特集 2014年4月17日

地図をなぞって、どこにもない地図を作る

たとえば小学校ってどういう形が「ふつう」か?
たとえば小学校ってどういう形が「ふつう」か?
架空の地図を作る、という趣旨の本を読んだ。

面白そうだからぼくも作ってみようと思ったときに、はたと気づいた。たとえば学校の形1つにしても、よくあるパターンなんてものが頭にないから、適当な形すら描きようがない。

まずは架空じゃない地図をちゃんと見てみようと思った。
1976年茨城県生まれ。地図好き。好きな川跡は藍染川です。(動画インタビュー)

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まずは現実の地図をよく見る

架空の地図を作るという本はこれだ。「みんなの空想地図」
いい本です
いい本です
著者の今和泉さんが、空想の地図を作ってきた経緯や考え方なんかが書いてある。面白そうだから自分も地図を書こう、じゃあ例えば学校の周辺から書いてみようと思ったときに、はて、学校ってどんな形だったっけと思った。

現実の形も知らないのに、空想の形が書ける訳がない。まずは現実をよく見ようと思ったのだ。

小学校の形ってどんなだ

まずは近所の小学校の形を、既存の地図からひたすらなぞってみることにした。いわば写経である。
小学校その1
小学校その1
茶色が校舎、水色がプールだ。周りの黒い輪郭の切れているところは校門。

こうしてみると気づくことがいくつかある。たしかに学校にはプールがある。L字型の校舎も見かける。左側のはなれみたいな建物もたまにある。大きな空間は校庭だ。
小学校その2
小学校その2
これは平べったい形だ。右側の大きめのはなれは体育館だろう。

そして左側には結構近い所に校門が2つある。さっきの学校もそうだったし、もしかして条例とかで2つ以上の校門を作るように決まってるのかな?
小学校その3
小学校その3
これは、校舎の上のほうがちょっとくびれてたり出っ張ってたりする。理由は分からないけど、確かにこういうのある。

そして下のほうの敷地がちょっと面白い形に削れている。たぶん住宅地と接しているんだろう。

ここまでをまとめて、空想の小学校を描いてみる

まとめてみよう。

・学校には校舎とプールと校庭と、たまに体育館がある。
・校門が2つ以上ある。
・校舎がくびれてたり、敷地が削れてたりする。
これらの要素を入れて、空想の小学校を描いてみた。
空想の小学校
空想の小学校
上の絵はぼくが空想で描いたものだけど、なんかありそうじゃない?という気がしてくる。

L字型で、くびれを入れて、正体不明のはなれも用意した。裏門はなんとプールの正面である。
裏門の場所が斬新
裏門の場所が斬新
校舎の右上は住宅地に接していて、削れている。

校舎のくびれの位置で急に渋滞になりそうで、空想の生徒たちに怒られそうだ。
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つぎは道路を描こう

さて、学校は描けたことにしよう。つぎはもうちょっと引いた縮尺で道路が描きたい。やっぱり道路がないと地図っぽくないからねえ。

ただ、道路の形ってどんなふうだったっけ?分からないので、まずはやっぱり写経しよう。
道路その1
道路その1
ん、道路だ。確かにこんな形してる。

基本的にはまっすぐで、カクカクしてる。太い大通りと細い小道がある。細かいところだと、交差点の四隅が削られてることに気づく。
道路その2
道路その2
これもうちの近所の道路。

たまにぐねぐねしてるのは、地形に由来してたりするんだろうなあ。あと、ぴったり東西南北の道ってなかなかない。

空想の道路を描いてみる

道路についてはこんな感じだろうか。

・基本的にはまっすぐ。たまにぐねぐね。
・交差点の四隅は斜めに削れてる。
・上下左右ぴったりよりは斜めのほうがリアル。
これらの要素を入れて、空想の道路を描いてみた。
空想の道路
空想の道路
右下は大通りだ。そして、上のほうをにょろにょろと左右に進む道は、川の跡が道路になったもの(暗渠)だ。既存の道の進み方とは無関係に進むさまがかわいい。
さっきの学校を入れてみた
さっきの学校を入れてみた
さっきの空想の小学校を入れてみた。なんだかずいぶん地図っぽくなったように見える。

