チャレンジの日曜日 2014年3月2日
 

書き出し小説大賞・第43回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。 著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。
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書き出し小説秀作発表第四十三回目である。

先日「ぞうさん」などの作詞で知られるまど・みちお氏が亡くなられた。104歳だったという。訃報を目にしたとき、まずその長寿ぶりに驚いた。思わず「どんだけ〜〜!」と叫んでしまった。これほど素直に「どんだけ〜〜!」を叫ぶ機会が再び来ようとは……。多少の不謹慎は許されると思う。104歳なら。素晴らしい詩をありがとうございました。安らかに。

それでは今回も、書き出し小説の素晴らしき世界をお楽しみください。

書き出し自由部門

夕飯が出来たと、猫と私をまとめて妻が呼ぶ。
xissa
茶碗も猫と同じだ。
「食感がおもしろい」とレポーターが笑い転げて十五分が経過した。
大伴
おにぎりの具がグミ?
理想の死に方を模索しすぎて、不死になってしまった男を一人知っている。
小夜子
老衰し損ねた。
三階のあの娘とは下水管でむすばれている。
TOKUNAGA
いま分身が通過中。
古着屋で買ったフライトジャケットのポケットから、口紅のついたマスクが出てきた。
おかめちゃん
持ち主は女装家だったようだ。
悪ふざけしたお詫びに薬を多めに出した。
もんぜん
聴診器を股間にあてた。
万引き主婦の泣き声は美しい音楽のようであった。
TOKUNAGA
白タイツの旦那が迎えに来る。
明け方の震度2で落ちた服だけを着て、宿舎を出た。
義ん母
余震コーデ。
冗談で出したヤリイカがクリーニングされて戻ってきた。
もんぜん
半生のスルメになって。
猿の寝息で目が覚めた。夜の帳に濃厚な「猿」の存在感。一緒に暮らし始めて三年になる。
ボーフラ
不用意に目を合わせないように。
勘当されて以来十数年会っていなかった父と、結婚式の一時間前に小便器で隣り合わせた。なんでもサプライズゲストなのだという。
g-udon
しかも股間チラ見してきた。
前を歩いていたおばさんが落とした封筒を渡し終えた後、親切する以前の歩幅では、おばさんと並走する事になるので、目的地からはそれる角を急遽曲がることにした。
人が生きてる
能の動きもいいかもしれない。
今回も新旧常連さんの手堅い作品が集まった。毎回読んでくれている読者のみなさんには、すでに各作家の個性が伝わっているのではないだろうか。選者側もそうした作家性を踏まえた上で「お、○○氏は今回こう来たか」「こっちは新しい作風にチャレンジしてるな」などと楽しませてもらっている。

また作品自体も続きを想像するという本来の趣旨以外に、そのシチュエーションに身を置いてみる。ただ素直に受けとめる。ツッコミを入れるなど、さまざまな楽しみ方ができる。各作品には作家へのせめてものお返しにコメントを入れているが、はっきり言ってこれは蛇足でしかない。ささやかな共感材料になればうれしいが、読み飛ばしてもらうのが一番の正解。書き出し小説は読み手の自由な解釈によってはじめて完成する創作である。

