発熱するらしい。ホッカイロと同じ原理だ。その上ふわふわしてて断熱性が高いため、自然発火するのだという。
まさにリアル「あげだまボンバー」
まさにリアル「あげだまボンバー」
一体このうわさは本当なのか!?
科学の民としてこんなオカルトめいた科学現象を放置するわけにはいかない。さっそく小麦粉を買い込んで調査することにした。
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目標は天かす5kg

自然発火するためにはとにかく大量の天かすが必要らしい。消防の発表によれば、5kgぐらい集まると発火の可能性がかなり高まるという。
5kgの天かすっていったいどれぐらいだ。
このザルいっぱいで約500g。とんでもない。
このザルいっぱいで約500g。とんでもない。
いつもうどんに入れる量の10倍以上ある。これを10杯。未曾有の量だ。
しかし今日はこの実験のため、理科室へ朝から休日出勤しているのである。なんとしてもやりとげたい。
今日は白衣の代わりにエプロン。
今日は白衣の代わりにエプロン。

揚げました、天かす5kg!

はい、揚がりました―!天かす5kg!
はい、揚がりました―!天かす5kg!
説明は省くが、2時間半かけて5kgひたすら揚げまくった。超つらい。全身の毛穴の奥まで油が詰まり込んでいる気がする。
天ぷら臭が校舎全体に充満し、居酒屋のようなゆるい空気が校内に漂う。すまん、部活の高校生たち。

さて、消防の注意によると、「揚げた天かすは、熱の逃げやすい場所で密閉せずに保管しておくこと」と書いてあったので、熱の逃げにくい箱の中に密閉しし保管することにする。
発泡スチロールの箱で保管。
発泡スチロールの箱で保管。
ちなみにこの状態で温度は78℃。2時間以上かけている間にちょっと冷めてしまったが、果たしてここから温度は上がるのか。待つ間に昼飯でも食おう。
昼飯:揚げたて天かすのたぬきうどん。
昼飯:揚げたて天かすのたぬきうどん。

全く上がらないため、秘密兵器登場

1時間後、60℃
1時間後、60℃
3時間後、46℃
3時間後、46℃
まずい。めちゃくちゃ順調に下がっている。
あとから上がることもあると聞いたが、かなり不安だ。この反応では最初の高温が重要なのだ。
そこでちょっと工夫した。
対策:電気ストーブで温める。
対策:電気ストーブで温める。
「あ、この人ズルした!」と思われるかもしれない。
いや違う違う、ズルではない。厨房を再現しているのである。溜めた天かすが鍋の横で高温になることで発火しやすくなるらしい。その再現だ。
決して、失敗しそうなので焦ってストーブを倉庫から引っ張り出してきたわけではないのだ。

そして5時間が経った……

すっかりも日も暮れ、冬の夕焼け
すっかりも日も暮れ、冬の夕焼け
朝の9時から実験を始め、天かすの相手だけで一日が終わろうとしている。これで温度が下がっていたら、この一日が無に還る。(そうならないようにズルまでした)
さて温度を計ってみよう。
5時間後の温度、37℃
5時間後の温度、37℃
………………。
………………。
今日、僕は天かす5kgを作り、それが箱の中で冷めていくのを見守っていただけということになる。
この12月25日を天かす記念日とし、悲劇を忘れぬよう後世に強く戒めていきたい。

しかしあきらめずに実験は新たな秘密兵器を投入し、第2シーズンを迎える。

第2の秘密兵器で再挑戦

はっきり言って、5kgも作っている間に天かすが冷める。
消防によると、天かすは500gでも発火する可能性はあるらしいので、第2シーズンは、天かすを少なめの1kgとし、厚いダンボールで大切に包み込んで挑戦した。
厚手段ボールの3重がさねでしっかり受け止める。
厚手段ボールの3重がさねでしっかり受け止める。
そこへさらに、実験用の酸素を注入。
そこへさらに、実験用の酸素を注入。
「あ、この人またズルした!」と思われるかもしれない。
いやいや、ズルではない。「調整」である。
僕はもう大人で、守るべきものがあるのだ。
というわけでちょっとくらいズルしても、燃えている写真を撮影したいのが本音である。ご勘弁願いたい。
開始温度、92℃! これならいけるかも!
開始温度、92℃! これならいけるかも!
非常に期待が持てる高温だ。だが一つ不安がある。
今日は自宅での実験なので、天かすが炎上したら非常に危険なのだ。箱は屋外に持ち出すしかない。
そしてそんな日に限って、こういう天気になる。
2月、最初の関東豪雪の日。
2月、最初の関東豪雪の日。
寒いなんてものではない。
この日、つくば市は26cmと観測史上最高の積雪を記録した。夜には大雪原である。
そんな豪雪の降る中、僕は15分おきに広場まで歩き、天かすの温度を測りに行った。生涯忘れないだろう。
早く発火して僕を温めてほしいと何度も思った。
早く発火して僕を温めてほしいと何度も思った。
断熱は完ぺきだったと思うが、雪が1cm積もるごとに天かすの温度は5℃下がり、5時間後にはすっかり雪の中で冷え切っていた。
5時間後の天かす温度、24℃。
5時間後の天かす温度、24℃。
自然発火、失敗である。
というわけで今日はみなさんに、雪の日でもポカポカに温まるエネルギー満点の天かすレシピをお届けしたい。

エネルギー満点、チーズ天かす丼!

1.あったかいご飯に天かすをかける。
1.あったかいご飯に天かすをかける。
2.薄めた麺つゆにチューブしょうがを溶かす。
2.薄めた麺つゆにチューブしょうがを溶かす。
3.麺つゆを天かすにかける。
3.麺つゆを天かすにかける。
4.とろけるチーズをその上にかけて、電子レンジで温める。
4.とろけるチーズをその上にかけて、電子レンジで温める。
5.できあがり。
5.できあがり。
「天かすにチーズ……!」と思うかもしれないが、しょうが入り麺つゆが油っこさを打ち消して、超ハイカロリーなのに手軽にいくらでも食べられてしまうという魔性のメニューである。
人類のカロリー摂取に対する欲の結晶。
人類のカロリー摂取に対する欲の結晶。
現在我が家にある天かすだけで30杯分くらい作れるので、全力で料理し、この冬は必要以上のカロリー摂取を心がけていきたい。

天かすは(そう簡単には)自然発火しない

消防の警告は本当だと思うのだが、家庭の台所ではかなり工夫しても天かすは自然発火しないことが分かった。
なんとか成功して、「天かすで点火する」というギャグを言いたかったのに悔しい限りである。
それはそうと、この実験は発火する可能性のあるので危険である。挑戦される際には、万全の備えをお願いいたします。
安全のために5kgの方は焼却炉を借りて実験しました。
安全のために5kgの方は焼却炉を借りて実験しました。
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