特集 2014年4月13日

書き出し小説大賞・第46回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説秀作発表第四十六回目である。

桜もかなり散ってしまった。道端には入れ替わるようにタンポポが可憐な花を咲かせている。以前から思っていたがタンポポはずいぶん過小評価されているのではないだろうか。花が終わったあとの綿毛への変身なんてスゴイと思う。桜は舞い散りタンポポは綿毛となって舞い上がる。花の散り際もそれぞれである。では今週もそれぞれの書き出し作品をご覧いただこう。‪

書き出し自由部門

塀から降りて道を譲ると、猫は申し訳なさそうにミャアと鳴いた。
峰岡スプリング
塀の上は一方通行。
泥酔男の頭脂が車窓に無限マークを描いた。
大伴
関ジャニ∞オヤジ
まだ謎は解けていなかったが酔った勢いでリビングに全員を集めた。
哲ロマ
そんで真っ先に寝た。
だめだ、もう止められない。人形の口の動きに合わせて、上司への不満があふれ出す。
紀野珍
終盤は地声。
夜中に目が覚めてリビングへ行くと、父が高い所から落とすお札を必死に掴む兄を見た。
もんぜん
後ろ足で立つ猫っぽく。
嘘つきの乳母は、人がよく死ぬお話ばかり読んでくださいました。
紀野珍
40越えて実家に電話すると葬式の話ばっかです。
その老婆は突然、正論を投げかけると竹やぶに消えた。
TOKUNAGA
反論で追いかける。
世界が少しの間スローモーションになる。僕は舞い上がる桜の花びらを割り箸で一枚ずつ摘み、重箱の隅にそっと添えた。
流し目髑髏
煮崩れた肉ジャガの上に。
節電スイッチの中で光るランプが、こっそり何かと交信してる。目を合わせると点滅をやめた。
人が生きてる
家電って持ち主に似るよね。
トイレから戻ると泣き上戸は、泣いていて、会計を済ますと、増え上戸は増えていた。
義ん母
会計の前ならよかった。
曇った窓ガラスに書かれた相合傘は、流れてきた水滴によって真ん中から綺麗に割れた。
小夜子
字も垂れてなんだかホラーっぽい。
だぶった3巻を一冊売ると、全巻はぴったりと本棚に収まった。
TOKUNAGA
背表紙のドラゴンもうれしそう。
ゴールリングに挟まったバスケットボールをバスケットボールで落としたがそのバスケットーボルがまた挟まったので、バスケットボールは永遠に挟まったままだ。
おかめちゃん
バスケ不変の法則。
ひらけた催事スペースに立つ次女は、吹き抜けの先にいる二階の三女が、フードコートで食べ残したフライドポテトを、放るのを待ってる。
人が生きてる
立体感ある描写が素敵。
届いた鯖缶の塔の隙間から母が描いた母が笑っていて、思わず手をひっこめた。
義ん母
仕送りに紛れた母の自画像。
知らない女と歩いているあの人を見た日は、タンポポとタンポポの間に靴下が落ちているのを見た日でもあった。
もんぜん
数日後、靴下は綿毛まみれに。

いい書き出しの特徴にビジュアルの瞬発力がある。読んだ瞬間ポン!と「絵」が浮かぶそんな書き出しだ。今回の作品では峰岡スプリング氏、大伴氏、もんぜん氏、TOKUNAGA氏の本棚の作品らがそうで、その絵が浮かぶと同時にクスっと笑えたり、ハッと息を呑んだりする。瞬発力はなくとも人が生きてる氏の催事スペースの作品や、おかめちゃんのバスケの作品などはジワジワと全貌を表してくる感じがおもしろい。また先に状況があり、そこからビジュアルが広がってくる作品もある。哲ロマ氏の作品や、紀野珍氏の腹話術の作品などがそれであろう。書き出しには他にもキャラクターや核となるネタなどいろんな要素があるが、そこにどんなビジュアルを与えるかが作品の質をさらに上げるように思う。そして読者のみなさんもぜひ、作品から受け取るイメージを楽しみ、膨らませて欲しい。

