ロマンの木曜日 2014年3月27日
 

映画館で寝ない方法を考える

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凍てつく寒さの中、白い息を吐きながら早足で入った映画館。中はぬくぬくと暖かく、さながら天国のようである。ふかふかの椅子に深く腰掛けると、やがて場内は暗くなり、映画が始まる。贅沢で幸せなひとときだ。

ところが、である。
どんなに面白い映画でも、それを一発で台無しにしてしまう存在が、自分の中に潜んでいる。

睡魔である。
何が悲しくて、わざわざ出掛けて行った映画館で船を漕がねばならないのか。そんなことのために、映画体験の一回性を邪魔されたくない。映画館で眠らないための方法を考える。
1992年生まれ、長崎出身。大学生が嫌いだから友達がいないのか、友達がいないから大学生が嫌いなのか、もうわからないです。

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全て自分のせい

大仰な書き出しになってしまったが、要は、映画館で寝てしまうのめちゃくちゃ最悪じゃないですか、ということである。

映画館で寝ると最悪なのは、そこに3つの「無駄」があるからだ。すなわち、
@金銭の無駄
A時間の無駄
B経験の無駄
である。

@とAに関しては、読んで字の如し。Bは特にその映画を初めて見る場合に顕在化する無駄のことで、途中で目が覚めて映画のオチだけを知ってしまった、などというときに起こる感情である。どうせなら最後まで眠ってしまえば良いものを、映画館での居眠りは得てして、クライマックス近くで謎の覚醒状態へと変化する。そうして、初見でしか味わえない「作品のストーリーを楽しむ」という体験を棒に振ってしまうのだ。

こうした無駄に加えて、映画館で寝てしまうことにはもうひとつ、特徴的な「つらさ」がある。それは、
「すべての責任が自分にかかる」
というつらさである。

お金を無駄にしたのも、時間を無駄にしたのも、作品を無駄にしたのも、すべて自分のせいなのだ。他人のせいにも、映画館のせいにもできない。「寝るほどつまらなかった」と言って映画のせいにはできるかもしれないが、そのつまらない映画に足を運んだのは、他ならぬ自分自身なのだ。無駄に対する怒りの矛先は、すべて自分に向けられる。この「自責」こそが、映画館で寝たとき、最も自分を傷つける要素である。

個人的な話でいえば、僕は大学で映画を専攻している。そのせいか、「映画に詳しくなりたい」などという邪念が芽生え、分不相応に高尚な映画を見に行くことがある。ところがかなりの確率で、寝てしまうのである。特にフランス映画がいけない。フランス語の、あのボソボソ…という喋り方はたしかにお洒落だが、同時に強烈な眠気を誘うものでもある。作品の内容が前衛的だと尚更だ。ゴダールの『気狂いピエロ』など、僕は2回見に行って2回とも途中で寝てしまった。自分の感受性の貧しさを責めながら半べそで帰ったことは今でも覚えている。

とにかくこれ以上、自らを責めないためにも、映画館で眠らない方法を編み出さなければならない。
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其の一、自己暗示法

眠気を抑えるやり方としては、コーヒーを飲む、ガムを噛む、など物理的な方法も考えられるが、ここではより根本的に問題を解決するため、精神面からのアプローチを試みる。気の持ちようを変える、ってことである。

僕の経験に基づけば、映画館で爆睡するという悲劇は、一人で映画を見に行った場合に起こることが多い。逆に誰か同行者がいるときは、そこに少なからず緊張感が芽生えるからか、さほど眠気は起こらない。

まずはこの事実を逆手に取り、「自分が誰かと一緒に映画を見に来ている」と自分に思い込ませることによって、睡眠の妨害を試みる。隣の席に座る人を恋人とでも思い込み、デート気分で映画を見れば、途中で眠ることなど出来ようはずがない。やる前からすでにそこはかとない悲しみの漂う方法ではあるが、背に腹は代えられない。
渋谷区の映画館、シアター・イメージフォーラム。
渋谷区の映画館、シアター・イメージフォーラム。
ここで見に行く映画は、「なるべく難解そうで、玄人好みしそうなもの」が望ましい。短絡的に言えば「眠気を誘いそうな作品」ってことだが。そこでやって来たのがシアター・イメージフォーラムである。

ちょうどこの時、やっていたのが「アンディ・ウォーホル映画回顧展」。20世紀ポップアートの旗手、アンディ・ウォーホルの作った映画、眠くならないはずがないではないか。果たしてその予想は当たっていたわけであるが、映画の内容については、ここでは措いておく。

劇場に入ると、上映前からルー・リードと思われる低くて暗い声のBGMに眠気を誘われる。混雑する中、僕は一人で来ている中年女性の隣に座った。僕はこの人と一緒に映画を見に来た。僕はこの人と一緒に映画を見に来た。僕はこの人と一緒に映画を見に来た。3回唱え、自己暗示をかける。なんだか気味の悪いことをしているな…と思っているうちに映画が始まった。
当日の上映作品、よりによって無声映画だった。
当日の上映作品、よりによって無声映画だった。
結果から言えば、寝なかった。

