特集 2014年5月15日

早大建築学科の妙な宿題を集めた「こそあど?展」に行ってきた

サヴォア邸という建築をモチーフにしたメガネ
サヴォア邸という建築をモチーフにしたメガネ
「宇宙人として、2週間分の日記をつけなさい」

これ、早稲田大学の建築学科の設計演習Aという授業で実際に出された宿題だ。

その授業では毎回妙な宿題が出される。それらの宿題の成果を集めた展覧会が開かれるというので、行ってきました。
1976年茨城県生まれ。地図好き。好きな川跡は藍染川です。(動画インタビュー)

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ヘンな宿題の答えを集めた展覧会

会場は、東京の文京区白山にあるギャラリー。
オシャレなギャラリー
オシャレなギャラリー
その2階が会場でした
その2階が会場でした
学校で出された宿題とその答えを集めた展覧会って、いったいどういうものなのか。

たとえば宿題の1つはこんなのだった。
都市のリズムを採集、ってなんだ。
都市のリズムを採集、ってなんだ。
「街の中にあるリズムを見つけ出して、それを各自の創意によって可視化しなさい」って言われても、なんのことかよく分からないし、これが建築学科の宿題だっていうのもよく分からない。

でも先生が真剣なのは確かだ。そしてそれにたいする学生からの真剣な回答の1つが、これだ。
「Industrial Food」竹脇右玄
「Industrial Food」竹脇右玄
マクドナルドのチキンナゲットって一見ばらばらな形をしてるけど、実は型から作られてるという明らかにした作品だ。

すごいでしょ?こんなことよく気づくなと思う。リズムとはつまりパターンであり、チキンナゲットの形には実はパターンが潜んでいたのだ。
個人的にも試してみたけど、確かに上と同じ4種類の形だった。
個人的にも試してみたけど、確かに上と同じ4種類の形だった。
この課題への回答をもう1つ見てみよう。
「あなたが描く世界は何色ですか」 石袁吉
「あなたが描く世界は何色ですか」 石袁吉
色えんぴつの減り方が色によって違うというのは、みんな気づいていることではある。

でもこの回答のすごいところは、えんぴつのお尻じゃなくて頭を揃えることで、お尻にできた空間が「減少分」としてグラフのように可視化されるってことだ。すごいなあ。

次はこれ、「生命誕生」。
「生命誕生」 野村祥子
「生命誕生」 野村祥子
みかんをむいていく過程で様々な形が現れ、まるで何かが生まれるかのようだということだろう。みかんをモノクロで塗りつぶすことで、形の面白さが分かりやすくなっている。

とにかく「よく気づくな!」という回答ばかりで、気づけばぼくはこの1部屋だけの会場に2日間、計5時間はいた。
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新しい鑑賞ガイド

たしかに面白いけど、なんでこれが建築学科の宿題なの?と思ってモヤモヤしてる人もいるかもしれない。この設計演習Aという授業は、建築学科1年生に建築の周辺の事柄を教えるものなので、これでいいのだ。

つぎはこの課題を見てみよう。
「新しい鑑賞ガイド」
「新しい鑑賞ガイド」
街にありふれるものを「鑑賞」するためのガイドを作りなさいという課題。

それに対する回答は、たとえばこんなのだ。
「ガイドポストさん」 渡邊 颯
「ガイドポストさん」 渡邊 颯
ガイドポストって何?と思うことだろう。

これのことだ。
ポストコーン
ポストコーン
道路に設置されている、あの赤いポール。ふだん目にも留めないが、あれにも実は個性があるのだ。
ポールコーン
ポールコーン
これはさっきとは違うメーカーによる「ポールコーン」。よく見ると足下のリングが二重になっていて、さっきのと違うことが分かる。

この見方を極めると、次のようなことも分かるようになるのだ。
じつは2種類のガイドポストが混ざっている
じつは2種類のガイドポストが混ざっている
7つのガイドポストのうち、左3つが足下二重のポールコーン、右4つがポストコーンだ。

こんなの、この鑑賞ガイドがなかったらぜったい分からない。
たとえば会場を出てすぐの所にあったこのガイドポスト
たとえば会場を出てすぐの所にあったこのガイドポスト
これが「ポールコーン」でも「ポストフレックス」でもなく「ポストコーン」だということが、いまのぼくには分かる。いままで同じに見えていたものが違って見えるようになるというのは、かなり素敵な体験だ。

そして、個性が分かるとそこに人格を感じるようになってしまうというのも自然な流れだ。
届かない、思い。
届かない、思い。
2つの「ポールコーン」がおそらく後からできた柵によって離ればなれになってしまった。それについて「柵、なくなるといいね」と呼びかけている。

あきらかにガイドポストを人だと思っている。そしてここまで読み進めたぼくは、その気持ちがちょっと分かった。まさに街の見え方が変わってしまうガイドだと思う。
「REVOLVER」 矢口彰久
「REVOLVER」 矢口彰久
次の作品は「REVOLVER」。床屋さんの表にある、3色のアレである。

このガイドでは、それらを「リボルバー」と呼び、「シリンダー=ドラムヘッド型」や「ランプ型」などに分類している。

「エッグヘッドと呼ばれる半球型のヘッドで」みたいに書いてあるので、そういうものかなーと思ってしまうが、そんな風に呼んでるのはたぶんこのガイドだけだ。
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役に立たない機械

次の課題は、これだ。
役に立たない機械
役に立たない機械
ヘンな課題ばかりのこの設計演習Aのなかでも、飛び抜けてヘンなのがこの課題。建築家の卵たちに、役に立たない機械を作れというのだ。