では続いては規定部門。今回もモチーフは「ボーイ・ミーツ・ガール」であった。書き出し作家がつくりだすさまざまな出会い、はじまりの予感を堪能していただきたい。

規定部門・モチーフ「ボーイ・ミーツ・ガール」

サバンナの風の中、10キロ先のあなたと目が合った。
アイアイ
キリン邪魔!
出会って4秒で惚れた。直腸指診で私が患者だった。
g-udon
きゅん!となった。(肛門が)
監視台から見おろす彼女の下を、僕は背泳ぎで通り過ぎた。
大伴
バサロで折り返した。
前金でお金を払い、待合室で三十分待ったのち、僕は彼女と出会った。
もんぜん
ポラロイドと違う!
僕の足の爪に滲む紫色は、満員電車の中で彼女がくれたキスマークだ。
粉すけ
背中にも欲しい。
彼女は俺に平手打ちをしてから、「ぶん殴るわよ!」と宣言した。この女を許してなるものかと誓い、はや数日。
永遠月みら
まだグーパンもらってないぞ!
彼の顔が見られるのは、前の席から回ってきたプリントを後ろの席に座っている彼に渡すときだけなんだ。
eat_sushi
教室のリアリズム。
「さ、親指をグッと握って下さいね」その人は僕の柔かな後肘部を、冷たい消毒液でスッと撫でた。
merumo
ヴェポラップも塗って欲しい。
一円玉が跳ね返した光を、ハイヒールとスニーカーが同時に塞いだ。
アイアイ
ここ「ラブ・ストーリーは突然に」が流れる場面。
シャッターの下の隙間から朝刊を通すと、引っ張る感触があった。
NCハマー
駆け引きスタート!
去年の春から、家の前のバス停には女神がいる。
おかゆと高校生
バス停と同じ体型の。
紙せっけんは握りしめた手のなかで崩壊していた。削りたての鉛筆の匂い。 恭子先生の匂い。
wabisuke
最期のセンテンスはこだわりの一文字開け。
出てきたモグラを僕は叩くことができなかった。
ウウタルレロ
いろんなアングルから見たいシーン。
神官の合図で、アエイシをくわえたネフェルティティは「ちこくちこく!」と走り出した。アメンホテプはピラミッドの影でただ待っていればよかった。
マッドまっすぐ
紀元前からの黄金パターン。
ストーカー被害の相談が彩子と私の出会いだった。私は、被害の詳細まで全て知っていた。
ウチボリ
サスペンスの予感。
今際の際、走馬灯の様に駆け巡る想い出の中で、初めて見掛けた女性に恋をした。
菅原 aka $UZY
巻き戻し、叶わず。
宅飲みで、酒が切れて、調達。珍しくチューハイなんて買ってしまって。三十路の男に「可愛いですね」なんて言う年下の男を無視できなかったのが運の尽き。
ゴロ
奥さん、BLッスよ!
車で信号待ちをしていると、フロントガラスに天使が落ちてきた。
おかめちゃん
直後、天使になってのぼっていった。
ぶつかる二人を待ち続けた曲がり角は、やがて犬の縄張りになり、黄色い虹の架け橋を登って雲の切れっ端と恋に落ちた。
松っこ
「場所」に着眼した秀作。
長い長いあみだの果てに、君は僕のところに落ちてきた。
xissa
あみだ婆が……。

アイアイ氏、障害物の多い日本では思いつかない見晴らしのいい作品(笑)。g-udon氏、恋はどこから侵入してくるか分からない。大伴氏、真夏の眩しさと共にちょっと80年代っぽいおしゃれなユーモアを感じた。粉すけ氏、マニアックな性癖をきれいに仕上げた。永遠月みら氏、eat_sushi氏、wabisuke氏、ボーイ・ミーツ・ガールというモチーフにはやはり学園モノがしっくり来る。マッドまっすぐ氏、多くあった定番ネタの中でももっとも笑えた。気になって「アエイシ」をググってみたがエジプトの主食パンだそうで、なにげに考証もしっかりしてる(笑)。松っこ氏はさらにその「場所」自体を主人公にした凝った作品。ウチボリ氏の作品はサスペンスの不穏な冒頭としてよくできている。さすが書き出し小説だけあって、出会いの瞬間がそのまま完結につながるような作品が多かった。が、欲を言えばそこからグっと物語の扉を押し開けるような、ドラマチックな出会いも読みたかった気がする。きれいにまとめるより思いっきり投げつける、そんな勇気も書き出しには必要なのではと感じた。

それでは次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
地元
今回のモチーフはあなたの地元、つまりは出身地である。ずっと地元に住んでいる人、いまは地元を離れた人、立場はさまざまだと思うが「地元」という言葉から浮かぶストーリーの書き出しをつくっていただきたい。また地元=田舎とは限らない。東京に住んでる人にとってはまさに東京が地元である。そしてどこが地元であろうと生まれ育った土地には、その土地にしかない風景や人物、言葉が存在するはずである。今回はそのあたりのディテールをどう織り込むかがポイントとなるだろう。ローカル色あふれる作品を期待したい。
締め切りは25日正午、発表は27日を予定している。以下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択して送っていただきたい。力作、待ってます!
最終選考通過者

無茶をして苦茶を飲ません/suzukishika/レイナパステル/右フックおじさん/ビンビンに穏便なウォンビン/不眠/ちたん/紙製梱包具/らい麦。/小岩井祝/you-403/
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