学校の北東側の暗渠の支流由来の細い道は、車が来ないから通学路としてはよさそうだ。
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地下鉄を描いてみたい

さっきの地図に要素を足していきたい。大通りの地下にはよく地下鉄の駅があるから、それを描いてみよう。

地下鉄の駅の形については、ライター田村さんによる「地下鉄駅採集」というすばらしい記事がある。駅の出入口が虫の手足みたいに見える、というのは田村さんの発見だが、改めてなぞって確認してみたい。
地下鉄の駅その1
地下鉄の駅その1
これはぼくの最寄りの都営三田線巣鴨駅の形だ。

確かに虫である。しっぽが細長いのが完璧だ。左手はちょっと太い。
地下鉄の駅その2
地下鉄の駅その2
これは東京メトロ南北線の駒込駅。

さっきより長い。そうなるとおなかの部分に足が増えるようだ。足が折り返してるのは、その分で階段の高さを稼いでるんだろう。
地下鉄の駅その3
地下鉄の駅その3
乗り換えがある場合も描いてみた。東京の神保町駅だ。

これも、基本的には二匹の虫が重なってるだけの構造だ。上から見てるからお腹の部分が一体に見えるけど、立体的にはほんとに二匹になってるはずだ。

空想の地下鉄駅を描いてみる

地下鉄の駅は基本的には虫である。体があって、前後に足がある。

では空想の地下鉄駅を描いてよう。
空想の地下鉄駅
空想の地下鉄駅
描いてみて思ったのは、この駅、ちょっとずんぐりむっくりしているということだ。短すぎる。ただ、「駅がずんぐりしている」っていうことに気づく感覚が人生で初めてだったので、これはこれで嬉しかった。

もうちょっと伸ばしてみて、地図に入れてみた。
地下鉄があるということはかなり都会
地下鉄があるということはかなり都会
小学校のスケールに合わせると、駅の長さはこれくらいないといけないようだ。出入口が若干ビルにめり込んでいる。地下鉄が欲しいという思いつきからいつの間にか都会になっていた。
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あとは地名が必要だ

さて、これまでの空想地図に足りない要素はまだまだ無数にある。住宅がない、商店がない、公園がない、とにかく施設が足りない。

ただそれらのレイヤーと別に、この地図に足りないものは地名である。町の名前を足したい。

よくある地名ってなんだろう?
たとえば「新宿」は山形にも愛知にもあるみたいだけど、多い方なのか?
たとえば「新宿」は山形にも愛知にもあるみたいだけど、多い方なのか?
郵便局のサイトからダウンロードできる郵便番号データには、町の名前の情報が含まれている。

それらを全国で多い順に並べると、一位から順にこんなふうになった。

1位 本町(310件)
2位 栄町(222件)
3位 新町(170件)
4位 幸町(157件)
5位 緑町(149件)
6位 東町(138件)
6位 旭町(138件)
8位 南町(126件)
9位 中央(120件)
10位 末広町(107件)
本町、栄町、新町。なんという素朴な町の名前たちよ!そうか、そうだったのか。というわけで、この地図に描かれた町の名前は「本町」にしよう。
「本町」は府中にも八王子にもあるようです
「本町」は府中にも八王子にもあるようです
町の名前が決まったので、丁目なども一緒に振ってみた。
地名を足した地図
地名を足した地図
自動的に小学校や駅の名前も決まり、たいへん地図っぽくなった。

上のほうのぐにゃぐにゃした道はむかし川だったので、そこを境に1丁目と2丁目が分かれてるのである。そういう話ありそう。

空想地図の作家に会って話を聞くと、町の性格ごとにありそうな地名をすらすら言えるので驚く。城下町なら「大手町」とか、宿場町なら「新宿」とかだ。地名に限らず、デパートの立地とか、ありそうなコンビニの名前やロゴまで考えてたりするので、もうほんとにすごいと思う。

読まないと書けない

絵を描く人がすらすらと例えば動物の絵を書けるのは、対象をよく観察してるからだ。パンダってどこが白いんだっけ?っていうのはなんとなく見てるだけじゃ分からない。地図も同じだなあと思った次第です。
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