あまりにも面白いので、以前当サイトでも取材したことがある。その後タモリ倶楽部に2度も取り上げられたという名物課題だ。今年の学生たちはどんな機械を作ったのだろうか。

まずは、これ。
「世紀めくりカレンダー」 河田悠希
「世紀めくりカレンダー」 河田悠希
一世紀ごとにしかめくれないカレンダーだ。いまが2014年だから、次にめくるのは2100年1月1日の金曜日。たぶんぼくは生きてないだろう。

河田さんはほかにも「秒めくりカレンダー」「分めくりカレンダー」なども作成し、授業内の講評会でリアルタイムにめくっていたという。ぼくらがふだん使うカレンダーは、考えてみると「日めくり」か「月めくり」だ。だったらそれ以外も考えられるじゃないか。確かにそのとおりだが、残念ながら役に立たないのだ。

次はこれ。
「時計」 伊村太郎
「時計」 伊村太郎
時計の針がぐにゃぐにゃして重いので、秒針が30秒より左側に上がっていかない。ずっとその付近をぴくぴくしてるだけである。

そうか、時計の針ってまっすぐで軽くないと役に立たないんだ、ということを教えてくれる。壊れた時計というと、時間がずれているか、完全に止まっているかしか知らなかったが、これは新しい種類の壊れ方だと思う。秒針が上るときに手で支えてやると、ちゃんと時が進むのだ。

次はこれだ。
「貯金箱」 今成歩
「貯金箱」 今成歩
上部の穴から硬貨を落とすと、お金のうえにお金が落ちる貯金箱特有の音がする。

しかし、実のところ箱の前後はがら空きであり、これで貯金できているとみなすかどうかはほぼ自分の気持ち次第である。

そうか、透明で前後ががら空きだと貯金箱としては役に立たないんだ、と思う。しかし決して使わないという意思の力さえあれば、本来物理的な箱などいらないのだ、と言っているようでもある。

傑作ぞろいで思わずうなってしまう。なお、それぞれの作品につけたタイトルは便宜的なもので、本来は3つとも無題です。
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ペットボトルを10cm持ち上げる架構

会場にお客さんが増えてきた。
へんな宿題を見に来た人たち
へんな宿題を見に来た人たち
お客さんは基本的にほっておかれることはない。学生スタッフが声をかけて、それぞれの作品の核心をつく解説をしてくれる。作者が自ら解説してくれることもあるのだ。

次の課題を見てみよう。
ペットボトルを10cm持ち上げる架構
ペットボトルを10cm持ち上げる架構
一枚の紙を使って、重いペットボトルを支える構造を作るという課題。ここまでで一番建築ぽい。

実際の答えを一つ見てみよう。
こんな感じの紙の構造の上に・・
こんな感じの紙の構造の上に・・
確かにペットボトルが乗ってる!
確かにペットボトルが乗ってる!
これがどういう構造なのか、作者の田中さんが実際に分解して解説してくれた。
短冊状の三角の柱を上下に組み合わせた構造
短冊状の三角の柱を上下に組み合わせた構造
1枚の紙を2つに分け、それぞれの半分を短冊状にして三角柱の形に折り、上下に組み合わせたものだ。それが最初の写真のようになるなんて!

この課題は即日課題。つまり、時間は2時間弱しかないのだ。そのなかであの構造をゼロから考えて実際に作り上げるというのはほんとすごいと思う。
鞄の中の建築。通称、おみやげ課題。
鞄の中の建築。通称、おみやげ課題。
次は、有名な建築物を元におみやげグッズを作りなさい、という課題。

もっともグッと来たのはこれだ。
通称「サヴォア邸めがね」 和久正義。なお、モデルはすぐ上ででてきた田中さんです。
通称「サヴォア邸めがね」 和久正義。なお、モデルはすぐ上ででてきた田中さんです。
サヴォア邸というのは、こんな建物。
これを建てたル・コルビジェという人の唱えた近代建築の5原則の中に「水平に連続する窓」というものがあるんだけど、メガネだって水平に連続するレンズでてきている。同じだ。という気持ちを感じる。

なお本来の提出物にはこの建物の敷地も含まれていて、これをかけることによってサヴォア邸の気持ちになれるのだそうだ。「サヴォア邸の気持ち」に言及したのは建築界でも初めてかもしれない。

トイレがすごい

なんと、会場内のトイレにも展示があったのだ。
ペーパーホルダーはロンドン橋になっているし、
ペーパーホルダーはロンドン橋になっているし、
正面には、ウォシュレットの強さごとの放物線の方程式が書いてある
正面には、ウォシュレットの強さごとの放物線の方程式が書いてある
ウォシュレットのやつは、おそらく「都市のリズムを採集」の提出物だろうか。学生が家で実際に計ったそうだ。なかでも最強にした場合は天井に届いてしまったらしく、放物線の式は「測定不可能」となっている。

授業での講評後、これに刺激を受けた人たちが実際に自宅で計測し、「我が家でも天井に届いた」という報告もあったそうだ。すごい授業だなと思う。

出題も回答もすごい

とにかく出題が妙だ。しかしよーく考えるとそこに先生の深い狙いがあることが分かってくる。それを受けて学生もものすごい本気で回答しているのが伝わってくる。

この設計演習Aの授業の展覧会は、じつは今回で二回目だ。最初は2011年の「建築かもしれない展」で、今回は3年ぶり。主催は毎回学生の有志なので、次がいつになるかは分からない。でも開かれたら必ず行きたいと思う。

取材協力:
こそあど?展
2014年5月1日~5月6日(現在は終了しています)
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