意味の分からない映像が延々と続くなか、一瞬たりとも眠気を感じることはなかった。
自己暗示の効果てきめん!と言いたいところだが、寝なかった原因は、自己暗示では無かった。というのも、僕が同行者、いや恋人と思い込み、「能年玲奈」とまで名づけた隣席の中年女性、すごくマナーが悪かったからだ。貧乏ゆすりはひどいし、持参のレジ袋が常にカサカサカサカサ音を立てていた。そのせいでまったく眠れなかったのである。眠れなかった、って言い方もおかしいが。

しかしとりあえずは起きていられたし、映画も面白かったので今回は無理やり、成功ということにしたい。

其の二、負荷増大法

ひとつ目のやり方が何とも煮え切らない結果を招いてしまったので、別の方法を考える。自分でやっておいて何だが、自己暗示などという不安定なものに頼ることなく、ここはやはり確固とした方法を立てておきたいところだ。そこで、である。
千葉県は柏市へやって来た。
千葉県は柏市へやって来た。
「遠出」をするのだ。
僕の住む東京都新宿区から千葉県柏市までは、電車で片道1時間あまり。映画を見るためだけにわざわざ他県まで足を伸ばすことによって、@金銭、A時間、この2つの要素による負荷を大きくしようという寸法である。映画代を超える電車賃を払い、さらに半日かけて行った映画館で、それでもなお寝てしまったときのショックを思えば、映画の途中で眠ることなど絶対に無いだろう。

ということで、道端に雪の残る平日の早朝、僕は柏市へと出かけた。
柏駅そば、ヨーロッパの街角を思わせる風景の先に、
柏駅そば、ヨーロッパの街角を思わせる風景の先に、
「TKPシアター柏」という映画館がある。
「TKPシアター柏」という映画館がある。
お目当ての作品は『熱波』という、ポルトガル語の映画である。しかもごていねいなことに、モノクロときている。この強敵(何でだ)に、僕は勝てるのだろうか。
二部構成で綴る恋の物語…だったらしい。
二部構成で綴る恋の物語…だったらしい。
いやあ、寝た寝た。

それはもうぐっすりと、気持ちよく寝ていた。お金も時間も普段の倍以上かけてプレッシャーを高めた上で、また寝てしまった。倍以上の手間をかけた上での「自責」はいかほどのものか、と恐ろしくなったが、意外や意外、ここまでくると逆に清々しい。何かものすごい贅沢をしたような気がするのだ。果ては「俺は寝てやったぞ」という謎の征服感すら湧いてきたのである。

其の三、開き直り法

しかし負荷のかかった自責というのは中年の筋肉痛と同じで、あとから訪れるのであった。
「わざわざ柏まで行って寝たのかお前は」
「そもそも本当に映画が好きなのかお前は」
「病気か。病気なのかお前は」
頭の中で、カンの虫が鳴いている。

そんななか最後に思いついたやり方、それは、もう開き直って子供向けの映画を見に行く、という方法である。子供向けのアニメ映画、たとえばコナンとか。それだったら寝ない。絶対に寝ない。寝なきゃいいのか、という問題もあるが、ここまできたらもう、寝なきゃいいのである。

ちょうど『ルパン三世vs名探偵コナン THE MOVIE』なんて映画が上映されているではないか。
自責の念に苛まれながら、新宿バルト9へ。
自責の念に苛まれながら、新宿バルト9へ。
ハァ、面白かった。何だかよく分からないが面白かった。コナンがスカイツリーにぶら下がっていて笑った。眠さなど、微塵も感じなかった。

もうこれでいいではないか。僕にはポルトガル映画よりコナンがお似合いだということだ。そもそも高尚な映画とは何だ。低俗な映画とは何だ。眠くなる映画と、ならない映画があるだけではないか。「コナンよりウォーホルが上」などという、映画に貴賎をつけようとする態度が少なからず僕の中にあったこと、その方が問題なのではないか。もう右も左もわからなくなった。

映画館で寝ない方法まとめ

いちおう、まとめてみる。
映画館で確実に眠らないようにするためには、

一、マナーの悪そうな人の隣に座る。
一、ポルトガル語の映画はあきらめる。
一、コナンを見に行く。

このいずれかを実行するしかなかろう。簡単な、実に簡単なことである。

それでも寝てしまうあなた(私)へ

上記の対策を講じてもなお、それでも映画館で眠ってしまう場合があるかもしれない。準備を経ているだけに、自責のつらさもひとしおであろう。

そういう場合は外で悶々とすることなく、真っ直ぐ家に帰るのが無難である。そして部屋を暗くし、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のDVDを見てみよう。あまりの面白さに、さっき寝てしまった映画のことは忘れ、自責の念も吹っ飛ぶに違いない。目には目を、映画には映画を。
バックトゥザフューチャー最高〜〜〜!!!
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