それでは今回の規定部門、モチーフは「雪」であった。書き出し作家がつくりだす雪景色を堪能して欲しい

規定部門・モチーフ「雪」

猫の背中に雪は積もらない。
豆々
コタツの中に雪は降らない。
傘をさすようになった。雪玉をつくらなくなった。
suzukishika
柵の雪も落とさなくなった。
「粉ぁ〜雪ぃ〜」の部分だけは参加できた。
よしおう
行事っぽい発声で。
ホワイト通夜になった。
紀野珍
雪に喪服のコントラスト。
雪が降り出した。母の旧姓はまだ思い出せない。
紀野珍
佐村なんとかって言ってたっけ。
僕の告白に、君はハート型の尻餅で答えてくれた。
トニヲ
隣のオッサンも同じ尻餅で答えてくれた。
発泡スチロールとケンカしていた彼は一人雪景色と呼ばれていた。
人が生きてる
発泡スチロールがマウントポジション。
ケンタウロスは焦った。このまま雪に埋れたままだと、半裸の人間に間違えられる。
流し目髑髏
一方ミノタウルスは……
校庭で始まる処女の奪い合い。
魔法使い
足跡バージン。
かきあつめた新雪を頬張ると、この街の味がした。
TOKUNAGA
埃のせいか若干苦い。
くだりのリフトには雪男が恥ずかしそうに座っていた。
大伴
イエティ(家に)帰りたい……
その日は雪の予報だから退院の迎えには行けないよ、と妻は言った。私は主治医にそれを伝えなければならない。
なめたけ
凍った道を松葉杖で帰れるだろうか。
鋭角をすべて消し去って、午前2時の街に雪が降る。
xissa
ゴシック体の文字看板も丸ゴシックに。
不意に立ち止まると、足跡だけが楽しそうに駆けまわって僕を追い越していった。
小夜子
雪によろこぶ座敷童?
人間の愚かさを笑うように、カマクラは雪の重みでつぶれた。
じゅんじゅん
姉歯建築。
駅から家までのどこかに、僕の眼鏡が埋まっている。
AD794
翌日雪は凍っていた。
残雪、そして寒梅。象人間の足跡が、ゆっくりと山間のホスピスへと続いていく。
ボーフラ
象人間の鼻づまりは命に関わる。
娘は雪だるまを二つ作り、一つを日向に一つを日陰に置いた。娘は妻によく似ている。
かぼちゃ
理系女子の血を継いでるようだ。
女とアイスは、ちょっと溶けかかってる方がうまい。
おかめちゃん
溶けすぎてもいけない。
足もとを気にして、恐るおそる。ペンギンのように歩くきみを、ずっとずっと見ていたい。ずっとずっと、見ていた。
あきら
あ、滑った。
日本文学史上もっとも有名な書き出しと言えば川端康成の「雪国」である。そう考えれば今回のモチーフは王道中の王道。集まった作品もいつもより二割増の「文学性」を感じた。

豆々氏、猫と雪。奇しくも漱石と川端の合わせ技。まさに文学!suzukishika氏、良質なコピーのような秀作。紀野珍氏、思い出せない母の旧姓が降り出した雪でさらに遠のく。TOKUNAGA氏、ホロ苦い青春の匂いもして語り手はまだ何者でもない青年といったところか。なめたけ氏、妻、私、主治医それぞれの立場と心情を思うと味わいはどこまでも深く、しかも落としどころはユーモアという秀逸な作品。xissa氏はレトリックの妙。小夜子氏はいつもの幻想的な持ち味にプラスアルファ。ボーフラ氏の不思議な世界はオリジナリティのある文体にも支えられている。あきら氏、すごく素直な愛らしさがあり好感の持てる作品になっている。

ネタ系も今回は雪のイメージによって抒情性が加えられ染みる作品となった。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
神様
究極キャラ「神様」をモチーフに選んだ。国、宗派は問わない。日本の八百万の神でもギリシア神話の神でも、イエス様仏様でもよい。またオリジナルの神様をつくってもいい。仙人系でもオッケー。起こした奇跡から超人的活躍、逆に意外な一面やもろもろのエピソードを書いて欲しい。なんでもアリなキャラなので自由度が高い分難しいかもしれない。果敢に挑んで貴方なりの「神話」をつくってください。

締め切りは3月14日正午。発表は3月16日を予定している。以下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択し応募して欲しい。力作待ってます!
最終選考通過者

merumo/長瀬勝手口/ナシオ/ほとけ/東雲長閑/雪と塩分/ただの県民/あんそん/tomowvsky/ふじわら/なかじや/不眠/megahiro/ひろみつ/eat_sushi/
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